少し遡る事、四日前
単刀直入、結論から言うと総司令部含めた連合艦隊は
未知の敵であるカインと名乗る女の子の手により、大艦隊は一瞬で塵芥となった。我々は騙されたのかと思うほど、カインの攻撃のタイミングが合っていた。
ほんの一瞬で皆が死んだ。宙を高く巻き上げられ、地上へ叩きつけられる。海上にいたのが大半だというのに、島内へ引き摺り込まれたというしかない。
傍には主犯格と思われるアイリという少女もおり浜の上へ歩を進め、事切れる肉の欠片を持ち上げると自らが背負う大きな籠の中に放り込む。
?(……ここまでか?それに……なんだ、あいつら。深海棲艦ではない、もっと別の生き物だ。そんなものが、我々と敵対していたとはな――選択を誤ったか)
額から顎の先まで血を滴らせ、うつ伏せで倒れる軍人がいた。帽子も服も所々穴があき、傷口に砂や何かの破片が付着して不快感と痛みをもたらせていた。
少女は薪を集めるような動作で肉や骨の欠片をかき集め、籠へ投げ込む。飛び散る人の欠片、船の残骸、虫の息である艦娘。そして我々が招かれた島の内側から大勢の人影が見えてくる。
『流石はアイリさんたち!おれたちじゃできないことをやってのけるなんて!』
ある者は顔を布で覆い隠し、前かがみの姿勢で手を合わせ拝み
『おい、喋っている暇はないだろ!生者と死者を掻き分けろ!早くしないとてめえのお目当ても腐って使い物にならなくなっちまうぞ!』
ある者は拝む者を怒鳴りつつも、鼻の下を伸ばし
『ねぇ~アイリの姉ちゃん。ある程度は材料に使うんだろうけど、その他は僕にくれない?海軍の兵隊さんなんでしょ?きっといい相手になってくれると思うんだ』
紺色の学ランに学生帽を被った中学生くらいの男の子だろうか、先ほどから無言で喋らず籠へ放り投げるアイリへ近づく。
「艦娘ならいいよ。兵隊さんたちはダメ。君が言うように材料になるし、道具にもなるから」
その回答を聞くと眉をひそめ、つまらなそうにして彼女の元を去り他の者と同じく選別作業に入る。先程の顔を布で覆い隠している者が瓦礫が右わき腹へ貫通し、虫の息となった男の元へ歩く。
『あるぇ?あるぅえ?まだ息があるけれど虫の息ですぞ?うぅ~ん、死体としてもいいでしょうね?この状態でも使おうなどど気違いでなければ大丈夫でしょう!』
?「はぁ、はぁっ……クッ、ァァ……ぐうぅうう!?」
顔を布で覆い隠している者が右わき腹の瓦礫を更に内側へ押し込む。息絶え絶えの男は呻き声をあげて、口から吐血して意識を失う。
『あっは、あっははは!動かなくなりましたねえ?それなら死体で、間違いないですねえ?』
意識を失った男の足を掴み、人種、性別問わぬ死体の重なる砂場まで引きずる。
『おやおやぁ~皆さん、そんなに集まってどうかしたんですか~?』
動かなくなった軍人を死体の群れる砂場へ乱雑に転がす。血と機械オイルの匂いが酷く、また濃い死臭が漂い始めていた。
『発見だ。我々のような人間でも艦娘をただの女として扱えるらしい。詳しいことは分からないが、セーフティのようなものが今もなお起動し続けてるんだろ』
『それはそれは素晴らしい発見ですね。でも損傷割合が酷く、使えない艦娘もいますよ?ほら、この通り左右の腕が捥げてます。こいつに関しては顔の左側が激しく損壊してますが』
痙攣している艦娘の腕を思いきり引っ張り上げる。艤装は損壊し、跡形もない。それに根元から捻じ曲がり、青紫色の痣がいくつも浮き上がっていた。白目を剥き、半開きになった口からはブクブクと泡を吐いている。
もう一人の艦娘に至っては顔の左側が損壊し、皮膚や肉をそぎ落とし鉄の肌を剥き出しにしている。頭部の赤いゼリーのような物体は大きく欠け、顔は虚ろに口や鼻からは血が垂れていた。
『いーや!そいつはダメです、死んでます。だって赤く柔らかいミソがとろとろにとろけ出しています!痙攣を通り越して即死ですよ!でもどうしますか?艦娘のニクやワタは一度も食べた事ないじゃないですか?』
『うへぇ……ひともどきを食べるの?僕は遠慮しておきたいな……』
罪人の会話は陽が沈むまで続く。
その会話を耳にするものは不快感を抱くだろうが、そんな人間はこの海域には存在しない。
