とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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話はまだ続きます。これから先、どうなるんですかね(分かりきった未来を見た)


経過報告 ①食堂での一件

 

―続き

 

 2030年 2月18日 AM 09:34 

 

 私は軽井。名もなき、研究員だ。趣味は生物観察。生物ならば大抵は観察し、レポートにまとめる。

 今回は一昨日、うちの所長が作り出した新たな実験動物(モルモット)の観察をしているのだが――どうも苦手だ。

 なぜ苦手かって? まぁ理由は――すぐに分かるだろう。何せ今、モルモット=ヲ級がいる部屋へ向かっているからな。部屋の前に着いたので扉をノックして声を掛ける。

 

軽井「おはよう、ヲ級。元気にしているかい。朝食を食べに行かないか」

 

 返事がない。まだ寝ているのか? 一昨日は色々あったかもしれないが昨日は何もないはずだ。

 三食与え、軽い柔軟運動をさせ、経過観察を行いレポートにまとめた。所長は昨日からこの島を出て本土にいるらしい。何をしてるのかはしらない。

 

 このままじゃ埒が明かないので入室を試みる。ドアノブに利き手を掛け引いた。するとドアはキィーという音を立てて開いた。

 

軽井「開いた……が、部屋にヲ級がいない?!」

 

 ちらっとしか見ていないから見逃しているのかもしれない。そう思って勢いよく部屋へ侵入する。いやいやいやそんなはずはない。あれ、いない! あ、これマジだ。マジで部屋の中にヲ級がいない!

 

軽井「……。どこへ行ったか。それが分かれば――……」イラッ

 

 落ち着け私。こんなことで冷静さを欠いてはいけない。部屋の中で何処かおかしなところがないかを探せ。そう、探すんだ。

 

軽井「布団は、特に異常なし。床も異常なし。テーブルは――異常あり。なんだ、この紙」

 

 部屋の中を順に見て回っていたとき、テーブルに置かれた一枚の紙が目に入った。

 その紙をよく見るとこう書かれてあった。

 

 ――研究員クンへ。君たちの大事な物は僕たちが預かった。返してほしければ、この紙を見つけたのならすぐに来るべきさ。君たちの大事な物を失う前に、ね。 飯場班 より――

 

軽井「……。マジか?よりにもよってあいつらが預かってんの? いや待て、まだあいつらと決まったわけではない。それよりも……」

 

 舐め腐ったことが書いてある紙の内容を理解しようとする。飯場班……つまり食堂の人間がやったと見るべきだろう。

 食堂の人間は普通の奴と狂ってる奴の割合が7:3なんだが、3割の奴の手に渡ってない事を祈るだけだった。7割の奴なら多分、味見役として買われているだけだ。

 とりあえず、この舐めた手紙を書いた奴を見つけ出してこの紙と共に焼却炉の中に放り込んでやる。そしてヲ級を探し出して、簡単な質問も兼ねようと思うのだった。

 

 

―研究所内 食堂

 

大柄の男「にしても、所長も変なの作りますね」

痩せた女「まぁそういう所も可愛くて好きよ。アタシは、ね」

 

 食堂内で大柄の男と痩せた女が椅子に座っているヲ級の身体を触りながら自分たちの雇い主について話していた。尚、ヲ級は不思議そうに見ている。

 そのせい嫌がる素振りを見せないためか、2人は頬を突いてみたり、頭を撫でたりしている。

 

ヲ級「……♪」

大柄の男「こいつ深海棲艦なんでしょう? 本土というか、今戦争してる奴らだとするとどうしてこんなにも嫌がらないのですかね」

 

痩せた女「そうねぇ。大方、薬物を何度も投与されたりあの変態(ひと)に調教でもされてるんじゃないの?」

 

大柄の男「あり得そうだ。でも大体、失敗作ですよね? 最近、よくあの双子が解体してるのを見るよ。奴らはどうして、解体した肉を食らうのだろうね。理解できないよ」

 

