とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 ほぼ三か月ぶりの更新。

 今回は軽井と所長しか出てきません。


目が覚めたときには

 

軽井「戻ってきたのか……」

 

 私は目覚め、開口一番に言った。

 夢の中で天使(アズ)と名乗る少年と出会った。

 

軽井「そうだ。私はアズと友達になったんだ」

 

 ベッドの上からぼそっと呟いた。

 

 夢にしては、なんかリアルだったけどまぁ走馬灯の亜種みたいなものだろう。

 

軽井「さて、起き上がるか……」

 

 いつまでもベッドの上には居られない。

 私が何日寝ていたか、分からないけども仕事に復帰しなくてはいけない。

 

 上半身を起こして布団を退かそうとしたときだ。

 ジャラ、ギシ、ジャラ、ギシ……と足元から金属が擦れあう音とベッドが軋むような音が聞こえた。

 

軽井「なんだ?」

 

 足は動かせない。でも手は動かせる。

 だから、()()で布団を捲るとそこにあったのは足枷だ。

 

軽井「……は?」

 

 自分の両足に足枷がついている理由がまったく分からない。

 頭が真っ白になる。どうしてだろう、と。

 

軽井「もしかして……」

 

 と、考えられそうなことを思いながら呟く。

 

軽井「確か、私は左腕を切り落とさ――――」

 

 それ以降の言葉が続かない。

 私は、リ級に左腕を切り落とされたじゃないか。

 

 しかし今はくっついていて、ちゃんと動く。指は動くし、握れる。

 医療班がしっかりしていたからか?

 

軽井「いやなんか違う気がする……」

 

 気がつけば私は右手を顎につけて、唸りながら首を捻っていた。

 そこで、一つ思い出す。

 

軽井「そういえば、アズが私を見て自分と同じ匂いがすると――――」

 

 そう、言っていた。

 自分と同じ匂い? 

 

 アズは自身のことを天使だと言っていた。

 天使……アズを殺したあの匂い?

 

軽井「まさか」

 

 軽井の中で一つの答えが出た。

 今まで扱っていた薬品の名を――――和表記だと天死薬。英表記だとA.D.P。

 

軽井「そ、そんなことがあって……い、いやまさかっ!!」

 

 自分の中で見つけた答えが、妙にしっくりと来てしまう。

 凹凸が隙間なく、くっついたあの感じに似ている。

 

軽井「私に、アレが打たれたというのか!?」

 

 敢えて、アレと言った。

 ここには監視カメラが四隅に一つずつついているからだ。

 

 今まで、深海棲艦や忍び込んだ人間に投与されていた。

 それは私も知っている。なにせ、やった側だからな。

 

軽井「……私もモルモットの位へ堕とされたのか」

 

 落胆の声が出てしまった。

 今までのような生活は出来ない、と思うとなんだかとても寂しくて泣けてくる。

 

軽井「だが、まぁこれまでとはいかなくてもある程度は許されるだろう」

 

 そう、前向きにとらえる。

 まだモルモットコースと決まったと聞いているわけではない。

 

 しかしここでは自分はそうならない、といった考えは捨てた方がいい。

 色んなヤツを見てきたから。

 

 さて、不貞寝でもするかな――――と思った時、頭上からノイズが聞こえた。

 ノイズはすぐに消え、頭上のスピーカーから聞こえてきたのは所長の声だった。

 

『ザザッ――――あー、マイクテステス。おはよう、軽井くん。左腕はくっついているかね?』

 

 所長の問いに、対して軽井は監視カメラの方に左腕を上げて動くことを証明した。

 

『なるほどね。さっきから君の自問自答を聞いていたんだけどね。君の思う通り、さ。君にはあの薬を投与したのさ。どうだい、気持ち悪さとかあるかい?』

 

 やはり、と軽井は思った。

 問いに対しては先ほどと同じようにして答えた。今回は首を横に振るだけだが。

 

『そうか、そうか。で、君のこれからなんだけどね』

 

 きた、と思った。所長の口から嫌な答えを聞きたくない、と頭が否定を願う。

 

『これまでと、同様にヲ級やル級、リ級の経過観察と報告をお願いするよ。あぁでも君も一応、私に経過を観察されなくてはならないけどね。間違ってもモルモットコースではないから、安心したまえ』

 

 所長の言葉を聞いて、安堵する。

 良かった、と。モルモットコースじゃなくて。

 

 これまでと変わらなくていい、最も欲しかった結果だ。

 だが、所長に観察をされるのはなんだか落ち着かない、と思っていた。

 

『まぁこれからのことは君が復帰してから、かな。あとで足枷の鍵を職員に持って行かせるから足枷がなくなったら、自分の部屋に戻るといいさ』

 

 首を縦に振って、分かりました、とジェスチャーする。

 それを見たのか、所長は最後にこういった。

 

『君の復帰は今日を含めて七日後だ。ヲ級やル級に生存を報告してくれ。彼女たちとても心配そうな顔をしていたからな。それと――――人間、卒業おめでとう』

 

 ブツッ――――という音と共に聞こえなくなった。

 

 所長の言葉を思い返して、ヲ級やル級、藤尾さんやあの双子にも挨拶しなくちゃなと思った。

 

 後は職員が来るのを待っていたのだった。

 

 

 

 

 

  





 軽井、人間卒業する。
 おめでとう、やったね。人外入りだよ!

 ただまだ人外の中では最弱。卵から孵ったばかりの雛よりも弱く、脆い。

 普通の人間よりかは、頑丈だが死ぬ時はあっさりと。
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