東第一泊地 本棟内 食堂 蜊∝?譎ゆコ泌?
芙二は食堂を目指して、歩く中で色々な艦娘に会い、帰還を喜び合った。大半が、芙二の姿を見るなり、口元を手で覆い立ち止まる。
口角を若干あげ、微笑みながら彼女たち一人一人に声をかけて回る。潜水艦、駆逐艦の娘らは大きな声で、寂しかった、もう二度と会えないと思った、と絶望や不安を吐き出すように泣いた。
「すまなかった。みんなに心配をかけてしまったな」
泣く娘たちを優しく抱きしめて、謝罪の言葉を口にする。正規空母、重巡洋艦の娘らも周りの目を気にせず、再会に涙していた。
「全員、よくぞ帰ってきた。
一通りの多い場所で集まりすぎたのか、何事かと更に人を呼ぶ。その中に見覚えのある艦娘がいた。ゴルヴルチカ戦で大いに活躍したあの――
「譎る岑! それに夕立も同じだったか。二人一緒なのは久しいな」
今、なんて発音した?という小さな違和感。
黒い髪、三つ編み、大きな青い目。東第四泊地へ共に向かい、最後まで付き添った艦娘。白露型の制服を着る彼女がなぜか認識できない。内心、彼女の情報を閲覧しようにもノイズが生じた。
「こんにちは、闃吩コさん。僕もさっき夕立に会ったばかりなんだ。廊下から誰かが泣いている声が聞こえたもんだから何かあったと思って来てみれば」
夕立が「提督さんがいたっぽい!」と笑って言う。
芙二は夕立を見て、「さっきぶりだな」そう言って手招きをした。
ぽかん、としつつ芙二の元まで向かう。目と鼻の先まで来た彼女の頭を撫でると譎る岑が驚いた表情をする。
「なっ! 夕立、そこは僕の席だぞ! 闃吩コさんの口ぶりからして君はもう体験済みだろう!」
目をとろん、とさせた夕立に嫉妬した様子で大股で近づいてくる。荒っぽい所作で夕立を引き剝がし、芙二に密着する形で撫でるのを要求した。
「へいへい、そんな風なことしなくても
そう言って、譎る岑の頭を撫でる。譎る岑はくるり、と向き直り夕立の方を見て謝った。
だが、夕立は、
「それは謝る態度じゃない。むぅ~もう知らない! 譎る岑が楽しみにしていた間宮さんの特別パフェ貰っちゃうから!」
と、拗ねた態度で食堂へ走っていく。その言葉を耳にした譎る岑は目を丸くさせ、芙二から勢いよく離れて彼女の後を追う。去り際に、何か言っていたが芙二には聞こえなかった。
「何言ったんだか、分かんねえな。みんな、
お互いに手を振って、別れる。ノイズの原因は邪神へのクラスチェンジしたことが原因かな、と楽観的に考える。
総司令部から異動で来たアメリカ正規空母の繧オ繝ゥ繝医ぎ。元深海棲艦であり、カインへの恐怖から艦娘に転じた繝エ繧ァ繝シ繝ォ繝後う。
芙二が殉職する前、力を分け与えた姉の螟暮峇。妹の貂?惧。
(なんでか、会話をしようとするとノイズが増えてろくに聞き取れもしねえ)
邪神になったから、という推論は外れだな、と考える。
しかし深くは考えず、まあいいかと終える。
皆と再会の挨拶もほどほどに食堂へ到着した芙二は、蜿「髮イを探す。彼女は芙二が着任時に選んだ初期艦であり、前世の推しでもあった。
(泣かせてしまったからな……ビンタくらいは覚悟するか)
蜿「髮イを探すこともなく、気が付けば本人が目の前にいた。急に現れたように見えた芙二は、ぎょっとさせ退く。
「ちょっと、失礼じゃない!? ま、まあ私がアンタを呼びつけたのだけれど……それにしてもよ!」
イラっとした表情で叫ぶ。芙二は胸に手を当てて、申し訳ないと言った。
「それで要件とはなんだ? もしかして告白か?」
少し茶化したような様子で彼女に問う。蜿「髮イは顔を赤くさせ、言葉に詰まっていた。
「はは、すまない。少しだけ茶化してみたく――」
彼女の表情の変化を楽しんでいたが、
「そ、そうよ! それの何が悪いの!?」
蜿「髮イは開き直ったような態度、芙二の目を見て肯定する。あまりの衝撃に芙二は黙り、蜿「髮イは返事を待つ。
一分、三分、五分。蜿「髮イはたった数分の沈黙を永遠の時のように感じていた。内容が内容のため、急かすわけにもいかず。それでも、と口を開きかけたとき。
「蜿「髮イ……これからも末永くよろしくな」
愛おしそうに、蜿「髮イを抱き締める。温かい感触、想いが実った実感は、蜿「髮イは涙を流す。声を押し殺して嬉しさを噛みしめる。
~~
かくして一年後、二人は結婚に至る。周りから祝福され、また異世界からシェリルやタケミカヅチがやってきて直接祝い唄を告げる。
深海棲艦という災いが齎した縁は二人を強く結びつけるきっかけとなった。
これからも深海棲艦の侵攻はあるやもしれんが、あの二人ならばきっと大丈夫だろう。そう彼らを知る者は、皆が同じ思いだった。
「叢雲! これからもよろしくな! おまえさんのことはずっと記憶し続けるよ」
「ええ、あなた。命尽きるまでお供いたします」
隣で二人は笑い、共に同じ道を歩み続ける。
とある泊地に着任した提督のお話 ifストーリー 夢路 完
叢雲が逝去してから、十年後。地震大国と呼ばれる日本は未曽有の天変地異に見舞われ、国土の六割が壊滅的被害を受けた。それに伴い、海軍の施設はほぼ息をしていないと同義。
これをチャンスと見た深海棲艦は一斉に攻撃を行う。連日空襲警報が鳴らされ、市民は怯え、不安が募る。満足に食事もできず、人同士の暴力や諍いが絶えない混沌が生まれていた。
誰が悪いでもない。天変地異とは、そういうもの。深海棲艦から国を護ろうにも手段がない。他の国も沿岸部に発生した深海棲艦の侵攻を食い止めるので精いっぱい。
未曽有の天変地異が発生し、一年経つ頃には人口は大きく減少。国土の四割を深海棲艦に奪われる始末。復興をしようにも物資がうまく伝達できず、日々を過ごすごとに困窮していく。
自殺者も世界規模で見たら、千万人をゆうに超えるほど。かつて人は特定の日時を差して、終焉の日と謳ったが。今日に至っては、終末の日と揶揄される次元にいた。
希望も娯楽もない暗い時代。今日も今日とて、誰かの命が奪われる――はずだった。
ある白髪交じりの藍色髪の、青年の首から下げられているのは、古く錆びた懐中時計。
「≪フェーズ:タイマー≫」
空の上から海を我が物で跋扈する深海棲艦を見て、
「すまない。君が愛した故郷を護ることはできなかった。やはり、
そう吐き捨てる。目からは血の涙を流して、悔しそうに下唇を噛む。
右手を天に掲げ、怨嗟の叫びをあげる。
「≪
空が暗くなる。太陽を覆い隠し、空を黒一色に塗りつぶす。
――人々が手を止め、次に見た光景は白一色であった。