とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 67話『ゴルヴルチカⅤ』

 東第三鎮守府 母港にて。 八月某日 午前四時〇九分

 

 つい数時間前は夜中だというのに変わらずの空模様。雨足が強かった。今現在は曇り空である。空は昼間のように明るい。今考えれば少しおかしいのだが、そんなことを気にしていられないほど忙しかった。ある憲兵とある提督の二人を除いて。

 

叢雲「東第一泊地、臨時友軍艦隊到着よ。神城提督はいるかしら?」

 

 到着した叢雲達を見て周囲がざわつく。周りの目から見れば深海化しているのだから、無理はない。尤も深海化ではなく克服化と言うべきだろう。しかしその現状を知るものは限られている為に訂正する行為はしなかった。

 

白雪「叢雲ちゃん、それ……」

 

 吹雪型のセーラー服ではなく灰色の髪に左右で不均一の角が生えている。肩や腕、腰や脚に黒色と白色が互いに交わった軽鎧を纏う姿は姫級や鬼級と遜色ない。また艤装の代わり長剣のような得物を二本、背中に携えている。

 

叢雲「今回は相手が相手だから、特殊な物を装備しているのよ。それに理性を失ったりは決してしないわよ」

 

時雨「まぁボクたちの姿を見て動揺しない人たちの方がどうかしてるよね」

 

 叢雲の言葉に反応する時雨の格好も世間一般が知る姿とは大きくかけ離れている。セミロングの白髪を後ろで一つ三つ編みにし、先っぽを赤いリボンで括っている。スカイブルーの瞳は赤みがかった青色へ。叢雲とは違い角は生えておらず、艤装も装備していた。

 

サラ「お二人が帰ってきたのは嬉しいですけど、これは本当に冷葉補佐の指示なのでしょうか?」

 

 隣からゆっくり現れるのは深海海月姫の見た目をしているサラトガである。他の二人はまだ艦娘寄りの姿をしている為、誤魔化しが利くがサラトガに関しては利かない。

 

 周囲を警戒するように四機のクラゲ型浮遊要塞を備えており、忙しなく動く職員の注意を引いていた。小さければなんの問題もないが、直径一メートルほどもあれば驚かれるのは無理もない。

 

時雨「残っている艦娘の中で動けるものは友軍艦隊として第三鎮守府へって書いてあったから平気平気。まあ、ボクと叢雲が戻った時なんて泊地はもぬけの殻に近かったけど」

 

サラ「それは……。私たちは近海防衛戦に行っていたので。しかしアイアン・ボトム・サウンドに大半を連れて行くなんて思いませんでした。緊急と言えど……」

 

ヴェル「へい、サラ。深海化してるのは君だけだけど、大丈夫かい?」

 

 スタタっと海を駆けてくるのはヴェールヌイ。彼女だけは普段職員が目にする艦娘と同じ姿であるが、艤装はつけておらず代わりにそこそこ大きなミニガンとスナイパーライフル(SR)を背負っていた。

 

サラ「もぅ!そんなこと言わないでください!いじわるする、ヴェールヌイさんにはこうです!」

 

 少しプリプリしながら、ヴェールヌイの頭を小突く。「いたっ!やったなー!」とやり返すものだから、職員たちの眼差しは懐疑的になる。

 

 そこへ紫月と八崎が駆け寄って来るのが見える。八崎の方が早くどんどん距離を離していく。

 「八崎さんはっやーい!」とヴェールヌイが楽しそうに言う。いつもとはテンションの違う彼女に対し時雨が「お酒でも飲んだ?」といい「失礼な、素面だよ」と真顔でいい返す。

 

 紫月は「みんな!遅れてごめん!!」と叫びながら叢雲達の元へ。

 はぁはぁと息を切らし、ときに咽こみながら。

 

紫月「北上さんのところへ行って助力を。あとは好きにやってって。新しく配属される艦娘も前線で戦ってるらしいから!挨拶出来たら挨拶して!以上。八崎さんはちょっと待って」

 

 紫月が話し終わると速攻で海へ駆けていく。先ほどまでの緩いものではなく、鋭いものへ切り替えていた。彼女達を注視していた職員もハッとして各々の持ち場へ戻っていく。

 

 砲撃音が増えた。基地航空隊、機動部隊の爆撃もインターバルを行いながら回復の隙を与えんように動いている。それだけではなく、ゴルヴルチカの絶叫も響き始める。

 

 攻撃が効いている証拠だと紫月も八崎も捉える事にした。

 もうほとんどくっきりと見えるほどに近づいたゴルヴルチカ。

 

 そこへコツコツと足音が響く。二人は敬礼をし、うち紫月が口を開く。

 

紫月「神城提督殿、予定通りの時間に来てくださって感謝します」

神城「礼を言うのはこちらだ。船を出してくれ、早くに彼女へ伝えなければならない」

 

 芙二が魔改造した小型船を停泊してある場所まで三人は歩く。その間、誰も一言も発さない。周囲には凄まじい音が響いているからだ。無線機が受信する誰かの悲鳴も会話に混じる激励の言葉もノイズ音も。いつも以上に大きく聞こえ、プレッシャーを与えていた。

 

紫月「着きました。ささ、船内へどうぞ。内部は見た目以上に広いので八崎さんについて行ってください。拡声器が置いてある場所は彼女に聞いてくださいね」

 

 船内へ神城を案内する。八崎が先に入って神城が続く。二人分の体重が加わり、船が左右へゆっくり揺れる。紫月は運転席の窓からこちらを見ている眠たげな妖精さんへ親指を立てる。

 

 ビシっと敬礼した後に姿を消す。

 最後に紫月自身も乗り込み、運転席へ向かう。

 

紫月「芙二君も大概だよね」

 

 機械を操作して、船を出す。ブロロロとエンジン音が鳴りだすのを確認して、ゆっくりと岸から離れ海へ向かう。空模様は相変わらず曇り空。明け方であるのにも関わらず視界は良好。

 

 沖へ向かう途中、艦娘と怪物が戦っている場面が見える。別の視点から見ると鎮守府も薄っすら見え出す。測らずとも見えてしまう未来を誤魔化すために、その状況に紫月は少しだけ手を加えようと思い懐から小さな白い玉を取り出す。

 

 それを宙へ放り投げるとポシュっと音を立てて霧散する。

 一、二分経つ頃は周囲へ靄が生じ始め、海風に乗り薄く広がった。

 ほんの少しだけ視界を遮るように仕向ける。

 

紫月「まぁそこまでの効果はないけどね~」

 

 ははは、と笑う船内に紫月の声が響く。

 マイクがオンになったままだと気づくまで少しの間、彼の独り言が続いた。

 

 「紫月殿?どうかしたのですか」と運転席へ神城が入ってくる。

 「あ」とマイクに気づき急いでオフにする。内心恥ずかしがるも表はすっとぼけて「え?あぁ独り言ですよ。お気になさらず」といい少しだけ笑みを浮かべながら操縦桿を握るのだった。

 

 目的地はゴルヴルチカの付近。拡声器の音が入る距離。

 艦娘の攻撃範囲に入らない、邪魔にならない位置。

 

 まだ怪物に心があると仮定して、彼の言葉がどれくらい響くのか。

 今年最大の賭けが今、始まる。

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