とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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※カイン(天獄龍)vsカイン(冥獄龍)戦は「」の前に名前を振らずにいきます。
予めご了承ください。


最終章 13話『天の灰燼』

 ≪万命預かるは死の揺篭(ティシアード・ハデス)≫を使用した冥獄龍(カイン)の攻撃は加速する。彼女は片っ端から霊魂を喰らい、自らの糧にしてほぼ無限のエネルギーを得ている。技量では天獄龍(カイン)の方が上だが傷を受けても即座に回復し、腕や足が千切れたとしても骨と同時に筋が修復される。

 

「邪魔だ! そのまま裁いてやるッ!」

 

『ハッハハハ! 貴様では我には勝てぬ。それをこれから証明してやろう!』

 

 ハルバードの一撃を受け止め、余裕そうに嗤う。二人の衝突により衝撃が生じ、下で当たれば海が縦に割れ、上からの圧力であれば巨大なクレーターが出来上がる。

 

 近づかず、離れずの攻守を繰り返す。二人が争う事により、その土地がどうなろうと知ったことではないと言うのが認識であった。

 

(一度上へ向かい、裁きの剣で串刺しにしてくれる)

 

 ハルバードを下へ降り下げ、ついでに冥獄龍(カイン)の顔を踏みつけて、勢いよく上昇する。顔を踏まれた事に腹を立てた彼女はガントレットにエネルギーを凝縮し、弾のように何度も放つ。上昇した天獄龍(カイン)は黒い炎のように揺らめくエネルギー弾を一刀両断する。

 

 ≪天獄の審剣(ジャッジ・クロウ)≫を放つ体勢に入るも、目下にいる彼女がバリアを展開したことを見逃さなかった。魔力を別のことに練り直しハルバードの柄を持つ手に僅かに注ぐ。

 

 やがて黄色い光は武器を持つ彼女を包み、全身へ巡る。その間にもエネルギー弾に被弾しているが気にも留めず、ただひたすら目標の殲滅に意識を集中させていた。

 

『もう動けなくなったか?やはり貴様は旧いな! 諦めたのなら、そのまま動くな!』

 

 強固なバリアの中で嘲笑う冥獄龍(カイン)は次の口上を考えるが、相手にその隙を狙われて一瞬で距離を詰める。

 

「ちがうぞ、馬鹿が。貴様の脳天を――叩き割る為だ」

 

 ずっと魔力を溜めていたハルバードを下から振り上げ、バリアにひびを入れる。呆気なく弾かれた刃は上向きに逸れる。冥獄龍(カイン)は僅かに冷や汗を掻いたが、だがそれだけだった。

 

 大小関係なく大量の霊魂を用いて作り上げた五層からなるバリアは並大抵の一撃は壊れないと自負していた。それにひびが入ったのだが、もっとも柔らかい外側に入っただけのこと。

 

 ずっとチャージしていたエネルギーを放った。至近距離から当たれば致命傷になり得ることは火を見るよりも明らかであった。

 

 防御、回避など出来ない彼女はどんな顔をするのかと楽しみであった。しかし逸れた身体は、天獄龍(カイン)は再び強く柄を握りしめ、ハルバードを振り下ろす。

 

「≪リサナウト≫」

 

 短く吐き捨てるように言った。一瞬何を言ったのか理解できなかったが、急に全身に悪寒が伝わる。あの斬撃を受けてはいけないと冥獄龍としての本能が強く警鐘を鳴らす。間合いを一瞬で抜け切るなど出来ないと理解した彼女は舌打ちをし、死の一撃を放つ。

 

 一直線に放出されるビームが天獄龍(カイン)ごと消滅へ導く。

 

 だが、ハルバードの刃は振り下ろされた。レーザーと全五層のうち四層までのバリアを全て斬り砕いて。刃とバリアの面が衝突するたびに火花が散り、周囲が燃え上がる。少しでも海に落下しようものなら、海水を蒸発させながら。

 

「もう一押しか?」

 

