とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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エピローグ①


終幕:次なる未知の調べより
終幕 1話『エピローグ:歴史上、稀有な出来事』


「さて、と。……いや蘇生する前にもうひとつ紫月に頼んでおかないとな」

 

 巨樹へ戻る前に芙二は一度立ち止まる。そして適当な場所に落ちている穴あきビニール袋を拾い、手品のように小型の無線機を取り出す。芙二は再び紫月へ通信を試みる。

 

「はい、こちら紫月。あれ、芙二君?何か言い忘れていたことでもあった?」

 

「できるだけ早くお願いしたいことがあったのを思い出した。これから大規模な蘇生活動を行う。それにあたって人員を運べる護送船を手配することは可能だろうか?」

 

「ある程度、人質が無事ってことだね。君たちが戦ったのだから、ある程度と表現させてもらうよ。了解、早くても三日とかかかるんじゃないかな?それは海軍(あっち)が決める事だから陸軍(うち)では判断ができないよ。それか、君自身が全員を転移させれば問題ないのでは?」

 

 そこで切られた言葉であったが、君なら可能だろう?という紫月の声が聞こえてきそうだ。

 

「それは出来ない。いや実際には可能だが。それに(オレ)の存在は秘匿にすべきじゃないか?あの場にいる者の大半が知っているのは事実だが、こっちから公にする理由はないよ」

 

 その言葉に「それもそうだね」と紫月の返事がくる。自分が人外で、人智を越えた力を持っています。そして長らく続いた戦争も止められます、なんて言う人物が現れたら面倒事に巻き込まれるのは自明である。

 

「それじゃ事件の収束と人質解放の件は報告しておくよ。あとの事はまた泊地で話そう。またね」

 

 ブツリとノイズ音が生じると共に通信が終了した。芙二は破れかけのビニール袋の中へ小型の無線機を仕舞うと袋ごとグシャっと潰す。しわくちゃになったビニール袋が地に落ちると共に塵となって消える。

 

 施設の中央に位置する巨樹こと≪万牲豊穣の果実(ヨモツヘグイ)≫。果実は未だに多くが実あり、現世への帰還を願う霊体たちで賑わっていた。

 

 そこへ紺桔梗色の古風な神官服の姿の芙二が現れると、全員の視線が集中する。皆が食べるのを、会話を止めてただじっと見つめていた。何か言葉を待っている様子さえ見える。

 

「こほん……これから行うのは現世への帰還だ。故に秘術を用いるが、決して口外することはないように願う。この果実は生者には猛毒に等しい。口にする事が出来るのも今のうちだ。最後に味わいたいと願うものは食べておけ。そして帰還を願う者は順に(オレ)の元へ来い」

 

 そういうとその場に座り、そこら辺に散乱しているガラス片を用いて地面を削る様に幾層にも(わか)たれた陣を描く。丸い陣と陣の間に術式を書き込み、中心に必要な抽出した結晶を置いていく。

 

 描ききり、ガラス片を両手で圧縮させて不純物の混じったビー玉へ変える。

 

(まぁこんなもんだろ……いやまずったなー。ひとりひとりじゃなくて、樹を中心にして特大魔法陣を生成すればよかったかもしれない)

 

 そして今だから言えることだが芙二に蘇生の魔法は使えない。厳密に言うとそれっぽいことは可能であった。干渉する能力を用いて、死者の魂に干渉し肉体を再構成する。それだけである。

 

 魔術とか魔法の類いではなく正確に言うと術のような何か。干渉する能力の大半は次への糧として昇華している為に以前のようには扱えない。こちらへ到着する前に、幾度も試行錯誤して蘇生というか回復に特化した一面を創り出す事には成功したのであった。

 

 そして早速、一人目が向かってきた。それは親友であり、現提督である冷葉であった。魔法陣の中に立つ彼は今にも消えてしまいそうな程に魂の存在がない。

 

「まさか、蘇生第一号がアンタとはな。準備はいいか、冷葉。やるぞ」

 

「ああ 頼むよ」

 

 陣の前にしゃがみ、起動する。

 

「――完全再現(オールリザレクション)

 

