とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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R3 12/25 サブタイトルを変えました。

筆がノったので早めに投稿できそうです。

誤字脱字だらけかもしれない(多分そう)ですがよろしくお願いしま




幕間  ある艦娘の昔話

 数日前 南西諸島海域にて

 

 雲一つない真っ青な空。地平線の向こうまで見渡せるほど視界は良い。海のど真ん中に立つ者の名は時雨。白露型の艦娘であり、彼女は目が覚めたら海上(ここ)に居た。本当にどうしてこうなったのかは分かっていなかった。ただ一つ分かることと言えば、艦娘として深海棲艦を討つという使命があるだけでそれ以外はなにも知らない。

 

時雨「はぁ…」

 

 突然の状況に無意識のうちにため息が出てしまう。時雨は「どうしたらいいんだろ?どこかの鎮守府か泊地に行く?」と深刻な表情で呟いていた。時雨の脳内にて示される泊地、鎮守府という単語は慌てふためく自分の心を落ち着かせるような気がしていた。自分にとって大事な場所。そんな気がしていたのだ。

 

時雨「あぁ…海はこんなにも青いのに…」

 

 自身の心とは対照的な青空が少し憎いと思い、比べてこの状況は不幸だと嘆いていた。

 しばらく海を彷徨うと突然、渦潮に遭遇してしまい足を取られ海の中に引きずり込まれてしまった。

 

 驚き、必死に出ようとするも渦の力はとても強く藻掻けば藻掻くほど溺れて意識は混濁していく。

 

(こんなところで……)

 

 最後の酸素が口の中から外へ出て行く。白い気泡が海面へ上昇するのを見つめながら目蓋は閉じられた。

 

 

 気が付くと何処かの島に漂着していた。耳元では波の音が聞こえ、冷たい海水が頬や身体中を濡らしていくのが分かり、意識はゆっくりと覚醒していく。

 

「生きてる、沈んだと思ったのに」

 

 自身に起こった奇跡に感謝しつつ、起き上がると右の方から何者かがこちらに近づいてくる音が聞こえ警戒する。深海棲艦であれば、戦わなければならない。しかし現在の状況では万に一つの勝機もない。だからそうではないことをただひたすら祈っていた。

 

 

?「おい、そこで何をしているっ」

 

 時雨の耳に聞こえてくる声は低い。それだけで深海棲艦ではない事が分かると少しだけ警戒心を解く。だが完全には解かないは本能ゆえだ。声のする方へ振り返るとそこには白衣を着た男性がいた。

 

時雨「渦潮に足を取られて……」

 

 ありのままの事実を話していた。

 だが、白衣の男性は疑いの眼差しを向けたままであった。

 

 本人も事実を話しているのに!と疑り深い白衣の男性に何とかして怪しい者ではないことを証明させようと思っていた。

 

??「おい、何事だ」

 

??「所長!この島に艦娘が居たので声を掛けただけです。本営所属でしたら、始末しようかと思っていました」

 

所長「ふむ…なるほど。君はどうしてここに?」

 

 白衣の男性と同じことを繰り返し説明した。

 

時雨「渦潮に足を」

 

 

所長「渦潮、渦潮か。なるほど、確かにここは渦潮の発生率が異常だ。所属は何処かな? 覚えている範囲でいいが」

 

時雨「僕はどこにも所属していない艦娘なんだ」

 

??「所長。我々は運がいいですよ。これは本当にッ!」

 

 所長と呼ばれた男性もまた白衣に身を包んでいた。肩に安全ピンで名札が止めあるが太陽光を波が反射している所為で確認することが出来なかった。

 

所長「彼女の目の前でいう事ではない。これは失礼。君の名前を聞いてもいいかな?」

 

時雨「僕は白露型の時雨。よろしくね、所長さん」

所長「時雨か。こちらこそよろしく頼むよ」

 

 にこやかに握手をする二人。白衣の男性は足早に何処かへ行ってしまい時雨は所長と二人きりになった。

 とても気まずいと感じる時雨。二人の間には沈黙が流れるがそれを破ったのは所長からの言葉である。

 

所長「時雨君、ついてきてくれ。我らの施設を案内しよう」

時雨「分かったよ」

 

 (施設?ということはここには他に誰か住んでいるのかな)などと考えていた。早歩き気味の所長に置いていかれないようにする時雨は最初の警戒心を忘れていくのだった。

 

 

 

