一時間ほど遡った十六時五十九分 食堂にて。
宮部と共に生体実験室へ向かった軽井が私室を離れてから一時間が経過した。小腹が減ったセーレ達は夕食前だが、ブリツィオやダニエマと言った飯場の人間に何か貰おうと食堂を訪れたのだが、飯場班の一人と職員が何か言い争っているようであった。
『おい、もう一回言ってみろよ! 新人! ここの飯からドブみたいな匂いがするってどういうことだよ!! 俺らはちゃんと衛生面もきちんとしてるぞ! 入ってきたばかりの奴にケチ付けられるほどじゃねえぞ!!!!』
『……フン。何を言うと思えば、そんなことか。さっきからずっと言っているだろう? ここの飯は貴様のようなドブネズミが作っているから不味くなるんだ』
『野郎ッ! さっきから聞いていれば――なら食わなきゃいいだろーが!!』
白い服に黒い前掛けをした飯場班の一員が偉そうな態度で椅子に座っている職員を怒鳴り散らしていた。怒鳴られている職員は耳の中を掻き、耳垢をふっと飛ばしていた。その態度がますます飯場班の人間に怒りを溜めさせることだと知らないのか、とセーレは思っていた。
藤尾「あちゃ~……あれじゃますます悪くなる一方ですって。ねぇ、リリアちゃん?」
リリア「そうね。どうしてそこまで怒っているのか、分からないですが。ドブネズミと言われて怒ったのでしょうか?」
セーレ「いやそこじゃないと思いますよ、怒っているポイント。でもあの新人、ちょっとおかしくないですか?」
ヲ級「? セーレにはどう見える?」
セーレ「言動がわざとあの職員を怒らせているみたいな感じで……。邪推ですけど、何か狙っている?」
藤尾「あ! あの人新しい所長の仲間とかじゃないですかね? 職場の空気を見てこい!的な風に言われたからああいう言動をしてると見ました!」
リリア「そうなのかしら?」
セーレ「違うとは言い切れないわね……」
現場を見た彼女らは推測するが、答え分からなかった。だが、セーレだけはあの新人を凝視して事細かに行動を注視していた。その場であーじゃない、こうじゃないと唸るセーレを置いておいて席だけ確保しに行こうとした藤尾たちは中へ進んでいく。
リ級「おい、どうかしたか」
セーレ「あなたは……リ級? さっきから向こうで職員と新人が言い争っているの。それだけなのに何かこう嫌な胸騒ぎがして」
ル級「あれはわざとだな。わざと相手を煽っている。その目的は――」
ガッシャ――――ン!! ガラガラ
突如響いた音の方に視線を向けると激昂して怒鳴っている職員とその奥で倒れた椅子や机の上に倒れている新人がいた。暴力沙汰になりかけ、周囲はザワザワと騒がしくなっていく。
『んん! ってぇ~~……あたた、腰が痛い。それだけの煽りでキレるとか単細胞すぎて笑う。やっぱりモルモットだから薬の影響で脳みそスカスカなの??』
『このッ クソ野郎!』
『煽り耐性なさ過ぎでしょ!? あー、こういうのを(殺)しても楽しくないんだよなー』
『ならッ』
『いやあんたはもう終わり。バイバイ』
パァン!
食堂内に乾いた音が響く。その後には『ドチャッ』職員が前のめりに倒れ、二度と動かなかった。突然の出来事に全員、理解が出来なかった。頭が追い付かなかった。新人は銃口から出る煙を一息で消した。
『呆気なさ過ぎて笑うわ、こんなん。こうしてッ 悪はッ 正義にッ 裁かれるんだよッ!!!』
パァン! パァン! パァン!