 その一言だけでいい。他の詠唱は何も要らない。芙二本人が失う痛みなどちっぽけなもの。苦痛にすらならない。指のささくれを千切った程度の痛み。

 

 幾層にも描かれた魔法陣が徐々に囲うような大きめの陣は時計回りに回転し、小さな陣は反時計回りに回転する。やがて橙色の光を発しながら上昇してはその人の形を生成していく。

 

 生成された肉体は橙色の膜に包まれて、その姿を現す。しかし時間が経つにつれ膜に穴が出来始め、消えてなくなる。

 

 解き放たれた肉体は力なく地面に崩れるように倒れるもすぐに目を覚まし「生き返ったか?」と呟く。それは儀式開始から一分にも満たない時間でひと一人分の蘇生が完了したことをあらわす。

 

「……む」

 

 すぐに上体を起こす冷葉は自身の身体をペタペタと触っていき、生き返ったことで何かデメリットは生じていないか調べていたようでもあった。

 手のひらを開閉しては、立ち上がって軽めのストレッチを行う。

 

「ンンッ……あー、アー……よし、喉の調子はよさそうだな。いやちょっと痛いか?」

 

 自身の喉を触り、声を出して調子の確認を行っている時に芙二が近づいて親友の顔を覗き込む。 

 

「改めておかえりと言おうか、冷葉。どうだい、人生初めての体験は?」

 

「びっくりだよ。艦娘の深海化を元に戻す術もそうだが、まさか不可逆事象(そんなこと)まで可能にするなんてな?見ろよ、この身体!死ぬ前よりも強くなった気がするんだわ!」

 

 笑いながら、上着のボタンを外して胸元をさらけ出す。そこには仮初の心臓が半分剥き出しになっており、黒々とした鼓動を放っていた。ドクンドクンと脈動する心臓を見て、本人は強そうだと言うが芙二の顔は曇る。

 

「あー冷葉? それを自慢するのはいいが、強そうなんて言葉はあれだ。アンタには強すぎる。まさかこうなっていたなんてな……よし、少しそこにいておけ。カインッ!こっちへ来てくれ!」

 

 怒号に近い声を間近で聞いた冷葉の肩は大きく跳ね、腰を抜かしたのか座り込む。そこへ呼ばれたカインが近づいてくるなり冷葉の胸元を見て目を丸くさせる。

 

「ぅわあっ!ななななにそれ、芙二さん?!彼はいったい何に侵されているのですか…」

 

「冷葉はアイリが企てた計画により、心臓を蝕まれて命を落とした。そして急遽延命の為に使用したのが悪竜の心臓(デモンコア)という名ばかりの擬似器官のはずだったんだが」

 

 まいったなと頬を掻く。冷葉の胸に埋め込まれている名ばかりの擬似器官はいつの間にか、生命を燃やす炉と化している。寿命の短い人間が持つには分不相応の力というものであり、気が付けば生命力が枯渇し、早死にしてしまうというもの。埋め込んだ芙二以外に解決できる人物はいない。

 

 今すぐには死なないが、今後何かあって駆けつけれなかった時の不安をここで拭っておきたい。それが芙二の出した結論であった。

 

「このままだと冷葉が死ぬ。蘇生したとは言え、一年内には死ぬな。どーっすっかなぁ。あれだ、いまから緊急のオペを開始するよ、カイン。あいつを魅了して、拘束することはできる?」

 

 突然の言葉にカインは考えていると見かねた芙二が「できなかったら、吾が一時的に自由を奪うけども」と言った。本人の知らぬところでどんどん話が進むので突っ込まずにはいられなくなる。

 

「おいおい、患者の意見を無視して進める手術なんてあっていいわけないだろう?それで俺の状態はかなり悪いのか?」

 

「悪いな。今すぐには死なないが、一年以内に死ぬことがほぼ確定している。まさか延命の目的で使用した名ばかりの擬似器官がそうなるとは流石の(オレ)でも予想できなんだ」

 

「えっと……?この心臓に何か問題があるのか?確かに見たことない感じではあるけれど」

 

「言ってしまえば、だ。その心臓はいま生命力を糧として燃やす炉と化している。生み出されたエネルギーにより超人的な活動を望めるだろうが、それは本来の形ではない」

 

