―続き
同日 午後二十三時 三十七分 隔離部屋にて
ヲ級「ん……ここ、は……?」
目を覚まして辺りを見渡そうと起き上がるも暗く何も見えないことにヲ級は疑問を感じた。とりあえず目を慣らそうと思い再度座るとき瓦礫の破片がチクリとヲ級の臀部を刺す。
ヲ級「痛っ! 何か刺さった……? んっと、これ、は……何かの破片?」
暗くて何も見えないが、自身の尻に刺さった何かの破片を除けるとふと気がつく。
普段であればル級と軽井と共にいるか、あの双子や職員と話している時間かもしれないと思った。
ヲ級「あれ、そういえば……どうして私はこんな場所にいるんだろう?」
何かを思い出そうとするもぼやけて思い出せない。大事な何かを貶されたような、壊されたようなそんな何かが曖昧な記憶のみが頭の中をグルグルしているからだ。
ヲ級「軽井は――そっそうだ! 軽井は、軽井はっ!!」
軽井はどこだろうとふと思った時、
ヲ級(ここは――どこだ、じゃない。ここは
段々と直前のことが鮮明に思い出され、原因も思い出されていく。
ヲ級(地下……か。痛てて……頭がまだ痛いな。それに身体も上手く動かせない)
座ったままでいるとリ級との戦闘で負傷した部位が悲鳴を上げ始める。
それに自らが出現させた艦載機の爆弾の威力にも驚いていた。
ヲ級(流石に懲らしめる為とはいえ四つは多かったかな。次からは一つか二つでいいかもしれない)
真っ暗な部屋の中で一人ヲ級は時間を潰すのだった。
そして何時間か経った頃、ヲ級の心は人の温かさを求めるようになっていた。
ヲ級(このまま一人で死んでいくのは、嫌だなぁ……せめて軽井に会いたい。また撫でてほしい。軽井、軽井ぃぃ……)
暗く何も見えず、聞こえない絶望と刻々と迫る死の恐怖に耐え切れず、少しずつ泣き始めるヲ級。消えつつある心の温かさを必死に思い出そうとしているうちに段々と眠さを感じ始めていく。
ヲ級(あぁ……眠く、なってきた。このまま暗い地下で死んでいくのかな。深海棲艦に生まれた私の、罰なのかな)
思考がネガティブに支配されていく。しまいには自らの存在に対しての答えなのだと思い始める始末である。ヲ級は瞼が重くなっていくのを感じる。
もし生まれ変わったら――と考えたところでヲ級の意識は闇に落ちた。
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自室のベッドにて
ヲ級「はっ!」
目を覚まし、上半身を起こす。なにか悪い夢を見ていたような感覚に陥り身体がいつも以上に倦怠感を訴えているような気がする。
ヲ級「あれ、ここは……? 私の部屋?」
目を覚まして起きてみるとそこは自分の使い慣れたベッドの上であった。
誰もいない地下で息絶える夢は悪夢だと思う事にした。
ヲ級「私の格好……あ、いつもの服だ……」
軽井に支給された服に身を包んでいることを確認したヲ級はベッドから降りて、ドアの方へ向かおうと考える。
ヲ級(そういえば、ル級はどこへ行ったんだろう。朝、早いから散歩にでも行ったのかな。ん、朝?)
ふと思った。窓から入る陽が明るいからもう朝か昼かと思っていたがよく確認していなかったなと。ドアへ向かうのを止めて、窓へ近づく。
ヲ級「え? どういうこと?」
窓から外を覗こうとする時、気がつく。窓の先にあるのは限りなく暗い闇だった。
見渡そうとしてもどこまでも果てしない闇が広がっていた。
ならどうして部屋の中が明るいのか。もしかして部屋の照明が明るいせいかと思って天井を見渡すが真っ黒な天井が見えるだけだった。
ヲ級(????)
ますます混乱していく。窓の外も天井も黒くなにも光源になるようなものはなかった。
ならば、どうしてここまで明るいのか。分からなくなって来て、ベッドを見ると驚く。
ヲ級「く、黒い……! さっきまではいつものだったのに……!!」
気がつけば何もかもが黒かった。光源などどこにもなかった。それならば、どうして明るいのか全く分からなくなってきた。そんなとき、ドアがノックされる。
ヲ級「だ、だれ……?!」
混乱していくヲ級は突然の音に過剰に反応する。反応をするも次はなかった。
またヲ級の心は恐怖に支配されつつあった。折角悪夢から起きた筈なのに繰り返されると思ったからだ。
そんなとき、ドアが『バンッ!』と音を立てて一人でに開く。
ヲ級「ひっ!? な、なんで…………」
その場に座り込むと『ヒタヒタ』と何者かが近づく足音が聞こえてきた。
ヲ級の心は完全に未知なる恐怖に凍り付いてその場で近づく何かに対して動けないでいた。音が近づくたびに凍りついていく。
そして――歩く音が消えた時、ヲ級の緊張は最高潮に達した。
再度、ヲ級は意識を失った。
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再び目を覚ますと目の前には花畑が広がっており、自分は死んだと思わせるには十分であった。花畑を歩いてみようと思うも身体が拘束されたかのように動かせない。
どうしてだろうと思い自分の身体を見渡すと椅子に座らされていた。拘束具はない筈なのに動けない事が信じられなかった。
ヲ級(え!? なんで、なんで!?)