三回引き金を引いて死体の頭部を撃ち抜く。撃ち抜かれた死体からは血と脳漿が飛び散ると同時に濃い鉄の匂いも充満していく。『さて、面はどんな風……っと。ぎゃははははっ!! こいつ、何が起こったか分からないって顔で死んでいやがる!』そう下品な、他人を馬鹿にした笑い声をあげた。
『キッ キャァァ――!!』『うわ、マジで殺しやがった!!!!』と時間差で多くの悲鳴が上がり、皆蜘蛛の子を散らしたように食堂を抜けていく。セーレ達とヲ級たち以外が一斉に逃げだしたので、何人もぶつかり合い、我先にと思うあたり醜い喧嘩が勃発しだした。
『うわ、マジで蜘蛛の子をなんとやらってやつだ。まあ逃がすわけないよね?――……全員、構えろ』
怒鳴り声、悲鳴、叫び声で食堂が埋まる中、ヲ級たちはその言葉を耳にした。リ級が『おまえら、伏せろ!!』これまで以上の大声で呼びかけた。
『射撃を許可する。まとめて蜂の巣に変えてしまえ。――放てッ!!』
瞬間。壁、窓を貫通し四方八方からリンチされる。新人の声と共に出口へ向けて光線のように銃弾が放たれ、喧嘩していた職員の身体を撃ち抜いた。壁や窓の向こうにいる集団が弾切れになるまで行われた後は、屍の山が出来上がっていた。火薬の匂いと酷く噎せ返る濃い血の匂い。数多くの人間が絶望の後に命を落としたので便やら尿、体液が混じった不快な臭いが立ち込め始めていた。
『うわっ 酷い臭い! 何喰ったらそんな汚く死ねるんだよ――ってか! ハハハ、笑う。悪い人間ってこうも
鼻を摘まんで手で仰ぐ。すぐになれたのか、動かない死体の山を見て嗤う。首を傾げて唸るも答えが見つからないよう。「まぁいいか」そうひと言呟くと外を向いて、待機していると思われる者共に伝える。
『おい、おまえら!! この島の中にまだドブネズミはうじゃうじゃいる。奴らを殺して分かったことだが、腸から酷い臭いがする。殺す前に腹の中も外も
上記の内容を言い終えると『この服、センスなさ過ぎ』と裂くように脱ぐと職員の制服を最初に死んだ職員の上に投げ捨てた。『さて、狩りに参加しますかね~』その場を後にしたようで足音が遠ざかっていく。
死体の山の一部がボコボコと蠢き始める。ヌッと腕が生え、そこからセーレやヲ級たちが出てきた。彼女らの制服は血や体液、脂でべとべとになっていた。あとから藤尾やリリア、リ級にル級が死体の中から這い上がってきた。
藤尾「伏せていて、よかったのかな」
リリア「そら正解でしょ。あの銃撃戦の後でそう感じるのなら投降したら? それとリ級、ありがと」
藤尾「ちょ、リリアちゃん辛辣過ぎない!? でもまぁ命あっての物種ですからねー……」
リリア「藤尾さんは殺人鬼なのでしょう?これくらいは何とも思わないのではないですか?」
藤尾「それは、そうだけど……好みでもない人の臓物に埋もれて悪態つかない胆力は持ち合わせていませんよ」
ル級「そうとして、だ。これからどうする?」
ヲ級「こういう状況で言うのがなんだけど、私は軽井と合流したい。きっと今は生体実験室で所長と何かしているはずだから、心強いと思う」
ル級「そりゃあな。あの変態、いや所長か? 人間も我々すら超越した能力を秘めているぞ。軽井も最近人間辞めたんだろう?ちょうどいいじゃないか」
「なら、まずはここを抜けて生体実験室を目指しましょう」とまずまずだが、方針が決まった。死体の山を踏んで、退かして抜けた先はまさに地獄の入口といった状態であった。
ほんの数十分前までは適度な明かりがついていた廊下は電球、配線むき出しで薄暗く、窓ガラスは砕け、白かった壁には血と銃痕、肉がこびりついていた。廊下には朱い墨汁で雑に線を描いたような一線が先へと続いていた。
リ級「酷い状況だ。私たちでもここまでの事を行う個体は少ない。歴史で見たが、人間はやはり愚か。その一言に尽きる」
ル級「同感だ。だが、先ほどの新人はこちら側のようにも見えるな。なにせ発言、行動が屑のそれだ。自分より弱者の尊厳破壊を好むゴミだな」
ヲ級「そうだ、リリア。アンリエルの様子は気にならないの?」