なぜなら、ここにはヒトは存在しない。老若男女問わず、人でなしだからだ。
一方 その頃、ソロモン諸島付近 小さな島
『こちら、異深連合本部。どこの部隊だ?所属と名前を――』
『我だ。アイリはいるか』
『失礼しました。カイン様でしたか。貴女が連絡してきたというならば、そちらは片付いたということでよろしいでしょうか?』
『うむ。反抗した者はすべて殺した。意を削がれた者だけをそちらへ送るため、上裸にしてうつ伏せにさせている』
『承知いたしました。お見事です、流石はアイリ様の相棒――』
『世辞はいらぬ。我は少し息抜きをしてから、そちらへ戻る。アイリにもそう伝えておけ』
カインは通信を終えると小型の無線機を仕舞い、ひとつ溜息を吐く。目線は上裸にされ、うつ伏せの捕虜たち。艦娘、
目の前で仲間が見るも無残に殺害されて尚、戦う意思を見せ続ける人間が居た。大半が消え失せた初撃で散らさなかったのは奇跡とも言えるが、カインにとってそんなことはどうでもいい。
神に抗った人間が、生物がどういう末路を辿ったのかなど分かりきっているだろう。現に初撃後はとても静かだった。あれだけいた命の数も激減。それに生き残った生物は戦意を喪失させ、降伏の意を示す。
その結果にカインは不満だった。だから見せしめに全員殺そうかと思っていた。だが、海の方から命の束を見た。向かってくる少女たち。そして一人の人間からあの忌まわしい気配を感じ、鴉色の翼を生やし、海上へ飛び向かう。
艦隊の後方にいる船に急接近し、天井部を剥ぎ取る。
『おい。貴様だ、貴様。どうしてあの忌まわしい者と同じ気配を纏っているのだ』
船内にいた白髪の青年はまったく驚きもせず、飄々と返答する。その様子に肝が据わっている男もいるのだな、と僅かに感心していた。
冷葉「……さぁな。気のせいだろう、俺は何も感じないぞ。それにいいのか、丸裸でこの場へ来てしまって」
『構わぬ。貴様らでは我に傷をつけるなど困難。しかし会話の邪魔をされるのは癪だな』
カインは姿を変えるようと意識をする。
瞬く間に彼女の周囲に旋風が生じ、海水を巻き上げる。
船が大きく揺れ、彼女の周囲をぐるぐると回る。カインを中心に渦潮が生じており、何者も寄せ付けない。それは巻き込まれた冷葉も救えないという意味だ。
旋風が弾けるように消え失せた中からは白い二本角と四枚の鴉色の翼、黒い尾を生やしたカインであった。映像の中の生物が現実にいるという事実を突きつけられ、元々降伏していた者は更なる絶望を感じ、目を瞑り、耳も塞ぐものも出てきた。
『我に裁かれるのだ、光栄に思え』
カインが右手を伸ばすと彼女の背後から無数の骨で作られた手が現れる。ゆっくりと艦隊へ近づく為、砲撃で破壊を試みるも砕けたところから新たに再生していく。
手が艦娘を軽く覆い始めると悲鳴が絶えず聞こえる。冷葉が朽ちた船内から顔を出し、名を叫ぶも手による侵蝕はおさまらない。
『無駄だ。これは貴様らの魂のみを取り除くもの。肉体に用はない。沈むか、下衆共に有効活用されるか――おっと白髪の貴様は島で降伏している者と共についてきてもらうぞ』
今顔に付着するのが汗か涙か分からなくなった。冷葉は割れた窓に上半身を乗り出す形で、少しずつ床へと落ちていく。青い顔をさせ、呼吸が早く荒くなる。
自らが指揮を執ったばかりに、ここへ向かわせたばかりにと自責思考に陥る。呼吸がし辛い、吐き気が出てきた。目の前が明滅する。
そんなとき、ぐぇっと絞られた音が口から飛び出る。身体に緩やかな風があたり、周囲を見渡すと宙に浮いていた。『気が付いたか?そのまま落っことしてもいいが、貴様は生かすように指示がでているからな』とカインが抱えながら飛んでいた。
冷葉「俺はこれからどうなるんだ?」
『……そうだな、生きているから材料だろう。貴様が指揮をしていた艦娘、というのか?あれは全滅したぞ。ほら、肉体はそこへ転がっているだろう?』
ゴツゴツした小磯へゆっくりとおろし、さっきいた場所へ視線を移すとそこには徐々に深海化していく仲間の姿があった。節々に変な力が加わっているのか、奇怪な動きを見せ続けた。