とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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0章 3話『今後について③』

 

 清霜の泣き声がやわらぐと時雨がそっと距離を取った。

 叢雲がいる方へ向かう彼女を、清霜もそっと追いかける。

 その時、清霜が時雨の隣に腰を下ろそうとしたのを見て、芙二が優しく促す。

 

「少し長くなりそうだから、おまえ達も椅子に座ってくれ」

 

 芙二が虚空に手をかざすと、音もなく折り畳み椅子が人数分、取り出した。

 

 皆が驚きつつ、礼をして静かに腰を下ろす。

 芙二もしずかに席につき、軽く咳ばらいをした。

 

「それで今後についてだが、(オレ)はおまえ達をどこかへ預けようと考えている」

 

 深い静寂が一瞬広がる。叢雲は眉を吊り上げて怒りの眼差しで彼を睨む。

 

 時雨や清霜は互いに目を合わせて戸惑いを隠せない。

 サラトガや夕雲は口元を押さえ、ヴェールヌイだけは静かな表情で見つめた。

 

 だが、彼女は不安と困惑の表情で口を開ける。

 

「芙二司令官。その決断は……いや止めよう。きっと芙二司令官が出す最善策なんだろうね」

 

 逆に冷葉は芙二と同じ考えのようで頷いていた。非情派の連中に管理権が渡ってしまっていう今泊地は安全ではない。このまま泊地にいたら、きっと……。

 

 冷葉は大きく身震いをする。想像するだけで最悪の未来だ。最終的に芙二が何とかしてしまうだろうが、事態を未然に防ぐことは可能という事実に目を背けはしない。

 

 彼とて、もう二度と目の前で仲間を失うわけにはいかない。たとえ死んでいないとしても。

 

「俺も芙二の考えには賛成だ。しかし芙二? この人数を受け入れてくれる場所はあるのか?」

 

「今の候補としては陸翔殿がいる第三鎮守府。あとは月見殿の第四泊地。諸事情があって第二鎮守府の音宮殿は除外させてもらう」

 

「諸事情というのは?」

 

 サラトガがすかさず質問する。

 

(オレ)が危険人物と見る者ばかりだから。それに深海化した艦娘の事例もない。一方、第三と第四は深海化した艦娘が複数いて、(オレ)の正体を知る艦娘もいる」

 

 時雨、サラトガ、叢雲は頷く。だが、冷葉はさらに突っ込む。

 

「なら、月見殿やグラーフ殿じゃなくて、誰がおまえの正体を知っているんだ?」

 

「不知火だけだ。彼女があの衝撃を簡単に忘れられるとは思えん。だが、月見殿へ報告されたかどうかは分らんな」

 

 芙二はその先を口にする前に、時雨に目を向けた。 

 

「第四の不知火……あれは、君と一緒だったときの出来事か?」

 

 時雨は軽く頷き、数秒の沈黙の後、静かに口を開いた。

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

「いいぞ」

 

「不知火の他にもいたよね? えっと名前はアクィラさんだっけ? 提督が、いや芙二さんが自信を狼男に化かしてたじゃん? その時にシエナのシンボルがどうとかって。彼女は一応芙二さんの正体を知っている艦娘っていう判定はできないの?」

 

 時雨の問いに、芙二は首を横に振る。

 

「できないな。あくまでもあれは錯乱状態で精神を治める為に、彼女が生まれ育った土地の知識を利用したまでよ。(オレ)が一度死亡した。その影響でもう彼女が受けていた術は解除されていると思う。なにせ術者が一度だけこの世から失せたからな」

 

 時雨は芙二の言葉を聞いてから、腕を組み上半身を傾けて唸る。

 ほんの少しのあいだ、その場に静寂の空気が満ちた。

 

 考えが纏まったのか、体を起こす。

 その時の彼女の様子はいつもとは違い、青い目を細める。

 呼吸を整えるふうにゆっくり息を吐いて足を組み、芙二を見つめていた。

 

