『チッ!邪魔だ。ふう、これから来るは≪
孤島内にある施設を発見した芙二は冷葉に埋め込んだ擬似器官が作用してるのを察知し、なりふり構わず強行突破する。自身から青紫色の煙を生じさせ、屋内へ侵入する。
片膝をつく形で着地すると同時に煙が屋内を満たす。突然のことで逃げも隠れも出来ずにいる者共を煙はあっという間に飲み込む。飲まれた者はひとりずつ、倒れ込む。
青紫色の煙ということで毒を警戒するアイリと側近だったが、側近の下半身が煙に触れただけで下から崩れ落ちて、動かなくなったのを確認してゆっくりと口角をあげる。
『ははははっ!いいね、いいねえ!もう自分の正体がバレてもいいやってなったんだ!?なら私も遠慮はいらないよねえ?!』
※
孤島 施設屋外
『ほらほら、ほらぁ!!早く私を倒さないと君諸共、この星が塵になってしまうよ?』
『大丈夫だ、そんなに煽らなくってもアレをどうにかする手段を吾は持っているからな』
二人の上には月が見え、ゆっくりと地球へ迫っていた。アイリの能力の到達点による事象はこの場にいる者の常識を取り払い、強い絶望を与える。
『未完成な技を使いたくはないが――いっちょやるか』
迫りくる月を前に笑う。
アイリにとっては強がりに見え、満身創痍のカインにとっては不敵の笑みに見えた。
最終章 1話『小休憩Ⅰ』
一方 第三鎮守府
芙二「困ったな。首を縦には振ってもらえないか」
叢雲「振るわけがないじゃない。随分と準備がいいようだけれど、ずっと隠れていたのかしら?」
芙二「そうだな。ずっとではないが、それに機を伺っていた。あと準備がいいのは気のせいだ。それだけかい、叢雲。あんたの目は他の事も知りたそうにしているけど?」
再びペストマスクを顔につけ、カチカチと付け具合を確かめる。「本当にそれだけかい?ここで話すことはないかな」と言いながら早口で短い詠唱を済ませ自身含む範囲に魔法陣を展開する。
叢雲「……まだ話すことはあるんだから」
芙二「急を要することかい、それは。見ての通り、まだあの女をとっつかまえて来てはいないんだ。早くいかないと犠牲者がもっと出る」
その言葉にぐっと言葉を詰まらせる。
確かに大元の問題が解決されていない。
芙二がいれば問題は解決するのだろう。しかし叢雲は行かせてはならない、と強く感じていた。それは一度失った想いによるダメージであり、また慕う気持ちからきていた。
芙二「分かった、少しだけだぞ?別に死にに行くわけじゃないんだからさ。それだろう?叢雲、あんたが吾を止める理由」
叢雲「そうよ。失ってから初めて気づく想いがあるというのをその身で体感しただけよ。私にとってあんたがどれだけ大きな存在か思い知ったの」
芙二「ありがたいね。ちゃんとした場だったら、告白していたよ。あ~大丈夫大丈夫、ちゃんと帰って来るよ」
「信じられないわ」とバッサリ言い切る。
その様子に芙二は腕を組んで困ったなぁと呟く。
時雨「ねえ、提督。提督は、この後どうするの?」
芙二「どうすっかねえ。わたし実は生きてましたー、なんて通じないでしょ。あんな爆心地みたいなところからの生存って」
それもそうだねとヴェールヌイが相槌を打ち、サラトガは「でっでも復職みたいな形で」と言いかけたところで芙二が言葉を被せる。
芙二「それに骨が出てきちゃってるのに、その本人はこうして五体満足なんて――変でしょ?信じらんないでしょ、普通。それに正体は半分バレているようなもんだし」
そういいながら大きめのタブレット端末を取り出し慣れた手つきでひとつの記事を取り出す。そこには『東第一泊地の芙二提督、裏社会との癒着か』や『テロ事件の主犯格と親密な関係?』や『当日その場にいたのは辻褄合わせ!?深海側の内通者』といったテロップが表示されていた。
サラ「なんですか、これ」
