とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 68話『ゴルヴルチカⅥ』

――目的地へ到着。船は誰の邪魔にならない所へ止まる。紫月は運転席を出て、神城の元へ向かう。八崎はソファに腰かけ、壁に背を預け目を瞑り静かに戦場の音を聞いていた。

 

 神城は頭の中で考えた言葉を、呪文のようなそれを暗唱していた。

 

紫月「神城提督殿、大丈夫ですか?」

 

神城「大丈夫、だと思いたい。いや大丈夫ではない。失敗を考えるとずっと胸が張り裂けそうになる。しかしもうそんなことは言ってられないから、行くぞ」

 

 緊張のあまり息を呑む。そしてゆっくり息を吐きだし、覚悟を決める。此度の作戦中に何度覚悟を決めたか分からないが、これが最後だといいなと思いながら拡声器を手に取り、部屋の外へ。

 

 甲板へ出て何度か深呼吸する。

 目の前に映る光景を目にし、今戦争しているのだと改めて実感する。

 

 怪獣映画に出てきそうなほど大きな怪物に向かって拡声器を向ける。

 持つ手が怖さで染まり、ぶるぶると震えだす。

 あまりの怖さに拡声器を下ろしてしまった。

 

 しかしゴルヴルチカは止まっていない。その光景を危機感を感じ、意を決して下ろした拡声器を持ち上げて叫ぶ。一度しかないこのチャンスを無駄にしない為に神城は思いの丈をぶちまけた。

 

神城「聞こえているか、ゴルヴルチカ!!俺だ、神城陸翔だ!!あのクソ野郎どもの言いなりになってしまって、すまなかった。皆の気持ちを考えずに行動してしまった!!」

 

 砲撃の音に負けているのか、ゴルヴルチカの侵攻は止まらない。

 それでも関係なく神城は続ける。

 

神城「無茶な要求を受けてなお、俺と共に進んでくれたというのに結局、連中に骨までしゃぶられてしまった。おじいちゃん、いや歴代の提督から受け継いできたというのにこの体たらくだ。顔向けは出来ない」

 

 海上に響き渡る神城の言葉を聞いてか、艦娘側の音が減ったような気がした。ゴルヴルチカの動きも少しだけ鈍ったような気もすると紫月は感じていた。

 

神城「俺は長門が悍ましい計画を企てていたことを知っていた。だけどそれを受け入れる事が出来なかった。結果的に新人へ酷い態度を取り、負けるような人間だ。君たちの提督には相応しくないのだろうな。それでも」

 

 艦娘の砲撃も止み、基地航空隊、機動部隊の爆撃も来ず、そしてゴルヴルチカの動きも止まる。

 ゴルヴルチカが怒りのままに叫ぶ。それに応じてか触手の形が目に見えて少しずつ変化する。

 

『黙れ、黙れ!!貴様は、いや貴様だけは絶対に赦さない。カミシロ、カミシロ!!その口を塞いでやる!二度と利けないように――』

 

 長く伸びた髪の先が二つに裂けて甲高い声を発する。しかし神城の言葉は止まらない。無数の黒い蛇が伸び、周囲を襲い始め戦闘が再開しだす。

 

神城「黙るものか!最後かもしれない。今、君に思いを伝えなかったらきっと後悔する。奇跡でも起きない限りは2度と会うことは叶わないんだから!」

 

『黙れと言っただろう!!私が誰だか知らないやつが、知った風な口を利くな!!』

 

 身体から湧きだした黒い蛇の一部が神城の元へ一直線に伸びるが、横に逸れていく。運転席を見やると紫月がいて、機械を操作していたのが見える。

 

神城「ゴルヴルチカーーいや陸奥!!それが君の名だ!!怪物の姿になったとしても俺が君の姿を間違えるはずはない!」

 

『グッ?! 黙れ、黙れぇええええ!貴様が何をしたのか、分かっているのか?!期待していた者に裏切られる哀しみ!捨てられる痛みを!貴様自身が与えたではないかッ!!』

 

 怒りが最高潮に達し、矛先が神城へ向く。

 再び基地航空隊、機動部隊の爆撃が始まる。

 

 侵攻を阻止するべく攻撃の嵐となり、轟音が鳴り響く海上。

 異深化した陸奥の覇気を、水飛沫を一身に浴びるも怯まない神城は言葉を続ける。

 

神城「謝って済む話ではないのは分かっている。目的を果たしても止まらないだろう。そのまま俺を殺すというのであれば、かかってこい!この命、捧げる覚悟などとっくにできているッ!」

 

 そのまま、死ねと言わんばかりの攻撃が神城のいる船を襲う。無数の細く黒い塊が空から降ってくる光景は恐怖を駆り立てる。思わず目を瞑りそうになる神城だが、最後の最期まで目に焼き付けようと気を引き締めると信じられないものが目に入った。

