1章 PV風
冷たい鉄の扉が軋む音を立て、芙二は一歩を踏み出した。
初めて集う、特別な部隊。
空気は静かに張り詰め、ただならぬ緊張が室内を支配していた。
芙二の事情を知った者が、一人。彼にドスドスと歩いて近づく。
「おお、ヴェルダーよ。それは辛かっただろう。わしたちが陸で戦い抜いたように、君も海で戦い抜いていたのだな。よくぞ、絶望しなかった。君はとても偉い子だ」
大柄で情に厚い男――オウル。
背は壁のように広く、言葉よりも行動で仲間を守る。
戦場で何度も仲間を庇い、勲章よりも“信頼”を背負ってきたその視線が、芙二を捉える。ほんの一瞬、圧倒される力を感じた。
「だけど、私の目にはどうにも、この子は未経験じゃないか? 汚れるって言葉の本当の意味を知らないように見える。――目つきの悪い坊主、い・い・の・か・い?」
小柄で機転に富む少女――ラビット。
緊迫した空気を瞬時に変え、鋭い笑顔で場を和ませる才能を持つ。
彼女の瞳が芙二を見据えたとき、戦場の匂いと同じくらい強い、確かな生命の鼓動を感じた。
小さな体から放たれる熱量は、想像以上に部屋全体に影響していた。
「オレはこいつを仲間だと認めたくはありません。見るからにもうダメ。かなり弱そうだ。甘い汁だけ吸ってきたガキに見えて仕方ねえ」
そして、金髪の青年――アント。
沈黙の中に、誰も踏み込めない影を宿す。
芙二はその眼差しの奥に、戦火よりも冷たい“後悔”を垣間見た。
何を背負っているのかはまだわからない。しかし、この部隊に欠かせぬ存在であることだけは確かだった。
「織間さんがわざわざ声をかけた青年だ。素晴らしい経歴があるからこそ、と考えないか? わしの目には――よそう。本題に入らねばな」
互いを測る視線、探るような微かな動き。
言葉の裏に潜む戦場の匂い。
初めて交わる名が、静かに、しかし確実に、熱を帯びる。
「君たちには国内部の掃除を頼む。すべて、とは言わん。君たちは頭だけ潰せばいい」
芙二の胸の奥で微かに動くものがあった。
それは、未知の体験。
この空気、この緊張、この人々との出会い――すべてが、物語の序章だった。
~~
そして別の場所では、とうとう彼女が世界に招かれる。
「そこの、サンディブロンドのあなた。どうですか、少し朝の散歩を」
「ごめんなさい。私は――」
振られるパラディーゾを慰める芙二。
艦娘たちとの邂逅は、偶然ではなく必然。
絶対に交わらないはずの二つの世界が、互いの影響をじわりと感じながら交差していく。
~~
「いいの? 芙二さん。あんたのそれを私の中に入れることになるけれど……」
「まさか婚約指輪よりも先になっちまうなんてな」
鋼の身体と人の魂が、ひとつになる夜。
芙二と叢雲を結ぶ光は、まだ誰の目にも見えない。
次章──「北へ」