 しゃがみ込む、冷葉の胸元を指差す。

 本人が驚いたのか、ドクンと大きく鼓動し身体が揺れる。

 

「超人的な活動?おまえのように深海棲艦を倒せるか?」

「無理だな、倒せない。精々、艦娘と同じように水の上に立ち移動が出来る程度だ」

 

「いやそれでも十分すぎると思うんだが。元々はただのって言い方が変かもしれないが、心臓として機能するように芙二がやったんだろ?それがどうして、危険なものになったんだ?」

 

「それは(オレ)が神として成ったからだ。一度死ぬ寸前に魂のひとつの形……神と至った。結果、どうしてか吾が創り出したモノが勝手に強化されたと言ったところだな」

 

 冷葉も先ほどのカインと同じ表情をして、普段とは異なる格好をした芙二を見つめる。そして左手を下向きにかざすとゆっくりと白金色の鞘が出てきて、落ちることなくそのまま浮遊する。

 

「よっと、これを見せた方が早いか。この刀は≪天断(アマタチ)叢雲(ムラクモ)≫というもので生前というか、至る前に作り出したうちの一品だ」

 

 鞘から抜かれ、姿見せるは琥珀色の刀。右手で握り、適当に揮う素振りを見せながら話を続ける。いつの間にか、二人の周囲には蘇生待ちの霊体たちが集まっており、芙二が握る得物に興味津々といった様子であった。

 

「これを用いて斬ったところは空間はおろか次元ごと斬られる。人体に用いれば、死は免れない。そして最も恐ろしいことがひとつ。それは生命(いのち)の輪廻も断つという特性をもつのだ」

 

 生命の輪廻も絶つ、という特性。この言葉は意味を理解した霊体の核に響いた。死んでいるはずなのに鳥肌が立つような恐怖を感じ、芙二とカイン、冷葉の傍から離れる。結界内の隅っこに固まる様子は、樹の皮の間で越冬する虫のようだとカインは思っていた。

 

「それは……やばいな?全部が全部、そんな風に魔改造されているのか?」

 

「全部というわけではないが、そうだな。そのうちのひとつが、そこだ。まぁ術後は少々眠るだけだ。再び目が覚める頃には艦娘(みんな)がおまえの顔を覗き込んでいるだろうな」

 

「もしかしてもう開始するのか?」

 

「いやもう抜き取ったよ、ほら」

 

 そういう芙二の手にはドクドクと脈動する悪竜の心臓(デモンコア)が握られていた。黒い体液を垂れ流す中でボトボトと粘性の高い液体が地面に付着する。反対に冷葉の胸元には穴が開いており、血液と黒い体液が合わさり、とても酷い状態であることは誰の目でも判断できた。

 

「うおおおっ!! おれの、俺の心臓がなくなってるじゃんか!!もしかしてこのまま死ぬ?死ぬのか、俺ぇえええ!!」

 

「阿呆、落ち着け。死なん、死なんよ」

 

 そう言いながら、芙二は握っていた悪竜の心臓(デモンコア)を空中へ置くと生命を燃やす炉としての機能を無効にする。泉のように粘性の高い黒い液体を垂れ流しにしていた物体がぴたりと活動を止めた。

 

「これで大丈夫。ただの心臓のようなものにはなったな。これなら普通に内臓として扱えるだろうな。冷葉、そのまま動くなよ」

 

 空中に置かれた物体は赤く新鮮な心臓のようであり、少しずつ脈動を開始した。そして機械のように嵌め込む為に、対象へ停止を要求する。がしかし冷葉は驚きと恐怖のあまり指一本すら動かせないようだった。

 

 その状況を見て芙二は「そんな必要なかったわ」とごちる。それどころか、安定性を図るためにひと案思いついたのか、冷葉の肩を手を置き肉体への干渉を試みる。

 

「うわ、わ……からだの感覚がなくなっていくんだが!芙二、おまえ俺の身体にいったい何をしたってんだ!」

 

「ん、大したことじゃない、アンタの想像力が必要になっただけさ。そうだ、ベッドを思い浮かべてくれるかい?大きさとか形は特に問題ないよ」

 

