―続き
『赦さない』
いつもル級や軽井達に見せる穏やかで楽しそうな表情とは全く違い、今の表情は激しい怒りが滲み出ていた。ピリピリとした空気が部屋を張り詰めていく。
リ級はニヤッと微笑し、睨みつけてくるヲ級に対して『私を許さないのか? たかが、人間の腕ひとつ切り落とした所でそこまで激昂する? 全く以て理由が見当つかないのだが?』と言い放つ。
ヲ級「…………」
言葉を聞いた瞬間、ヲ級は歯ぎしりをして嗤うリ級を睨みつける。
リ級「そうまでして睨みつける理由はなんだ? さきも言ったが、ここの人間など消耗品のように見えるがね? それになぜそこまで固執するのだ。そこの女でスイッチが入ったんじゃないだろう?」
ヲ級「お前は、よく口が回るようだ」
リ級「ヲ級、貴様にとって軽井とそこの女はなんだ。仲間か? しかしあいつらは私もそうだがヲ級のことをモルモットにしか見ていないようだが? それでも仲間と言えるのか?」
ヲ級「お前に話す理由はない。謝っても、もう遅い」
リ級「その言葉、そのまま返すぞ。貴様こそ、もう遅いぞ。そのまま殺してやろう」
言葉を言い終えると、途端に黒い霧が瞬く間に発生しヲ級と藤尾たちを分けるように広がる。
瀕死の藤尾は『ヲ級ちゃん!』と叫ぶもその声は本人には届かない。
ヲ級とリ級の戦いが始まったからであった。
======
そこへ緊急の連絡を聞いて再度別の救護班が現れる。満身創痍の藤尾を見て、素早く駆け寄る時この部屋の異変に気がつく。
隊員C「この部屋、黒い壁なんてありましたっけ」
隊員B「いや、そんなことはないはずだが……もしや最近入れられた個体の仕業じゃ」
隊員D「まさか。そんなことが出来たら恐ろしいですよ。負傷人を早くこの部屋から脱出させましょ。お嬢さん、君のほかにはもういないかい?」
藤尾「ま、だ……私、よりも……」
隊員C「君よりもなんだって?」
藤尾「腕が、落ちた……おと、こがい」
隊員B「腕が落ちた男!? 場所は?!! 場所はどこなんだ!!」
藤尾が力なく黒い壁の方へ向けると救護班の隊員は顔を青くして無線を取り、警備班を呼ぼうとした。
隊員A「こちら、隔離部屋。要救助者を確認。我々では対応できないため警備――
『ガッシャ――――ン!!』
!? な、なんだ」
隊員C「隊長、壁の奥からなにか爆発が発生したようです! 壁向こうにいる男性のことは放ってこの女性だけでも連れてかないと我々も今以上に危険に晒すことになります!」
隊員A「だが――」
パァン! パラパラ……
隊員は藤尾だけでも連れてくべきだと言う。隊長である男は悩んでいた時、壁の向こうから破裂音と爆破音が鳴り混じり出したのを聞くと目を瞑って『仕方ない。今は彼女だけでも連れていこう』といい藤尾を担架に乗せる。
藤尾(軽井さん……あの中じゃきっと死んでいますよね……死相が見えているならここへ行かせなければ良かった。リリアちゃんもアンリエルちゃんも瀕死にならなくて済んだ)
暗い気持ちで担架の上に乗せられ、軽井の死を弔いながら意識を落とそうとした時だった。
隊員D「お、おい! あれはなんだ!」
藤尾(隊員たちはなにを……あ、あれは!)
