とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 66話『ゴルヴルチカⅣ』

水葬姫(すいそうき)「うーん、顔面に一撃入れてから随分守りが難くなったな?游!そっちはどう?」

 

 硬い石灰質の海面を割って出てくる深海棲艦。ゾンビのような登場の仕方だが、モグラ叩きの要領で顔を出したところを叩き切る。足が固まっていき、腰まで固まったというのにまだ怨恨の眼差しは向けられていた。

 

游「深海棲艦の数は減りつつありますけど、侵攻速度を下げられてるとは思えません」

 

 ワイヤーのような硬糸で全身をバラバラにしていく。無限に湧くことはなくなりつつあるが、それでも数は多い。

 

 少しきつさを感じてきた頃、通信が入る。相手は神城であり、内容はもうすぐ基地航空隊、二十七機出撃するとのことだ。それと今別動隊が向かっているとの事。合流して共に侵攻を阻止してほしいという。

 

 游も水葬姫も了解の旨を伝え、通信を終える。

 

水葬姫「それまでもう少し時間を稼い――」

 

 自分の損傷具合を確認し、再び行動を再開しようとした時にゴルヴルチカは低く唸るような悲鳴をあげる。片耳を塞ぎ「一度距離をとろう」と游へ話しかける。

 

 しかし游はゴルヴルチカの足元を指差して石化の侵攻速度が上昇していることを指摘する。凄まじい速度で深海棲艦を飲み込む。足先や腰までだったのが頭の先まで固められていく。

 

 白灰色の像と化した深海棲艦を触手で巻き上げて、こちら側へぶん投げてくる。だが、初めから狙いなど定めていないような軌道を描きながらいくつもの水飛沫をあげる。

 

水葬姫「うわっ!あいつ、そもそもどこからそんな大量に触手を出しているんだ?」

 

 「背中からでは?」という游の言葉を否定するような素振りを見せる。「多分だけど」と眼前まで登った際に気が付いたことを伝える。

 

水葬姫「あいつの全身から出てるんだ。私たちで言うと毛みたいなものだと思うんだ」

游「道理でキリがないわけです。やはり大元である核を破壊しないと」

 

 しかし中々近づくことができない。

 石化する海面へそのまま近づいても平気かどうかの判断が出来ないから。

 

 「でもこのままだと……」と後ろへ視線を向ける。立ち込める霧の奥、うっすらと見え始めている鎮守府。残されている時間は少なく時期に到達するという現実が見え始めている。

 

水葬姫「どうしよう。提督は核を破壊しろって言うけれど、露出させる方法が分からない」

 

 徐々に近づく巨体を前に、提督から任された期待と現実への焦りが募っていく。

 

『やっと追いついたよ!』

 

 「誰ですかっ!!」と思わず声を張り上げる游。二人して悩んでいた所為か、背後から近づく人物に気がつかないでいた。声の主は『私は北上。東第三鎮守府の所属。芙二さんが言っていた強力な助っ人ってあなたたちの事だったんだね』と自己紹介をする。

 

游「すみません、てっきり叢雲さんたちかと思いました。けれど、ありがたい限りです」

 

北上「私たちは友軍艦隊の二軍。叢雲さん達は一軍。芙二さん直伝の強さはないけど、何年も培った艦娘としての力を今から見せてあげる!」

 

ガングート「私はガングート。以前、深海化したときに芙二提督殿に助けてもらった者だ。北上!私が二人に説明している間に芙二提督殿の指示通りに動いてくれ!」

 

 「了解!」と言いながら、他の艦娘を連れて先に前進する。

 

 水葬姫は北上とガングートと共に来た艦娘の中に夕雲がいる事に気づく。目があうと第三所属の夕雲は微笑み返す。そうして他の艦娘と共に陣を展開し砲撃音があたりに響く。

 

ガングート「さて、短めに伝える。あの巨大深海棲艦ことゴルヴルチカの足元は普通の艦娘や人間、人工物には劇毒であるが芙二提督殿が改造を加えた特異艤装を持つ貴様らは特殊な耐性を持つらしい」

 

水葬姫「砲撃戦というよりかは接近戦?」

游「砲撃戦よりかは……いえ、やることは変わりませんね」

 

ガングート「変わることは本体を直接殴れる点というだけだな。基地航空隊の攻撃時は巻き込まないように背部を中心的に行うそうだ」

 

 水葬姫はガングートに「一度深海化したなら、もう一度できるんじゃないの?」と言うも困り顔で「そうしたいのは山々だがな。そこまで絶望してはいないんだ」と返される。

 

游「提督の、芙二さんの存在が大きい印象でしょうか?」

 

ガングート「そうだ。あの者がこの場に現れたら、一瞬で片付くだろう。あいつは、陸奥はうちの者だ。それに艦娘だけで倒さないと心が依存してしまう気がするのだ」

 

 少し悔しそうな表情をしながら、下を向く。二人には痛いほど分かってしまう。あの強大な力の前に自分の無力さを学んだから。なんて声をかけていいのか分からないでいると、ガングートはすぐに顔をあげて「弱音を吐いな、すまない。では、作戦へ戻ろう」と促す。

 

