とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 70話『贖罪への導き』

『ゴルヴルチカ、再生……! 基地航空隊、機動部隊の皆さん準備を――』

 

『させぬ。そのまま貴様らに勝利の余韻など与えぬぞ。我が従僕たちよ、今一度命を戻し有象無象を滅ぼせ』

 

 無線機から二つの声が重なる。

 執務室からの応答は掻き消され、低い女性の声がはっきりと聞こえる。

 

 海上へ無数の輝きが現れる。現れた形はゴルヴルチカだけではなく、他の深海棲艦も姿を見せ始める。その中には半分が深海棲艦、また半分が艦娘といった者までも水の底から這い出る。

 

 ゴルヴルチカの足元から薄い青色の髪、銀の目に童顔、白いワンピースを着た白金のティアラを身に着けた少女が出てくる。腕や足にはティアラと同じ色の防具を身に着けており、また腰にはレイピアを差すしていた。

 

『勝ちを確信するのが早かったな。我の行方について考える余裕がなかったのか?あるいは目の前の強大な敵に勝利したいう事実が甘美な酔いをもたらせたのか』

 

 どちらにせよ、ぬか喜びだなと声をあげて笑う。

 

『そんな……ゴルヴルチカだけではありません!近海付近に深海棲艦の大艦隊が出現したと情報が入りました。み、皆さん!逃げてください!今の状態では何をしても勝てません!』

 

 無線機だけでなく、広告塔からも上記の悲痛な叫びが響き渡る。情報が入ってくるたびに、小さな悲鳴がマイクに入る。長時間の戦闘を終え、皆で喜びを分かち合う時間はとうに消失した。

 

『逃がさん。そうか、貴様らには伝えていなかったな。我は無から有へ作り変える事が出来る』

 

 その証明だと言わんばかりに右目を輝かせ、その光を浴びた艦娘は場所に関わらず意識を失い深海棲艦のような振る舞いをする。叢雲達は身体の自由が利かなくなり、暴れまわる四肢を抑えるのでいっぱいいっぱいであった。

 

『ふむ?克服化、と言ったか。あの男はやはり邪魔だな。早々に消しておくべきだった』

 

 腕を組み、叢雲達の様子を再度観察する。そしてその中にまだ克服化に至っていない者を見つけ、ほくそ笑む。手を差し伸べ、その者がいる方に直接力を注ぐ。

 

サラ「うっ!? ああ……ヴェール、ヌイ。裏目に出てしまいました。私から距離を取って」

 

 深海化を解こうとしたサラトガの身体に変化が目に見えて起きる。徐々に肌は白くなり、顔の左側が大きな痣のように染まり始める。手先は肉が削げ、黒い爪や骨が剥き出しとなっていく。

 

 徐々に深海棲艦と化していくサラトガを前に「サラ、ごめん!」とライフルを取り出そうとした瞬間、何かに突き飛ばされる。「ヴェールヌイ!」と彼女の名を叫ぶ声が二つ。

 

深◆◆月姫「あっがあ、はぁ、はぁ……ううう、ダメェ! もうこれ以上はダメでスッ」

 

 身体をぶるぶると震わせ、抑えようとするも歯止めなど効いていない。何度か噎せ、ときに吐き口から涎を垂らしその場に蹲る。

 

『諦めろ。その状態で海に出たのが間違いだ。あの男の手が加わっていたとしても抗い続けることなど、不可能だ』

 

 ゆっくりと近づく戦艦神棲姫ことリベラ。彼女に近づこうものなら、身体全体を作り変えられる恐怖、胸の疼きに叛意を削がれる。

 

時雨「誰か、ねえ提督……助けてよ。このままじゃあ皆死んじゃう」

 

『あの男か?今頃、アイアン・ボトム・サウンドへ向かっていると思うぞ。アイリたちが遊んでいるのだからな?真面目で欲深い男だ。同郷のよしみで止めに行ったのだろう』

 

