とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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0章 4話『在る罪人の昔話』

「……」

 

 芙二は目が泳いでいる時雨をじっと見つめ、重いため息を吐いた。時雨が謝るまでのわずかな間に、芙二の左腕は膨張し、ぐちゃぐちゃとい異音を立てながら異形へと変わっていく。

 

「一度、キツイ仕置きが必要なようだな?」

 

 肉と骨と筋が、適当に張り合わせたような塊へと変わり、その皮膚の中からは金属片が無数に突き出す。

 

「て、提督? そこまで秘密を漏らそうと思っていたわけじゃ……ご、ごめんなさい!!」

 

 頭を下げて、謝罪を口にする時雨を見た芙二は再び溜息を吐いた。

 

「……はあ。まったく、すぐにその言葉を口にしていれば余計な手間が要らなかったろ」

 

 変形しつつある自身の左腕を徐々に最初の状態へ戻していく。

 

「さて、どこから話したものか。過去に(オレ)は人間ではない、と言ったのは覚えているよな? そして亜人という細かい分類の中で龍人族(りゅうじんぞく)という種族だとも」

 

 芙二の言葉に冷葉が頷くと、相槌を打つように話し始める。

 

「あれは衝撃的だった。それに*1日之本(ひのもと)の入学式で早々に最前線へ行きたいなんて教官に言うもんだから引いたのはいい思い出だな。そしておまえの正体を知って合点がいった」

 

 

 

(オレ)としては他人から信じられないでいた方が何かと都合が良かったのだがな。流石に人前で使い過ぎたかなって思ったよ」

 

 冷葉がそりゃそうだ、とも言いたげに頷く。その反応と同じように叢雲達も頷いた。

 

「けほん。本題に入ろうか。確かに時雨が言った通りで合っている。吾は元人間で、原因不明の即死攻撃をくらった。深海神棲姫(しんかいしんせいき)のエルナという女神に助けられた」

 

 死して霊魂となった状態のとき彼女との会話の途中でこの異能を授かった、と付け加える。

 

 叢雲と時雨以外の艦娘達は新しい単語に聞き覚えがあるか、互いに聞き合っていた。そのなか冷葉が真剣な面持ちで問とう。

 

「原因不明? 死ぬ前の記憶はあるのか?」

 

「死ぬというか、寝る前のだがな。とある出来事を直前に控えていた。その出来事の後はとても忙しくなるから、と過去に遊んだことのあるゲームで遊んでいて布団に入った所までだ。そして気が付いたときにはもう死んでいた。いや詳しく言うならば、世界から(オレ)という存在が抹消された後だった」

 

 話の始まりから途中までは、芙二さんもそう言うのに興味があった年頃だったのですねという誰かが発した小さな声が聞こえる。しかし最後の一言により、周囲の雰囲気が静まりかえった。

 

「はぁ?! おまえという存在を抹消された? 誰に? 何の目的で? それはいったいどういうことだよ。神隠しのような出来事が実際にあるのか……?」

 

 冷葉の言葉に何人かが、頷いた。

 

「それは(オレ)も知らない。だが、エルナは言った。

 

『――貴様はあの世界から消されたのだ。生きていた世界から存在そのものを。生きた時間、思い出も。友情、絆――全て消されたんだ。あの世界では君は元々産まれてすらいない。それよりもそういう認識にされてしまったことが最もな理由だ』

 

そんなことを言われて誰が信じられると思うか? 信じたくなかったが、信じて受け入れるしか道はなかった。何故ならもう既に死んでいる。幽体離脱なぞ甘い幻想を抱いても意味がないと思い知らされた」

 

 芙二は背もたれ付き椅子に座ったまま、拳を握りしめて何度も太ももへ叩きつけた。次第に殴打する拳から血が滴り、口元からはギリギリと歯ぎしりの音が聞こえ始めた。

 

「それで、とある出来事に触れてもいいのかしら?」

 

  叢雲が芙二の心から湧きだした怒りの沈黙を破る様に言った。

 

「構わない。ここでとある出来事についてだが、とてもタイムリーな話になる。それはなんだと思う?」

 

 叢雲の言葉を最後に握りしめた拳から徐々に脱力させていくなかで、ややおどけた様子で皆に問う。言い終えてからすぐにヴェールヌイが真面目な顔で言った。

 

「それはアイリとカインの首謀者二人と深海棲艦が結託して引き起こしたテロ事件かい? 司令官、流石にその冗談は笑えないな」

 

 ヴェールヌイは眉を吊り上げ、目を細めて言いきる。そして椅子から立ち上がると、芙二の元へゆっくりと歩いて行く。

 

「じゃあ芙二司令官は元人間だったとき、彼女達と同じ立場だったというの?」

 

 目の前まで近づいて、見下ろして言う。ヴェールヌイの問いに対して、芙二は過去に夢見た自分の上映会の内容を思い出す。

 

「厳密には違うが、大衆から見てしまえば(オレ)もアイリも何にも変わらない。彼女もまた自身の魂を燃やすような者であった。世界に対して果てしない憎悪を向ける、と言う意味でだ」

 

 目線を上に上げて、ヴェールヌイの顔を見た。

 

「なんでそんな顔をするのっ?」

 

 芙二の表情を見たヴェールヌイは青ざめて、一歩下がった。否、後退の原因は表情だけでなく生物の本能に強く呼びかけるもの。

 

 他の艦娘も冷葉は椅子から立ち上がり、芙二から距離をとる。その様子を見て、芙二は周りに言い聞かせるようにひと言放つ。

 

「あまり聞いていい話ではないからな。それ以上追求させない為にも、手を打たせてもらった。吾オレが元人間であった事、元の世界では国家転覆の手引きしたこと、それらは不変の事実だ。そして転生を果たし、この世界(みんな)の為に尽力をするただの異邦人(よそもの)」 

 

 皆が固まっていると「それだけは忘れないでくれよ」という言葉を最後に生物の本能を刺激するオーラはパタリと消え失せた。

 

「さて、と話をまとめてしまおうか。みんな、席についてくれ」

 

 そうして再び着席を促すのだった。

 

*1
日之本海軍兵学校は提督や憲兵などを育成する士官学校。

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