とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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四月は中々書けなそう。


吹き飛ぶ脳漿

 

 

 翌々日、軽井は研究所内にあるモルモットの性能を試す場所へ来ていた。今回は特異能力が目覚めたヲ級、リ級、ル級の戦闘データを取るというものだった。基本的に海上で行動、戦う彼女達に合わせてやや狭いが海上を模したフィールドを用意したのだ。

 

 基本的に彼女達のどちらかが戦闘訓練を行う間に、個々で実力を測りデータ化して行こうとしている。まずはル級とリ級だ。彼女らは肉弾戦で戦う様で互いに準備していた。

 

ル級「この前の続きをやろうじゃないか? なぁリ級」

リ級「はて、何の事だったか。おまえの実力じゃ我にだってあの泣き虫にも劣るもの」

 

ル級「なんだと? 言うじゃないか、そうか。進化した私の実力を見せてやろう」

リ級「やってみろ。我も本気で向かうぞ」

 

 何やら睨み合っており、互いに殺意溢れる言動をしている様だったと軽井は感じていた。今回は軽井の他に数名の職員が共に観測している。中には機械を操作する者、どちらかが戦闘不能になった際、運ぶ者。後者は所長命令で高速修復材を飲ませるよう指示を受けていた。

 

リ級「ガラスの壁か。分厚いな……派手に暴れても壊れないだろうな」

軽井「リ級。壊したら問答無用で負けにするぞ」

 

リ級「チィッ……まぁいい。この我がル級やヲ級なぞに遅れをとると思うのか。人間共、キチンと正確にやれ。さもなくば……」

 

 ガラスの向こうにいる職員に睨みを利かせる。リ級は脅すように声を張り上げたので機械を弄る職員、データ観測をしようとしている職員の顔色は悪かった。

 

 

軽井「始まったか。では、後は任せたよ。あの二体の気の済むまで戦わせておけばいい。私はヲ級の元へ行き、他の職員と合流する」

 

 分厚いガラスの壁一枚隔てた先では金属同士を殴りつける甲高い音や鈍い音が響いていた。前回とは違う動きをするリ級とヲ級の後に特異能力に目覚めたル級。艤装を使えるリ級に劣っていると思われるがそうではない。

 

 ル級もヲ級と系統は違うが特異能力に目覚めているため、両者は互角のように思える。残りの指示を伝えつつ、ガラス壁に触れる。手のひらには二体が激しく戦う衝撃が伝わってきた。

 

 何か叫んでいるが、よく聞き取れない。海上のように作られているため水飛沫や高い水柱がいくつも出来上がっていく。軽井以外の職員たちは驚く者、啞然とする者の二つに分かれていた。だが大半の職員はこう思っているだろう。

 

『自分達はこんな化け物を生産しているのか』

 

 そう表情で見て取れる。それほどわかりやすかった。更に苛烈になる二体の手合わせを最後までは見ずに部屋をあとにする。

 

 

 

軽井「ヲ級、調子はどうだ……って煙くさいな。ここは」

 

研究員A「あ、軽井さんお疲れ様です。彼女さんの調子は良好です。特異艤装を用いた戦闘訓練以外は全て完了しております」

 

 ヲ級と数名の職員がいるだろう研究棟を訪れていた。扉を開けて入ると同時に何かが焼ける臭いと煙が鼻をくすぐり率直な感想を呟く。入ってきた軽井を見て白衣を着た職員が頭を下げ、すぐに報告に入る。

 

 熱心にデータをメモしている職員はヲ級のことを『彼女さん』とそう言った。何故かはわからないが軽井がヲ級に告白して、叶ったという情報が研究所全体に回っている様だった。

 

 翌日朝食を摂りに食堂へ入ると飯場班の連中から冷やかしを受けるのだ。まだ誰にも話していないのに一体どこから漏れたのだと思っていた。「やはり人の口には戸を建てられないか」諦めるような口調をしていた。

 