 

痩せた女「アタシにも分からないわ。腐肉なんて捨ててしまえばいいのにね。ね、ヲ級ちゃんもそう思わない?」

 

 ヲ級に対して、笑みを浮かべながら話しかけるもすぐに反応を示さないので流石に喋れないかと思っていた。そのなかで大柄の男が意外そうな表情を浮かべて言った。

 

大柄の男「こいつ、ヲ級っていうんですか。深海棲艦なんてどれも同じかと」

 

 男がそういった途端ヲ級の口が開く。

 

ヲ級「ワタシニ仲間ガ、イルノカ?」

大柄の男、痩せた女「「!!」」

 

 ヲ級の声を聞いて、2人は目を見開いて驚く。ヲ級にとってはその反応が意外だったのか、不思議そうな顔を浮かべながらコテンと首を小さく傾げながら言った。

 

ヲ級「ドウシテ、驚クノ? アナタ達ト、同ジデショウ?」

大柄の男「こりゃ参りました。話せる知能もあったなんて、もしかして聞きながら理解してた?」

 

ヲ級「ワタシニ、仲間ガ、イルノデショウ? ドコニイルノ? 知ッテイル?」

痩せた女「それは――「ヲ級! 見つけたぞ!」ありゃ、やっと登場かしら?」

 

 ヲ級がした質問に答えようとすると突然、扉が開かれた。そこには息を切らした軽井の姿があった。遠くで分からないが、白衣が乱れているので走って来たんだろうか。

 

 全く、研究者さまは熱心で頭が上がらないな、と思う2人であった。しかしヲ級はヲ級でテンションが上がっているようで椅子から立ち上がるとテトテトと音を立てて、小走りに近づいて行った。

 

ヲ級「ヲ! 軽井! ネェ、軽井。知リタイコトガ――「ヲ級!」 ヲ!?」

 

 2人から得られなかった答えを軽井に聞こうとした時、軽井に両肩を掴まれ吃驚して静止する。

 

 そして軽井はヲ級の身体をペタペタと触り始めた。食堂内には先ほどの2人だけではなく、昼食、夕食の仕込みをしてる料理人もいるというのに、だ。

 

ヲ級「カ、カルイ……?」

軽井「よし、何もないな。よかった、何もされてなくて」

 

 ヲ級の身体に異常がない事を知ると触りまくっていた手を離し、男と女に文句を言う為にズンズンと進んでいった。

 肩を強く掴まれてからすぐに身体を触られたヲ級は胸に手を当てて早く動き続ける心臓の鼓動をしばらく聞いていた。ヲ級は不意に顔が熱い事に気がついたが何もしなかった。

 

 

 

 

 軽井の怒りの矛先は先ほどの2人に向く。怒りの表情をしたまま迫ってくる軽井を見てか大柄の男と痩せた女はにやにやする。それがまた軽井に油を注ぐのだが、理解していない様だった。

 

軽井「ブリツィオ、ダニエマ。お前らか、ヲ級を連れ去ったのは……」

 

 大柄の男、痩せた女の方を向いて名前を順に呼んでいく。

 軽井は“はぁー……”と溜息を吐き、すぐそこにあった椅子に腰かける。

 

 しかし大柄の男=ブリツィオは何か言いたいことがあるようだったので聞くことにし、痩せた女=ダニエマはダニエマでブリツィオの言い分と同じようだ。

 

ブリツィオ「いや違うとも、軽井。連れ去ったなんてことはしてないよ。たまたま部屋の前を通りかかった所、ヲ級クンが居てね。朝食もまだ、ということだから連れて行ってあげたのさ」

 

軽井「それを連れ去るって云うんだが? そもそも私がヲ級を観察していることは知っては――いないか」

 

 一昨日、産まれたばかりなのだ。この個体は。軽井自身が経過観察をしているというのは恐らく、軽井と所長である宮部。後は――各部門のリーダーくらいだろうか。

 