叢雲「……なんて?提督は、あの人は生きているの?」

 

 リベラの言葉に目を丸くする時雨と叢雲。提督が生きていると知った二人は震える身体に鞭を打ち、ゆっくりと身体を起こす。サラトガへ送っていた力の向きを二人に定める。

 

叢雲「ハンっ……そんな力が何よ。私たちはそれよりももっと恐ろしいものを知ってる」

 

時雨「叢雲の言う通りだ。もっと言うとボクは直接手を加えられた艦娘、一号。単独任務中で彼の考えそうなことなんて嫌というほど味わったつもりさ」

 

『信頼されているのだな、あの男は。なら手土産が欲しいだろう。貴様らと陸にいる人間の首で満足してもらえるだろうか』

 

 邪悪な笑みを浮かべ、手始めに叢雲達を克服化と深海化が入り混じる姿へ変えようとする。彼女らの中で二つの力が競合し互いに反発するダメージは外へ噴き出す。

 

?「あーあ。うちの子たちに何してくれちゃってんのさ」

 

 その言葉にリベラの顔が真顔になる。それと同時に手から出ていた深海化させる力も打ち止めになり、解放された一同は海面に手を伏せ荒い呼吸を繰り返す。

 

『来るのが遅かったな?フジよ。貴様に手土産を贈ろうと思っていたのだが、サプライズも受ける余裕もないとは、現代に生きるものとして恥だぞ』

 

 黒い帽子を被り白いペストマスクで顔を隠す。上に翠の龍の刺繍を入れた青いコートを着て、下に黒いズボンを履いた男が突っ立っていた。

 コツコツと革靴の踵を鳴らし、ペストマスクの中から殺意を剥き出しにして「でさぁ何してんの?リベラ」といいながら左手で握り拳を作って軽く殴った。

 

 なんなく受け止め、逆にレイピアで突き返す。反撃されるのを見越してか、芙二は虚空から取り出した【薙刀:煙流】でいなす。

 

『っと。アイアン・ボトム・サウンドに行ったはずではないのか?』

 

芙二「まだかなぁ……行こうとしてたら口約束を破ったのはあんたじゃん。なら介入してもいいよなって思ったんだ」

 

 そう言いながら、リベラの身体を突き放す。よろけて転び、海面に手をつく。彼女を見下ろしながら、口を開く。

 

芙二「もう終わりにしよう。長引かせるのは、今後に響くからさ」

 

 そう言うと叢雲達を鎮守府内の母港へ転移させる。一瞬の出来事。鎮守府内にペストマスクを被った不審者が戦場に出ていた艦娘を連れて出現し、何か液体をかけた。

 

 そして瞬く間に姿を消す。叢雲達はぽかんとした表情で座り込み、そこへ職員やら艦娘が駆け寄ってきて保護する。同じ事を水葬姫たちにも行う。

 

 一瞬で三人の目の前に現われ、既に魅了されている游は二人よりも早くに気づく。抱き着こうと飛び込む游の手段を芙二は逆手に取り、三人の手を繋いで叢雲達の元へ転移する。

 

芙二「游。あとで解除してやるから、今はステイだ」

 

 解除?と頭にハテナを浮かべる游。水葬姫に三人分の高速修復材を圧縮させた固形物を渡すとリベラの元へ戻ろとする「ちょっと待ちなさい!」と誰よりも早く声をあげて芙二を呼び止める。

 

芙二「叢雲?どうした、詳しい話は後にして」

叢雲「おかえりなさい、司令官。それだけよ。ほら、いきなさいな」

 

 一瞬きょとんとした後、恥ずかしそうに帽子のつばを掴み、顔を下げる。そしてすぐに顔をあげて「行ってくるよ」といい鎮守府を後に戦場へ戻る。

 

 「……はぁ」と溜息をつく。

 芙二が戻ってからというものの、再び海が騒がしくなる。

 

