とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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話数的に一歩前進したかな。


経過報告⑦ 軽井とリ級

 

 十月の暮れ。季節は冬が近づいてきているが、基本室内にいるのであまり影響を受けない。ただ特異艤装を身に纏う三体の深海棲艦が行う訓練は海上を模した施設か実際に海へ立つ訓練の二つになっていた。

 

 前者は季節の影響は受けないが、どうしても水場ということで少々涼しい気もする。後者は季節の影響を受け、また天候の影響も受ける。そのため悪天候の場合は延期するということもしばしば。

 

 軽井が目覚めてから早三か月。初日、ヲ級に告白され「自分も同じ気持ちだ」と伝え恋仲同士になれたことを皆が祝福してくれたそんな出来事から――本日。意外な事に後日、所長である宮部からも御祝いの言葉があったのだ。

 

 たまたま食堂を訪れ、照れくさそうな表情をする軽井とイチャつきたい欲を抑えているヲ級。心から祝福される二人を見ていた宮部は黒い事を考えていたが、幸せそうな二人を前に野暮だと白紙にした。

 

宮部(研究脳な軽井君がまさか、ね。恋や愛は敵も味方も関係なしにしてしまうのか。初めにヲ級を作ったのは私だが、信頼関係を築けたのは軽井君の仕事だ。彼は真っ当にこなしたと評価するべきか)

 

 イチャつきたい欲が羞恥心を突破したヲ級は人目もはばからず軽井に飛び込むのを尻目に大勢の元を去り、合成深海棲艦(モルモット)を作り出した意味を世界に分からせるために次の段階へ進めるのだった。

 

 

 

 

 同日 午後二時〇七分 生体実験室にて。

 

 

 今日はリ級の特異艤装について、本人から説明を受けたいから要請があり軽井も一緒にいる。恋人のヲ級は今頃、双子やル級と女子会を開いているだろう、と思っているとリ級から声を掛けられ反応する前に右腕が切断された。

 

軽井「――ぐ、ゥ!!」

リ級「表情に出ているぞ! 変態め。今更ヲ級と情交でもしたくなったのか?」

 

軽井「……急に腕を切断する奴があるか」

 

 

 痛みに耐えながらリ級を睨みつける。彼女の周辺には黒い靄が発生しており、彼女の意志ひとつで変幻自在に形を変えられるようになっていた。頬を赤く染めていた軽井のことが気に食わなくて”つい”腕を切断してしまったのだった。

 

リ級「あまり驚かなくなったな。この前は切断したら痛みに耐えられず発狂しただろう?」

軽井「そうだな。おまえの所為で半年間、眠る羽目になった。()()()人間には耐えられない痛みだった。――話の途中に失礼」

 

 感情が昂り、怒り、憎悪を含んだ目つきだったがすぐに冷静になった軽井に違和感を感じるリ級。本人の言う通りこの前までは腕を切り落とされ耐えられない痛みにより発狂していた。

 

 しかし今はどうだろうか。この前と同じように腕を切断しているのにも関わらず、発狂せずに冷静にことを分析している。切られた腕からは絶えず血が流れているというのに、この男は驚いていない。むしろ残念がっているようにも見えた。

 

リ級「(反応がないなもう一本奪うか)

   ……――は? 何をやっている」

軽井「だから失礼すると言っているだろう。我々に魔改造された深海棲艦でもこの現象は見たことないだろ?」

 

 落ちている右腕と切断面を合わせて、押し付けると接着面から血液が弾け散った。それを何ともないような表情で見つめる軽井と目を見開いてまじまじと見るリ級。

 

軽井「ほら、どうだ。私としてもこの事実にはとても驚いている。ちゃんと調べて提出でもしたら、人類の可能性になると思うのだが」

リ級「とうとう人間を辞めたか。これは驚くべき事実だな。戦闘は出来るのか」

 

 

軽井「いやいやただの研究員の私が出来るわけがないだろう。今もやっと体力が戻ってきたところだ。おまえと戦闘をしたら何度死ぬ羽目になるか分かったもんじゃない」

リ級「……そうだな。何度も殺してしまっては私がヲ級に殺されてしまう(笑) 今は艤装の話を聞きたいのだが、どこまで知っている?」

 

 

軽井「どこまでと言われても。我々はデータを回収し、まとめているだけだからな。大したアドバイスは出来そうにない。腕を切断したその靄も原理すら分かってはいない」

 

リ級「ル級と戦ってみて肉弾戦は面白いと感じた。特に相手の急所を突くと好感触だ。図書館で外国の技法で何かあると聞いた。軽井は知らないか」

 

