芙二「ソレをこの世界に馴染ませてはいけない。ここで終わらせる。逃げようと思っても無駄ってことを教えてやるよ」
リベラ「ハハハッ面白い冗談だな。誰が貴様から逃げると?寝言は寝ていえ、茶番は終わりだ。さぁ、この場にいる命を全て我が手にッ!」
懐からスッと禍々しい光を放つ宝玉取り出し、天へ掲げ「我が手にあるは神の御業。戦艦神棲姫の名を以て命ず。穢れのない美しい輝きよ、我が貰い受ける。全てを捧げよ」と宣言する。
宝玉が輝き始めると同時にリベラ以外の深海棲艦から輝きが失われ、倒れ始める。どす黒い煙まで放ち始めた宝玉を握りつぶすと細かな破片や微かな光がリベラへ降り落ちていく。
リベラ「ふん、いいぞ。実にいい。これが我の……本来の力が戻っていくのを感じる。フジよ、すぐに壊れてくれるなよ!!」
リベラの足元から不規則な波紋が生じる。そして一つ一つに命が宿ったように鼓動し、動き始めた。リベラが命令せずも芙二へ一直線に向かい始め、距離をものともしない勢いを保ち、その一つ一つが鋭い棘のように形が変わっていく。そこには無数の殺意が宿っていた。
芙二「邪魔だな」
向かい来る棘に対して回避や自身の得物を取り出して弾いていく。斬り晴らし、弾き飛ばす毎に棘から悲鳴が聞こえる。芙二はまったく気にしておらず、出尽くすまで行動しようとしていた。
芙二「静かにしろ」
得物の先へ水分を集める一方で魂の抜けた肉体から哀しみ、恨みと言った非物質を凝縮させる。青いオーラと黒いオーラが混ざり合い、テニスボールほどの大きさがる球体が出来上がった。
その球体を下へ向け、海上へ突き刺す。
ゆらゆらと揺れる面に触れた瞬間、パチッと球体は弾けて消滅していく。不思議な光景に対してリベラは鼻で嗤い、嘲り驕った。「それがどうした?その程度で我の手は止まらぬぞ!」不完全な術を使用したと思っていたのか、先ほど以上の攻撃を繰り出していく。自ら練り上げた水棘ではなく、リベラ自身も芙二の元へ駆けだす。
芙二「もう終わりか。あんたがそこから動かなかったら、少しは長生きできただろうに」
リベラ「貴様は何を馬鹿な事を言っているのだ!」
拳を握りしめて、芙二の顔面へ叩き込んでやろうとした時だ。ふわりと冷たくも優しい風が頬に伝わる。その瞬間、突然現れた氷の棘がリベラの腹を貫く。
「ァガッ」と小さな悲鳴が口から出る。いくつもの臓器を貫きながら固まる棘に致命傷顔が歪み、芙二まであと一歩というところで前に倒れた。
リベラは何が起こったのか、すぐに理解することは出来た。だが、何も前触れというものがなかった。何か張り巡らされている訳でもない。
目の前にはなにもない。なのに水面はまだ波紋が生じている。自らが膝をついた所為か、または命を宿した水の棘が射出され続けている所為か。
芙二「邪魔だ。こんなもので魂を閉じ込めるな」
百を超える水の棘が芙二を囲っていたが、一つも届いていない。すべてが凍りついている。しかし水面は凍っていない。衝撃により、ゆらゆらと揺れている。
リベラの頭は眼前で起きている現象が理解出来ない。普通、液体は零度以下で凍り始める。空中で凍りつくことがあっても地球の重力により落下するはずだ。
奇妙な現象に動揺している。「どうして、何かがおかしい」と混乱していた。現象を理解し始めると両手で顔を覆い、小さな声で自問自答を繰り返している。
芙二「約束を反故にしてしまいたいが止めておこう。おまえが裏切り者と呼んだエルナに感謝しろ。そして死ね」
言い終えると、芙二の周囲を渦巻く空気が一変する。先ほどまで冷たかったのに、今は熱い。寒気など微塵も感じず、反対に汗が噴き出てきて止まらない。リベラは一度だけ入室したサウナの事を思い浮かべていたが、その比ではない。汗はすぐに蒸発し、身体はひたすら汗を流し続ける。
リベラ(この男は異常だ。アイリと同等か、それ以上の――今は海中へ逃げなければ干乾びてしまうっ)
ものの数分で芙二とリベラがいる場所の視界は遮られ、姿を見失う。だがそれはチャンスであり、見失うのは芙二も同じではないか、と思いながら海中へ逃げようと試みる。
そのとき既に身体からは緊急警報が発令されていた。肉体から水分が三割も減っている。そのせいか視界はぼやけて意識は途切れかけ失いそうであった。
芙二「そのまま動くなよ?うっかり魂ごと斬り捨ててしまうかもしれないからな」
一言、一言に殺意が込められているのを感じたリベラは必死の表情で海中へと潜り込む。身に着けていた衣類や防具は殆ど焼け熔け、灰または液体となり落ちていくことに気づかない。
下へ下へ、あの男の手が届かない範囲へと急き泳いで向かう。生命を存続させるための緊急警報は頭の中でずっと鳴り響いている。姿など見えずとも、とにかく逃げなければ、肉体などとうに無くなっていた。
芙二「さっきも言っただろう。逃がさない、と」
暗い深海中に声が響く。あまりの怖さにピタリと急停止し、出所を探ろうとしたとき急に腹部がベコンと凹む。あばら骨がミキミキと音を立てて、肺の空気が押し出され海中へ溶ける。
あまりの痛みに「い、一体なにがぁッ」と叫びながらまばたきをした瞬間、目に見える景色が高速で動いている。黒から白へ。深海から日の当たる海面へ。
芙二「おかえり。それじゃあ第二ラウンドといこうか?」
ケラケラと笑いながら急浮上したリベラへ話しかける。水の中から飛び出て再び海面へ落下しゴホゴホと咳込み、へこんだ箇所を擦っていた。その様子を見て腕を組みながら「まだ未精算の出来事をほっぽり投げてトンズラってのは――」と途中で区切る。
そしてまだ咳込んでいるリベラの目線までしゃがみひと言「違くない?」と真顔で見つめた。「降参だ。我をとっとと殺せ。それとも我に生き恥を搔かせるというのか」そう口を拭いながらいうリベラに対して顔を綻ばせる。
芙二「ああ、当然殺す。と、その前に契約といこうじゃないか。負けたやつに拒否権があると思うなよ?」
笑顔の裏にある考えを探るも分からずリベラはうぐ、と言葉を詰まらせる。「返事は?」という芙二の言葉にすぐに「分かった」と内容について聞く。
分かればよろしい、とでも言いたげに芙二は頷きリベラへ耳打ちする。内容を聞いたリベラは正気か?と疑いの眼差しを向ける。
対して「損得の勘定で決めるものじゃない。楽しそうだから、やるんだ。それに約束を果たさないと」と返す。はぁと溜息を吐かれながら「変わり者だな。異世界人は、良くも悪くもってことか」と呟いた。
芙二「それじゃあ――あっちで待ってろよ」
そう言いながら、黒い刀身の得物で首を撥ねる。リベラの首が血飛沫をあげながら一回転し、転がると同時に死体が倒れる。練り上げられた気配も全て消失し、辺りには静寂が戻ってきた。