 北上の元へ向かうガングートを呼び止める。声のする方を向くと水葬姫が近づいてくる。呼び止められたから、質問か?と言いかける。目の前まで来て、笑みを浮かべる。

 

水葬姫「今度、飯に行きましょ!!こっちの提督のおごりで!」

 

 そういうと游の元へ向かい、石化している海面へ駆けていく。口を半開きにして呆けているガングートの元へ北上がやってきて「あの子に何を言われたの?」と聞く。

 

ガングート「飯に誘われた。しかも芙二さんのおごりだとさ」

北上「いいねぇ!それ!心配かけた分もきっちり清算させてもらわないと~!」

 

 ニコニコと笑いながら戦いに戻っていく。ガングートは口を閉じ、少し考えたあと僅かに笑い「ふふ。それもいいか」と呟きながら北上の跡を追う。

 

 

 一方、神城たちは。

 

 『提督!基地航空隊、出撃準備完了!!いつでもいけるよ!』という連絡を受けていた。

 声の主は大きな声でハキハキと喋るものだから、不思議と元気が湧いてくる。

 

神城「よぅし!今を以て出撃許可を出す!何としても近づけさせるな!あんだけ大きな標的はそうそういない。迎え撃てーー!そして臨時機動部隊も準備完了させたらすぐに連絡をするように」

 

 音宮と共に考えた臨時作戦。その準備を着々と済ませ、連絡を欠かさず行い情報をアップデートしていく。その忙しさの中で溜息を吐く暇すら惜しいと感じていた。

 

 ゴルヴルチカが鎮守府へ到着するまでもう一時間半もない。侵攻阻止という重要案件が冷静さを奪う。しかし今は一人ではない。皆がいる。戦場を駆ける仲間がいる。その変わりない事実は神城を支えるには充分であった。

 

神城(このメンツなら、未曾有の危機を乗り越えられる)

 

 一瞬手を止めて、内心呟いていると頭に衝撃が来る。ジンジンと痛む箇所を擦っているとムっとした表情の音宮がいた。彼女の手には無線機があり、通話口から誰かの声が聞こえる。

 

音宮「神城提督殿! 一瞬でも気を抜きましたね? そんなあなたにはこれです!!」

 

 即座に追撃が来る。しかも手ごと逝った。今度は逆に手を擦る羽目になったが、笑いが込み上げてきてしまい段々と笑ってしまう。

 

音宮「な、なんですか!急に笑うだなんて。頭を打ちすぎましたか?」

神城「ふっふふ、ああ。笑った、笑った。そういうわけではありませんよ」

 

音宮「分かっていますよ、そんなこと。早く指揮へ戻ってください。あなたの指示を待っている艦隊はまだ控えていますので」

 

神城「了解しました。それと…」

 

 音宮はまだ何かあるのか、といった目で神城を見る。

 

神城「音宮提督殿。あとで私は海へ出るので、その間は指示を任せます。状況に応じて出してください」

 

 そう告げると踵を返して、執務室から退出しようとする。その途中、音宮が説明を求めるも無視してそのまま出て行く。

 

『……音宮提督殿? そちらで何かありましたか?』

 

音宮「神城提督が海へ出るとの事。誰か護衛をしなさい。彼が出ている間は私が指揮を執ります」

 

 無線機に対して、伝えて一度切断する。ツカツカと自分のデスクまで歩き、椅子を引いて座ると自然と溜息が出る。そこへ大淀がやってきて「提督がすみません」と謝罪する。

 

音宮「別に謝る事じゃないです。あの会話を聞いていたら皆が皆、訳の分からなさに混乱しますし。だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない。彼も彼なりに責任を感じているのだと思います」

 

 言い終えた直後、音宮が握っていた無線機が受信音を鳴らす。すかさずボタンを押して、相手と話し始める。何度か頷いた後に「東第一泊地の艦娘が到着したけど、大半が深海化している?!」と大きな声を漏らす。

 

 周囲の視線が集まったのを感じたのか、口元に手を当てて「どういうことですか、それ」と聞いていた。大淀はメンバーの誰が深海化しているか知っていたが、音宮は寝耳に水だろう。

 

音宮「えぇいままよ!もう気にしてらんない!そのまま受け入れて、戦場に投げてしまいなさい!!悪いようにはならない事も祈っていましょう」

 

 と、伝えると通信を切断し無線機をデスクの上に置いて頭を抱える。大淀が頭を撫で、音宮の薄い青色の髪が揺れた。音宮が気づき、大淀の表情を見て「アッすみません。今は一分一秒と惜しいのに」と口にするがそれを否定する。

 

大淀「知ってて黙っていたのは私の方ですから。大丈夫ですよ、芙二さんのテコ入れが入った深海化ですから暴走なんて形にはなりません」

 

 真面目な表情で言われて、音宮は信じるしかないと自分を納得させ頷く。

 

音宮「後で会う機会もあるでしょう。どういうことか説明をしてもらわないと気が済みませんね」

 

 そう言いながら、立ち上がると自分の持ち場へ戻っていく。

 大淀も自分が出来る事を探し、情報を更新している職員の元へ向かい手伝うのだった。

 

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