とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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最終章 7話『半魂(はんごん)の龍』

 

 勢いよく飛び出した芙二はアイリの顔面目掛けて拳を揮うが、彼女が一歩下がり避けられる。殴りつけた風圧だけで青紫色の煙が大きく割け、瓦礫の隙間から巻き込まれた人間の姿が見えた。

 

アイリ「ハハハハッ!!ねえ?いきなり女の子の顔を殴ろうだなんて酷いことを考えるね」

 

芙二「なに言ってるんだ。そんなことを言ってたら(オレ)を襲う深海棲艦や艦娘など対処不可能だ」

 

 楽しそうに笑うアイリに対し、客観的な言葉を返す。その言葉を聞いたアイリは少しだけ言葉を咀嚼するように黙り込むがその間にも芙二は殴る蹴るなど攻撃を絶やすことはない。

 

アイリ「別に殴る蹴るで済ます、なんてのが正しいなんて言ってないよ。暴力だけでは何事も解決しないとよく言うだろう?まぁ君の場合だったら別になんでもできるだろうし、ね!」

 

 回避に徹していたアイリは芙二の攻撃が空ぶった直後、懐からピンを抜いた手榴弾を数個投げつけ更に後ろへ跳ぶ。舌打ちをして、手榴弾を弾き返すと今度はアイリの攻撃が始まった。

 

 弾かれた手榴弾は瞬く間に爆発し、天井や壁を崩す。大きな音を立てて、瓦礫が散乱する中で押しつぶされる人の断末魔や悲鳴が混じり始める事に嫌な顔をしたのは芙二だった。

 

 アイリ「なんだ!君も他人の死は忌避するもんなんだね!あれだけ魂がどうのとか死と切っても切れないような事をしておいて、さぁ!」

 

 自らの手を後ろへ向け、その先から先端に20センチほどの刃が付いているアサルトライフルを取り出し、適切な距離を保ちながら乱射する。

 

芙二「仮に()()なって彼女らのことを考えたとき、最も軽い損傷具合(ケガ)にしてあげた方がいいだろう?」

 

 素早い動きで銃弾を避けるが、それでも悲鳴や断末魔は絶えず聞こえる。なので正面きって戦う事を決めた芙二は行動した。数秒間で何発と発射される5.56ミリ弾をある程度、受けながらの突撃。無痛というわけではない。再生力が化け物じみている所為もあって行えるワザだ。

 

アイリ「そんなに死にたいのなら、さっさと殺してあげるよ!」

 

 遮蔽物に身を潜めながらの銃撃戦は終わりにし、芙二へ向けて死体ごと瓦礫を蹴とばして距離を詰めようと画策する。銃弾を切らしたわけでもない、相手がほぼ無限に再生する気がしてならなかった故の手段だ。

 

芙二「っっらァ!!

 

アイリ「それェっっ!!」 

 

 二人の得物が衝突し合い、その余波で施設が半壊する。倒れた者の大半がついに屍へとなった。そこには冷葉や他の捕虜も巻き込まれる。余波だけではなく瓦礫に圧し潰され、脆弱な肉体は音をたてながら肉塊へとなっていく。

 

 互いの得物が音をたててぶつかり、肉薄するような場面でも会話を絶やすことは出来なかった。

 

アイリ「ふふふ。お優しいね、芙二さん。でも私相手は違うように見えるけど?」

 

芙二「それはそうだ。あんたとカインは例外中の例外だからな。手加減なんてできるわけがないだろう」

 

 いちど弾いたとしても互いに得物を幾度もぶつけあい、ついに研究施設は完全に倒壊し、原形を留めないほどに開けた土地へ変わっていく。

 

カイン「そろそろ、我も混ぜろ。二人だけの会話にするな」

 

 二人のやり取りを見ていたカインの参戦。互いに肉薄する芙二とアイリを裂くように現れ、両者を睨みつける。アイリは悪かった、と言いながらカインに譲るように少し下がった。

 

 目ではアイリを追う事は出来たが、物理的に追う事は出来なかった芙二がカインを一目見て溜息を吐いた。

 

芙二「カイン、あんたはまだ貫かれ足りなかったか?」

 

カイン「フン。不意をついたのにずいぶん偉そうだな。いいのか?おまえの親友も仲間も皆、死んだぞ」

 

