とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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0章 9話『早とちりの結末①』

 怯えた眼差しで、周囲を見渡す彼女を前に、芙二は酷く冷血な態度で接する。

 

福井(ふくい) 菜央(なお)か。今更なんの用だ? 凛や使用人が気になるのか? まだ生きているよ。だがな、アンタが娘も、(オレ)の言葉も信じず行動を起こしたからこうなったと思わないか?」

 

 まだ生きている、という言葉を聞いて菜央はホッと胸をなでおろす。

 冷たい眼差しのまま芙二は、彼女から視線を外す。

 

 延命処置をした冷葉の元へ向かう。

 芙二が冷葉の手首に触れて、脈を測っていたその時、ひとつの命が終わりを迎えた。

 

 凛の口から不規則な呼吸音が途絶えた。

 傍で介抱していた菜央は、血相変えて娘の肩を激しく揺らし名前を呼ぶ。

 

「凛ッ!? 凛っ!! っりん! お願いだから目を覚まして、お母さんを、私を置いて行かないでェ!! 目を開けて!」

 

 その様子に対し芙二は一言だけ、感情のない声で呟く。

 

「痛みに耐えきれず、死んだか」

 

 娘を失う母の悲鳴に煩わしさを感じていたが、無視し冷葉の治療を進めた。

 少しして、視線を菜央に向ける。

 

「あ、そうだ。アンタが呼んだ、雀酔組(じゃくすいぐみ)の鮫島ってやつとその部下はもう殺しちまったけど文句ないよな?」

 

 三つ頸の獄炎獣(ケルベロス)が最後の一人の首と身体を食いちぎったのを見て、振り向く。

 

 腹を空かせた肉食動物のように死肉を食い漁る。

 その度にケルベロスの赤黒い炎の毛が波打つように揺れる。

 

 芙二の話など聞いていない様子の菜央を無視して、口元に血をつけたケルベロスを呼び寄せて褒める。甲高い声で鳴き、ベロベロと容赦なく顔や体を舐めた。

 

「よ~し、よしよし。いい子だぞ~! いい子には~ご褒美あげちゃう!」

 

 三つの首が順番に甘えた鳴き声を上げながら、巨体をぐるんと丸めて腹を見せる。まるで忠犬のように、芙二の手の動きに合わせて赤黒い炎の毛が波打つ。

 

 芙二の手が赤黒い体毛に触れると焼け焦げず、むしろ周りに吹き付ける僅かな熱風で橋の欄干が歪む。ふたつの頭は芙二との触れ合いに夢中だが、ひとつの頭が背後に立つ存在を前に唸る。

 

『ヴヴヴヴッ!』

 

 ひとつが吠えると残りも反応して、芙二の背後に立つ存在に対して敵意を向ける。そして器用な猫のように身体を柔軟にひねり立ち上がると吠えた。

 

 芙二が振り向くと、

 

「またあんたは……何を呼んだのよ」

 

「芙二さん、とうとう僕たちの知らない世界へ旅立ったんだね」

 

「ふええ……あのわんちゃん、頭が3つあってこっちを凝視してる。流石の芙二さんが手懐けたとしても引きますね」

 

 そこにいたのは怪我を負っていた叢雲や時雨、清霜であった。牙を剥きだしにして唸るケルベロスに対して、芙二は落ち着かせようと動く。しかし落ち着かせる為に、声をかけ身体に触れてもケルベロスは一向に唸り止まない。

 

 今にも飛び掛かりそうなものを制する為に、泊地への転移扉をひとつ作る。

 

 とても小さな声で、「転移門(ゲート)」と呟いた。

 

 

 叢雲たちの方へ身体の向きを変えて体へ触れる。

 彼女たちの奥に転移用の扉を召喚して、その奥へ入れるように強く押した。

 

 目の前にいる三人が完全に中へ入ったのを確認して、扉を閉じる。

 そして同じことを冷葉、サラトガ、(ゆう)、ヴェールヌイにも行う。

 

 本来泊地にいるべきであった者を送り返し、最後に扉を閉じる。

 一連の行動について、菜央とケルベロスは何も口出しすることはできない。

 

 ケルベロスに至っては唸る気も失せてしまっていた。自らの主が少々機嫌を損ねていることに命の危機を感じる。

 

「こらっ! 彼女たちは敵じゃない。むしろ味方で、(オレ)の仲間だ。警戒させたのは悪かった」

 

 ケルベロスは自分たちの意志を告げる前に、彼の前に座り込み降伏を示す。

 

「おっ! 分かってくれたのか。よ~し、偉いぞ。ケルちゃんはちゃんと教えたら理解してくれるいい子だな~」

 

 ケルベロスは抵抗せず、自身の主に撫でられる。

 

 突然、ケルベロスは黒炎に包まれる。

 炎を見た者たちは悲鳴をあげ、未知の脅威に警戒する。芙二もその中の一人。 

 

 だが黒炎に包まれた巨体が崩れ落ちることなく、むしろ天を仰ぐように昂然と立ち上がる。

 三つの首が同時に天へ向かって咆哮した。

 

 それは人の耳には戦慄をもたらす咆哮でしかない。

 次の瞬間、爆ぜるように炎は散り、灰色の風だけが残された。

 

 芙二と菜央は、声も出せずその場に固まった。

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