「なんでまた」

 

 疑問符を浮かべる冷葉に対し、芙二はいいからと押していく。身体の自由を奪われた冷葉は唸りながら、思い浮かべる。しばらくすると冷葉の頭部からもやもやとした霧状の何かが出てくる。

 

 霧状のモノはゆっくりと地面へ落下すると積み重なり、やがてひとつの形となる。

 縦2m(メートル)弱、幅100cm(センチ)の白いベッドとなり、音をたてながら設置される。

 

「ふむ、上出来だな。冷葉、今からそこに寝かせるからな」

 

「う、ううん……うぇっ?白いベッドがあるな、想像したとおりだ。すげえなおまえの力は。こんなことも出来るようになったのかよ」

 

 思わず得意げに鼻を鳴らし、冷葉を慎重に持ち上げて、そっとベッドへ下ろして準備を始める。と言っても冷葉の胸に心臓を嵌め込む準備ではなく、待たせている霊体たちへの配慮であった。

 

 声や言葉はあまり聞こえないが、それでも冷葉の要件そっちのけで急かすような圧や視線が背にびっしりと突き刺さっていた。

 

「カイン、冷葉の胸に心臓を嵌め込んでおいてくれるかい? え?いや?そっかぁ……まぁ他人の生殺与奪の権利を握っているからね。なら霊体たちを纏めてくれない?仮に重なっても質量ゼロ同士なんだから別に気にすることはないよ」

 

 カインに指示を出すと、彼女は部屋の隅にまとまって縮こまる霊体たちへのアプローチを開始する。剥き出しになっている魂に対して、一時的な洗脳を施して崇拝する信者のように集める。

 

「冷葉、もう少し待ってくれないか?あの量の魂を蘇生させるとなると遅くても10分かかってしまうからね」

 

「時間はいくらでもある。だからいつでも待つよ。艦娘と人間合わせて100人以上いるだろうに、それを10分以下ってもうなんでもありだな?」

 

 その言葉を聞いて、相槌を打つように「それが(オレ)の願いだからな」「最期の最後まで見届けさせろよな?」と言葉を並べる。

 

 芙二は簡単に魔法陣の調整を行うと巨樹の元へ向かい、タイマーの針を動かして終わりを告げる。またカインが集めた仮の信者たちから負の感情を根こそぎ奪う。

 真っ黒な魂が白く透き通った色合いへ変化したのを見て、頃合いかと感想を呟く。

 

「カイン、ひとつだけ質問だ。この状態はどれくらいまで持つ?」

 

「ん~?私がキャンセルするまで、ですよ。指を一回鳴らすか、言葉ひとつで解除可能です。私からもひとつ芙二さんに質問なのですがいいですか?……今、皆さんから取った膨大な量の負の思念をどうするつもりですか?」

 

 芙二の手のひらの上には黒い炎のように揺らめく負の思念――呪いの塊があった。カインの言葉の裏にはたとえ荒事に特化した神でもその量は支障をきたすのではないかという思いがあった。

 

 しかし芙二はなんも気にしていない、という風な態度をしてまた笑みを浮かべて説明を始める。その様子に今亡き友のアイリの面影が重なり、言葉を失う。

 

「まずはこれを圧縮させて、と。バスケットボールサイズになった怨念(おんねん)魂晶(こんしょう)を魔法陣の前で砕きます。そうするとどうなると思う?」

 

 紫色の輝きを放つ怨念魂晶がいとも簡単に粉々に砕け散る様子にカインは眉を顰める。点と点が繋がらないようなそんな表情をしていた。

 

「言ったろ?(オレ)は負の感情を抽出することが出来るんだって。それにそこまで時間のかかるもんじゃない。今、砕け散ったのはエネルギーを閉じ込める殻。吾以外には無色透明に見えるエネルギー源を魔法陣へ注ぐとどうなるかもう分かるだろ?」

 

「最大効率での行使が可能ということか?100人をゆうに超える魂の肉体へのリソースにも割けるということだな?しかし怨念なんてものを人間の身体に使っても問題はないのか?」

 

「ない。最低限は、持っていないといけない感情だからな。人間には必要なものだ」

 

