『ぐあっ……痛いなあ、もうちょっと丁寧に扱えやオラ!』
『あ゛ぁ゛?!てめえ、捕虜の分際でやっかましいのぉ!!』
まず最初に武器となる物や通信機などはすべて取り上げられ、取り調べは衣服を全て脱がされ、頭の先から足の先。口の中から肛門内にまで及んだ。
『きゃあっ!な、何をするんですか!そんなところに指を入れて……』
『ケェーッケケケケッ! キャアだってよ!見た目は男みてえだってのに、中身は乙女ときた!これはぁ……楽しみがいがありそうですなぁ』
辱められたと感じ、赤面する者をニタニタと楽しむ者や口答えする者。苛立ちぶつける者。諦観して、すべてをさらけ出す者にも無口で機械的に取り調べを行う者と様々だ。
手枷、足枷などはつけられていないが廊下には銃を装備した者が数人常についており、脱獄のようなことは一切できない。そして食事は二回。薄暗い牢へ乱暴に投獄された捕虜たちには時間の感覚など既になく、衰弱させない為に厳しい食事が待っていた。
銃を武装した者たちがしきりに”材料”や”道具”という言葉を使う。捕虜は反抗せず、ただその日一日を生き残る事だけに注力せざるを得ない状況であった。
実際に材料にされた人や道具にされた人の末路は最初に見させられた。
『おら、よぉく見とけよ?違反者の末路だ、初日からこうなりたい奴はいるか?』
ひとつ。反抗した者は生きたまま、首から下を捌かれ料理の材料となる例。肉断ち包丁や鋸、ナイフといった道具で活きのいい状態のまま三枚おろしのような状態にされる。尤も人間なのでもっと部位は多く、流れる悲鳴や血の量は計り知れない。
施設内の競りでは見た目麗しい艦娘や深海棲艦の首には高い価値が付いた。人間とは違いすぐには腐らない。そしてある液体をかければ生を得る、そこに着目された。逆に人間の首は廃棄処分が大半であった。中には脳みそを食べたいという命知らずもいたが。
ふたつ。捕虜となった時点で肉体に損傷がない場合は多くが道具となった。人質という名目上で肉体労働の道具として扱われる。といっても炭坑を掘るようなものではなく、施設の補強、増築などが主な例だ。そこに種族、性別は問わない。そこでも食事は出るが、命を縮める薬物が多量に含まれていると研究員を名乗る女性が説明していた。
中でも性機能に問題がない者は慰み者としての役割も与えられていた。ある男女は壁に尻を突き出すように固定され、穴という穴を好き放題もてあそばれる。道具に言葉は必要ないと猿ぐつわを噛ませられ、道具が壊れるまで或いは使用者がいなくなるまで休憩はおろか睡眠などない。
労働の道具、性機能の道具。どちらも反応が悪くなったら薬物を注入され人間と獣の境界を解かれる。外部から与えられる刺激により呻く言葉に感情が溶け込み、涎や汗となり垂れる。
男女ともに嬌声をあげ、上も下も漏らしても気にせずに求めるようになれば人として終えるのだと、機械のような男が語る。
みっつ。食材以外の例となるもの……それは交渉材料である。一人一人と物資の交換を求めていた。相手は軍ではなくマフィアやギャングなどでありマトモな間柄ではない。
やはり人間などよりも艦娘や深海棲艦の方が通貨と同じ効果を発揮すると元ヴァチーダカルテル構成員を名乗る男が楽しそうな口調で説明した。
例外はあれど、上記の三つが捕虜の使い道だと嫌でも分からされてしまった。これから地下牢へ投獄される、と説明を受けた者の表情はとりあえずといったところだった。
?(あーあ、そう思っちゃうのは分かるけどさ、軍人サマ。今繋がれた命は十日も持たないぞ?)