所長「まず初めに。我々の施設は今まさに起きている戦災で生じた病を治すための薬を生成する施設だ」

 

 驚きの表情をしたまま頷く時雨。

 

 所長の説明を聞きながら頷く時雨とは対照的に自分達のしていることを知っている部下は(本当は深海棲艦や艦娘を使って薬物投与(非合法な)実験をするところだけどな)と内心ほくそ笑む。

 あらかた施設の説明を終え、時雨に質問はないかと聞く。

 

 すると時雨からは「薬を本土へ届けるときに自分も連れていっては貰えないのかな」そう遠慮気味に言う。所長はしばらく考え込んだのちに「本土へ届けるのは来月になる。君は艦娘だから大本営に渡すよ。しかしここからだと…七日はかかるか」

 

 七日。思ったよりも早くて目を丸くしていた。

 

所長「でだ、君の部屋を後で用意させよう。そこで七日間生活してくれ。遊べる所はほとんどない。それはここがそういう場所だって事を理解してくれればいい」

 

 渦潮に巻き込まれ、遭難している者の自分に部屋まで用意してくれるなんて――と感極まっていた。

 優しい所長とその部下に頭を下げてひたすら感謝の言葉を口にしている。

 

所長「いやいや、迷子になってしまったのなら仕方ない」

 

 嬉しくて泣きそうになる時雨を尻目に部下も所長も(まぁ、普通の状態では引き渡ししないが)と同じ事を思っていた。

 

 

 ここが君の部屋だ。そう言われ案内されたのは簡素な部屋であった。

 だいたい六畳。畳の床には布団がしっかりたたまれている。中央にはちゃぶ台がおいてあり、対面になるように座布団が二枚あるだけだった。

 

時雨「ここが、僕の部屋…!」

 

 簡素な部屋であるが時雨にはどれも新鮮で輝いているように見えていた。

 

所長「あ、そうだ。君の様な艦娘がもう一人いたんだ。後で挨拶にいくといい」

 

 

 そういうと時雨の元を後にする。誰だろうと思いつつも初めての畳の床に転がり込む。そして時雨は夕食のときまで布団を敷いて雑魚寝しかけていた。

 そして夕食の時間になり、部屋の扉がノックされ昼間会った部下がカートを押して現れた。上には夕食のメニューが乗っており匂いだけで時雨の期待が高まっていく。

 

部下「時雨。夕食の時間だ。今日は滅多に食えない所長飯だ。完食してくれないと泣くぞ、所長がな」

 

 謎の脅しをする部下から所長飯というメニューを受け取り、ちゃぶ台上で食べ始める。始めて口にする肉、野菜の味は強烈で食欲がどんどんわいてきた。無我夢中で一食目を完食していた時に味を聞かれたので「とても美味しかったよ」そういうと部下は満足そうに頷いていた。感想は所長に伝えるよと言いながらカートを引いて部屋を後にするのだった。

 

 

―??の部屋―

 

 その日の夕飯の後、お世話になっているっていう艦娘の部屋へ行った時雨は目的地に着くと手を丸め、扉を三回軽く叩いた。

 

時雨「こ、こんばんは…」

??「え、あ、はい!」

 

 時雨の声に反応して部屋主が出てきたがその表情と態度はどこか緊張しているようだった。それに自分と年相応な気も感じていた。もしかしたら友達になれるかもと。

 

時雨「こんばんは。僕は時雨。君は?」

清霜「こ、こんばんは!夕雲型の最終艦、清霜です。えへへぇ……わたし以外に艦娘に会えたのはうれしいなぁ」

 

時雨「僕たち以外には居ないのかい?」

清霜「うん、わたしたち以外に艦娘はいないって言ってたよ!」

 

時雨「そうかい、清霜は何日前に来たんだい?」

 

 清霜は三日前だと言った。時雨は「そうなんだ」と返すと清霜から「ここへいつ来たの?」と質問が飛んできた。

 

時雨「僕は今日かな。昼間、ここに来たんだ」

 

清霜「なるほどねぇ…あ、もうしばらくお話しよ?」

 

 時雨は頷いた。理由は二つ。一つは清霜に興味を持ったから。一つは自分以外の艦娘に生まれて初めて会ったから。

 少しずつ話し合っていると話ははずみ”いつか”という将来についての話題になった。最初にふられた時雨は「近い将来、姉妹に会えたら嬉しいかな」と照れ臭そうに言った。清霜からは「わたしの夢は戦艦になることなんだ!」夢を口にする清霜の姿は微笑ましく、互いに満足のいく会話になった。