 そこまで言うと、スキルの行使に専念する。ゆっくりと深呼吸をし、息を吸って吐いてを数回繰り返す。そして冷葉を蘇生したスキルと同じものを口にする。≪完全再現(オールリザレクション)≫と。

 

 その瞬間、最初よりも盛大にスキルが起動し大小さまざまな魔法陣を描く。巨樹も枯れ、そこに吸われたリソースも全てが肉体蘇生へのものとして活用される。

 

「……凄い光景だ」

 

「本当だな……ゲームや映画の世界の話みたいだ」

 

 今まで気づかなかったが、天には時計を現すように長針、短針がそれぞれの位置を示す。魔法陣が行使され続ける間にずっと反時計回りに針を進める。ひとりひとりとこの世に蘇り始める。

 

 証拠として、死ぬ前の姿ではあるが衣服を着て次々に姿を現していく。死ぬ間際に欠損した人間や艦娘がいればその部分の服はない状態で再現される。

 

 だからどこが原因でどのように死んだのか、ということが想像できてしまう。酷い状態のやつだとそういうファッションですか?というような穴あき具合で蘇生される者すらいる。

 

 人間の蘇生はほぼ完了した。ここへ向かった多くの人間が死に、蘇生し新たな肉体を得て現世への帰還を果たせばよかったが現実はそうも甘くはない。この戦いが集結する前に、冥獄龍が行った呼びかけに応じてしまった人間、艦娘の魂は二度と蘇ることはない。

 

 艦娘の蘇生を行うにあたって分かったことが一つだけあるが、それを今ここで話すのは適切ではないと思ったので先送りにした。次々に蘇る中で魂の状態で話しかけてくる東第一泊地(うち)の艦娘にもまた後で話そうと思ったのである。

 

 しかし気づく者が大半であろう。その姿を目にすれば。

 

(今は生き残ったことを喜んでいた方がずっといい。帰ったあとにでも詳しく話すかなあ)

 

 最後のひとりの蘇生が完了したが、結界はそのまま張ったままでいる。理由は単純。面倒なのである。既に脅威などないが、中規模の結界をイチから貼り直すのは嫌だからだ。

 

 先ほどとは打って変わって賑やかなこの空間に水を差すような真似はしたくない、と言うのが本心でもあった。人間、艦娘問わず思うが同僚を悼む気持ちを忘れることなかれ。

 

「さぁてと、冷葉。長いこと待たせちまったな?」

 

「そうだな、しかし退屈はしなかった。奇跡を目の当たりにしていたからな。とっとと済ませてくれ。もう眠くなってきた」

 

 ふわぁと大きく口を開けて、あくびをする。芙二は悪いなと口にしながら、心臓を胸に嵌め込んだ。ドクン、と冷葉の身体が大きく揺れる。眠たげな目が大きく開くが、すぐに顔のパーツを中心に寄せるようにしわくちゃにし、身体を丸めて呻き声をあげる。

 

「はっはっは……いい顔するなァ?ほんっとうに飽きないよ、アンタには」

 

「ぐううぅうう……この、鬼。クソ野郎。じ、じゃ、しん……!!」

 

 大粒の汗を垂らしながら、芙二への悪口を言う。荒い息を整えるように振舞うも、最後の言葉を言い終えると力なくベッドに伏せる。

 

 冷葉の呻き声を耳にした艦娘が集まってきて、身体を揺するも起きない。心配そうに声をかけつつ、芙二へ必死に訴える様を見て笑いながら「最初にして最後の人間が戻った。そしてあいつは疲れてたんだよ。少し寝かせてようか」と提案する。

 

 それを聞いた艦娘達は互いの顔を見合わせて、静かにすべきと思ったのか冷葉の元から離れていく。ベッドに横たわる冷葉の傍には芙二とカインの二人だけが残ることとなった。

 

 あぁいけない。いけない。口から僅かな嘘が出て行く。

 

「クズですね。アイリちゃんとは別ベクトルの」

 

 口角をあげて、ふひひと笑う芙二の様子にカインは距離を取って冷たい視線を送る。

 

 その状態は本土の護送船がこの島へ到着するまで続いたのであった。




エピローグが三本立てになりそうです。
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