―続き
私は先輩であるセーレと会話をした後に、ヲ級がいるであろう部屋へ足を踏み入れる。
ヲ級「ヲ! 軽井!」
軽井「……」
ヲ級が入室した私を見て、手を上げて名を呼んできた。そんなヲ級に対し同じようにして挨拶を返し、ヲ級の顔を見ていると口の中がもごもごと動いているのが分かる。
先ほどセーレが飴を上げたと言っていた。それを食べているらしい。いつもは喋りたがるヲ級の口数が少ないのはそれが原因だろう。
軽井「ヲ級よ。美味しいか」
ヲ級「ヲ! トッテモ甘イ。セーレガクレタノ! 軽井モ一ツドウ?」
私が美味かどうかを聞くとヲ級は甘いと言った。セーレとヲ級の関係は良好のようだと勝手に思った。
確か、彼女には深海棲艦に対してとても苦い思い出があると思ったのだが……まぁ割り切ったのか。偉いな、とても。今度褒めてやろう。
そんなことを考えているとヲ級が飴を差し出してきた。どうやら私にくれるらしい。
いつもならその足で貰って簡単な質問と観察を行うのだが今回はそうはいかない。
ヲ級を連れてこい、と言われているから話しかけた。
軽井「いや今回は辞めておくよ。気持ちだけ貰っておこう。セーレが君に対してくれた報酬だからな。それよりもヲ級。ちょっと来てくれないか」
ヲ級「ソッカ。……別ニイイケド何ヲスル?」
飴をくれると言ったヲ級の目を見て、断った。
ヲ級は断られるとは思ってなかったのか残念そうに呟いた。
そして少し間が空いて何をするのかとジト目で聞かれたので答えた。
まどろっこしいのは嫌いなので単刀直入に伝えた。
軽井「君に後輩が出来る。今、君が生まれた場所にいるから迎えに行こう」
ヲ級「ヲ! 後輩? 仲間ガ増エル?」
軽井「そうだな。仲間が増える。私達、人間とは違った、な」
ヲ級「早ク、迎エニ行コウ!」
軽井「そうだな。では、ヲ級。ついてきてくれ」
私はテンションの上がるヲ級を見て、少しだけ……いや私情は抑えておこう。
ヲ級の手を引いてル級と所長の居る場所へ向かう。
生体実験室内 少し時は遡る。
軽井が退室したのを見計らって、回避に専念していた宮部は急に攻めに行く。
ル級は驚いて咄嗟に回避するも宮部はニヤっと笑うと次々に拳を揮う。そんなル級は攻めてばっかりだったので息を切らせても尚、受けてたまるかとプライドの為に避ける。
意外そうな顔をする宮部に対して、ル級は攻撃の届かない範囲へ逃げる。そして声を荒げて目の前にいる
ル級「貴様、本当ニ人間カ!?」
宮部「勿論、人間さ。だけど今、この時だけは違ってもいいかもね」
ル級「何ヲ言ッテ……ッ!!」
目の前の人間が訳の分からない事を言った。しかし、ル級が言い返そうとするとき全身を押し潰されるような圧を感じ取った。
宮部「昔話をしよう。これは私がある生物とあった話だ」
ル級「話シテドウナル」
宮部「君を鎮圧するとも。実験をしてこうなることは予想がつくでしょ?――で、私はその生物が持つ技能にとても惹かれた」
ル級「……(今ノウチニ、殺ス)」
拳を包んでいた光は肘までを包むほどの鎧の様な物に変化した。足も同様。自分の身に何が起こったのか理解しきれないル級だが今なら、あの
しかし何処からかミシミシと音が聞こえ何の音だと思い前を向く。
ル級「ナッ!? ナンダ、ソレハ……!!」
目の前にいる宮部を見て理解できない、というよりも怖れを感じた。白衣は床に脱ぎ捨てられていた。それよりも異常な点はいくつかある。
まず左肩には鳥のような白い翼がついていた。一方、右肩には何もない。両翼あったら飛べる気はしたが何よりも姿が不釣り合いだと思った。それに研究員のはずなのに聖職者が纏うような白いローブを身に纏っていた。
だが、ル級はいつ着替えたかもわからない格好を見てふざけていると思い、表情を険しくして言った。
ル級「ナンダ、ソレハ……バカニシテイルノカ?」
宮部「いや? バカにしていないとも。君に合わせたんだよ。というか、私の話は聞いていたかい」
ル級「ハッ! ワタシガ、聞クト? ソノ気持チ悪イ格好ノママデ……!」
宮部「ふむ。やはり、これらの美しさが理解できないか。まぁいいさ。時間も押している事だからとっととやってしまおう」
ル級「ワタシモ、ソノホウガイイト、思ッテイタ」
宮部「そりゃよかった。まぁもう終わるんだけど。君のその装甲は実に興味深い。後で良く見せてね」
ル級「ハ!生キテイレバ見セテヤルトモ! 貴様ガ生キテレバ……ナァ!」
暗転
※
生体実験室前にて 現時刻 PM 08:59