 こうなっては自分にも非があったと思わされるかも知れないが――実験動物を無断で檻から出すのは通らない。しっかりと反省してもらうべきだ、と思ったその矢先――後ろから抱き着かれた。

 

軽井「っ! 誰だ? 私は今、考え事を――」

ヲ級「軽井、難シイ顔シテルヨ?」

 

 私に抱き着いてきたのはヲ級だった。

 そして私の顔を見るや否や心配そうな顔を覗かせ言った。

 彼らをキツく叱るのは辞めよう。

 

 私が怒鳴り散らす姿を見たらヲ級の精神面に影響があるかもしれないから、と思ったので怒りをなるべく静かに沈めた。

 

軽井「ブリツィオ、ダニエマ。私が先に言っておくべきだった。これに関しては申し訳ない、遅めの朝食ありがとう。しかし無断で実験動物(ヲ級)を連れ出すのは辞めていただきたい。今回は私が招いた事態だ、咎めるのは止そう。しかし次はないからな」

 

ブリツィオ「分かりました。以後は気をつけます。ほら、ダニエマも」

ダニエマ「はぁい。アタシも以後、気をつけると誓いまぁ~す」

 

軽井「破ったら、2人も1週間あいつらと同じ作業させるぞ。流石に食えとまでは言わないが」

 

ブリツィオ、ダニエマ「「絶対にやりません!」」

 

 軽井があいつらと同じ作業をさせると言った直後にブリツィオとダニエマの表情が一変した。

 

 あんまり反省していない様だった様子からとても焦った顔をして声を張り上げて宣言した。その声は食堂内を響き渡った。その表情を見たいがために言った軽井だった。

 

軽井「(私にそんな権限あるわけないだろうが。死体処理がそんなに嫌なのか)」

ヲ級「軽井、軽井」

 

 苦い顔をしている2人を見て、“ざまあみろ”と内心で笑っていながら乱れた白衣を着直しているとヲ級が裾を引っ張りながら声を掛けてきたので対応する。

 

軽井「なんだい。ヲ級」

ヲ級「サッキノ続キイイ?」

 

軽井「どうぞ。それが終わったら簡単な質問を行うためにここを出よう」

ヲ級「ヲ、分カッタ」

 

軽井「あ、その前に後でお礼を言うんだよ? “ありがとう。また来ます”ってね」

ヲ級「ウン。続キ、話スネ?」

 

軽井「あぁ構わない」

ヲ級「ワタシノ仲間ハドコニ居ルノ?」

 

軽井「ッ!! 仲間か。(くそ、誰だ。そんなことを聞かせたバカは。――あぁブリツィオとダニエマだな!? やっぱり、一度ぶち込んだ方が)……ヲ級の仲間は私達ではダメかい?」

 

ヲ級「軽井達ガ仲間?」

軽井「(詳しいことは省くけども、今はそう納得してもらおう)そうだ。それだけでは、不服かい?」

 

 2人への怒りが再燃しかけたが、ヲ級への質問は何とか誤魔化せそうだ。

 その証拠にヲ級は私達を見て、仲間、仲間と小さな声で呟いている。

 よし、この調子なら部屋へ戻れそうだ。

 

軽井「さて、ヲ級。納得していただけたのなら、戻ろうか」

ヲ級「ウン!――ア、アリガトウ。マタ来る! 美味シイゴハンアリガトウ!」

 

 私はそう言ったヲ級の手を引いて食堂から出て、ヲ級の部屋へ向かった。

 かなり遅れてしまったが、私の仕事はこれからだ。

 

 そういえば、苦手な理由を言ってなかったな。

 生物を観察することは好きだが、人間の様な生物を観察するのは好きではない。ただそれだけの理由だ。

 

 

―続く

 




新しいキャラクター

 大柄の男(モブ属性) ブリツィオ・テーター

 痩せた女(モブ属性) ダニエマ・アンジット


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