東第一泊地 十一時 二十二分。一階 廊下にて。
芙二はボロボロの廊下を進む。歩く度に床から軋む音を耳にして、「後で妖精さんに頼むか、自分でやらないとな……」と呟いた。
「あ! 提督さんっぽい!」
後ろから聞こえる明るい声に、反応する。振り向くとそこには夕立、敷波、秋雲、龍驤がおり、お化けでも見るような目つきをしていた。
「……久しぶりだな、みんな」
目を細め、久しぶりの挨拶をした。夕立がとてとて、と足音を立て近づいてくる。それに続いて敷波も近づき夕立を追い抜いて芙二の前まで立つ。
「提督だ、これって本物……?」
本人の許可なくぺたぺたと触る。手が届かない場所は、芙二が察してしゃがむ。
「敷波ちゃん! これは本物の提督さんっぽい!」
夕立に関しては、しゃがんだのをいいことに抱きついて顔を擦りつけてきた。彼女の言葉を聞いた敷波の目が潤む。
次第に、手で顔を覆ってすすり泣く。芙二と夕立は目を合わせると、夕立が離れ、芙二が敷波の頭を撫でる。
「怖かったろう。よく戦い抜いた。偉いぞ、敷波」
優しく労う姿に、敷波だけじゃなく見守っていた龍驤も嗚咽を漏らす。
芙二は敷波の頭や背を優しく撫でている。涙を流す敷波がふいに手を伸ばし、ハグを要求し、それに応えた。
芙二の温もりに、今度は大声を上げて泣く。敷波へ言い聞かせるように、何度も労いの言葉を囁き、戦果を称える。
「ちょっとすみません。夕立さん、秋雲さん。これは司令官が何かやらかしたんですか?」
小声で二人に現状を問うのは、食堂帰りの青葉。
芙二に抱き締められ、大泣きする敷波。敷波の感情に共鳴し、涙する龍驤。
夕立たちは目を合わせる。そして声を合わせて青葉に言う。
『あれはどう考えても提督(さん)が悪い』
その言葉を聞き、青葉は何か察したようにメモ帳を取り出す。新品になったペンを取り出し、つらつらと書き殴り始める。
「
夕立たちの方を見て、釘を刺す。細めた目を僅かに開き、眉間に皺を寄せて睨む。
「や、やだな~
ハハハ、と誤魔化したように笑う。しかし芙二は名字で呼ばれたことに些細な違和感を覚え、聞き返す。
「芙二さん? 青葉、前は
その指摘を受け、夕立と秋雲はそういえば、と言う表情をする。
青葉は申し訳なさそうに、目を逸らす。
「実は轟沈してから記憶が曖昧で……私は前に芙二さんの事をなんてお呼びしていましたか?」
不安の混じった表情で芙二を見つめる。何か大事なものを失ったような、そんな顔をしていた。
「っあ~……確か司令官だかなんだか言っていたような気がするな」
泣き疲れて眠る敷波の背を優しくさする。芙二の言葉に分かりやすく動揺する青葉に、一言付け足す。
「だが、おまえさんは芙二さん、芙二さんっつって手伝ってくれてたりもした。すまん、こっちも久々に名字を呼ばれたから更に不安を煽っちまったな」
青葉に対して、若干首を傾けて謝罪した。
「いっいえ、青葉が芙二さんを惑わせるような言動をしてしまいましたし……謝罪するのは青葉の方ですよ!」
彼女は手を前に出して、慌てた様子で言葉を伝える。
「そうか。とりあえず、だ。
よいしょ、と敷波をおぶる。彼女を起こさないように、細心の注意を払う。
何度も頷く艦娘たち。その中で芙二を見た瞬間、目を輝かせた者へ一言。
「それに秋雲も何か話したそうにしてるからな」
一歩一歩を踏み出した芙二の後ろで秋雲は顔を赤くし、恥ずかしそうに、でも大声で言う。
「提督の、あの姿の詳細な設定を教えてよね~! 絶対にネタにしてやんだから!」
廊下中に響き渡る声に、手を振り返すのだった。