私は生体実験室前へヲ級を連れてきていた。先ほどまで凄い音が聞こえていたがそれが嘘のように静まりかえっていた。
中に入るのがとても恐ろしい。もし、所長が殺されていたら次は私だとそう思ってしまうと中に入れない。青くなっている私を見てか、ヲ級が心配そうな顔を覗かせる。
ヲ級「軽井? 大丈夫?」
軽井「あぁうん。大丈夫だとも。それじゃあ――入ろうか」
ヲ級の前にして、億劫な姿勢は見せたくない。今はないが、深海棲艦は私達を下等な生物と見下しているという報告があったからだ。こいつもそうならないと思うが――言い切れない。
扉をノックして入室許可を貰おうとするも反応はない。私の脳内にもしもこうなったらという見えない不安で満たされていく。ダメだ、もっと悪い想像をしてしまう。
しかしヲ級の前ではそういう姿勢は見せないのだ――そう思った私はドアをあける。
目の前に映った物は――全身を縛られるル級とニコニコしている所長の姿だった。
ル級「……ッ」
宮部「や、軽井君。ル級くんの鎮圧には成功したよ。……まぁ私も満身創痍なのだがね」
ル級は私たちを睨みつける。いや怖いんですけど。目だけで殺しそうだ。ヲ級は今すぐにでも飛びつきたそうな表情をしている。
両手をぶらつかせて自身にはもう無理、という所長。そんな所長を見てか私は大きな声を出していった。
軽井「所長! 生身の人間が深海棲艦と戦うなんて無謀ですよ! すぐに医療班を呼びます! 安静にしていてください!」
宮部「大丈夫だ。それには及ばない。医療班は呼ばなくてもいい。それと――ヲ級くん。君の後輩だ。これから――いやル級くんへの
所長はそれじゃ、後は任せたよ。軽井君、というと生体実験室を出て行った。え? 私一人で何をしろと?? と、とりあえずヲ級に指示を出すか
軽井「ヲ級。ぐるぐるに縛られてるが、ル級は君の後……仲間になる。挨拶をしてほしい」
ヲ級「了解デス! ワタシハヲキュウ。ルキュウ、ヨロシク!」
テンション高そうにしてヲ級はル級へ挨拶をした。しかしル級は気に入らなそうな顔をしていたが、短く『ヨロシク』と言った。
ヲ級はヲ級でぐるぐるに縛られているル級に抱き着いた。
急に抱き着かれたル級はヲ級の事を面倒くさそうな顔をしていたが自分の力では鎖を解くことは叶わないと分かっていたためなすがままにされていた。
軽井「よかったな、ヲ級。ル級と仲良くなー」
私はヲ級たちを見て溜息をつく。所長が殺されてなくてよかった。
最悪は起こらなかったことに対して安堵していた。しかしル級をどこに運ぶのか、と思っていたとき扉が開いた。
軽井「ん? 誰だ? って、なんでお前らが……」
扉の先にいる人物を見て、私は嫌悪感丸出しで呟いた。いつもこの時間は死体を処理しているはずの2人が現れたからだ。ドアから1人ずつ入ってくる。
そして私の前まで歩いてきた。表情は無表情でどこまでも気味が悪い。
この2人について軽く説明しておこう。前々話くらいで出てきたダニエマとブリツィオに対して脅しの材料に使った大元たちである。
赤い長髪、目の色は碧色の少女の名前はリリア。隣に居た同じく赤い長髪、目の色は蒼色の少女の名はアンリエル。2人は血の付いたエプロンを着ていた。
そして軽井に向かって同時に口を開いた。
リリア、アンリエル「「私達に対して失礼な事を考えなかった?」」
軽井「いや……やってないが」
こいつらの顔を見ていると気が狂う気がした軽井はル級やヲ級の方を見ると2人とも入って来たリリアたちに釘付けの様だった。
軽井「要件はなんだ。お前たちの範疇じゃないだろ」
リリア「……要件はそこで縛られてる
軽井「そうか。なら、早く持って行ってくれ」
アンリエル「言われなくてもそうするつもり」
リリアとアンリエルはヲ級とル級の元へ行った。ヲ級は渡さない!といったスタンスで居たがリリアの言葉を聞いたらすぐに渡した。
リリア「渡さないと、君のトモダチはハンバーグになっちゃうよ?」
ヲ級「ソレハイヤダ」
アンリエルに担がれるル級は寂しそうな顔をしているヲ級に向かって声を掛ける。
ル級「……オイ」
ヲ級「?」
ル級「後デ、会オウナ」
ヲ級「……ウン」
こうしてル級は2人に運ばれていった。後片付けは処理班の連中に任せておこうと思っていた。そして残った軽井とヲ級はシャワー室へ向かうのだった。
―続く
新キャラクター
死体処理班兼死肉処理班
双子 長女 狂気に蝕まれた少女=リリア・ガット
次女 死期を誘う少女=アンリエル・ガット