リリア「大丈夫よ、ヲ級。アンリはこういう場が活き活きとするわ。こういう、強制的にリミッターが外れるような状況は特に、ね」
藤尾「いいですねえ。美少女が骨を断ち肉を抉る、その瞬間に立ち会いたいものです」
リリア「あら? 藤尾さんも大概じゃない。私、あなたのこと調べたのよ。本土の方で少女を数名、殺したそうじゃない。それも
藤尾「あちゃー。そこまで調べられていましたか。私の黒い過去ですよ。いやー魔が差しちゃいました」
セーレ「魔が差したからって人は殺さないでしょ。何か、怨みでも持っていたの?」
藤尾「まぁ一応。大したことじゃないですよ、ちっぽけな怒りです」
リリア「怒りだけでそんなサイコパスみたいなことできるんですか」
緊張を感じられないほど和気あいあいとした雰囲気で話す内容ではないし、状況でもない。所かまわず悲鳴と銃撃音、怒声が聞こえてくる。そんなとき、リリアが藤尾についてを話し出し、本人も認め言い辛そうな表情をしていた。
藤尾「妹をいじめ殺さ」
『居たぞ!! ドブネズミの群れだ!!! しかも全員、
『まて、深海棲艦が三匹混じっている。さきにそっちを殺しちまえ! その後は好きなことをしてもいいぞって言われてる!』
『試してみたかったんだ。深海棲艦にも穴はついてるよなぁ!? それに身体がメスだったら穴っぽこはちゃんと三つあるよなぁ!?』
『なかったら、穴増やせばいい。ほかほかのハラワタでスるのも悪かねえってさっき要らん報告受けといてよかったわ!』
階段下からそんな下衆な会話が聞こえてくる。言葉から品性を感じられない、とセーレは心底軽蔑した表情をする。藤尾は聞くに堪えない雑音と捉え、どうしようか考えている様だった。
リリアは銃を持っていない分、無力化させてから殺そうかと一考していた時だった。
ル級「下劣なゴミどもめ。おい、リ級、ヲ級。艤装を取り出せ。あっちのルートはダメになるが、まだマシなはずだ」
心底イラついた声でル級は同僚に指示をした。内容は言われていないが、後半だけで意味を理解したヲ級がまず四機あるうちの一機の艦載機を階段下へ送った。艦載機に気が付いた部隊の男連中は銃を取り出し、撃つも効くわけがない。
任意のタイミングでヲ級が爆発させ、男連中諸共、階段付近が吹き飛び崩れ始めた。そちらの方にいた部隊の人間が近づいてくる声や足音が聞こえた。リ級は「少し下がっていろ。いやかなり下がれ。巻き込まれても責任は取らんぞ」そう言って天井を砲撃した。
ボォンッ!! バラバラッ ガラガラガラ
崩れ落ちる物と共に土煙が立ち込め、晴れた先には一瞬にして瓦礫の山が出来上がってた。リ級は舌打ちをし、もう一撃放つ。今度は自分とは反対の壁だ。
ル級「行くぞ。ゴミ共が来てしまう。別ルートでもいけるよな?」
ヲ級「任せてっ! 散々、探したり試したから分かるよっ」
元気よく頷くヲ級を先頭にして他の面々は別ルートで生体実験室を目指し始めたのだった。しかし状況は悪化していく一方だが。
リ級「……なぁおい。そこの角にいるぞ、憲兵が。待ち伏せしているのか、分からないがな」
セーレ「リ級、あなた鼻がいいの?」
リ級「どっかの誰かさんが私の肉体に酷いことをしてくれたせいでな。敏感になっている。それにしても酷い臭いだ。ドブを煮詰め、更に血とクソを混ぜた感じの憲兵だな」
藤尾「そんなに……つまりは外道ってことね」
うへぇと嫌な顔をするセーレ。リ級とヲ級、ル級は特異艤装を展開し、いつでも戦闘が出来るよう準備をする。藤尾、セーレ、リリアは逃げれるよう準備をする。逃げつつも応援を連れてくる、よう三者が復唱していた。
リ級「ヲ級、ル級。憲兵と会敵したら、即殺せ。――いやル級が前に出ろ。おまえが主とする肉弾戦ならば屠れるだろう。ヲ級は後続を殺せ。いたらの話だが、それか人間どもを殺させるな。いざという時、盾になれ」
ル級「了解だ。フン、違う形でだが人間に復讐できる機会が訪れるとはな。遊べないのが、実に残念だがな」
ヲ級「うん。分かった。
リ級「言われなくてもそうするがな。――いや作戦変更だ」
ル級「?! 急になにを言って――」
ドシュゥッ――!! バァン!
