予めご了承ください。
≪
「邪魔だ! そのまま裁いてやるッ!」
『ハッハハハ! 貴様では我には勝てぬ。それをこれから証明してやろう!』
ハルバードの一撃を受け止め、余裕そうに嗤う。二人の衝突により衝撃が生じ、下で当たれば海が縦に割れ、上からの圧力であれば巨大なクレーターが出来上がる。
近づかず、離れずの攻守を繰り返す。二人が争う事により、その土地がどうなろうと知ったことではないと言うのが認識であった。
(一度上へ向かい、裁きの剣で串刺しにしてくれる)
ハルバードを下へ降り下げ、ついでに
≪
やがて黄色い光は武器を持つ彼女を包み、全身へ巡る。その間にもエネルギー弾に被弾しているが気にも留めず、ただひたすら目標の殲滅に意識を集中させていた。
『もう動けなくなったか?やはり貴様は旧いな! 諦めたのなら、そのまま動くな!』
強固なバリアの中で嘲笑う
「ちがうぞ、馬鹿が。貴様の脳天を――叩き割る為だ」
ずっと魔力を溜めていたハルバードを下から振り上げ、バリアにひびを入れる。呆気なく弾かれた刃は上向きに逸れる。
大小関係なく大量の霊魂を用いて作り上げた五層からなるバリアは並大抵の一撃は壊れないと自負していた。それにひびが入ったのだが、もっとも柔らかい外側に入っただけのこと。
ずっとチャージしていたエネルギーを放った。至近距離から当たれば致命傷になり得ることは火を見るよりも明らかであった。
防御、回避など出来ない彼女はどんな顔をするのかと楽しみであった。しかし逸れた身体は、
「≪リサナウト≫」
短く吐き捨てるように言った。一瞬何を言ったのか理解できなかったが、急に全身に悪寒が伝わる。あの斬撃を受けてはいけないと冥獄龍としての本能が強く警鐘を鳴らす。間合いを一瞬で抜け切るなど出来ないと理解した彼女は舌打ちをし、死の一撃を放つ。
一直線に放出されるビームが
だが、ハルバードの刃は振り下ろされた。レーザーと全五層のうち四層までのバリアを全て斬り砕いて。刃とバリアの面が衝突するたびに火花が散り、周囲が燃え上がる。少しでも海に落下しようものなら、海水を蒸発させながら。
「もう一押しか?」
腐蝕に侵され、服や皮膚が焼け爛れた
『調子に乗るではない。貴様は――我なのだからな!』
何か来ると確信した天獄龍は再び空へ舞い戻る。空中へハルバードを放り投げると光の粒となって消えていく。芙二から受けた
それはもしも、の為のチカラ。芙二がアイリに敗れたときの保険であったが、今もう一人の自分への証明として解禁させる。
『黒き腐蝕の蔓よ、我の前に存在するすべてを侵さんことを!』
霊魂の負の部分を魔力へ変換し、一瞬にして練り上げ触手へ転じ拘束せんと操る。黒い吸盤のついた触手は
そんな光景を見て舌打ちをする。策を練る前に、
「天国……いや
『それがどうした?人間であるときの話であろう?神となった今、他の神の言葉など不要ではないか。宗教とは、他者を支配するためにある。弱きを導き、我が夢の中へ永住させる為だ』
「我が一族が信仰する神はずっと近くにいた。シャングリラなどと遠き地ではなかった。あの姿もこの姿もひとつの結末なのだと、今になって知り得た。人々の信仰心から創造された架空の神であったが本当に今、初めて我は
眩いほどの光量が放たれ、後に衛星による写真でもこのあたり一帯が数秒間輝いていたことを記録として残された。
「勇気、信頼という言葉が我の魂には刻み込まれている。それは今や敵となっている彼女へ教わった言葉であり、自らを成長させる為の糧でもある」
灰色髪に金色のメッシュが入り、肩まで伸びた髪。幼さ残る大人の顔つき、金の瞳。背丈は170センチほどまで伸びていき、背からは六枚の白き翼が現れる。
白と金を基調とした
「そしてこの姿こそが、我の目指した真なる姿。≪