 爆発音と飛沫の上がる音がしきりに聞こえる。人智を越えた者の戦闘を目の当たりにして叢雲はやるせない思いに駆られていた。

 

時雨「あれでよかったと思うよ。叢雲の言葉が一番効くと思うし」

 

 楽観的な時雨の一言は叢雲の心に余白を作る。

 今考えていても、現状は変わらない。

 

 この作戦の後で十分じゃないかと自らを落ち着かせ、サラトガの顔を見に歩く。一時的な進行とはいえ、長期戦により体力を消耗していたサラトガは横に丸まって寝ていた。

 しかもヴェールヌイが膝枕をしているという珍しい構図に叢雲は呆れる。

 

ヴェル「叢雲、来たのかい。ごらんのとおりだ。サラは寝ているよ。提督に会えたのと、また直してもらってご機嫌さ」

叢雲「それはよかったわね」

 

 膝枕をしているヴェールヌイの隣に叢雲が座る。

 いつも見る彼女とはどこか違い、しおらしい。

 

 身体もボロボロ。克服しているとはいえ、何度も力を使い心身共に朽ちそうである。

 そして死からの生還。

 

 今回の戦いでは色々な事が起きていて、ヴェールヌイも叢雲も頭の整理が出来ていない状態である。そこへ殉職したと報せがあった人物が実は生きていた驚きようといえば。

 

叢雲「この戦いが終わったら、とっちめてやるんだから」

 

 そう口にしたあとに叢雲はヴェールヌイの肩に身を預ける形となって眠りに落ちた。

 

 

 一方、戦場は。

 

 リベラの周囲には深海棲艦が集い、自らの姫を守らんと陣形を組む。海上に立つ人物は艦娘と深海棲艦以外ありえないという常識を覆す例外。格好も相まって、見守る者をひどく不安にさせる。

 

芙二「これで全員だ。生者(しょうじゃ)など一人もいないのは把握済み。リベラ、艦隊をそこら中に集まってていいのか?」

 

『笑わせるな?深海棲艦が朽ちようともここには無数の命や思いが混ざった地。ゆえに我の力は無限なのだ』

 

 深海棲艦たちが一斉に攻撃を再開する。砲撃や弾丸が飛び荒む海上の中でただひとつの輝きが生まれ、周囲に影響を与える。

 

 

芙二「まったく忠告なんて(オレ)らしくないな?まあこれで纏めて終わらせられる!空間爆縮ッ!≪贖罪への導き(クリミナル・ロスト)≫ッ!」

 

 手元にある輝ける物を天高く宙へ放り投げる。

 途中で砲撃され、あっけなく砕けた瞬間に深海棲艦の艦隊がいる場所が消失する。透明な壁が迫ってきて押しつぶされたかのように赤色の四角い小さな結晶が数個作られる。

 

 「前に発動させたときよりも出力が低かったか?」と小さな結晶を回収して回る。いや広範囲を歩き回るのは得策ではない。空間転移を用いて、その場所へ瞬間移動をして回収していく。

 

芙二「うん。これで全力を出しても大丈夫だろ」

 

 深海棲艦の反応が一気に消えた海。その死体も欠片残さず消滅した光景に観測していた者は度肝を抜かれ、その場に崩れ落ちる。

 

『まだ終わっていないぞ。まさか、この力を頼る羽目になるとはな……だが、我が勝利は確実となった。雑魚を一掃したくらいでいい気になるなよ、フジよ!!』

 

 黒い手袋に両手を通す。

 その瞬間、葬ったはずの命が再び現れていくのを目で見て把握する。

 

 ≪深海神姫の寵愛≫で周囲の深海棲艦の数を確認する。すぐに増え続ける数が十や二十ではないと確認し終えると第二の手段に移ろうとするのだった。

 




第一主人公復活。
途中でエタりそうになったけどなんとか戻って来れたよー!
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