とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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最終章 5話『取引』

 二メートル四方のガラス部屋にて。

 

冷葉「椅子に座れってか」

 

アイリ「椅子に座っても座らなくても構わないよ。私は一度冷葉くん、君と会話をしてみたかったんだ。君の同期であり親友の芙二凌也と共に働いているだろう?」

 

 アイリが話す中で冷葉は用意されていた椅子に腰かけ、足を組む。その態度を見たアイリは少し微笑むと対面の形となるように座る。

 

冷葉「共に働いているといってもあいつはもう死んだ。だからこの場合は働いていた、というのが正しいな?」

 

アイリ「あっははは!君は本当にあの芙二凌也が死んだと思っているのかい?あの怪物があんな炎如きで死ぬわけがないじゃないか!」

 

冷葉「それにあいつが生きていたら、不都合が生じるんじゃないか?うぅむ……確かにそうだな。あいつがそんな事で死ぬとは思えない。しかし骨は出てきて壺に収まっている以上そう判断せざるを得ないんじゃないか?」

 

アイリ「確かにね。合理的な考えだよ。君は親友を失ったし、この状況になっても取り乱さないなんて凄いタフなんだね」

 

冷葉「まさか。これでも今にでもあんたとカインの顔をぶん殴ってやりたいほど腸が煮えくり返ってますが!」

 

 そう言いながら、椅子から勢いよく立ち上がりアイリの顔を殴ろうとする。しかしアイリは分かっていた風に動じず冷葉、渾身の拳を顔で受け止める。バッチィーン!とビンタをかましたような音が聞こえ、音を聞いた者が一斉にガラス部屋を見つめた。

 

アイリ「気は済んだかい?」

 

 冷葉が拳を引っ込めてもちっとも腫れもせず、けろりとしていた。

 

冷葉「いーや?あと100発は入れないと気が済まないな?どうして防がなかったかだけ聞いてもいいか?それとも初めから分かっていたか?」

 

アイリ「いいや?私たちが君の親友を殺した様なものだから一撃くらいは受けてあげてもいいかな~って思っただけ。それに冷葉くんって本当に軍人?あんなしゃぼん玉を割る様なパンチ初めて」

 

 両手を口元に持っていき、無邪気に笑う。言葉の終わりに少々の煽りを含めて。

 

冷葉「異世界人と現地民の強度を比べちゃいけないって誰かから習わなかった?あんだけ大人がいて、だーれも教えてくれないなんて薄情な連中だ・こ・と!」

 

アイリ「まぁね。所詮はごろつきの寄せ集めだから善い大人なんていないよ。それにこの惑星の何処を探してもね?こほん、さてとそれじゃあ本題に入ろうか?」

 

 その言葉を最後に彼女の雰囲気が劇的に威圧的に変わる。けらけらと無邪気の笑みを見せ、会話を楽しむ姿は霞のように消え去った。そこにいるのはテロ事件の主犯格であると思わせるほど。

 

 アイリが冷葉の胸元を指さして「君のそこから災いの元が垣間見える。亡き親友が与えたものでも、この世界にとっては破滅を招く種だ」と言い切る。

 

 冷葉は自らの心臓に隠された事実に動揺せず、目を見開いて「断る」と言い切った。

 

アイリ「そういうと思った、よ!」

 

 座っていたアイリが身を前に乗り出して、冷葉の胸ぐらを掴み自らの方へ寄せる。

 

冷葉「うっぐ! そうやってすぐ俺を殺す気か?」

 

アイリ「いや?まだ殺さない。だけど私はその余裕綽々な態度がすっごく気に入らないな。もっと命を乞う姿の方が似合っていると思うよ?」

 

冷葉「ハンっ誰が命乞いなんてするかよ。この際だから言っておくけどな?おまえらテロ組織なんて時期に全員逮捕されるか、その場で処刑されるんだよ!」

 

アイリ「艦娘も深海棲艦も人間も壊滅させらる現場を見て、その態度かぁ。あの男の真似とか現地民は馬鹿だな。あんな力だけある怪物の何処がいいんだか」

 