からからと笑うカイン。呑気に話している間にもエネルギー弾を飛ばしてみるも、馴染むように消滅し触手に至っては吸収されてしまう。屈辱を味わいわなわなと震える
「では、終わりにしよう。
カインが喋りながらも策を講じ
槍や剣の嵐を作り上げても、カインには一切のダメージは通らず詠唱を遮断させることは叶わない。それどころか、吸収された武器が自らの命を狙う道具として追ってくる始末。
いつの間にか冷たい風が生じており、雪のような物質が降り注いでいた。局地的に降る豪雨とは違い、冷たい風が吹き付け、雪が降る情景は朧げな記憶の中で大事にしていたもの。
『お、とうさま。おかあ、さま』
目からは涙が溢れ、自然と手を伸ばす。急に胸が苦しくなり、嗚咽は止まらなくなる。戦っている。策を講じねばならないのに、身体が思うように動かない。
「≪
ゆっくりと終わりを宣言する。その瞬間、空中、海上へ舞う雪のようなものは全て大爆発を起こし
肉体が消失し、残されたのは黒色の球体。ピンポン玉ほどの大きさしかないそれを手に取り、身体の中央にあて吸収する。
「……終わったな。さて、芙二の方はどうなっているか」
安息を得たのも束の間、背後から危機を察知したカインは翼で防いだ。翼に遮られて姿は見えないが、ふと香る匂いで誰だか理解してしまった。
「あれれ~?なんでそっちのカインちゃんが残っているのさ?それにその姿はなぁに?」
無邪気な子供のように笑うのはアイリ・ブルグレス。芙二と戦っていたはずの彼女がそこにいるということはあの痴れ者が敗けたということ。
「アイリ、気は――」
防御に使った翼をどかし、姿を見つめる。目の前にいるのは自分の知らない一面を見せつける憧れのひと。記憶通りだったならば、彼女の姿は腰まで長く薄い水色の髪、切れ長で緑色の目を持つ人間族の少女だった筈だ。実際に冥獄龍に肉体を乗っ取られるまではそうであったはずなのに。
腰まで長かった髪は短く、薄い水色の髪は茶色に変わり、切れ長で緑色の目は黄色に。白いワイシャツに、黒いネクタイをつけ、黒色のショートパンツ姿となっていた。
あ、と声を出して忘れ物に気が付くひとのように何もない所から、首元に白いファーがついた赤紫色のコートを取り出して肩にかけた。
「まぁいいか。それじゃ、それ貰うね?」
「なにを言って……ぐぁあ!?」
アイリがカインへ手を差し出し、何かを得ると宣言した。カインは理解出来ずにキョトンとするが、腹部に強烈な痛みを感じた。痛む箇所へ視線をやると先ほど吸収した半魂が無理矢理、体外へ引きづり出されてきていた。あまりの痛みに声を出すことが出来ずにいると「消えたと思ったらそこにいたのかよ」と知っている声がひとつ増えたと同時にアイリの腕が飛ぶ。
「おっとっと……危ないねえ、芙二君。乙女の密会は男子禁制なんだよ?知らなかった?」
「密会なわけねえだろうが。どうみても命を奪おうとしていただろう」
アイリとカインの間に芙二が振り下ろした薙刀が亀裂を作り出し、その隙にカインを自分の後ろへ移動させる。腕を切り落とされ、バランスを崩して海面に尻もちをついたアイリは不服そうな表情をした。
「二人がかりで私を止めてみる?今の私はこの場の誰よりも強い自信があるよ?」
カインは芙二の姿に驚く。ペストマスクをつけた姿しか見ていない為か今の姿は驚きのあまり声を出してしまいそうになった。
藍色の髪、そのこめかみの両脇に二本の大きな巻き角を生やした
服の表面、前後左右にひとつずつ、白い鱗模様が徐々に隅から黒ずんでいた。そして両肩から両手首にかけてもある白い鱗模様はまだ黒ずんではいないようだった。
「言ってろ。
アイリの言葉を鼻で笑うと上着のポケットから、銀色縁の眼鏡を取り出してかけたのだった。