 腐蝕に侵され、服や皮膚が焼け爛れた天獄龍(カイン)は更に魔力を注ぎ、ハルバードを少しずつ押し当てバリアを熔解させていく。徐々にひびが生じていくバリアを前に冥獄龍(カイン)はわざと海中へ逃げ込み霊魂を得ようと必死にもがく。しかし有機物も無機物も蒸発し、消滅していくなかで為す術がない。

 

『調子に乗るではない。貴様は――我なのだからな!』

 

 何か来ると確信した天獄龍は再び空へ舞い戻る。空中へハルバードを放り投げると光の粒となって消えていく。芙二から受けた魔改造(テゴコロ)を自らへ置き換え始める。

 

 それはもしも、の為のチカラ。芙二がアイリに敗れたときの保険であったが、今もう一人の自分への証明として解禁させる。

 

『黒き腐蝕の蔓よ、我の前に存在するすべてを侵さんことを!』

 

 霊魂の負の部分を魔力へ変換し、一瞬にして練り上げ触手へ転じ拘束せんと操る。黒い吸盤のついた触手は天獄龍(カイン)の莫大な光量の前では塵と化すばかり。

 そんな光景を見て舌打ちをする。策を練る前に、天獄龍(テンゴクリュウ)の独白が始まった。

 

「天国……いや天獄(シャングリラ)はずっと遠い所にあると思っていた。我は一族の中で神の声が聞こえぬ、加護も得ぬゆえに忌神子(いみご)として扱われていた」

 

『それがどうした?人間であるときの話であろう?神となった今、他の神の言葉など不要ではないか。宗教とは、他者を支配するためにある。弱きを導き、我が夢の中へ永住させる為だ』

 

「我が一族が信仰する神はずっと近くにいた。シャングリラなどと遠き地ではなかった。あの姿もこの姿もひとつの結末なのだと、今になって知り得た。人々の信仰心から創造された架空の神であったが本当に今、初めて我は(かみ)へ至った」

 

 眩いほどの光量が放たれ、後に衛星による写真でもこのあたり一帯が数秒間輝いていたことを記録として残された。

 

「勇気、信頼という言葉が我の魂には刻み込まれている。それは今や敵となっている彼女へ教わった言葉であり、自らを成長させる為の糧でもある」

 

 灰色髪に金色のメッシュが入り、肩まで伸びた髪。幼さ残る大人の顔つき、金の瞳。背丈は170センチほどまで伸びていき、背からは六枚の白き翼が現れる。

 

 白と金を基調とした戦女神の鎧(ヴァルキュリア・メイル)に身を包む。あまり強調させないシンプルかつ美しいデザインが露わになる。

 

「そしてこの姿こそが、我の目指した真なる姿。≪慈天ノ龍神(スカイドラゴニア)≫とでも名付けようか。新しく生まれ変わった気分だ、我が親友にもあの痴れ者にも姿を見せたい程だ」

 

 からからと笑うカイン。呑気に話している間にもエネルギー弾を飛ばしてみるも、馴染むように消滅し触手に至っては吸収されてしまう。屈辱を味わいわなわなと震える冥獄龍(カイン)バリア()を破り捨て、神に至ったと宣うカインの息の根を止めようと尽力する。

 

「では、終わりにしよう。冥獄龍(メイゴクリュウ)カイン・アッドレアよ。本来なら相見えることない貴様に感謝と冥福を祈ろう」

 

 カインが喋りながらも策を講じ冥獄龍(カイン)はありとあらゆる攻撃を試す。怨恨の塊を武器として扱い、爆弾のようにしても全くの無効と知ると髪を掻きむしって悲鳴をあげる。

 

 槍や剣の嵐を作り上げても、カインには一切のダメージは通らず詠唱を遮断させることは叶わない。それどころか、吸収された武器が自らの命を狙う道具として追ってくる始末。

 

 いつの間にか冷たい風が生じており、雪のような物質が降り注いでいた。局地的に降る豪雨とは違い、冷たい風が吹き付け、雪が降る情景は朧げな記憶の中で大事にしていたもの。