「一度、死ん……あぁやっぱり僕たちと同じだったんだ。実は僕も叢雲も死んだんだよね。あっちでエルナさんやミアさんにも会ったよ。叢雲が来るまでかなり長い時を過ごしていたかな。うーん、それにしても芙二さんはもう少しエルナさんに報告すべきだと思うな」

 

 目線を別の場所に移していると、芙二が勢いよく立ち上がり時雨に迫る。

 大きな音を立て椅子が横に倒れた。

 

「どうして、おまえがあの二人の名前を知っているんだ! どこか体の不調は、精神の不調はないか?」

 

 芙二は時雨の両肩を掴み、干渉する能力を用いて肉体と精神、魂の状態を事細かに調べる。

 

 何も異常がないという結果が出るまでの一分間。

 時雨は軽い気持ちで二人の名を口にしたことをわずかに後悔していた。

 

 何も問題がないと分かると、ホッと胸を撫でおろす。時雨に軽く謝罪をすると次は叢雲の方へ体勢を変えた。艦娘とは言え女性の体を許可なく急に触れる芙二に嫌悪感が滲む表情を見せる。

 

「次は叢雲、おまえだよ。なぜあの場に現れたのか、答えは想像つくが、確認させてほしい。心配を消したいだけなんだ」

 

「いっいいのだけど!? そもそも肩ではなくて、手のひらでもいいんじゃないかしら?!」

 

 叢雲の目線だと、自分よりも背の高い男が息を荒くして自身に迫る光景は恐怖の一言に尽きる。それは例え見知った相手であったとしても、だ。

 

 それに光源を背にする体勢は、顔や体には強く影を差す。

 芙二は自身がやや興奮気味なことに気が付く。

 

「けほん、けほん! それじゃあお手を拝借して…」

 

 椅子に座る叢雲の前に片膝をついて、そっと右手を掴み自身の胸元へ近づける。

 

「っふぅ。んんっ…はぁっ、ぁぁっ」

 

 時雨の時とは違い、叢雲は小さな声で嬌声をあげる自身に対して必死に抵抗する。

 右手の指先を通して、ビリビリと甘く痺れる快感が伝わってくる。

 

「……もう少しかかりそうだ」

 

 その言葉に聞いて、甘く痺れる快感を前に叢雲の上半身を力なく下に倒れる。

 

 彼女の様子に驚いた芙二が能力行使を一度止めて、声をかけようとした。

 診察中の微弱な快感に、恥ずかしさを隠しきれなかった彼女は叫ぶ。

 

「アンタッ! 変なとこで止めるくらいなら、最初からやらなきゃよかったでしょッ!!」

 

「わ、悪い。すぐに取りかかるよ」

 

 叢雲の言葉に驚いた、彼は再度能力を用いて身体の隅々まで調べた。

 

 

「そういえばエルナさんやミアさんっていったいどういう方なんですか? 提督のお母さまのお友達? それとも親戚の方ですか?」

 

 芙二と叢雲が何やら行っているときにサラトガは両手でメガホンを作り、小声で時雨に聞く。

 さっきまでの芙二とは違う豹変ぶりに皆が興味を持つのは仕方ない。

 

「うーん、そうだなあ。なんと言えばいいか。一言でまとめるなら命の恩人かな?」

 

「命の恩人? さきほど一度死んだと言ってましたが、そのときの?」

 

 サラトガの問いに、時雨は首を横に振る。

 

「芙二さんが人間だった頃の、命の恩人だよ」

 

 その一言に、場の空気は一瞬硬直した。皆の視線が、芙二を捉える。

 一斉に刃物を突き立てられたと感じた芙二は、低く言った。

 

「……時雨? ちょいと口が軽いんじゃあないか? (オレ)が笑ってるうちに謝るといい。そうでなければ物理的に、頭を地面に叩きつけるが」

 

 徐々に強くなる殺意を前に、時雨は固まる。

 ただ見られているだけなのに、身体が硬直して動けない。

 彼から目線も外すことができず、身体の中が寒温の差でどうにかなりそうだった。

 

「あっあの」

 

 いつのまにか時雨の周囲には誰もいなくなっていた。

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