 「だけど」と一言いい、胸ぐらをつかんでいた手を放し冷葉を解放する。その瞬間、ガラス部屋の四方の壁に大きな亀裂が生じ、破砕する。大きな音を立てて、飛び散るガラスに周囲は勿論冷葉も釘付けとなった。

 

アイリ「今こうして喋ってるあいだに殺せるということ。君は私の慈悲で生存を許可されている。理解できたかい?」

 

笑顔のまま、語気を強める。

 

冷葉「……分かった」

 

 どくん、どくんと心臓の音が喧しい。脳が視界に映る微笑んでいる女から距離を取れと警告音をずっと鳴らし続ける。咄嗟に本能に従い、体が自然と向きを変えようとするのを必死に抑える。

 

アイリ「冷葉くん、まだ話は終わってないよ。君は逃げてもいいけど、見つからない時間一分につき男女関係なく捕虜を一人解放して殺す」

 

 目の前にいる自分よりも少しだけ年上の女性から目を離せない。それどころか周囲から銃を装填する音すら聞こえる。

 逃げたら即処刑、なんてことはないだろうけどそれでも足を一つ失いそうであった。

 

アイリ「大事だろうが、なんだろうが気にしない。だってこちらには一切関係ないもの。みんな!老若男女問わず、捕虜を何人かこの場へ連れて来て。条件付きだけど一人ずついいよ」

 

 「君たちのしたいようにして、楽しめばいい!人生は一度きりだからね!」と付け加える。

 

 その瞬間から逃げろコールと歓声が沸き上がる。

 

『に・げ・ろ!!』

『に・げ・ろ!』

 

 周囲からのコールに冷葉は耳を塞いでしゃがむ。

 だが、すぐに髪を掴まされて無理矢理立たされる。目の前にはサングラスをしたスキンヘッドの巨漢が立っており、とても苛立っていることが見てわかる。

 

『早くにげろよ!ボーナスステージは思いっきり楽しむもんだろうがよォ!!』

『そうだ、そうだ!』

 

『今更、見逃してください!なんてのはナシだぞォ!!』

『それとも今ここでこいつからやっちまうかぁ!?』

 

 ガヤガヤ騒ぐ場を傍観していたカインは血の気が多い連中だと溜息を吐く。

 

アイリ「それはダメだ。君たちはもう少し理性的になった方がいい。最初の一匹を殺してしまったら、今から展開される物語を楽しめなくなってしまうじゃないか」

 

冷葉「いやそれでいい。一度は死んでいる人間だからな。二度目の死が怖いわけないだろ?」

 

 すぐ傍にいる巨漢の腰につけていた手榴弾を奪い取り、ピンを抜く動作を見せつける。アイリとカイン以外は歓声とは別の意味で騒ぎ始め、冷葉から距離を取った。

 

アイリ「抜きなよ。その死体は後でお人形に変えてあげるからさ。君の面影をそのままに破壊の限りを尽くす暴力装置の出来上がりってね♪」

 

冷葉「はは、ただで死ぬわけがないだろう!!俺の命と共に敵の中央で自爆して巻き添えにしてや――」

 

 施設が地震を受けたように大きく揺れ動く。ガタガタと窓や床から音が鳴り、そして天井が物凄い勢いで吹き飛び瓦礫がテロリスト共を巻き添えにした。

 

『ぎゃああああ!な、なんだ急に天井が崩れたぞ!』

『おい、誰だ!ここの設計したやつは!!』

 

冷葉「ケホッケホ……なんだ、急に。それに、力が抜けて」

 

 屋内へ青紫色の煙が満ちていくのが分かる。煙が軽く身体に触れただけで急に立てなくなり両膝をつく。次第に手の力も入らなくなりピンを抜く寸前の手榴弾がカツンと音を立てて転がる。

 

冷葉(あ、くっそ……もう少しで主犯格を討てずとも――)

 

 冷葉の意識は途切れる。最後に見たのは煙の奥から近づいてくる黒いシルエットであった。

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