―続き
2031年 1月1日。今日は世で言うところの正月、元旦に当たる。世の中では紅白がどうとか、除夜の鐘がどうとか言ってるのではないかと思うがここには正月、元旦なる概念は存在しない。
それは何故かって? それは毎日研究に明け暮れてる孤島の研究所だぞ。そんなイベントはやってない。むしろ、やらない。毎年、毎年はただ所長の長い長い話とちょっと多めの給料を貰って終了だ。え? ATMや銀行がないだって? まぁないわな。その辺は口座にでも管理されてるんじゃないかな。
ここの給料はいいって聞いた。というか、ちょっと前に辞めてったやつが通帳を見て愕然としていたの見た。『都内にマンション買えるわ……』などと言っていた気がする。
その後の奴の話は聞かない。もっとも死んだか生きたかなんてどうだっていい。金は貰えてるらしい。私の趣味の一つに読書があるのだが、どうも図書館の蔵書だけでは面白くないのでちょいちょい使わせてもらっている。
とまぁ、長ったらしくどうでもいい話を一旦区切る。今年はヲ級とル級がいる。去年までにはなかった光景だ。
職員がやれ『あけましておめでとうございます』だの『ハッピーニューイヤー』だのと賑やかにはしゃいでいる。食堂の人間はいつも以上に大忙しだ。なにせ、一年に一回しかない休日だから、そのため人も多い。時間外でも何でもドンパチと祭りのように場を沸かせる。
安い酒も給料で取り寄せた高い酒も。この日のために取り寄せた食材も、何もかもを使って全員に振舞う。いつもの美味しい飯、酒。
そして場の雰囲気も相まってとてもいいモノに思えてきた私も、湧いているのだろうか。テーブルに置いてある酒――銘は分からないがとりあえず、それを一杯貰おうとする時、肩を叩かれる。誰だろうか。振り向くとそこには不思議そうな顔をするヲ級とル級がいた。
軽井「こんばんは。ヲ級にル級。どうかしたのか?」
ヲ級「コンバンハ、軽井。エット……ドウシテ皆、コンナニ元気?」
ル級「イツモヨリモ何カ変ダゾ。モシカシテ、ワタシタチニ投薬スル薬ヲ打ッタカ?」
軽井「いやいやそんなわけないさ。今日は一年の始まりの日なんだよ。職員がはしゃいでるのは今日一日、休みだからさ。といっても休みなのは全ての職員じゃないけども」
ヲ級「ソウナノカ。セーレニ教ワッタカラ大体分カルガ」
ル級「今年ハドンナ一年ニナルノカ…………」
軽井「まぁ今年は二人には季節というものを体験してほしいよ。今は丁度冬だけどここはあんまり冷えない分かりにくいかもだけどね。雪も降らないし。それでも冷えるだろ?」
ル級「ソレナリニ、ハナ……正月ハ初夢ヲ見ルト叶ウラシイナ?」
ヲ級「ヲ! ソレ知ッテル! ヲキュウモ叶エタイノアル!」
軽井「いや初夢はそういうもんじゃ…………まぁいいか。今日はそれなりに冷えるかもな。だから、ちょっと待ってな」
軽井は二人を置いて、別のテーブルへ行く。そして戻ってくるときにはカップを二つ持ってきた。ル級が『中身はなんだ』と聞く。軽井は『甘酒だよ』と言った。ヲ級もル級も『甘酒』という聞いたことない単語に頭上にはてなを受かべる。
軽井曰く、アルコール0の甘い飲み物らしい。原料は酒粕だとか。二人は受け取ると鼻を近づける。なんだか独特の香りがする飲み物だと思った。しかし軽井やそのほかの職員は美味しい~などと呟いている。ので二人はひとくち、とおそるおそる口をつけて飲む。
ヲ級、ル級「「…………? 甘イ? デモ、独特ナ匂イ」」
そう同時に言った。そこからヲ級が『あまいけどなんだか、変な味がする』と言った。
軽井は『それが甘酒だよ』と言った。ル級は『アンガイ、ウマイナ。カルイ、オカワリ』と次の催促をした。はいはい、わかったといい軽井はもう一杯、貰いに行った。
ル級とヲ級は未知を体験して、新年早々心が躍るような気分だった。互いに今年はなにが起きるかを予想しているとき、軽井が帰ってきた。ヲ級は手を振るがル級は席を立って警戒した。軽井は渡す手間が省けた、となにやら見当違いな事を思っていた。
