とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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1/20(予定)0章は20話まで(予定)


0章 1話『今後について①』

「では作戦についての詳細な説明は日を改めて伝えるとしよう。芙…いやヴェルダー。いち組織に与するものとして守らねばならぬのは時間厳守だ。必ず指定された日時に現れなさい。一秒でも遅れれば、次はない」

 

 そう言って織間は退室する前に、「見送りは不要」と忘れずに告げて執務室を出る。

 

 こつこつと革靴の音が離れていく事に気が付いたあきつ丸は、彼の背を追おうとしたが、はっと表情を変えてこちらを振り返る。

 

 そして彼女は芙二や冷葉、彼女たちにも一礼して静かにその場を去る。

 

 織間やあきつ丸が帰った後も芙二は喋ろうとはしない。握手をし合ったときの表情とは全く異なり、(ゆう)水葬姫(すいそうき)はどうしたらいいかと困惑を隠しきれない様子だった。

 

「芙二? 俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」

 

 先ほどよりも少し落ち着いた冷葉が、芙二の肩を軽くゆすりながら声をかける。

 

「先にその問いにはまず答えておこう。

大丈夫じゃない、冷葉。

(オレ)の中で行き場のない怒りが行き場をなくして、ずっと燃えてる。

……まぁ今さら感情だけで動いても解決はしないな」

 

 やや不安そうな表情の冷葉の顔とは対照的に笑みを浮かべて芙二は答えた。

 表情は取り繕った笑顔であっても、目の奥は怒りに震えているように感じる。

 

 きっと芙二の脳裏には復讐と殺戮の二文字が浮かんでいるのだろう、と冷葉は考えていた。

 

「しかし、だ。今怒りに身を任せていても問題は解決しない。今後について、早急に策を練る必要がある。冷葉、一つ確認をしておこうと思うのだがここ……東第一泊地の管理権はもう冷葉や陸翔殿が持っているわけではないんだな?」

 

「そうだ。俺はまだ提督ではあるが管理権を奪われた以上、谷部提督たちから新たな指示が下されない限りはここでの業務は行えない。深海棲艦が発生したとしても艦娘を新たに作って防衛する事もできない」

 

 その言葉に芙二は顎に手をやり、小さく唸る。

 

「ならば、今後の目標は奪われた仲間の奪還と管理権の取り戻すことが最優先だ。海軍の非情派の連中を拘束した後に陸軍や警察に渡したとて、管理権を取り戻せるか分からないのが不安要素の一部だな」

 

 芙二の言葉に対し、この場にいる皆は納得したように頷く。

 ここ直近で加わった(ゆう)――夕雲(ゆうぐも)

 

 彼女の妹の水葬姫(すいそうき)――清霜(きよしも)も同様に、その意見を受け入れているようだった。

 

 この場にいる全員の心に、今やるべきことが二つ、深く刻まれる。

 一つは、谷部を含む海軍の中で非情派と呼ばれる人間たちの摘発と拘束。

 

 短い運営期間とはいえ、

 ここで共に戦った仲間たちとの絆を踏みにじる行為は、決して許されない。

 

 そしてもう一つは泊地の管理権を取り戻すこと。

 

 未だ深海棲艦が跋扈する海において、防衛手段を奪われたままにはできない。特殊部隊への参加が決まっても、泊地が戻る保証はない。

 

 交渉材料として扱えるカードをいくつか用意する必要があった。

 芙二が考えを巡らせていると、夕雲が肩を叩く。彼は顔を上げ、彼女の視線を受け止めた。

 

 皆が自分の言葉を待っている。その事実が芙二の胸に重くのしかかる。

 宣言が必要だ。誰かが、この作戦の始まりを告げなければならない。

 

 芙二の内で、ひとつの炎が灯る。

 それは復讐の炎とは異なる、陽の光のような熱を持つ意志の炎だった。

 

 彼は一歩前に出て、龍神の姿を纏う。空気が震え、視線が集まる。

 

「海軍や他人を待ってこれまで築きあげた物を失うくらいならば、自らで護るしかない。今この場を以て非情派の連中から攫われた仲間を奪い返し、泊地の管理権をも取り戻す。泊地奪還作戦の始まりを宣言――」

 

 最高のタイミングで声を張り上げた、その瞬間。先ほど閉じた扉が、ひしゃげた音を立てて芙二の方へ吹き飛んできた。

 

「――するっ!?」

 

 予想外の出来事に対応できず、素っ頓狂な悲鳴をあげる。

 扉に圧し潰されて倒れた机の下敷きになった。

 

 此度の戦を収めた龍神化までしてかっこつけたのに台無しになる瞬間である。

 突然の出来事に芙二以外の全員が扉の先を見つめた。

 

「ちょっとこの事態はどういうこと? 私たちがあいつらから逃げていた最中に何が起きたのかしら?」

 

 長い溜息を吐きながら、舞い上がった埃を払うようにして現れるのは東第一泊地の初期艦である叢雲(むらくも)

 

 彼女に続くように室内へ現れたのは、対ゴルヴルチカ戦で参戦したサラトガ、時雨(しぐれ)、ヴェールヌイの三名。

 

「ちょっとムラクモ?! 提督の宣言を終えてからでもよかったんじゃ……泊地はボロボロですが提督となる二人がいてよかったと安心するべきではないですか」

 

「やっほ~、冷葉さん。あれ、少し見ないあいだに老けた? それに見たことない艦娘も――って清霜?! どうしてここにきているの? もしかして提督が誘ったとか?」

 

「はろー、冷葉司令官。たった今お星さまになった元司令官の為にも、これから頑張ろう。ここにはまだ暁たちもいないけど……きっと何とかなるさ」

 

 三人が思い思いの反応を示す。そのせいもあってか先ほどとは打って変わって賑やかになる。思わぬ再会に驚く者、蚊帳の外にされて苛立ちを隠せない者、冗談めかしく話しかける者。

 

 依然として扉と机の下敷きになったままの芙二であったが、彼女らのやりとりを耳にして口角が上がり、しまいには笑い始めた。失笑ではなく、愉快であるから笑えたと実感する。

 

 扉や執務机を押しのけて、立ち上がる。服やズボンについた埃や汚れを払い、目に明かりが戻った状態でこの場をぐるっと見渡す。

 

「……とりあえず作戦の宣言は後にして、だ。叢雲。いいやみんな、よく熾烈な戦いから戻った。ありがとう」

 

 その言葉に賑やかだった場がシンと静まりかえる。そして再び芙二が話し始める前に、叢雲が飛び出していき芙二へ抱きついた。

 

「バカね、こういう時は『ただいま』って言うのよ。

 そうしたら……私たちも『おかえりなさい』って言えるもの」

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