 

清霜「あはは…!こんなに楽しくしゃべれて良かった!時雨ちゃんまた明日ね!」

時雨「うん、また明日」

 

 しかし会話に夢中で就寝時間を超えていたらしく、様子を見に来た所長が叱りつけている場面を耳にする職員もいたのだとか。

 

 二人して叱られているのにも関わらず、時雨は「明日も話せるといいなぁ」と考えていた。

 

 

 

 

 時雨は清霜と共に食事をしたり、遊んだりと充実した日を送っていた。たまに部下も混じって二人の知らない話をしてくれていた。その中で興味を持ったのは深海棲艦をも凌駕する生物の話だ。時雨はその続きを聞きたかったけど清霜はひっきりなしに戦艦になれる方法を聞いていた。

 

 そうして過ごしていたら四日目になっていた。これは時雨から見て、ということであり清霜が来てから七日目であった。

 突然の事であった。清霜は大本営に受け渡されるらしくさっき部屋を訪れたときにそう言った。泣きながら別れの挨拶をする時雨もつられてしんみりと「こちらこそ。ありがとう。また会おうね」なんて返していた。ほんの数日の別れのはずなのに清霜の雰囲気が何処か可笑しく見えた。後で本営で再開するだけなのにどうして一生の別れみたいな表情をしているのだろうかと思うもすぐに切り替えて友の旅立ちを祝福するのだった。

 

時雨「清霜行っちゃった…寂しくなるなぁ」

 

 寂しさのあまり独り言をつぶやいた。話し合う同年齢の友がいなくなると胸に穴が開いたようになる。

 

 (こうして食べる美味しいごはんも後三日かぁ)と感慨深げにしているとふいに自分はどこに所属になるんだろうと思い始める。だが、今日は食事だけでは終わらなかった。食事を終えしばらくしたら身体中の異変に気がついたのだ。

 

時雨「うぐっ…!?あぁ…身体が痛い…!」

 

 急に腹部を中心に全身が軋むような痛さに襲われた。生きているのに心臓マッサージを受けているかのように腹部が凄い勢いで上下する。目が覚め、涙が出てくる痛さに声が出ないでいた。

 

時雨「!?…げえ゛ぇ゛…う゛え゛ぇ゛…

 

 とうとう時雨は食べた物をほとんど吐いてしまった。不思議な事に消化途中のものを見ることはなく、彼女が見たのは酷い臭いを発する赤い液体が床に少しずつ広がっていく様子だけであった。

 

 時雨は驚いて二度見した。見間違える必要はない。間違いなく血だった。身体の異変に気がついたのか、部下の人が息を荒げてやって来た。

 

時雨「助けて…さっきから。身体が変なんだ」

 

 自分の状態をしっかり説明して助けを求めた。しかし部下の人は良いことがあったような表情をしていた。そう()()()()()。その表情を変えず、時雨に聞こえるような声量の独り言を呟いた。

 

部下「やったぞッ第一段階は突破した! くくく…ははははははは! 仮説は、実験は成功だ。おっと嬉しさのあまり口が滑ってしまった。時雨君、どうかしたのか?随分と顔色が悪そうだが」

 

 白々しく心配する素振りを見せるも時雨の脳内には”実験とは何のこと?”という疑問が大半を占めていた。しかし最初に笑われた事が時雨の影をつくらせた。そ

 

部下「試製A.D.Pの第一段階は突破したんだ。心配する素振りは不要みたいだ。あぁ君は酷く怒ってるのだろう?恨んでいるのだろう?表情を見れば丸わかりだ。それは正常の反応だ。貴様らの食事に少しずつ盛らせてもらっていた」

 

 他人に傷つけられたら、怒るのが普通な事は時雨でも分かる。それを正常だと満足した表情で言葉にする白衣の職員を殺してやろうかとも思い始めていた。それに試製A.D.Pという聞きなれない単語。それが今自分におかしな影響を与えているのだと分かる。

 

時雨「僕を毒殺しようというのか」

 

部下「違う違う。モルモット(時雨)君。君達は貴重な人材なのだ。他から調達する手間が省けたよ。さて、君はこれから別の場所に移動してもらう」

 