 否定せずに淡々と述べた為、みな噂話と思ったのだが当のヲ級は嬉しそうにしているので軽井の態度はただの照れ隠しだと全員思ったそうな。

 

軽井「了解。今、ヲ級はどうしている? クールタイムには入ったか」

研究員A「そうですね。入ってから数分は経過しています」

 

研究員B「軽井さん、彼女に合わなくていいのでしょうか? 頑張ったと褒めて甘々にイチャイチャしなくて――」

 

軽井「今はデータを取って上に提出することが大事だ。甘えさせるのはプライベートでも何でもいいだろう。メガネをかけた君、その冷やかすような態度を次やったら双子の所に送るからな」

 

研究員B「ひぃ!? あ、あの双子のところだけは……失礼しました。先程の失言をお許しください」

 

軽井「そうだな。許そうか……いいや後だ」

 

 場の空気が緩い雰囲気になりつつあった。軽井は少し調子に乗った職員の言葉を淡々と流し、釘を刺す。『双子の所に送る』その一言を聞いた職員は悲鳴を上げた後に固まり、涙声で謝罪してきた。

 

 涙を流し始める態度を見て『嘘泣きかもしれない』と感じ取った軽井は部下の失言を保留にして場を引き締めようとする。

 

 

軽井「さて諸君、時間は有限だ。さっさとデータを取って明日へ繋げようではないか。君たちが取ってくれたデータは明日の君たちや未来へ可能性を作ることなのだ。とても感謝しているよ」

 

 真剣な言葉が場に響く。職員らは手を止めて軽井を見ていた。途中から特異艤装を身に纏ったヲ級が嬉しそうな表情でこちらに近づこうとしているのが見えた。

 

 数名の職員がテンションの高いヲ級の方を見たのを見逃さなかった。深海棲艦と恋人している軽井が珍しいのか、はたまたそういう性格なのか。そんなことは知らないが仕事の場で舐めた態度でいる職員たちに向けて語気を強めて脅した。

 

軽井「ここは仕事場だ。学生のノリで仕事しているようであれば、問答無用で双子の所に送る。私は一応、権限を持っているからな。その方がそのノリが生かせると思うぞ。何せ、解体するだけだ。今の仕事よりもずっと楽な作業だろう」

 

 話し終えるとシンと静まり返る。普段言わない事を口にしたからか、軽井は自身に違和感を覚えていた。

 

軽井(私はそういうことを口にする人物だったのか。いや今は仕事に集中しよう)

 

 

 軽井が話し終えてからは皆、キチンと仕事している様だった。よほどあの双子の所へ行きたくないのだろう。死体ばかりの場所は常人では耐えられないと踏んでいた。以前の軽井であれば吐いているだろうが、今の軽井は違っている様だった。

 

軽井「っよし、いいぞ。素晴らしい。ヲ級、君は最高だ!!

 

 

 ヲ級が特異艤装を用いて対象物を破壊しているのを見ていると嬉しそうな表情をしている。『自分の恋人が好成績を残しているのが嬉しいというよりかは……実験動物が成長していることに喜びを感じているように見えた』と彼の隣に居た職員は語った。

 

 半年間寝ていた所為で彼の精神に何かあったのでは、と思う職員も中にはいた。だが、皆口にはしなかった。前のようにモルモットに膨大(ムダ)な時間を研究脳な軽井ではなく、今の軽井は何処か別人のようになっていた。時折、声を押し殺し、喜ぶのだがその表情は『狂気に染まりつつあるモノだ』そう最初に報告した職員は語っていた。周囲もその言葉に激しく頷いたのだ。

 

研究員C(まさか深海棲艦に精神を汚染する力があるのか……?)