一人の隊員が黒い壁に対してとても驚いた顔をしながら指差した。藤尾は驚いた声を聞いてうっすらと目を開けるとこちらへ向かって飛んでくる物体が目に入った。
軽井「……………………」
隊員B「あれがっ! そうなのか!?」
小さな瓦礫と共にこちらへ飛んでくる物体の正体は意識を失った軽井だった。
藤尾は数回、首を縦に動かした。他の隊員もそれを確認しベシャッと転がった軽井の元へ寄る。
意識がないだけではなく、左腕も切り落とされていた。しかし不自然なことに血は止まっていたがそんなことよりも一刻も早くここから脱出するべきだと判断し、隊員は手早く担架を乗せ藤尾と共に隔離部屋から出て行った。
軽井の姿を確認した藤尾の意識は闇へ落ちた。
崩壊寸前の隔離部屋に残されたのは変異個体たちだけだった。
======
黒い壁の内部 にて
リ級「…………それがお前の能力か。その目の色はなんだ?」
ヲ級「目がどうしたって? 何を言っているんだ。私はお前をとっとと黙らせて軽井の仇を取るっ!」
リ級「ならばやってみせろ。だがお前の未来はそこに倒れてるル級と同じだ」
ヲ級「ル級のことも許さない。そのまま――黙らせる!!」
リ級の方へヲ級は駆け出した。右手で殴りつける。
拳はリ級の頬を捉えるが倒れない。
リ級「ふん。ル級と同じタイプか。だが、速度もないだけの力任せが通用する世界などないぞ」
ヲ級「それもそうだな。それでもお前だけは絶対に許さない」
しばらくのあいだヲ級とリ級は近接戦闘を繰り広げていた。互いの拳が互いを屠る。
ヲ級は激昂時のアドレナリンが過剰に分泌されていたおかげで動けていたが、リ級は一向に倒れる気はしない。辺りに二体の血が飛び散る中さらに苛烈さを増していく。
リ級「お前の一撃はル級に比べると物足りない。私は脳筋ではなかったが、いざ動いてみると中々楽しいもんだ……なッ!!」
ヲ級「…………ッ!!」
リ級はヲ級に話しかけながら一撃、一撃を捌いていく。
余裕のないヲ級は言葉を返せずにいるとリ級が攻撃を受け止める。そして押し返すと守りに入っていたリ級はヲ級の
ヲ級「おぶっ!?」
拳はがら空きになったヲ級の鳩尾にめり込むように入り、そのまま後ろへ殴り飛ばした。
壁に激突しそのまま砕け、ガラガラという音と共に土煙が立ち込める。
リ級「…………もう一撃加えておくか」
殴り飛ばされ、反応のないヲ級に対し完膚なきまでに叩きのめすと決めたリ級はゆっくりと向かって歩いていく。
ヲ級「けほっけほっ…………う゛う゛ぅ……お腹が痛い」
崩れた瓦礫をどけながら起き上がるとヲ級は咽ながら殴られたところを撫でる。
そこへリ級がやってきてヲ級を見て驚いた声を出す。
リ級「まだ動けるのか。ル級よりも耐久値が高いのか。だが、次は頭を粉砕する。流石に後遺症は済まされないだろう」
ヲ級「…………」
リ級「意気消沈、か。まぁあの人間を貶され激昂しても黙らせることは出来なかったな」
ヲ級「……聞こえる」
リ級「何がだ。とうとう頭もおかしくなったか。可哀そうだ。そのまま沈めてやろうか?」
ヲ級「聞こえないの? あの声は――忘れられない」
どこからか突然聞こえてきた声に戸惑うヲ級。しかしリ級には聞こえていないという。
怪訝な顔をするヲ級を見ていて付き合いきれないと思ったリ級は蔑んだ目で見つつ、馬鹿にするように話しかける。
リ級「幻聴は死んだあと存分に聞いてくれ。軽井も後で逝かせてやるからな」
ヲ級「そう、分かった。お姫様、その力少しだけ借りる」
リ級「妄言は終わりか。しかし興味が湧いた。その借りた力を見せろ。その力もねじ伏せてこの施設の人間は全員殺しまわろう」
急に始まったヲ級の独り言は終わりを唐突に迎えたようだ。ボソボソと話していた口元はピタリと止まり、視線はリ級を捉えていた。
ヲ級「お前は良い個体なの? 隙だらけの私を殺さないのはどうして?」
リ級「確実に殺せると思っている故の行動だが。お前一体を殺すのに大して時間は使わない」
ヲ級「そう。なら待たせたことを詫びないとならないね」
