とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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五章 72話『御霊(ごりょう)の鎮め』

芙二「さて、と約束を果たす時間が来たようだ。陸翔殿、準備はよいか?」

 

 雲間から差す日差しがスポットライトのように照らす。周囲は静まり返り、ほんの数分前に戦闘をしていた場所とは思えないほどであり、そこには猛烈な暑さも寒さも今は存在しない。

 

芙二「んじゃあ、いっちょやりますか」

 

 回収した小さな結晶から純粋な魂だけを抽出、結晶化させてひとつずつ足元へ放り投げる。ソフトボールほどの大きさの結晶が小さな山を築く頃に芙二は次の段階へ移行する。

 

 結晶がすっぽりと収まる程度の黄色い魔法陣を詠唱する。内部にあった結晶群を少し離れた空間へ移動させ、純粋な魂の記憶に基づき肉体生成を行う。

 

 ただし今回は深海棲艦からの転換の為、生成する器は深海棲艦。現段階では芙二にしか見えておらず、傍から見れば急に現れた不審者がただ一人海上に立っている奇妙な光景である。

 

芙二「ふう。こんなものか?」

 

 頬を伝う汗を拭い一息つく頃には深海化具合が様々な艦娘が綺麗に整列していた。全員目を閉じ、手先までぴしっと伸ばしている。器は完成した。そこへ最後の一仕事をする。

 

 一人、一人の肉体の前に純粋な魂の結晶を配置して胸の中へ移動する。深海化している艦娘の身体が一斉に大きく揺れる。少しずつ目を覚まし始めたのを確認した芙二は最終段階へ移行した。

 

芙二「深海棲艦、再出現!ってな。一難去ってまた一難、なんて言葉がよく似合いそうな状況だこと。よし、やるか」

 

 芙二にしか見えていなかった光景を皆にお披露目とする。急に姿を現すは無数の深海化した艦娘。その数は八十近くにのぼり、一同は驚きのあまり言葉を失う。

 景色と同一化していたものが急に姿を現した、といった表現がしっくりくるほどに。

 

『み、皆さん!落ち着いて聞いてください!深海化した艦娘が母港付近にて再出現ッ!繰り返しますっ深海化した艦娘が再出現しましたッ!直ちに戦闘準備をして殲滅に向かってください!』

 

 スピーカーからは焦った声色による指示が響く。海上でその言葉に反応するのは芙二しか居らず、深海化した艦娘は誰一人として反応しない。

 

 

芙二「よぅし!戦闘機が来る前に最後の一仕事だッ!今日、約束は果たされる。東第三鎮守府のサルベージ作戦、完遂!!」 

 

 八十を超える深海化した艦娘を覆うほどの魔法陣が起動する。幾重にも重なる魔法陣が各々に回り始め、周囲には茜色の光が溢れる。一段と強く発光した後、徐々に光は収束する。

 

 あまりの光量に海上にいる当人たち以外は目を背け、光の収束を待つ。

 そして最後のもう一仕事。海上の音声を鎮守府内のすべての者に聞こえるように手を加える。

 

 それは海辺に停泊している神城たちも例外ではない。

 彼女らの言葉は全員に聞こえるべきなのだから。

 

『あれ、私カレー洋で沈んだはずじゃ……』

『私もガダルカナル島で海軍の人に裏切られて死んだはず。ここは鎮守府、近海?』

 

『いや母港付近……?うそ、あの激戦から帰って来れたの?』

 

 

 八十隻近くの深海棲艦が一斉に艦娘へ姿に変わる。

 深海化した彼女らがいつも見ていた灰色の世界に他の色が混じり始める。

 

『え、なんで。艦娘に元にもどってい』

 

 スピーカーから聞こえる言葉は途中で途切れ、嗚咽が混じる。少ししか見れていないはずなのに、マイクの傍にいる艦娘からはよかった、と安心する言葉だけが最後に聞こえた。

 

 誰かが言葉を発すると皮切りに、騒がしくなる海上。

 中には姉妹と再会できたのか喜びに涙を流し、抱き合う姿も見られる。

 

 再会に泣き崩れる第三鎮守府の艦娘たち。艦娘への転換を済ませ、そろそろかと感じた芙二は一組の艦娘達へ近づく。

 

芙二「感動の再会に水を差したくはないが、少し見させてもらう」

 

 急に声をかけられ、振り向くと全体的に黒々とした格好にペストマスクを被った者が近づいてくる。二度と会えないと絶望したがこうして再会を出来たのだ。そんなときに不審者に声をかけられたら、怖がるのは無理もない。

 