研究員D(いやいや恋仲になった所為では? 人類の敵を作り出す我々も外道だが……もっと研究が必要だろうか)

 

 

 未知な部分で溢れている深海棲艦にロマンを感じる職員たちであった。

 

 

 

 ガラス壁向こうにいるヲ級は四機の特異艤装を展開し、一つ一つ対象物を破壊していく様子を見てぼそぼそと呟く。爆発の威力は的を粉微塵にするレベルだ。爆発と轟音、衝撃波。どれも並みの深海棲艦では出せない異次元の火力になっていた。

 

軽井「ヲ級。素晴らしい。いいぞ、いいぞ。その力で()()()()()()()()()()に――

 

 口からでた言葉に自身で驚いて、手で蓋をするかのように覆う。幸いな事に他の職員にもヲ級にも聞こえておらず、悪逆非道に満ちた感情を今自覚した。その瞬間、己の中に潜む気持ち悪さに眩暈がした。

 

軽井「……――オェッ」

 

 ビキビキ ビキビキ ビキビキ

 

軽井(私は今さっきなにを考えて、あのような発言を――)

 

 リ級とル級の激しい攻防でも傷がつかなかった分厚いガラス壁だが、ヲ級の特異艤装を用いた実験では耐久力が足りないようだった。一機、一機と爆発させていく度にガラスには少しずつ放物線を描くように亀裂が生じ、細かい異音も生じ始めていた。

 

『あっ! 軽井さん!! ガラスがッ――』

 

 

 ガッシャ――――ン!!

 

 ブツブツと自問自答を繰り返す軽井には職員の注意も分厚いガラスが砕ける音もワンテンポ遅れて聞こえた。だが、その瞬間大きく砕けたガラス片が軽井の前頭部を抉り取った。

 

軽井「はっ―-—…」

 

 脳の一部と血液、またそれらを構成する液体が飛び散った。白い床はピンクと赤い液体が混ざったものがぶちまけられ天井を見るように軽井は倒れ、意識が消えた。

 

 しかし消えたのは一瞬ですぐに現実に戻されていた。頭が吹き飛んだのを覚えていた軽井は右手で大きなガラス片が当たった箇所を触るもそこは血に濡れた髪があるだけで傷はどこにもなかった。

 

軽井(なんだ、死んでないのか)

 

あっけらかんと思っていると他の職員の悲鳴が聞こえる。視界をできるだけ確保しようと動かすと自分を冷やかした職員と目が合う。その職員は顔を青くし悲鳴を上げて腰を抜かした。股の中央に染みが出来ていく。その反応が当たり前だと感じていた軽井は何の事もなく起き上がろうとした。

 

ヲ級「軽井!!! 軽井、大丈夫!?」

 

 彼女の泣き声が聞こえてきた。首をゆっくりと声のする方に傾けると血相を変えて心配というか絶望した表情が見え、安心させようと手を伸ばす。

 

ヲ級「軽井! 軽井の意識がある……良かった。本当によかった」

 

 手を取り、自身の頬に当てるヲ級を見て温かい気持ちになる。このまま心配させておくのも悪いな、と思った軽井はゆっくりと上体を起こし「ヲ級、大丈夫だ。私は何ともない」そう告げた。

 

 啞然としている職員たちに「トラブルがあったが、これで提出するデータは取れた。各自、レポートをまとめてくれ。私は自分で()()をしたので掃除してから帰る」そういうとロッカーの方へ平然と歩いて行く。

 

 

 軽井とヲ級がある程度遠ざかったのを確認した職員はぼそりと呟く。「さっき死んだはずだ」と。他の職員も起きた出来事を受け入れずにいる。だって目の前には、隣には証拠があった。赤色とピンク色がまざり何とも言えない鮮やかさがあった。しかし臭いは強烈なものでひと嗅ぎしたら咽て、後退するほどだ。

 

『………………』

 

 

 皆、黙りこくってしまった。これ以上追及すると痛い目を見るどころではない気がするのだ。それこそ、自分達もモルモットのような扱いを受けそうな……そんな悪寒が背筋を伝い顔を青くした。故にこれ以上の言及、追及はしない事となった。

 

 

 




>軽井君、別人になっている?
別人みたいなのは天使のお友達になったから。それだけです。
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