芙二「構わないさ。冷葉も艦娘の皆は元々戦争をしていた。今回は例外だとしても戦地に足を踏み入れ死んだとしてもそれはそれ。普通のことだ」

 

カイン「そうか、随分考えが変わったように見えるな。こちら側の思考に近くなったのか。まぁそれも――どうでもいいがな」

 

 カインの腕には赤と黒のガントレットを装着し、芙二の元へ跳び出した。殴り合うたびにカインが装着しているガントレットに緑色の紋様が刻まれていく。その数が増えるたびにカインの攻撃速度が上昇し、芙二も内心、冷や汗を掻き始める。

 

カイン「フッ! ハァッ! どうした? 偉そうな態度とは違ってさっきから防御しかしていないようだがっ!」

 

 金属同士の強い衝撃が生じ、耳を塞ぎたくなるような音だけが響く。崩れたコンクリートの床も掘り返され、瓦礫の重なる場所へと変貌していた。互いが放つ本気の一撃はそれだけで大きな旋風が巻き起こり、巻き上げる。

 

 風の中には砂や金属片、ガラス片が混じり非常に危険な状態へとなっていたがその場にいる三人には何も関係はない。既にこの場にいる命は三つだけ。

 

芙二「別にあんたの相手は(オレ)ではない、というだけだ。今から相応しい相手を呼び出してやる」

 

カイン「なにを馬鹿げたことをっ!冥獄の神たる我に相応しい相手だと?そのような寝言など寝てから言え!!」

 

 先ほどよりも早い一撃を繰り出す。待っていましたとばかりに虚空から白い宝玉を取り出し、繰り出されたパンチにぶつける。その瞬間、衝撃を加えられたガラスが砕けるように白い宝玉は形なく粉々に散る。

 

カイン「は?そんなもので相殺したのか?」

 

 自らが繰り出す渾身の一撃を防いだ策に驚き、固まる。しかし粉々に砕け散って消えていくそれを鼻で笑い、再び芙二の元へ駆け寄ろうと駆け出す。

 

カイン「だが策は尽きたように見える。砕けたのなら、もう一度攻撃すればいいだけのこと!」

 

芙二「あんたの相手はおまえに任せるぞ。――()()()

 

 物凄い早さで近づく冥獄龍カイン・アッドレアを見据えて呟いた。砕け散った破片が瞬く間に終結していき、眩い光を放ちながら一つの形へと変わり始める。

 

『ぐうっ……閃光弾(フラッシュ)か。こざかしい真似をぉおお!』

 

 芙二の前に作り出されていく眩い光の前で顔を覆い急停止する冥獄龍カイン・アッドレア。しかし次の瞬間、下顎に強い衝撃を与えられて仰け反って跳んだ。

 

カイン「……貴様に感謝はしないぞ、フジ。よくもまぁ我の身体の隅々まで触りおって痴れ者めが」

 

 灰色髪、褐色肌、子供のような大きい黄金の瞳。赤いフードからは鋭く黒い角が二本見え隠れしており、少女のような体つきであるが後ろから崩れた床につくほど長い黒い尻尾もあった。

 

 かつて芙二と戦い敗れた異世界の住人であり、この世界で神として成った者。芙二と冥獄龍(カイン)の前に立つは天獄龍カイン・アッドレアであった。

 

『死にぞこない、古い記憶の我か……!』

 

カイン「我に古いも新しいもない。我は我だ。これから行われるのは最も簡単なことだ。我と貴様が戦い勝った者が一つになる。ここは我らにとって異世界だ。故に負荷なく戦いたいが、貴様も同じか?」

 

 その言葉に頷く。冥獄龍(カイン)はずっと感じていた違和感の正体を知れて、少しだけ納得しているように見えた。

 

カイン「ならばいい。フジもよいな?我らの戦いを邪魔してはならぬ、助力することなど期待するな。ふむ、時間が惜しい。≪天異無法(テンイムホウ)≫ それでは死合おうか、もう一人の我よ」

 

 その瞬間、天獄龍(カイン)の背に鳥のような大きな白い翼が生え、曇り空へもうひとりの自分を(いざな)う。芙二を一瞥することなく、その後を追うように空へ消えていく。

 

芙二「これで本気で戦えるな、アイリ。魂の欠片さえも消しておくべきだったな」

 

アイリ「いやいやそれは想定外だって。消したはずのモノから出た塵みたいな欠片であれを作り上げる腕前は称賛したいね。いやどうして人間の味方でいるかわからないよ、ほんとに」