リ級が斜め上に砲撃を放った。弾が当たり大きな音を立てて、建物の一部が崩壊した。大きな瓦礫は角でいるとされた憲兵の方に降り注ぎ『グシャ!グチャッグチャッ!』何かが潰れる音が聞こえ、後に静かになった。
リ級「すまないな、ル級。この方が一番早かった。被害はゼロだ、この先はいけない。迂回して行こう。ん? ヲ級、何か言いたそうだな、気になるから言え」
ヲ級「……そうか、でもこの先の迂回ルートは警備班の棟に繋がっている。100%戦闘しているだろうから、こちらも避けられないとおもう」
リ級「そのつもりだ。私もル級も暴れたりないと思っていたからな。そこでお別れだ。おい、人間共。後で合流するぞ。誰一人として死ぬなよ」
「はぁ」と溜息をついてヲ級と共に先導していく。藤尾もリリアも彼女の態度には驚ていていた。出会ったときからまるで違う。口調こそあれであるが、丸くなっているような印象を受けた。
「おい、時間はない。早く行くぞ」そう呼びかけたリ級の顔は少々苛立っている様だった。だが、こういう場では深海棲艦としての彼女らは頼もしいと感じついて行くのだった。
警備棟 管制室にて。
?「バララララ! ダララララッ!……っと。弾は使い切った? いや殺した連中から物色すればいいか!」
隊員A「切窯さん! そんなにミンチにしたら綺麗にするもなにもないですって」
切窯「あ~~?なに? 俺っちのやり方に文句あるわけ? それだから垢ぬけないモブインポ野郎って言われるんだゾ!」
隊員A「なにを関係ないことを――」
切窯「だから、文句あるのって優しく聞いてるうちに答えろよ」
警備員の死体を物色しているのは最初に食堂で職員を殺した新人に扮していた男の名は
もしかして「みぃんな、敬虔な信徒なの」かと苛立ちを募らせているところにまだ虫の息だが生きている警備員を発見した。
切窯「おっ! もしかしてラッキーボーイってやつ?
警備員F「う、ぅ……この、屑が……」
這いずって廊下へ出ようとする警備員を捕まえようとする部下を止める。部下共が何か言う前に「あれを餌にするの。生存者がいると勘違いしてきたドブネズミを芋づる式に引っこ抜くときの快感と言ったらねぇ!」などと過去の記憶に耽りながら下劣な笑みを浮かべては、周囲をドン引きさせる。
警備員F「はぅ、はぁ、うぅ……」
男は切窯らに馬鹿にされながらも命辛々、死臭の満ちた部屋を出て体力の続く限り這いずり、起きた出来事を誰かに伝えようとしていた。そんなとき、運よくリ級一行らと出会い、声の出る限り事実を伝えようとした。そのときだ。
パァン!
警備員F「グぅッ! ……ダ、メ……ァ」
事実を伝えようとした男を射殺した。しかし視線の先には特異艤装を展開し、更には黒い靄を発現させたリ級。険しい表情をしつつ同じく特異艤装を展開したル級を見ていた。
切窯「んー?ほら、やっぱり! 活餌は最高じゃないか。壊しがいのある玩具に犯しがいのあるペットも連れている! 君たちはヲ級と女の子たちを殺して。あ! でもダメだよ、懺悔させてから殺すなんてことはね。俺っちは教会の人間でもないんだから」
リ級「会話機能のついた生ゴミが。これ以上腐臭をまき散らすな。ル級、私よりも前に出ろ」
切窯「お、なになに?! ル級が相手してくれるの? でも大丈夫? 守りながらじゃ、ろくに戦えないんじゃない??」
過剰に煽る相手に対し、リ級は主砲を斜め後ろの天井に向ける。ル級とヲ級は意図を汲み取り、目配せをする。発現させていた黒い靄をセーレ達の頭上に流すと同時に主砲の引き金を引いた。
リ級「心配無用だ」
ル級「おまえたちの相手は私とリ級だからな」
砲撃が当たり、砕ける爆音と崩落しだす天井。土砂崩れのような轟音の中、ル級は呟いた。自身の頭上に落ちてくる瓦礫は殴って壊し、静まるのを待った。
切窯「……は? もしかして、君たちだけで相手できると思っているの? たかだか二隻の深海棲艦だけで? っつぁ~~……舐められたもんだよ、全く」
リ級「貴様らもそれだけの数で足りるのか? 足りず、上に泣いて助けを乞うのではなかと心配だな」
切窯「それなら安心しろよ、深海棲艦。あんたらが調子乗ってられるのも時間の問題だ」
こうしてリ級&ル級vs切窯&部下の戦いが始まった。時刻は既に十八時前。日は沈み、壊れかけた棟内は非常に薄暗い状態となっていることをまだ誰も気がつかない。
グロい描写を下品かつ下劣な言葉で使えるか少ない語彙力で頑張ってみました。