とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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0章 20話『怪しい公文書』

 叢雲達が眠っているあいだ、芙二は陸翔だけを起こして冷葉と共に今後について相談していた。その際、一度パラディーゾには帰還してもらい、レイニーナや他の従者も共に連れてもらおうと提案するが、陸翔が断った。それとなく理由を聞くと、

 

 ありがたいが、軍属ではいない大勢を鎮守府にはおけない、という最もな言い分であった。

 

 その旨をパラディーゾにも共有し、静かに頷くと自らで空間を裂き、飛び降りるように去る。

 

「ありがとうな、パラディーゾ。今度はレイニーナと共に呼んでやろう」

 

 閉じつつある空間のひずみを前に一言呟いた。

 内心で既に聞こえていないだろうけど、ともごちる。 

 

「ん゛ん゛……本題に入ってもいいか? 先ほど叢雲が叫んでいた中に聞き捨てならない言葉があったのだが、それについて言及しても?」

 

「構わない」

 

 その言葉を聞くと陸翔は改めて姿勢を正すように、ベッドの上に胡坐を搔いて、真面目に座る。

 

「まずは冷葉ど……さんが俺を呼んだ理由はなんだ? 泊地でトラブルが発生したから助けてほしい、ということだと思ったのだが。確かに作戦後だと言うのに他の艦娘の姿や妖精の姿は見えない。凌也殿があちらへ向かったのだろう? ならば轟沈はゼロだと思っている」

 

 陸翔の言葉に、冷葉が口を開いた。

 

「その件については私が話します、神城さん。芙二がアイリを討伐してから、彼の手により生き残った者は全員蘇生を施されました。死して肉体を失いましたが超常的な力により、全員が再び肉体を得て、本土へ帰還しました。あの死地から帰還の一日と経たない今日、谷部提督が憲兵と見慣れない艦娘を連れてこの場に現れました」

 

 谷部、という単語に大きく動揺する。顔が強張り、冷葉へ視線を向けて次の言葉を待つ。

 

「あいつは重要参考人候補の芙二を探していました。テロ事件の主犯格ふたりと最も関わりの深い人物だと言いながら。その時はまだ芙二はあの死地から戻ってきていません。

 

 なのでいない、と返事をしたら、

 

『ふん、どうせ匿っているのだろう? この泊地と第三鎮守府は私、いや我々の所有物となった。ほうれ、見ろ。これが書類だ』

 

 私の顔面に押し付けるようにして、見せてきました。あまりの衝撃に頭が真っ白になり、おそるおそる受け取ると、確かにそう書かれていました。

 

 ”本日付けで第一泊地と第三鎮守府は北第八鎮守府の提督である谷部の管理下になる”。

 

 それがこの書類です」

 

 

 冷葉の上着の内側から汗でしわくちゃになった書類のコピーが出てきた。真っ白な紙に黒インクで書かれているのだろうが、染みで読みづらくなっていた。

 

 

「なんて書いてあるんだ? この二つの場所の資源価値がある物や運営資金は管理元に全て帰属する? はぁ?! それって……そんなバカげた話があってもいいのか?!」

 

 陸翔が声をあげる。権力に物を言わせた内容に、殺意が湧く思いに見えた。

 

「言いわけがない。だがしかしよく見てみると……公式な文書じゃない可能性があるな。ほら、この辺りをよく見てみろ」

 

 上から下まで目を通した芙二が言う。細かい字が密集しているある箇所を指差して、

 

「”管理下に於かれた施設は管理元の命令には必ず従わなければならない。たとえ空襲や侵攻が起きていても、必ず指定された場所へ向かい従事せよ”

 

 なんて変な文章じゃないか。(オレ)らの任務は空襲や侵攻を防ぐことだ。それを放棄してまで、やれだなんて自分勝手が過ぎる。そんな文言を上が通すとは思えない」

 

 思い付きをそのままにしたような、酷さだ。

 

「た、確かに。子供の悪戯書きみたいに見えるな。これの効力は……」

 

 読み上げたコピー紙の文言をなぞり、信じられないと言った風な表情をして芙二を見る。

 

「今はあるだろうな。パニックに陥った冷葉がサインしてしまっているわけだし。それに陸翔殿の所はまだ脱退しきってないと思う。第三鎮守府という財源を搾り取って、出が悪くなったから今は放置されている、と見る方がいいかもな」

 

 かつて深刻な事態へ追いやられた東第三鎮守府を確認しているはずなのに、自分勝手な文書に記述されている。その証拠にまだ非情派連中の輪から抜け出せていない。

 

「そ、そんな……奴らとはもう一方的に縁を切られたからお終いと思っていたのに。まだ俺たちから奪うつもりなのかよっ! 許せねえ、凌也殿。あいつらを殺す手伝いをしちゃくれねえか」

 