 

 アイリが笑う。パチパチと拍手をする。芙二は帽子を脱ぎ、その辺に放り投げると霧散して消える。黒いコートも脱いで、顔を隠す時ペストマスクも外して虚空へ投げるように仕舞う。

 

アイリ「わぁお!とても早い着替えだね。さっきのペスト医師のような恰好ではなく、そっちの格好が本番って感じがひしひしと感じちゃうな」

 

 帽子にペストマスク、黒いコートという格好から一変。藍色の髪、そのこめかみの両脇に二本の大きな巻き角を生やした紺桔梗(こんききょう)色の神官の服装を纏い、眠るように目を瞑り続ける芙二がいた。

 

芙二「いち、に、さん……」

 

 ゆっくりと息を吐きだすように数を口にするたび、服の表面へ一本ずつ白い鱗模様がはいっている線が表れていく。前後左右にひとつずつ、そして両肩から両手首にかけても白い鱗模様は増えていき、(ここの)つとまで言い終えると模様は服の端、隅々まで染まる。

 

 目蓋をゆっくりと開けて≪八厄神蛇ノ主(ヤマタノオロチ)≫と呟く。その瞬間、赤い目が僅かに輝きを放つ。

 

芙二「攻撃してこないのは、吾の姿に見惚れていたと捉えてもよいか?」

 

アイリ「なに、物珍しさに吃驚していただけさ。それに変身中に攻撃するのはマナー違反じゃないの?それにその衣装すごいね、カッコいいね!でもあの巨大な怪物の姿の方がもっと好きかな」

 

芙二「あの姿では隙もでかいし、何よりも出力がイマイチだ。やはりこの姿で揮う方がしっくりするな」

 

 腕につけていた拳甲を自らのインベントリにしまい、次に緑色にくすんだ懐中時計を取り出し、なんてことのない独り言を呟くように唱える。

 

≪フェーズ:タイマー≫

 

 針がカチリと音を立て、1のところを指す。

 芙二は懐中時計が動いたのを確認して微笑む。

 

アイリ「いやなに微笑んでるの?今唱えた内容は一体……」

 

芙二「全てが順調に行き過ぎていて、とても怖いと思っている笑みだ」

 

アイリ「順調?はぁ~っ何が順調か知らないけど、その顔ムカつくからすぐに黙らせてあげるよ」

 

 芙二が鞘から刀を抜こうとしたとき、アイリは左手で親指と人差し指で輪を作り、ピュ~と指笛を吹く。瞬く間にカタカタと連続する揺れが生じ始める。それは次第に余震を経て起こり始める本震を思い起こさせるほどの揺れと音を奏でる。

 

 土砂を巻き上げる音共に砲や異なる武器を機械の身体に備える超巨大な存在感を放つ、怪物がそこには居た。頭はワニ、首から下は首長竜のように太く巨大。腕や足は太く短く樹木のような見た目。腕や足から蔓のような触手を伸ばして、嫌悪感が隠せない。

 

 水に棲む魚、地を潜る土竜のように勢いよく飛び出した所為で研究施設は完全に崩壊する。

 

アイリ「この子が遊んでくれるっていうからさ、ちょっとは楽しんで――」

 

 吠える怪物に対し背を向けた瞬間、無理矢理引き千切る音と共に怪物の巨大な青い目がアイリの目の前に落下する。

 

アイリ「へえ? これは予想外だ。本当にどこまで強くなったの?」

 

芙二「作り手が甘い所為でこいつは長生きできなかったな」

 

 顔半分を消し飛ばされた怪物は地面へめり込むように崩れる。

 芙二は倒れた怪物の元へ駆け寄ると、腹の下から西瓜ほどの蠢く塊を取り出した。

 

芙二「それがこいつの核なんだろう?蘇生は既にできないが、ちとうるさいから黙らせる」

 

 西瓜ほどの蠢く塊から奪うべきものを奪うと塊は黒ずみ、確認した芙二は投げ捨てる。大きな音を立てて転がる塊だが、徐々に霧散して消えていく。

 

芙二「ご馳走さん。見た目は最悪だが、味は悪くなかった」

 

アイリ「悪食って感じがするね、君は」

 

 魂を喰らうさまを見させられたアイリの感想はそれだけであった。それでも若干、顔を引きつらせていた。

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