 

神城「……船全体がなにかに包まれている?」

 

 ビシビシと音を立てて、逸れていき海へ落ちていく。黒い蛇の塊が当たるたびにソレは姿を現す。拡声器を下ろし、船を覆うソレを触りに行こうとするとき甲板へ八崎が出てきて口を開く。

 

八崎「はぁ?!命を捧げてもいい?バカをいってるんじゃない!!それはあなたの自己満足でしかない。命を捧げても状況は良くならない!むしろ悪化する。それが分からないのか!」

 

紫月「八崎さんの言う通りだ。現に話しかけるだけで効果は出てきている。意識がこちらへ逸れてきている。もう少しだけ続けて!僕が張っている結界もまだまだ大丈夫だから!」

 

神城「け、結界?い、いやそんなことは後だ! まだ君には伝えたいことが山ほどある!!」

 

 再び拡声器を持ち上げて思いの丈を叫ぶ。

 しかしゴルヴルチカの侵攻は止まらない。

 

 矛先が僅かに向かっただけであちらも足は止めていない。

 

神城「うっ、海面が白くなっていく。このままだと本当に……私の言葉は効いていないんじゃないか?!」

 

 何も答えなくなったゴルヴルチカ。自分の立てた予想とは違う光景に神城は不安がって、ネガティブな呟きを念仏のように唱え始める。

 

八崎「あーもー!!艦娘さん達を信じろぉぉおぉ!!あなたそれでも提督ですか!?現場で弱気になるんじゃない!!士気が下がるでしょうが!」

 

 ”アガァアアッ”と今までで一番の悲痛な叫び声が周囲に響く。

 視線を落としていた神城は声のする方へ顔を向けるとゴルヴルチカの腹部や背部、脚部から黒煙が立ちのぼっていた。次第に触手だけではなく、髪の毛も蛇のように変化していく。

 

 黒い身体に赤い目を持つ蛇は無数に伸びて、その目を光らせる。浴びた者が固まるわけではないが、本体の様子も変化していた。叫び声を上げると足元の石化が急速に進行し、固まる。

 

 あっという間に船底は固められてしまい、その余波が結界にも及ぶ。覆うようにして固まり、僅かに見えた隙間から信じられないものを目にする。

 

八崎「っ!ゴルヴルチカの様子急変!!胸部が、十字に裂け始めている?攻撃が効いている証拠でしょうか? い、いや核が露出しています!」

 

 驚きつつ、素早い動作で無線機を取り出し状況を執務室にいる音宮たちに伝える。

 変わりゆく戦場に困惑していると、しばらくしてジュウジュウと音を立てて結界周りの石化が溶けだす。蛇を切断すると体液が噴き出すのだが、落ちた箇所が虫食いのように穴があく。

 

 その光景を見た者は液体が酸のような性質を持っているのだと気づく。細かい変化も大きな変化も問わず、すかさず情報共有する。それが八崎に与えられた任務であった。

 

八崎「雨?でもなんで白い陸地が溶けて……いや違う!ゴルヴルチカの出す蛇から離れてください!無暗に攻撃しないでっ!そして艦娘の皆さん、一時撤退を!!」

 

『こちら音宮! みなさん、そこから退避を!!怪物、いえゴルヴルチカがエネルギーを収束させています!そこにいると衝撃で吹き飛びかねないかと――』 

 

 途端に通信が強制的に終了し、黒々とした鉄砲水が放たれる。船底を固められている為、回避など出来ずに直撃する。ビシビシと哭く結界にすらヒビを入れるほどの威力を見せる。

 

神城「な、なんとか一度目は耐えられた。け、けど二度目は厳しいかもしれない。紫月殿!どうしたらいい、どうしたら――」

 

 ゴルヴルチカが出す第二波に怯え、焦り困惑する。

 どうにかしてこの場を切り抜けたい一心で紫月を頼るしかないと思っていた。

 

紫月「ちょっと待って!今、確認するからっ!」

 

 そこまでの攻撃を仕掛けてくるなんて思ってもみなかったと少し後悔する。

 紫月も甲板へ出て、自らが張った結界のようすを探る。せっかく張った結界は八割が消失しており、次は耐えられそうにない事が分かると思考を切り替えた。

 

紫月(このままだと、皆が死ぬことになる。かくなる上はアレを使用するしかない)

 

 懐から、折り畳み式の警棒を取り出し、それに紫月の持つ力を注ぎこみ始める。ぐっと力を込めるたびに甲板の温度が上昇する。ストーブの前にいるような熱さを感じていた。

 

 次第にフライパンで肉をじっくり焼いているような音が聞こえ始める。

 安置にいて欲しい神城と八崎に船内へ戻るように伝えた。

 