 そういうと、彼は時雨に拳銃を向け躊躇することなく引き金を引いた。

 薄れていく意識の中で「清霜はどうなったのか?」という事だけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 時雨は目を覚ました。

 起きてそうそう目に入った物は鏡に映る姿だが、髪や肌が青白く歪に変貌していた。

 

時雨「うわぁぁぁ!!!ひっ…これが僕…?そ、そんな深海棲艦みたいな…姿にっ」

 

 信じたくなくて幾度も現実逃避を繰り返した。四肢を鎖につなげられており、卒倒時の痙攣により金属が擦れあう音が部屋中に響いていた。

 

所長「おや、うるさいと思ってきてみれば――起きているのかい? っと酷い匂いだ。君は女の子なのだろう?そういうのも気にしたらどうかね?」

 

 声や涙が枯れるまで叫び泣いた後に登場した所長に殺意を向ける。睨まれた所長は「おっと怖い。女の子がしていい表情じゃないね」とおどけた態度で時雨の目の前まで歩いて来た。

 

時雨「僕の拘束を外せ!」

 

 所長はなにも言わなかった。ただ笑みを浮かべて、吠える時雨を観察していた。そして歩き始め、目と鼻の先の距離になったときだ。拘束されている時雨の胴体を素手で触り、衣服の上、中から変化を見ているようだ。くすぐったい感覚すらなくなっている時雨は不快さで吠えているしかなかった。

 

所長「これじゃあダメだね。深海棲艦に成っちゃってる。失敗作だね。君の案だけど見直しが必要だね。この成り損ないを明日にでも処分してきて」

 

 了解しましたといい項垂れる。その表情は暗く酷く落ち込んでいる様だった。

 

 

 その隙に拘束具を壊そうと藻掻くもどうしても壊せなく、苛立ちを募らせるだけだった。

 

部下「やめとけやめとけ。もうこうなった以上は助からん。精々、あの清霜とか言う娘との思い出に浸っとくんだな…丸一日寝てればそうなるか…ハハハ」

 

 乾いた笑いをこぼし、次はどうするとかをひたすら早口言葉のように呟き始めた。

 

部下「まぁ明日が楽しみだな」

 

 十分ほどして考えがまとまったのか、時雨にそういうと部屋を後にした。胸中に残ったのは人間への深い恨みだった。

 

 

 時雨は結局疲れて寝てしまった。だが、その夢の中で不思議な存在に出会う。

 

おい、小娘よ。何故我らと似た姿をしておるのだ。我らにそのような顔の者は居らぬ。はっきり喋れ

 

時雨「どこから、声が……?」

 

『font:101》小娘、貴様の魂に話しかけておるのだ。して、このような姿になっているのだ。それを答えよ《/font》』

 

時雨「僕は艦娘だったのさ。でも、人間に投薬実験の被験者にさせられてね。明日、処刑なんだってさ」

 

ほぅ?投薬により…か。ありえぬな、何か隠してるのではないか?

 

時雨「あぁ僕は成り損ないって言われたかな。その何かの成り損ないで深海棲艦へなってしまったらしい。連中の目標はもっと別の存在みたいだったよ」

 

……許せぬ。我らが出来損なうだけでできるモノ(種族)だと?ふ、笑わせるなよ。人間め。そして小娘は人間の都合で処分されようとしているか。小娘、名は何という

 

時雨「僕は時雨。それがどうかしたのかい?」

 

では――時雨。()()()()()()()()()やろう。その力で人間共を皆殺しにしろ。我らを裏切った人間を――貴様をいいように扱う人間を許すな

 

時雨「――僕は本当に深海棲艦へ堕ちたのか」

 

さぁ目覚めよ、時雨。奴らを地獄の底へ叩き落としてやれ。ハハハハッ

 

 

 

 

 

 

 七日目の朝が来た。今日はとてもいい日になりそうだ。

 不思議と胸が高鳴り、言葉に言い表せないほどの高揚感を味わっていた。

 

 

 

 時雨はゆっくりと目を開け辺りを確認する。

 誰も来ていないようだ。昨晩みた夢のような何かで話した存在の名前はなんだろうか。

 

 思い出せない。しかしこの拘束具、邪魔だなと思い青白い手で鎖を掴んだ。

 

 (バキィ!)