 しかし目の前にいる艦娘達からは恐怖ではなく殺意の篭った眼差しを向けられる。怒りを露わにして今にも飛び掛かってきそうなほどだ。

 

芙二(排除してやろう、という念が伝わってくるな。怪我人に無理はさせられないか)

 

 死ぬ直前に出会った人間に重ねている言動を見せ、隣にいた艦娘まで伝播しているように見えた。一度伝播しだしたら、止まらない。皆で一丸となって襲い掛かってきそうなほどだ。

 

芙二「艤装もないのに吾に立ち向かうか。素晴らしいな、艦娘とやらは」

『怪しい奴め!すぐにこの場から失せろ!』

 

 その言葉にふん、と鼻で笑う。何がおかしいんだ、という彼女の言葉を無視し全体へ簡単な検査を行う。身体的なものではなく、精神的な検査。

 

 具体的に言うなれば深海化に至る負の念を取り切ったか、という内容だ。しかし問題はないように見え、ひとり勇敢に吠える艦娘の言葉に従い去ることを決める。

 

芙二「うむ、そうしよう。なに、もう見終わっているからな。そして約束は果たしたぞ、陸翔殿。貴殿は実に運が良かったな?全員集合だなんて、ありがたかった」

 

 そういうと背を向けて、歩き始める。芙二へ吠えていた艦娘が呼び止めた。

 

『ま、待て!陸翔殿って……うちの提督とどういう関係だ!』

芙二「そうだなぁ?新人と先輩。そして下の名前で呼び合う関係」

 

 まぁ間違ってないしな、と内心で呟く。心底信じられないといった表情で近づいてくる彼女から足早に離れる。

 

『は、はぁ!?ますます意味が分からない!詳しく話を――』

芙二「それは吾の仕事ではない。あとは任せたぞ、陸翔殿」

 

 カチンと小気味な音を立てて消えると共にその場に小型船が姿を現す。

 

神城「っ!? み、みんな……申し訳なかった。今まで苦労をかけた。私の処遇について何か思う者がいるのは分かっている。甘んじて受け入れる、だから――」

 

 甲板へ出てきた神城が謝罪の言葉を口にする。ゴルヴルチカへ宛てた言葉でなく、今目の前にいる者への言葉。しかし途中で言葉は途切れ、立ち竦む。芙二へ吠えていた艦娘が顔を俯かせ、何も言わずに船へ、甲板へ近づいて来た。

 

神城(一発か二発か殴られるのだろうか。しかし甘んじて受けると言ったのは俺だ。それだけの事をしでかしているのだから――)

 

 きゅっと目を瞑ってなるべく目の前の光景を見ないようにする。すぐに来る衝撃に身構えていたというのもあるが。

 

『ねえ』

 

 ひとこと声をかけられた。

 数メートルの距離を一瞬で移動した艦娘に驚く。

 

 いやそれにすら気が付かないほど、俺は緊張していたのか?という念もよぎる。コツンという距離がまた縮まった音を耳にした神城は目を瞑ったまま叫ぶ。

 

神城「は、はい。殴るなら顔じゃなくて腹を――」

 

 しかし衝撃は来ず、代わりに柔らかく温もりを感じて目を開く。神城の身体に抱きつく艦娘の姿が目に入る。

 予想とは違う光景に目をかっぴらいて固まっていると『迎えにきてくれてありがとう』そういいながら声をあげて泣き始める。

 

 わんわんと泣く彼女に対し神城も抱き返して『迎えに行くのが遅くなったな』とすすり泣くのだった。二人の行動を皮切りに神城の元へ八十隻近く艦娘が駆けていった。

 

 感動的な光景にほろほろと涙を流す八崎に対し、紫月はハンカチを差しだした。

 

 

東第三鎮守府内 ある通路にて

 

 一仕事を終えた芙二はペストマスクを外し、虚空へ仕舞う。ズボンのポッケから煙草を取り出し、口に咥えながらライターを探す。上着のどこかにあるはずだ、なんて呟きながらいると来客を知らせる足音が複数聞こえてくる。

 

叢雲「ここに居たのね?司令官」

 

芙二「ん。久しぶり、叢雲。それに時雨やヴェールヌイ、サラも」

 

 目線をあげると久しぶりの顔ぶれがそろっていた。時雨やサラトガはニコニコと再会を喜び、ヴェールヌイは少し呆れた様子だった。その中で一人、叢雲は不機嫌な態度を隠さずにいた。

 

芙二「ここじゃなんだから、東第一泊地(うち)で話さない?」

 

 やっと見つけたライターを片手に持ちながら、提案したが叢雲の答えはノーであった。

 




五章完結~~!
次は最終章~~!!
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