紫月「久しぶりに使うな、これ」

 

 紫月が握る警棒は形を変えて、振るうと伸びていく。柄を持つ部分から焦げる肉の臭いと海風が交わる独特な臭いがしだす。

 

 やがて紫月の右手にはオレンジ色の光を放つ2メートルくらいの槍が握られていた。船内の窓から紫月と槍を交互に見て「それどうしたんですかっ」と大きな声を出す。

 

 隠しようのないことを言われて苦笑いを浮かべ「実は僕も芙二君と同じ部類なんだよね」そう返事をして、投擲しかけるもすぐに踏みとどまった。

 

 目の前には束になった無数の蛇の群れが近づいてきていた。槍で受け流すように捌く。それでも斬った所から粘性の高い黒い液体が溢れて紫月の身にかかると苦悶の表情をする。

 

紫月「はは、人間にかかったら一瞬で溶けちゃうな。」

 

 そう言いながら、蛇の群れを捌き終えると甲板に膝を突き嘔吐しだす。何度か吐いた後、ゆっくりとした動作で粘性の高い液体を取り除き、服を破いて巻き付ける等の簡単な処置をおこなった。

 

紫月「っぁ? 流石に守り切るのは無理かも」

 

 3方向から先ほどの群れよりも遥かに多い塊のようなものがこちらへ向かって来るのが見える。 しかし諦めきれないと、槍先を蛇の塊へ向ける。

 

 突然、眼前へ迫っていた蛇が一点へ集中した瞬間、同時に斬り落とされる。

 紫月は口を開けて立ち尽くす。彼の前には青みがかった黒い甲冑を着た人物が自身の得物を用いて粘性の液体を巻き取り、振り落とした。甲板に槍を突き立て紫月の方へ顔を向ける。

 

『うむ、中々な漢前だ。その傷で逃げず、諦めず、戦う意思を持ち続けるとは!だが、私が来たからもう安心しろ!いやそこまでは出来ぬか?』

 

 青みがかった黒い甲冑を着た人物は十文字槍を横に回転させ、再び蛇の群れを捌く。最後の一体を弾くと背に閉じていた砲門を全開にして放つ。その衝撃で船は揺れ、紫月は尻もちをつく。

 

 迎撃ミサイルのように空中で相殺させながら気持ちよさそうに声をあげる。尻餅をついた紫月へ手を差し伸べて『おぉっとすまない。この力をまだ手にしたばかりなんだ。加減の仕方がわからないな』と頬を掻く。

 

紫月「ありがとう、君が芙二君の言っていた切り札かな?」

 

 起こしてもらい礼をする。突然登場した人物の姿をよく見ると艦娘のように見える。しかし紫月では誰だか分からない。そこへ見かねた神城が「もしかして武蔵か!?」と声をあげる。

 

 武蔵と言われた艦娘は「おぉ!提督になら分かってもらえると思っていたぞ!」と嬉しそうに笑う。神城は信じられないと言った顔をして硬直していた。

 

?「さて、あそこにいる不届き者に痛い目を見てもらおうか。説教でも何でもその後で出来るからな。東第三所属、鬼武蔵――参るッ!!」

 

 甲板から白い陸へ飛び降りて、ゴルヴルチカの足元まで駆ける――前に何か言い忘れていたのかこちらへ戻って来る。

 

神城「なにか言い残したことでもあったか?」

 

武蔵「動けないのだろう?船ごと固まっていると見受ける。ならば、そらっ!」

 

 船の周辺に十文字槍で亀裂を入れる。流氷のように徐々に離れていくのが分かると神城は武蔵に感謝の言葉を並べようとした。そこへ武蔵が先に口を開ける。

 

武蔵「提督の役目は終わった。ならば一度鎮守府へ戻り、いつものように指示を送るがいい」

 

 そういうと船の先頭を思いきり蹴ってのける。

 勢いの強さに船は船底を見せ、直角に上がり後ろへ跳ぶ。

 

武蔵「なあ漢前の憲兵よ、貴様なら受け止めれるだろう?」

 

 霧の奥へ消えていく船へそう伝えると、再び駆け出す。彼女の笑い声は海に響く。「船を蹴って戻すなんて、マトモな思考ではないな~」と言いながら紫月は船が転覆しないように後方に衝撃を和らげる結界を貼る。

 

紫月「っと!なんとか止まったけど、大丈夫?」

 

 ガクンと大きく揺れる船。

 紫月は何とか落下しないように気を付け船内にいる二人を気に掛ける。

 

 船内へ戻って声をかけて回る。薄暗く非常灯がついた中で小さな声が聞こえた。

 その声を聞いて、紫月はホッと息を吐いて運転席へ向かうのだった。

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