軽井「そうだな……発勁(はっけい)なんてのはどうだろうか。肉弾戦なら応用も利くし、急所を突いたらきっと思うような感触を得られえるだろう」

 

 「発勁?」と首を傾げるリ級に対し、軽井は「私も何回か見ただけだからうまく見せれるかどうか。記憶力もだが、格闘家ではなく素人の見よう見まねだということを理解してほしい」そう言いながらかなり昔に見た発勁の動作を少しずつ行う。

 

軽井「何かないか。人間でも手を傷めないくらいの何かだが」

リ級「無茶を言うな。そんなものはない。……私の靄を硬質化させて使おうか」

 

軽井「便利だな。その能力」

リ級「望んで得たわけではない。だが、物にするとある程度は攻防一体の形として使えるな」

 

 「そうではない。私の体積ほどしかないがその【発勁】というのを見せろ」自身で生成した靄を硬質化させた壁を拳で叩くとコンコンと高い音が鳴った。硬そうな音を聞いた軽井は「手を傷めない程度と言ったのだが」冷や汗を流し、顔色を変えていた。

 

リ級「私は念のためどこう。ほら、ある程度でいい。見せろ。あとは図書館で学習する。なかったら無駄に多い職員に尋ねる」

軽井「……見よう見まねだからな」

 

 溜息を吐いて面倒くさそうに頭を掻く。手が折れても治ることは知っている為、諦めてうろ覚え発勁を実演する。

 

軽井(確か、動画のおっさんは……対象に当てる箇所を水のように。えっと流体だかなんだかにして、脱力からの爆発的な瞬発力とか言っていたな?)

 

 右腕の力を極限まで抜いていた。最低限は構え、腰を捻れるか動かしている。やや後ろに居るリ級は軽井の動作を一節、一節見ていた。

 

 

 発勁は小さな力でも出来ると聞いていた軽井は小突く勢いで壁を殴りつけてみた。 

 

 コォン!!

 

 鋭い音が響いた。固い壁を殴りつけたのでそうである。軽井の手には大したダメージはなかった。手は居たくないし、砕けてる折れている感覚もない。

 

軽井「まぁど素人の技法では壊れはしないだろ――

 

 ガラッ

 

 ――う、な?」

 

 黒い壁に亀裂が入り、ガラガラと崩れ落ちた。欠片がリ級の足元に転がり、彼女が拾うとまた形なき靄へと変わった。上半分が靄に戻り、下半分は残っていた。

 

リ級「……なるほど。これは肉弾戦で使えそうだ。軽井、それは拳だけなのか?他の部位でも使えるか、分からないか?」

 

軽井「流石にそこまでは分からないな。私も人間ではなくなったから、出力がおかしくなっている可能性もあるから――

 

 『それはない。強度も最高の物にしてある。ル級やヲ級のような特異艤装を用いなければ破壊はできないだろうな』

 

 そうか。それはあまり嬉しくないな」

 

 嫌な表情をしながら右手を擦る。そして握ったり、離したりを繰り返していた。リ級は軽井の発言に疑問を持っていた。

 

リ級「どうしてだ? 人間はすぐ死ぬだろう? なら我々のような肉体を手に入れた方がずっとマシじゃないか」

軽井「私は、自他ともに認める研究脳な人間であった。おまえに腕を切断されてからおかしくなってしまった。人間とも深海棲艦のような者とも似つかない。中途半端な生物だ」

 

リ級「だが、貴様は力を手にした。あの双子に聞いたが死ぬようなことをしても力を手に入れられるのは天文学的可能性らしいな。それに愛する者を守れるのでは? 貴様はヲ級が好きなのだろう」

 

軽井「守れる力か。不死のような力だからな。肉盾ぐらいにはなれるだろうな」

リ級「肉盾、か。軽井、これから戦闘訓練だ」

 

軽井「え、今日は二人の予定は女子会以外何もない――『貴様のだ』いや不要だが」

 

『貴様は覚悟が足りない。なに、少々壊しても元に戻るのだろう? 明日はヲ級に看病してもらえ……ケヒヒッ!!』

 

 特異艤装を展開し、黒い靄を部分的装甲として纏うリ級と面倒な顔だが、どこかワクワクしている軽井の戦いは女子会終わりの四人が訪れるまで続いた。

 

 満足した様子の四人が部屋を訪れると中は噎せ返るような死臭と血の匂いで充満していた。無論、戦いはリ級の圧勝である。しかし何度も死にながら戦うさまはリ級にとって気持ち悪かったそうな。

 

 

 瀕死の軽井の様子は酷く、それはもう白衣まで自身の臓物や血液の混ざりもので使えなくなっており最愛のヲ級に抱き寄せられても認知できないくらいだった。

 

 

 

 

 

 

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