 顔を真っ赤にして震える。脂汗を垂らしながら荒い呼吸を繰り返し、目の奥に確かな殺意を宿していた。芙二の右手を握る手に力が入っているのか、太い血管がどくどくと脈打つのが分かる。

 

「本当は"よい"と言いたいが、そればかりは譲れねえ。あの連中は、あの一見健全なレジャー施設は、この手でぶち壊せねえと気が済まないもんでな。龍神(オレ)を信じてくれるか?」

 

 目を血走らせて、頼み込む陸翔の言葉を否定する。

 

「うちはもうこんな感じでダメになりかけているが、陸翔殿の場所はまだ大丈夫なはずだ。だが、クソ野郎どもの魔の手は伸び続けるだろうな。そこでさっきの提案だ」

 

「パラディーゾ殿とレイニーナ殿の事か」

 

 ついさっき空間を裂いて、去ったパラディーゾと言う名のオーケストラを思い浮かべる。そして会ったことのないレイニーナという者の名も口にする。

 

「そうだ。あの二人ならばこの世界でも馴染めるはずだ。殺傷能力がないとは言えないが、二人の性質ならば十分に防衛できるだろう。二人には予め、この話を伝えておくよ。彼らがしばらくのあいだ滞在できる部屋をお願いしたい。敷金礼金が必要ならば、後で払っておこう」

 

 虚空に手を突っ込み、手帳型カバーの携帯を取り出しながら言った。慣れた動作で通帳アプリを開いて残高を確認する。額を見て余程の事じゃなければ、足りるだろうと考える。

 

「それは頼もしいな。また借りを作ってしまうな……しかし俺も提督だ。深海棲艦が攻めてくれば、こちらで動く。それに基本的な指揮はこちらで行ってもいいか?」

 

 その言葉に頷き、続けて肝に銘じておく、と感謝の言葉を口にして軽く頭を下げる。

 

「構わない。その旨も二人にも追加で伝えておこう。今は鎮守府に職員はいるのか? いるならば少々警戒を。こういう弱る状況下でつけ入る隙を狙う者にとっては絶好の餌だからな」

 

 陸翔の表情に影が差す。

 

「それと第三鎮守府の一時的戦力拡充の為にもう一つ提案をしたいのだがいいだろうか?」

 

 先ほどとは違い、若干よそよそしい態度で話し始めるので不思議そうに言う。

 

「まさか第一泊地の艦娘を預かってほしい、ということだろうか?」

 

「そのまさかだ。(オレ)は所用で三、四カ月はこちらへ戻れない。その間、信用できる陸翔殿に預かってほしい。その前に彼女たちの説得も必要だがな。特に叢雲への説得が必要か。それと冷葉はどうする?」

 

 冷葉は急に呼ばれ、肩を震わせる。

 

「わた……俺? そうだなあ、帰る場所もないし泊地での勤務はできない。どうせ芙二がこの泊地一帯には何かして深海棲艦の侵攻をゼロにさせるだろう?」

 

 その言葉に頷く。冷葉は唸る様に考えながら、

 

「神城さんの所に艦娘と共にお邪魔させていただくか? それか……芙二。新しい拠点へ居候させてもらうことは出来たりするか? おまえには劣るかもしれないが、家事も掃除も出来るぞ。それに力仕事も歓迎だ!」

 

 右手を握って、ちからこぶを作って笑う。

 

「それも聞いてみようか。限定的な行動になってしまうが、陸翔殿の東第三鎮守府と拠点の一室を空間的に繋げることも可能だな」

 

 へへ、と笑う冷葉を見て芙二は身体を前に倒し、腕を組んで言う。さらっと凄い事を口にしたが、二人は返す言葉もないように黙る。

 

「もう十八時前か。話し合っていたら、あっという間だな。それじゃあ……今も寝ているみんなを起こして、もう一度新しい拠点セーフハウスへ向かおうか」

 

 二人を見渡しながら、伝えた。その際、陸翔は申し訳なさそうにしながら、

 

「俺は一度鎮守府へ戻るよ。途中にしっぱなしの業務が残っているから。あ、凌也殿。東第三鎮守府の執務室へ送ってもらうことは可能だろうか?」

 

 愛想笑いを浮かべ、芙二へ向けてペコペコと頭を下げながら言う。

 泊地から帰ろうとする陸翔に冷葉は、

 

「すぐに来てくれて感謝しました。暫くのあいだ、彼女らをよろしくお願いいたします」

 

 深々と頭を下げて言う。

 

 二人から若干の距離を取り芙二は、

 

「ほいっと。御帰りの出口はあちらですよ、陸翔殿」

 

 そう手慣れた動作で執務室同士を繋げた直通の扉を用意する。

 

 ドアノブに手を掛けて、半身があちらへ入った時、五十鈴や島風の悲鳴が聞こえてくる。

 気にしない様子のままもう一度振り返り、再度会釈をすると陸翔は完全に扉の奥へ去った。

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