とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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夢路②

 東第一泊地 十一時 二十二分。一階 廊下にて。

 

 芙二はボロボロの廊下を進む。歩く度に床から軋む音を耳にして、「後で妖精さんに頼むか、自分でやらないとな……」と呟いた。

 

「あ! 提督さんっぽい!」

 

 後ろから聞こえる明るい声に、反応する。振り向くとそこには夕立、敷波、秋雲、龍驤がおり、お化けでも見るような目つきをしていた。

 

「……久しぶりだな、みんな」

 

 目を細め、久しぶりの挨拶をした。夕立がとてとて、と足音を立て近づいてくる。それに続いて敷波も近づき夕立を追い抜いて芙二の前まで立つ。

 

「提督だ、これって本物……?」

 

 本人の許可なくぺたぺたと触る。手が届かない場所は、芙二が察してしゃがむ。

 

「敷波ちゃん! これは本物の提督さんっぽい!」

 

 夕立に関しては、しゃがんだのをいいことに抱きついて顔を擦りつけてきた。彼女の言葉を聞いた敷波の目が潤む。

 

 次第に、手で顔を覆ってすすり泣く。芙二と夕立は目を合わせると、夕立が離れ、芙二が敷波の頭を撫でる。

 

「怖かったろう。よく戦い抜いた。偉いぞ、敷波」

 

 優しく労う姿に、敷波だけじゃなく見守っていた龍驤も嗚咽を漏らす。

 芙二は敷波の頭や背を優しく撫でている。涙を流す敷波がふいに手を伸ばし、ハグを要求し、それに応えた。 

 

 芙二の温もりに、今度は大声を上げて泣く。敷波へ言い聞かせるように、何度も労いの言葉を囁き、戦果を称える。

 

 

ちょっとすみません。夕立さん、秋雲さん。これは司令官が何かやらかしたんですか?

 

 小声で二人に現状を問うのは、食堂帰りの青葉。

 芙二に抱き締められ、大泣きする敷波。敷波の感情に共鳴し、涙する龍驤。

 

 夕立たちは目を合わせる。そして声を合わせて青葉に言う。

 

『あれはどう考えても提督(さん)が悪い』

 

 その言葉を聞き、青葉は何か察したようにメモ帳を取り出す。新品になったペンを取り出し、つらつらと書き殴り始める。

 

(オレ)が悪かったのは認めるが、変な記事を書いたら許さねえぞ」

 

 夕立たちの方を見て、釘を刺す。細めた目を僅かに開き、眉間に皺を寄せて睨む。

 

「や、やだな~()()()()。私はそんな記事を書きませんよ。みんなが無事に帰ってきた内容を書くに決まってるじゃないですか」

 

 ハハハ、と誤魔化したように笑う。しかし芙二は名字で呼ばれたことに些細な違和感を覚え、聞き返す。

 

「芙二さん? 青葉、前は(オレ)に対して司令官だか提督だか言っていなかったか?」

 

 その指摘を受け、夕立と秋雲はそういえば、と言う表情をする。

 青葉は申し訳なさそうに、目を逸らす。

 

「実は轟沈してから記憶が曖昧で……私は前に芙二さんの事をなんてお呼びしていましたか?」

 

 不安の混じった表情で芙二を見つめる。何か大事なものを失ったような、そんな顔をしていた。

 

「っあ~……確か司令官だかなんだか言っていたような気がするな」

 

 泣き疲れて眠る敷波の背を優しくさする。芙二の言葉に分かりやすく動揺する青葉に、一言付け足す。

 

「だが、おまえさんは芙二さん、芙二さんっつって手伝ってくれてたりもした。すまん、こっちも久々に名字を呼ばれたから更に不安を煽っちまったな」

 

 青葉に対して、若干首を傾けて謝罪した。

 

「いっいえ、青葉が芙二さんを惑わせるような言動をしてしまいましたし……謝罪するのは青葉の方ですよ!」

 

 彼女は手を前に出して、慌てた様子で言葉を伝える。

 

「そうか。とりあえず、だ。(オレ)は敷波を艦娘の宿舎へ届けてくる。長門か誰かいるだろう。夕食の時にまた話そう」

 

 よいしょ、と敷波をおぶる。彼女を起こさないように、細心の注意を払う。

 何度も頷く艦娘たち。その中で芙二を見た瞬間、目を輝かせた者へ一言。

 

「それに秋雲も何か話したそうにしてるからな」

 

 一歩一歩を踏み出した芙二の後ろで秋雲は顔を赤くし、恥ずかしそうに、でも大声で言う。

 

「提督の、あの姿の詳細な設定を教えてよね~! 絶対にネタにしてやんだから!」

 

 廊下中に響き渡る声に、手を振り返すのだった。

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