芙二「アイリたちのグループの一部がネット中継してたでしょ?それで
「仲間」てのが一番しっくりきたわけと口にする。世間は芙二とアイリの関係など詳しくは知らない。突発的に起きたテロ事件の主犯格が楽し気に名前を呼び、それに答える形でその場に現れるのだからわかりやすいものだとない、と知らずの者は思うだろう。
サラ「いやそれでも提督の功績を知れば――」
芙二「それで閣下たちに私は人外です、なんて自らを晒すのかい?吾の所属を知れば、脅してくるかもしれない。吾は何とかできるが、一番の心配はあんたらだな」
「人質にはなりませんよ?」そういいながらサラトガはムッと顔を顰める。
芙二「個人の心配というよりかは場所の心配だな。未だに非情派のような連中がのさばってる。艦娘なんてその場所を抑えられたら、ダメになる。冷葉や憲兵はついでだな」
その言葉を聞いて、確かにと頷く。艦娘たる所以の能力は艤装によるものだ。艤装が使えなければ、ただの少しだけ力の強い娘という解釈をされても無理はない。
芙二「まぁあそこの権限は冷葉に譲渡して、あいつが提督になるだろ?艦娘の皆は指示が出るまで最低限のことをしてもらうとしよう。憲兵も二人だけじゃなくてもっと増員して、他の業務の職員も雇ってとなると時間なんてあっという間だな」
叢雲「そこまで言うって事はそんなに私たちと居たくないの?」
叢雲のその言葉に首を横に振って「そんなわけない」と否定する。叢雲の元までゆっくりと近づき少し屈みやさしく彼女の頭を撫でる。
芙二「大丈夫、大丈夫。ちゃんといつか返ってくる。多分だけど死ぬなんてことはもうないよ」
ヴェル「司令官?もうないってことはついこの間まで…」
芙二「そんな感じかな~!いやね?気が付いたら異世――」
お道化たような口調で話している。しかし周囲から見つめられるような気配を察知し、途中で言いしぼむ。ペストマスクを被ったままコホンと咳込み睨む輩を睨み返す。
コートの面から開く孔雀の羽根のような飾りの目で。黒と黄色の目が一斉に開眼し、一瞬で怯み誰もが目を瞑り、再び開いたその一瞬でコートは変哲もないものになっていた。
ヴェル「しッ!司令官、今のは……?」
芙二「やっぱり目立っていたらしいからちょっと牽制を、ね。大丈夫、一瞬だけだから」
建物の影から何人かがこちらへ向かって来る。足音から推察するに職員か、陸翔殿かと考えていたがそのどちらでもなかった。
音宮「ちょっと部外者は立ち入り禁止です!今すぐ彼女達から離れてください!」
神城「お、音宮提督殿!そ、その人は我々の命の恩人ですよ!」
音宮のあとに続くよう神城が走ってくる。彼の隣には音宮提督ときた漣もいるようで、こちらを見るなり「うゎっ!ほんとうに不審者ですなぁ」と言ってくる。
芙二「おっ陸翔殿。ちょうどいいところに。吾はこれから野暮用を済ませてきます。なので彼女達を任せました」
「えぇっ!?」と声をあげて芙二の方を見る叢雲たち。
その言葉に頷き、了承する。芙二はとっとと冷葉の元へ向かおうとするのだが「あっあの!」と声をあげる神城の様子に静止する。
神城「でも紫月殿が何か話がある風でしたが、どうします?」
芙二「あっ?う~ん、とあの空の事かな?」
神城「あの空、というと?」
何の事だろうかと神城が困惑していると芙二の後ろから声がした。芙二以外はその声の方を見つめ徐々に近づく人物の登場に目を丸くさせる。
『ほんっといつからみんなの戦いを見ていたの?どう考えてもおかしかったでしょ』
芙二「紫月には誤魔化しが効かないか。それこそ、場所を変えよう」
その言葉に頷き、叢雲から離れて少し空いたスペースに紫月を招く。東第一泊地でいい?と聞くも否定され転移する瞬間に「船にしよう」と紫月の声が途切れるのだった。