 

 鎖の切れる音が部屋に響く。そこで改めて時雨は自身の姿を見た。

 

時雨「僕の姿はもう、艦娘のそれではないのか。ないはずの()()()()()()いるよ…フフ」

 

 その姿は深海棲艦と同じ姿であった。

 ただ、普通の深海棲艦と違うのは角が生えているという点だ。

 

 「鬼や姫級になったのだろうか。今なら、人間を殺せるな?」と思い時雨は不敵の笑みを浮かべた。部屋に近づく足音が聞こえたので時雨は身構えることなく、普段通りに歩いて扉の前へ向かった。

 

『な、なんで拘束が外れてんだ!?』

 

 まるで危険生物に出くわしたかのような怯え方をしていた。そんな時雨は殺すべき相手だと認識し、右手で殴ろうと振りかぶる。

 

男「ひ、ひぃ!」

 

 咄嗟に避け、右手を振り下ろした所は音が鳴り扉は変形し廊下へ倒れた。金属の扉を壊したのに血すら出ていない。それよりも的に当たらなかったことの方が腹立たしく感じた。

 

 表情変えず、無言で腰を抜かしている男の元へ近づいて何度か拳を振る。血が飛び散り、悲鳴が聞こえるもそれは止まらない。ある程度、時が経った後に確認してみるとそこには原形を留めていない肉が落ちていた。

 任務を達成し、褒められたときに感じる高揚感が脳内を満たしてく。何度も癖になるほどの感覚を味わいたくて、時雨は進んで殺しに回ったのだ。

 

 そしてとある部屋にたどり着く。そこで目にしたのは――。

 

時雨「清霜?」

 

 四日目の朝に大本営へ引き取られたはずの清霜がこの部屋で拘束されていたのだ。急に夢から覚めた感じがして、血に酔った感覚が、熱が冷めていった。

 

時雨「…清霜、清霜!」

 

 必死に清霜に声を掛ける。だが清霜からの返答はなく、首は力なく斜め下を向くだけであった。

 

時雨「そ、そんな…清霜」

 

 清霜に触れた時、知ってしまった。死んだように冷たく固くなっている事を。僕の様に深海棲艦へ堕ちたから血色が悪いのではなく、死んでいるから血が通っていないのだ。

 

 悲しみに暮れる時雨の後ろに施設に招き入れた人物たちが現れる。時雨は激しい怒りと悲しみを混ぜたような表情でその人物を睨みつける。

 

所長「おや清霜君は――もう死んでしまったのか。やはり持たないのか。おやおや? その姿は時雨君ではないか?」

 

時雨「清霜を殺したのは、お前たちだな?」

 

 問う。冷たい低く突き刺すような声で。

 

所長「そうだとも。私達がやったのだ。清霜君もいい素材(人材)であったよ。志半ばで死んでしまったのは残念だが…」

 

 少し残念がった声で清霜の死を肯定した。

 

所長「君も後をおうから問題ないね?」

 

 そういい、拳銃を向けた。

 「最後に遺言はあるか」と聞いてきた。しばしの沈黙。時雨は言葉を選んでいたのではない。急速に増幅する殺意を前に何とか理性を保っていたのだ。だが正直、どうでもよかった。人間が清霜を殺した。それだけが時雨の意識を、思考を黒く染めた。

 

 プチリと頭の中で何かが千切れる音を最後に意識は途絶えた。

 

所長「発狂か…おや、あれは…?」

部下「時雨の背中に()()()()()()()が! やはり実験は成功だ!」

 

所長「そのようだね、では掃討隊を呼んでくるから君は逃げ回ってくれ、もし生き残ってたら君を所長へ昇格させようか。さぁ鬼ごっこの開始だ」

 

 

 

 そうして気がついたら海上へいた。不思議な事に身体は血で塗れていなかった。顔、肌にも変わりはなかった。だが頭は痛む。

 

 「今まで見ていたモノは質の悪い夢であろうか。どうか夢であってくれ」と思った時雨であった。

 

??「…時雨っぽい?」

 

 急に声を掛けられたので振り返ると姉妹艦の夕立がいた。どうやら彼女も自分と同じ境遇のようだ。声を掛けようとした瞬間(しかしあいつらには渡さないぞ、決して!)という言葉が蘇る。もう一度、口を開き自己紹介をするのだった。

 

時雨「そうさ、僕は白露型の時雨。夕立、安全な所へ行こう!」

 

 

 

―続く

 

 









今回もありがとうございました。

誤字脱字だらけで読みにくかったかもしれませんがご容赦ください

2023年6月16日 修正しました。
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