軽井の後ろにル級に対して殺意をわざと向けている女性がいた。その女性はニコニコしながら口を開いた。
藤尾「初めまして、こんばんは。深海棲艦のお二方。私の名前は
ル級「ワタシハル級ダ……。気ニイッタ」
藤尾「そう! それは良かったわ。それにル級って言うのね。隣の方は?」
ヲ級「ワタシハ、ヲ級。ル級? !! 軽井……コノ人ハ」
軽井「? どうした?」
ル級「…………」
藤尾「(あれあれ? 私の
この人の続きを出せないでいた。気になってる軽井はヲ級に聞いたが、本人はなんでもないと目を逸らした。ル級は向けられた殺意に対して警戒しているが、ヲ級は直感で理解していた。
――この人、己の快楽のために殺した人、だ。ヲ級は目の前の人間に対して職員とは別の意味で警戒しておこうと思ったのだった。
ヲ級が眠そうな顔をしだすと軽井が気遣ってル級とヲ級を連れて部屋へ戻った。別れるときル級はその場に残り、ヲ級はそのまま部屋の中に入っていった。一人残るル級に対して何か用かと聞こうとした時、ル級は口を開いた。
ル級「サッキノ女ハ気ヲツケト。踏ミ込ミスギルト意識ノ外デ殺サレル」
軽井は驚いた顔をしてル級を見た。なんでそんなことを言ったのかと理由を問おうとしたがル級は既に部屋へ戻っており言葉の真意を確かめる事は出来なかった。
それにしても――さっきの女……藤尾さんだろうか。藤尾さんに気をつけろ? 一応彼女の過去は知っている。ここでもまた
触れてほしくない所もしっかり判断してかないと…………って事かな。
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時間は流れ、一年で最初の深夜帯は終わりを告げようとしていた。軽井は食堂に戻り場の空気に吞まれていった。皆、もう出来上がったのか新人もそうでない者も酒だ、なんだとドンパチして今年一年も頑張ろうと口々に言い、また酒をあおる。
そんな飲み方していると将来肝臓をやられそうだ。まぁどうせ、一年でもっとも飲める時間なのだろう。だから、騒ぐのだ。そして一夜の出来事は思い出になる。室内で勤務する者、室外で勤務する者、偉いとかそうじゃないとか関係なく素敵な思い出になるのだと軽井は思っていた。
軽井「まぁ我々が願うことの一番はこの終わらない戦争が終わること。……終わればまぁ次は復興したい人がなんとかするでしょ」
そう呑気な事を言いながら、安い酒をコップについでいた。コップに入った酒を一口、飲もうとしたときだった。
あれ? この戦争が終わったらヲ級やル級はどうなるんだ?
軽井「…………」
そうだ。この戦争は元々、深海棲艦と我らのものだ。戦う理由が無くなったら――。私達は、ヲ級やル級は――どうなるんだ? 処刑? それともいいように玩具にされるのか。
あぁ嫌だ。――いや割り切れ軽井健。私はあのモルモットたちを観察することが仕事だろう。最後はどうなろうといつものようにすればいいのだから。
軽井「情が移りやすい性格だったのか、それとも酒が入っただけでこうも――……」
言葉が続かない。これまで扱ってきたモルモットと同じでいいんじゃないか。何を今更。そう、今更だ。本当に今更、私は――何を考えたのだ。投薬で産まれた物に対して『特別』という価値を付与するな。その考えは研究の妨げになる。やめろ、捨てろ。段々と負の感情が精神に満ちてくる。自分でも嫌な事を呟きそうな気がしたので席を立つ。
軽井「…………今日はもう寝るか」
食堂の返却口に空の一升瓶とコップを置いて、食堂を後にした。
―続く
新キャラクター
職員の中でも結構かなりやばい人物
本編書きたいけど、なんか設定とかプロットとかコロコロ弄ってたらプロットが没になりました。もうちょい、掛かります。
次回もよろしくお願いします