サングラスをかけ、灰色のブレザーを着た青年は溜息を吐いた。彼の背にはライフルが装備させられており、肩には何処かの学校の校章が巻き付けられている。
奴隷のように列を成し、ぞろぞろとついていく様を見て嗤うものは多かった。
孤島内 研究施設 地下一階にある牢にて
照明が点滅を繰り返す薄暗く湿っている通路横に簡素な牢屋が何十もあり、その中は死体や酷い怪我を負った者、捕虜となった者などが一人ひと部屋割り当てられて収監されていた。
その中のある一室に東第一泊地の提督である冷葉はいた。窓もない牢屋内で仰向けに足を組んで寝転がり、これからを考えていた。彼は他の者とは違い、未だに挫けてはいない。彼の中心で脈動する仮初の擬似器官の音に耳を貸し、心を落ち着かせていた。
冷葉(あの知らせは俺にとって、絶好の機会であったのに。とっ捕まっちまうとは情けねえな)
一矢報いるどころか、一発顔面を殴ることも出来ていない。牢屋に入れられる前、三つの例を見せられたがあれが全てではないと冷葉は考える。見せつけのように語ったものが最も多い事例というだけであって他にもあると感じていた。
冷葉「これからどうするか」
『そんなもの考えてどうなるんだ?』
扉の向こうから青年の声が聞こえる。
まずい、聞かれていたかと思い口を閉じたが番人は喋りかける。
『考えて口にするのは個人の自由だと思うが。軍人サマたちには行動する力なんて残されちゃいないだろ?なら、聞かせちゃくれないか。エリートな軍人サマの考えを』
冷葉「考えなんてものじゃない。それに
『へぇ?軍人サマは肝の据わりようも観察眼も長けているのか?羨ましい限りだねえ。そうだ、軍人サマの言う通り話し相手が欲しかっただけだが何か悪かったのか?』
冷葉「別に。俺も沈黙だけもいい加減飽きてきたところだからな。これから起こることを話してやる。これは推測ってだけだから、実際に起こるとは限らないぞ」
『この状況を覆す出来事が起きるって?実は誰かが死ぬとGPSと連動してる爆弾かなんかが降り注ぐって?それともなんだ、いち話し相手であるあなたが何か実行すると?この場の命を差し引いてでも?』
冷葉「最初のは分からないが、他の内容は否定させてもらう。俺の親友はすごい奴なんだ。入学早々は何処にでもいるパッとしないやつなんだが、実技――いや戦闘になると牙を見せ始めた」
『その親友がすごい経歴の持ち主であってもこの場に乗り込むなんて馬鹿な真似はしないだろうな?勝ち目のない戦をするほど血に飢えてんのか?その軍人サマ』
冷葉「飢えているんじゃないか?艦娘と一緒に最前線、いや現場で直接指揮を執るとかいうやつだぞ。俺が知る中でかなりの変人だ。内で死の恐怖に直面することは少ないだろうが、外は違う」
『その親友の軍人サマは提督だったんですか。それだけ血の気が多いのなら、こちら側へ来た方が幸せだったんじゃないんですか?』
冷葉「いやあいつのやってることはそっちと遜色ないからなぁ……。それに自分よりも格上を相手取るのもやってのけるやばいやつだ」
扉向こうの番人は格上を想像しながら「上司とかそういうの?」と問う。
冷葉「いやいやそんな奴じゃない。それはへりくだって低姿勢で対応してるみたいだけど。この騒動の主犯格であるカインとアイリのような超越した化け物どもさ」
『へぇ~?随分大きく出たもんだね。その親友の名前を聞いてみたくなった。そいつの名前はなんというんだ?会うことは叶わなくとも記憶の片隅にはおいておこう』
冷葉「それは芙――」
『ねえ、君たちさ。分を弁えてる?誰が捕虜と仲良く会話しろって命令したの?』という少女の言葉が廊下の奥から響く。コツコツと靴の音がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
冷葉「なあ番人様、名前を聞きたかったんだろ?今聞かせてやるから」
『ば、馬鹿!今はそれどころではない!こちらへ向かっているお方が分からないのか!?』
冷葉「いやこんな真っ暗な牢屋の中じゃ分からないよ。それに廊下だって薄暗いし」
慌てる番人の様子とは違い、ぼそぼそと小さな声で反論する冷葉の言葉を聞いて『確かにそうかもしれない』と呟いた。その瞬間、肩を掴まれる感覚がした番人は悲鳴をあげる。
冷葉「どうかしたのか!?倒れる音がしたけど!」
?「大丈夫。彼には眠ってもらってるだけだから」
冷葉「な、なんだ。そうだったのか。それで俺は折檻か?これだけ騒がしくしていたんだ、行われても仕方ないだろう」
?「君は命乞いしないの?みんなしていたのだけど」
冷葉「そんな命は少し前に尽きたからな。次は二度目の死だ、そこまで怖いわけじゃない」
?「そう。それじゃ行こうか、冷葉くん。芙二君の親友である君と私は話がしたいんだ」
冷葉「そうか。あんたがアイリ・ブルグレス。芙二がしきりに口にしていた言葉の本人だな?」
扉が開く。依然変わらず薄暗い廊下が見える。扉が開いたことにより、外の生暖かい空気と僅かに生臭い臭気も共に牢屋内へ舞い込む。
冷葉(うっ酷い匂いだ。いったい上でなにが起きているんだ?)
一歩外へ足を踏み出すと、液体の上を歩いたときのような音を耳にする。しかしアイリが冷葉の手を強引に引いた為、その液体を調べる事は叶わなかった。
薄暗い廊下を抜け、階段をあがり、明るいフロアへ出てきた。左右に大きめの搬入口があり、そこから老若男女問わず様々な種類の人間が楽し気に歩く。下衆な会話や国家転覆を目論む会話だって聞こえてくる。
アイリ「君はこっち。私と共についてきて」
左側の搬入口の方へ進み、しばらく歩くと更に大きなフロアへ出た。しかしそこは異様な雰囲気が漂っており、その正体はすぐに分かった。
二メートル四方のガラス部屋。遠くから見た限りではただのガラスでできた部屋という感じであるが近づくにつれ雰囲気の正体に気が付いた。
付近に黒ずんだ何かが転がっている。手で持ち上げると僅かに濡れているごつごつとした岩のような物体。物凄い数の細い糸を束ねたような質感を持つ物質。
同じく僅かに濡れており、糸を束ねたような物質に関してはぬるぬると滑る。
冷葉の手にはそれが人体の一部であるとすぐ気が付いた。条件反射さながらの速度ですぐに手を放す。パサリと音を立てて、転がるのは濡れた頭皮の付いた黒い髪。長さから女性だと判別できるが本体がその場にないことを考えると鳥肌が立つ。
背を押される。扉にぶつかると思ったが、ぶつかることなく室内へ吸い込まれる。
アイリ「それじゃあ少し、私とお話をしようか」