R5 3.14
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―続き
2030年 6月 10日 PM 07:49
研究所内 生体実験室にて。
久しぶりの会話となるな。え、なに? サボってるんじゃないかって? バカ言えちゃんとやるべきことはやっているとも。ならどうして4ヵ月近く、離れてるのかって?
まぁそれは大人の事情だよ、そういうものさ。今は4ヵ月前、ヲ級は生まれたあの場所にいる。何をしてるかって――? 説明するまでもないだろう。
軽井「新しい実験動物が生まれるのだ」
そう、新しい
前回投薬したA.D.Pの成分が違うものを投薬するのだ。何が変わるのかって?
まぁ見ればわかるだろうさ。ヲ級の様に言語能力を得るだけではない、と仮定されている。
身体的特徴が現れる、とかそういうのさ。
まぁ今回も例の如くこの部屋には所長と私しかいないが。ヲ級はお留守番だ。
宮部「軽井君、何か言ったのかね」
軽井「いえ、何も(これが成功すれば新たな可能性が見えてくるな)」
宮部「そうだな。これが成功すれば、この研究所は多額の資金を得る事が出来るのだ」
軽井「そうですね。(そしてヲ級に後輩と呼べる存在が出来るのは大きいのでは?)」
確かに資金を得れることはこの研究をやるに当たってとても重要な事だ。
偉い人とのつながりがあるのだろうか、私には知り得ないことだが。
そして今回使うのはル級だ。先日、たまたま捕獲に成功した。
だが、その際に何人か犠牲になったのだとか。
まぁ深海棲艦の捕獲なんてブラックすぎるだろうな。かなりの金はもらえるかも知れないけども。
一攫千金をするにはデメリットが大きすぎるような気がするんだけど、まぁ自業自得ってことにしとこう。黒い事をやってるんだから因果が巡って来たのかも知れないな。
ル級「!?」
お、目の前のル級に変化が現れた。私がどうでもいいことを考えているうちに所属が拘束されているル級に対して投薬したらしい。
所長はル級から距離を置き、椅子に座って観察している。そうだ、私も観察してレポートに纏めないと。
ル級「ゲボッ……ゴァアァ!?……ブプッ……」
目の前のル級が血を吐き始めた。
苦しそうな顔をしながら、濁った呻き声を上げる。
細胞が変化しているのだろうか、または体内で蠢くものに対しての拒否反応か。
ここまではヲ級と同じだ。
……同じか? 目は白目剥いて、血の泡をどんどん吹いている。
鼻からは鼻血でちょうちんが出来ている。
ふふっ。笑わせてくれるな、いやそういう状況じゃないけどさ。
ル級「……」ガクン
突然電池が切れたかのように、痙攣が止まり項垂れた。黒く長い髪にも変化が現れ始めているのがすぐに分かった。髪の色素が抜けていくのか、白くなっていく。
軽井「髪が……」
私はヲ級とは違った変化に驚いて、一言呟いてしまった。それがいけなかった。
ル級「……ァ……アァァァァァアア!!」
電池が切れたかのように項垂れていたル級は奇声を叫び、拘束を解こうと必死に藻掻く。投薬という未知の痛みから解き放たれたル級は憎そうに我々を睨みつけ、いとも簡単に拘束具を破壊してみせる。
宮部、軽井「「!?」」
私と所長は驚きのあまり声が出せなかった。私はとにかく冷静になろうと思い、こちらを睨みつけるル級の方に目をやるとまた驚く。
対深海棲艦用の拘束具は原形を留めておらず部屋の隅に弾け飛んでいた。
並大抵の深海棲艦なら拘束できる代物をいとも簡単に破壊してみせられるとどれほど強化されたのか、と言うのは想像に難くなかった。
ル級「……ゥゥゥ……!!」
低く短い声を上げ、こちらを睨む。
所長はともかく私はル級から目が離せないでいる。
目を離したらこの場で殺されてしまいそうなほどのプレッシャーを与えていた。
軽井「胃がキリキリするなぁ……」
余裕そうな態度をしつつ、一言吐く。全然余裕ではない。むしろ、所長を囮にしてこの場から逃げたい一心である。がしかし、研究者の魂がそれを拒む。今こそ、よく観察して書き記せと。頭の中に延々と語りかけてくる。
宮部「……素晴らしい!!」
軽井、ル級「「!?」」
ずっとだんまりだった所長が急に声を上げてそう言い放った。
私もル級も思わず、驚いてしまった。いやさっきビビッてましたよね?
あ、違う?
実験の成功に嬉しくて打ち震えていたんですね!?
うん。この人やっぱり変態だ。
病的な変態だ。救えない。
宮部「素晴らしい。本当に素晴らしい。ル級君、君は逸材だ!」
軽井「え、ちょ、ちょっと所長!」
パチパチと拍手をしながら、所長は怒り剥き出しのル級の方へ向かって歩いて行く。私は思わず声を掛けてしまった。いやあんた素晴らしい! とかじゃなくて殺されますよ!?