 

『お、とうさま。おかあ、さま』

 

 目からは涙が溢れ、自然と手を伸ばす。急に胸が苦しくなり、嗚咽は止まらなくなる。戦っている。策を講じねばならないのに、身体が思うように動かない。

 

「≪天の灰燼(エンジェルダスト)≫」

 

 ゆっくりと終わりを宣言する。その瞬間、空中、海上へ舞う雪のようなものは全て大爆発を起こし冥獄龍(カイン)ごと一度に多くの命を塵に変えた。

 

 肉体が消失し、残されたのは黒色の球体。ピンポン玉ほどの大きさしかないそれを手に取り、身体の中央にあて吸収する。

 

「……終わったな。さて、芙二の方はどうなっているか」

 

 安息を得たのも束の間、背後から危機を察知したカインは翼で防いだ。翼に遮られて姿は見えないが、ふと香る匂いで誰だか理解してしまった。

 

「あれれ~?なんでそっちのカインちゃんが残っているのさ?それにその姿はなぁに?」

 

 無邪気な子供のように笑うのはアイリ・ブルグレス。芙二と戦っていたはずの彼女がそこにいるということはあの痴れ者が敗けたということ。

 

「アイリ、気は――」

 

 防御に使った翼をどかし、姿を見つめる。目の前にいるのは自分の知らない一面を見せつける憧れのひと。記憶通りだったならば、彼女の姿は腰まで長く薄い水色の髪、切れ長で緑色の目を持つ人間族の少女だった筈だ。実際に冥獄龍に肉体を乗っ取られるまではそうであったはずなのに。

 

 腰まで長かった髪は短く、薄い水色の髪は茶色に変わり、切れ長で緑色の目は黄色に。白いワイシャツに、黒いネクタイをつけ、黒色のショートパンツ姿となっていた。

 あ、と声を出して忘れ物に気が付くひとのように何もない所から、首元に白いファーがついた赤紫色のコートを取り出して肩にかけた。

 

「まぁいいか。それじゃ、それ貰うね?」

 

「なにを言って……ぐぁあ!?」

 

 アイリがカインへ手を差し出し、何かを得ると宣言した。カインは理解出来ずにキョトンとするが、腹部に強烈な痛みを感じた。痛む箇所へ視線をやると先ほど吸収した半魂が無理矢理、体外へ引きづり出されてきていた。あまりの痛みに声を出すことが出来ずにいると「消えたと思ったらそこにいたのかよ」と知っている声がひとつ増えたと同時にアイリの腕が飛ぶ。

 

「おっとっと……危ないねえ、芙二君。乙女の密会は男子禁制なんだよ?知らなかった?」

 

「密会なわけねえだろうが。どうみても命を奪おうとしていただろう」

 

 アイリとカインの間に芙二が振り下ろした薙刀が亀裂を作り出し、その隙にカインを自分の後ろへ移動させる。腕を切り落とされ、バランスを崩して海面に尻もちをついたアイリは不服そうな表情をした。

 

「二人がかりで私を止めてみる?今の私はこの場の誰よりも強い自信があるよ?」

 

 カインは芙二の姿に驚く。ペストマスクをつけた姿しか見ていない為か今の姿は驚きのあまり声を出してしまいそうになった。

 

 藍色の髪、そのこめかみの両脇に二本の大きな巻き角を生やした紺桔梗(こんききょう)色の神官の服を纏う姿は異形に落ちてもなお信仰する敬虔な信徒を連想させた。

 

 服の表面、前後左右にひとつずつ、白い鱗模様が徐々に隅から黒ずんでいた。そして両肩から両手首にかけてもある白い鱗模様はまだ黒ずんではいないようだった。

 

「言ってろ。(オレ)の目的の為にも阻止させてもらうからな」

 

 アイリの言葉を鼻で笑うと上着のポケットから、銀色縁の眼鏡を取り出してかけたのだった。

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