とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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最終章 10話『とある少女のはなし①』

 異世界の少女ことアイリ・ブルグレス。旧名、中里(ナカザト)愛莉(アイリ)

 日本人の父とドイツ人の母を持つ、ハーフの少女であり五つ上に姉がひとり、三つ上にひとりおり、愛莉は末っ子であった。

 茶色の髪、母から譲り受けた銀の瞳。日本人とは違う顔つきだったが、ハーフの見た目でいじられることなく、また家族仲が悪いわけでもなく平凡な毎日を送っていた。

 

 だが、その平凡な生活も長くは続かない。アイリが十六歳のとき、彼女は横断中に信号無視をして交差点内に入り込んだ車により、その短い生を終える事となる。

 

 硬いアスファルトへ横たわる身体。

 ズキズキと痛む身体。手足には全く力が入らない。

 

愛莉(こんな……ところで終わってしまうの?)

 

 救急車のサイレン、誰かが騒ぐ声。

 誰かの泣く声。

 自分の心臓の音。血の流れる感触。熱を失う身体。

 

 ひとつずつ、失っていく。段々と音が遠く、視界が揺らいでくる。

 つぅ、と涙が後悔と共に零れ落ちる。

 

愛莉(もっと生きたかった、な)

 

 アイリの喉は言葉を発する力すら失い、彼女の最期の願いは誰の耳にも届かなかった。

 

 

愛莉(……? 温かい。なんだろう?)

 

 さっき冷たくなった身体に伝わる熱。暗い闇の中でアイリを温かく照らす優しい光。その正体を知りたいと思ったアイリは、ゆっくりと歩いて向かう。

 

 光に向かいながら、彼女の身体が徐々に小さく、幼くなっていく。しばらくしてから、光の真下にたどり着くころには赤子の姿となっていた。未だに彼女は自らの変化に気が付かない。

 

愛莉(あぁ、冷たかった身体が解されていくよう。早くあの光の中へ入ってしまいたい)

 

 そう考えていると、いつの間にか彼女の目の前に白い階段が出来ており、先には光の扉に続いていた。四つん這いにハイハイしながら小さな手足で一歩、また一歩と階段を上がっていく。

 

愛莉(着いた。この階段はかなり大きいみたい。巨人専用の階段だったりするのかな?)

 

 息をゆっくり整え、穏やかな思考で、扉に触れる。ガチャと音を立てるわけもなく、扉をすり抜けて、落ちていく。びゅう、びゅうと冷たい風がアイリ全体を捉える。

 

愛莉(え?な、なんで落ちてるの、わたし!!)

 

 小さな手足を必死にバタバタさせ、どうにかしようとする。そのとき、やっと気づく。自らの身体が小さくなっていることに。つい数刻まで見ていた手足は見る影もなく、瞳に映るのは全裸の赤子の手足。

 

 特に空気抵抗を感じることなく、彼女は闇の中に吸い込まれる。地面に衝突するのではないか、とそんな不安が頭の中を埋め尽くし、恐怖のあまり彼女は目を瞑る。

 

?(……? 衝撃がこない。それになんだか、温かいような?これは、毛布の感覚?)

 

 ゆっくりと両方の目蓋を持ち上げると視界には、自分を心配そうに見つめる他人の姿があった。その中で金髪、碧眼の女性と目が合う。

 

 誰?と言おうとするも口からは「ぷぁ…」という声ですらないものが発せられる。驚いて、目を丸くするも目のあった女性が誰かを呼んでいる。

 

『奥様! アイリお嬢様が目を覚まされました!』

『本当なの?! あぁ、アイリ!我が愛しの娘!良かったわ、本当に…!』

 

 毛布から抱き上げられ、頬に熱烈なキスをされる。アイリは状況が飲み込めず、されるがままである。そのとき、化粧台と思われる家具を目にして今の自分の状況を確認したいと思い行動する。

 

 相変わらず口からは「あー、うー」と言葉未満を発するがこの際、構わない。他称母の胸を小さな手で押して、下ろせというアピールをする。

 

『あら?そこの台にある鏡が気になるの? ほ~ら、アイリちゃんが映りますよ~~』

 

 と、娘を甘やかす他称母の言葉を無視して、自分の姿を見て驚く。薄い水色の髪に、大きな緑色の瞳。顔つきは生前とあまり変わらないように見える。

 

 しかし目を閉じながら(今はそうでも、成長したら変わっちゃうよね)と思っていた。

 

『奥様が、お嬢様に夢中になっている間に!旦那様を呼んできて!』

 

 アイリが今後について、考えている間にも侍女たちは大忙しで立ちまわっていた。

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