ル級「……ナ」
宮部、軽井「「?」」
ル級が何か言ったようで所長は拍手を止めその場に立ち止まる。顔を見つめて何か言いたそうな感じだった。私はもう一度聞き逃した言葉を聞こうとしていた。
ル級「近寄ルナ、惰弱ナ人間」
宮部「ほぅ、やはり言語能力も……」
軽井「しゃッ…喋りましたね。コホン。ル級、我々の言葉は理解出来そうか」
軽く罵倒されたような感じがしたが、まぁいいとしよう。仮定は肯定された。
忘れないうちにメモをしよう。
私がメモをしているとル級が私に向かって口を開いた。
ル級「……ワタシニ、何ヲシタ」
軽井「それは――「軽井君、その説明は私がしよう、いいね」は、はい。お願いします」
何をしたか、か。やはり未知の体験をするとそう聞きたくなるよなぁ。
まぁ聞かれたのは私だから答えてあげようっと…?
所長、なんですか。セリフ被せないでくださいよ。
宮部「君に打ったのはA.D.Pと呼ばれる特殊な薬でね。どうだい、艤装は出せそうかい」
ル級「……? 艤装……! ソウダ、艤装ハ……? オカシイ」
所長の説明を聞いて首を傾げているル級。薬を打たれた、と言うのは理解したように見えた。
艤装は出せそうか、と所長は言った。私はル級を見ていたがこいつらの艤装は事前に取り外してもなんでか知らないが光の粒となって消え、本人の元へ戻るらしい。
それじゃあ事前に外す意味がないじゃないかと思われるかも知れないがその辺も研究して分かったことがあるのだ。
光の粒となって消える前に破壊してしまえば、本人の元へ還ることはない。まぁ今回は破壊してないのでだからこそ、危険というものだ。
宮部「艤装は出せないか?」
ル級「ナンデ、ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ!!」
宮部はル級に対して冷たく言い放った。こうなることが分かっていたかのような口ぶりに思えた。
ル級はル級で自身の艤装が出せないことに震え、何度も艤装を展開しようと藻掻くもル級の肉体に纏うことは叶わなかった。
宮部「ふむ。これではマイナスか。他に、変化はあるか――試す価値がありそうだ」
ル級「オノレ……惰弱な人間メ!!コノ屈辱ハ……」
宮部が何かボソボソと独り言を呟くと、ル級はとても憎そうに宮部を見つめ毒を吐いていた。そんな様子は想定内とでも言いたそうな顔をしている宮部は次の質問を言った。
宮部「質問と言うか、あれだ。ル級よ、本気で私を殺そうとしてみろ」
軽井「所長……その挑発はあまりにも――」
ル級「イイダロウ!!コノワタシニ、屈辱ヲ味合わせた、人間メ。死んでから後悔シロ!」
そういうとル級は力む。すると身体が黄色い光を放ち始める。子供の頃読んだ少年漫画を思い出す。そんな感じだったなと。
身体から溢れ出る光はやがて、ル級の拳や足を纏い始める。左目も淡い青色の光が灯る。元々、来ていた服は赤い血痕がドットのような感じになっている。
そしてル級の表情は慢心そのものであった。
宮部「軽井君、少し離れていなさい。早く」
軽井「……分かりました。応援はどうしますか」
宮部「いらない。この程度、必要ない。さ、扉の方まで行きなさい」
ル級「蛮勇カ。呆レルナ……ァァ」
所長の言葉遣いというか雰囲気が変わったような気がして私は怖気づく。私は戦力にはなれそうにない、と思ったので言葉通りに扉近くまで下がった。
何かあったらすぐに逃げて応援を呼ぶためだ。所長はいらない、と言ったがどうもル級の方は殺しに来そうな雰囲気ですらある。
宮部「あ、軽井君! 管理班の所に電話しておいて! カメラ、壊れるかもって! だから、一度部屋出て!」
軽井「分かりました! では、失礼しま――ドガン!!」
私が言い返そうとした時、目の前が――いや所長の居た辺りから衝撃音が鳴り響く。
コンクリートの床が割れて、欠片が飛び散っている。思わず、叫んでしまった。
軽井「所長!!」
しかしそれは杞憂で終わる。別の場所から所長の声が聞こえてきたからだ。
宮部「いやぁ危ない。危ない。思った以上に俊敏で冷や冷やしたよ」
ル級「……チィッ!! 戯言ヲ……」
舌打ちをするル級はそう呟くと、次の行動に出るのが見えた。所長に私の声は聞こえていないようだったので被害が飛んでくる前に退室したのだった。
生体実験室前 廊下
出てすぐに管理班へ連絡する。
しかし管理班は事の発端をカメラ越しに見ていたようですぐに対応してくれた。しかし凄いな、まだ音が絶えない。死体蹴りをしてるのか、あるいはまだ地獄の鬼ごっこをしてるのか。想像したら“うう……”と寒気がする。
自分の端末に電話がかかってくる。誰からだろうか? 液晶を見る限り先ほどの管理班のようだ。
軽井「はい。軽井です。何ですか?」
管理班の人間は機械的な声であることを伝えた。私はそれを聞いて思わず、声を出して驚いた。電話越しだが、相手は機械的な声で話を続けた。
軽井「はい。分かりました。
通話が終わり、私はヲ級のいる部屋へ向かおうとする。
あんな地獄にヲ級を連れて行けというのか、まぁ何か考えがあるのだろう。上の人間の考える事はいまいちわからないな、と思いここを後にした。
―続く
新キャラクター
新A.D.Pを投薬され、深海棲艦を辞めた深海棲艦 ル級
唐突に思いました。評価欲しいなって。出来れば、ですけど。