リ級「その詫びというのに期待しているのだ。軽井の口ぶりだとお前もル級もここに連れてこられた個体だろ? 投薬された結果、普通の個体とは違う力に目覚めたというわけか」
ヲ級「そうだね。さて、私は本来の姿に戻させてもらう」
そういうとヲ級は指定の服から戦闘時の服装へ変わる。かなり久しぶりに戻ったからこそどこか違和感はないか見ていく。
すると両腕が変化していた。前は黒い手袋を装備していたのだが、今は黒い手袋だけではなく手首から肩近くにまで黒い装甲が付けられていたが窮屈や重いといったものは一切感じない。
足の方にも変化が見られた。両腕と同様、両足にも黒い装甲がついており変わっていた。
最後に艦載機を出すための杖を取り出すが、これには見た目は変わっておらずただの黒い横笛のままであった。杖のように長い横笛を立てて両手で抑える。
リ級「それが本来の姿か。どこか空母棲姫を彷彿とさせるような雰囲気を感じるが……頭の
ヲ級「これはお姫様から貰ったもの。凄い……軽井たちの薬よりも変わった気がするな」
リ級「はんっ! それはそうだろう! 姫級と呼ばれるあいつらと人間の薬だぞ! 全く違う! それでその杖で殴殺するのが本来の姿なのか? 確かヲ級は艦載機を出していた気がするのだが……? 海上ではないから、な。仕方あるまい」
ヲ級「違う。ここで使うと天井が崩落する危険があるが、まぁいい。久々だから扱えるか分からない」
リ級「そうか。そのまま蝕んで殺してやる」
ヲ級は立てていた笛を吹くと『ピィ――――』と甲高い音が部屋の中に響いていく。
するとヲ級の周囲に黒い靄が現れ始めるが、すぐに消えるとそこには四つの艦載機が浮遊していた。
全て共通しているのはバスケットボールほどの大きなの黒い球体だが、目は無く代わりに大きな口があり、白い歯が剥き出しになっていた。また球体の底近くには白く短い手が生えており爆弾のようなものを抱えていた。
リ級「黒い艦載機、か。それにかなり大きいな。手に持っているものが爆発したら地下は完全に崩落するがいいのか」
ヲ級「構わない。お前に罰を与えられるなら、それが一番効率いい」
リ級「ここで死ぬ気か。――馬鹿らしい」
ヲ級「この四機でお前ごと、黙らせてやる」
ヲ級は自分が繰り出した艦載機に命令を下す。目標は目の前にいるリ級。
そのまま特攻せよ、と。命令を受けた艦載機の目はカッと青く光り輝き距離を詰めていく。
リ級もリ級で黒い霧を凝縮させ、蔓のように何本も艦載機へ向ける。
蔓のようなものは艦載機を絡めとった瞬間、艦載機は自爆する。リ級に近づかなくとも、命令を下した主人が近くにいようとも関係なしに艦載機は爆発を引き起こす。
一つ爆発すると他も機体も連鎖的に爆発した。
二人の視界は白く染まり、以降なにも聞こえなくなった。
隔離部屋の天井や床は崩落が始まった瞬間でもあった。壁も爆発により抉られ、カメラも破壊されたため外部との連絡は一切遮断されたのであった。
―続く
既存のキャラクター
ヲ級 特異個体:
今まで片言だったのが片言ではなくなった。
ル級みたく物理に対応できるようになったがル級ほど特化しているわけではない。
また海上でなくとも換装し、艦載機を扱えるのだが侵攻時に使う艦載機と他に特殊な艦載機を扱えるようになった。
種類は艦戦、艦攻、艦爆、偵察機の四機だが通常の艦載機よりも性能が遥かに向上しているがその実数値は不明である。
特殊な艦載機には自爆特攻がプログラムされており、本来の仕事を果たしたら敵目掛けて侵攻する。四機のうち一つが爆発するとどんなに離れていても他の機体も爆発する。
特殊な艦載機(黒):深海復讐艦攻改と夜深海艦爆を混ぜた見た目をしている。
また肉体にも変化が現れ、戦闘時には左目から蒼い色の光を放ち始め周囲には灰色の霧を発生させる。
現段階では灰色の霧は発生させられない。
灰色の霧がもたらす効果は濃霧と似たような効果だが、海上では探照灯と照明弾を無効化させる。
ル級:爆心地に完全放置される。