そんなふうに思っていると自分の目の前に誰か座ったようだ。
おそるおそる見て見るとそこには白髪で橙色の目の人間がいた。
ヲ級「人、間?」
??「ほぉ。流暢に話せる深海棲艦がいるとは、思わなかった」
ヲ級「!? 今、深海棲艦って……じゃあここは天国?」
??「違う。ここは深海神域。私の家みたいなところだ。そうだ、私の自己紹介がまだだったな。名前は
ヲ級「私はヲ級。えっとお姫様、私はどうしてここに?」
深海神棲姫「それは私には分からないな。廊下に貴様が倒れていてな。ここに来る前に何かしていたか?」
ヲ級「なにか……? あっそうだ!」
深海神棲姫「ほぉ? なにかしていたようだな。それを聞かせてはくれまいか。何か分かるかもしれぬ」
自分の身に起きたことを思い出した素振りをしたので深海神棲姫は聞かせろという。
ヲ級は話した。自分の身に起きた事、直前のこと。また意識を失ったらここにいたことを。
深海神棲姫「そうか。最後のものはもう解決済みとして考えよう。直前はなんでまた爆発の中心なんかにいたのだ?」
ヲ級「それは大事な人を傷つけられ、壊されて許せなかったから」
深海神棲姫「自爆でもしたのか」
ヲ級「そう、だと思う。だとしたら今の私はなんなの?」
深海神棲姫「それは幽霊だろうな。肉体はここには来れない。魂の状態でしか到達は不可能だ」
ヲ級「死んだの?」
深海神棲姫「それは分からない。帰る方法が見つかるまでここに居たらいいさ。私の暇つぶしの相手になってくれ」
ヲ級「…………分かった」
こうして深海神棲姫と空母ヲ級の奇妙な日々が始まった。
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それからしばらくして。
深海神棲姫「そういえばヲ級が言っていたお姫様って私のことか?」
ヲ級「ん、似てるけど違う」
深海神棲姫「私には姉も妹もいないぞ」
ヲ級「でも私が見た記憶はお姫様が泣いてたよ。あなたともう一人……あれ? 私が知っているのはそのお姫様?」
深海神棲姫「! ヲ級、貴様は他人の記憶を見れるのか?」
ヲ級「え、うん。でも限定的な能力みたいなもの。多くの死体に触れないと辿れない。死体と言っても同属のだけどね」
深海神棲姫「それでも…………いや貴様はどこを見たのだ?」
ヲ級「確か、あなたが深いところへ追いやられる記憶とあなたがあなたと似たような人を抱きながら泣いているところ」
深海神棲姫「!!!! かなり深くまで見れるのだな……それはもう私の手元には居ない」
ヲ級「じゃあやっぱり死んでしまった?」
深海神棲姫「そうだな。死んでしまった。深海の神となった私と深海の鬼となった彼女。色々あったが最後の最後に彼女は殺されて、消えていった」
ヲ級「…………ごめんなさい」
深海神棲姫「別に貴様が謝る必要はない。命は廻るものだからまたどこかで出会える気がするのさ」
ヲ級「そう。でも私達、今の深海棲艦は一度死ぬと二度と同じ記憶を持つ個体は現れない」
深海神棲姫「そうか。いやそれが理というものだ。一度朽ちた生を元に戻すなど反していると言えよう」
ヲ級「…………でも軽井達は蘇生に関する実験も行っていた」
深海神棲姫「今の時代の所為でもあるのだろうな。戦災が絶えない時代だからこそ、なのかもしれぬ」
ヲ級「そうなのかも?」
深海神棲姫「そうだろうな。ヲ級は今の深海棲艦なのだろう? どういったモノなのか見せてはくれないか?」
ヲ級「いいけど、扱うのが上手くいかないから広いところでやりたい」
深海神棲姫「ふむ。そういうことならここでやれ。その辺は問題ない。ここは壊れないように作ってある」
ヲ級「そう。なら――って笛がないから出せない」
深海神棲姫「今の深海棲艦は笛で呼ぶのか?」
ヲ級「そんな感じ……あ、艤装を出してみれば分かるかな?」
深海神棲姫「いや無理しなくても大丈夫だぞ。多少の興味本位だからな」
ヲ級「少しだけやってみる。――艤装展開っ!」
そういうとリ級戦の時のような状態ではなく、短い杖のようなモノだけが出てきた。
杖のようなものを見て深海神棲姫は『これが笛か?』と聞いてきた。
ヲ級「うん。そうだよ。これを横にして吹くの」
そういって短い杖のような笛を横にして吹き始めたのだった。
―続く
ヲ級、何かの縁でお姫様と出会う。
まぁ死んでるわけではないので。大丈夫。大丈夫。
次話は腕が切り落とされた軽井くんの話です。