とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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1章 3話『強い影響を与えた男』

「ふ、芙二! その場から三人とも動かなくなっちまったけど何をしたんだ……?」

 

 前のめりにバリアを抜けようとした冷葉に対し、

 

「あっ冷葉! 今外に出るな、あいつらと同じ結果を辿ることになる」

 

 そう呼びかけるも遅く、既に胴体の半分がバリアの外へ出ていた。

 四つん這いのまま微動だにしない冷葉を見て、中にいる者が心配そうに芙二に問いかける。

 

「提督! 冷葉さんが硬直してしまいました。外は今どうなっているのですか? 叢雲さん達が叫んでいたように空は黒くありませんし、煙も発生していないように見えます」

 

 半透明なバリアの上をサラトガは指差す。

 彼女の言葉に冷葉と術中にいる三人以外の艦娘が頷く。

 

 術の外にいる彼女らには時刻通りの夕焼け色の空模様が見えており、うつ伏せになっても狂ったように笑い続ける三人へ恐怖を抱いている。

 

 冷葉を見て、芙二が駆けだす。

 

「チィッ! ちと早いが解除! バリアも解除してやる!」

 

 芙二がそう言うと一度、周囲の時間がスローモーションになったように感じる。意識だけが先行し、身体がついて行かないようにゆっくりと動く。

 

「冷葉! 冷葉、大丈夫か!」

 

 四つん這いのまま、空間に貼りつけられたかのように微動作にしない冷葉の肩を芙二が揺らす。触れた瞬間、冷葉の身体全体が大きく震え、地面に落下するところを芙二が受け止めた。

 

「う、ん……芙二か。俺は大丈夫だ、言いつけを守らなかった俺に落ち度があるからな。あんときの衝撃に比べればまだマシだ」

 

 あんときの衝撃とはどこだ、と考える。

 

「どの時だ? アイリに殺された時か?」

 

「俺がおまえを殺そうとしたとき。それと裸同然で沖に放り投げられたとき。気がつけば海は凍っているし、頭上からはテレビでしか見たことない隕石のような物が迫っていたからな」

 

 その言葉に芙二は遠い記憶のように思いだす。未だ錯乱している三人と清霜以外の面々は冷葉の言葉に顔を見合わせて事実を確認し合う。

 

「確かまだ着任してひと月とか、そんなんじゃないっけ?」

 

「そうでしたか? あの頃はまだ私が深海化する前なのでふた月経つか経たないかではないですか?」

 

「えぇええ!? 芙二さん、冷葉提督は人間だよ!? それに冷葉提督も芙二さんを拳銃で撃ち抜いた? 二人してどうしてそんなことをしていたのさ!」

 

 ヴェールヌイやサラトガ以上に大きな声を出して、驚くのは清霜だけだった。現在錯乱中の三人の中で事実を知らない夕雲も同じような反応を示すだろう。

 

 「ちょっと荒療治だったが、術に嵌めてよかったな。しっかし、なんで変になったんだ? 清霜は普通だったからあの三人に何か同じ特徴があるはずだ」

 

 そう言いながら、白目を剥き、うつ伏せに気絶している夕雲の肉体に干渉して原因を探る。

 

~~

 

(あの状況で一番調べるべきは冷葉よりも夕雲だよなぁ)

 

 仮に干渉している間で彼女が目覚めてしまった時に備え、仰向けにして胸の上に左手をかざす。

 手のひらが淡い緑色に光り始め、そこから芙二の脳内へ情報が流れ込む。

 

「これは……(オレ)のせいだな。清霜も関係がありそうだな」

 

 彼の左手がずっと光を放つあいだ絶えず独り言が聞こえてくる。

 動画を倍速再生しているように早口だ。大半は聞き取れない。

 

 その中でも清霜だけは、自らの名前が出てきたときにだけ反応を示した。

 夕雲のことは調べつくしたのか、左手を離すと皆がいるバリアの方へ体の向きを変え、

 

「清霜!! 後でおまえのことも調べさせてくれ。きっと何かしらの変化があるはずだ!」

 

 そう大きな声で叫ぶ。

 あまりにも大きな声は周囲に響き、清霜は素っ頓狂な声をあげる。

 

「ふ、芙二さん!! それにみんなも!」

 

 地声が裏返った声を聞いた他の者は緊張の糸が切れ、若干耳を赤らめる清霜を見て微笑む。

 

~~

 

 先ほどとは打って変わって和やかな雰囲気の中でただひとり、彼女だけは耳だけでなく、頬を赤らめ膨らませる。徐々に目を潤ませ、ムッとした表情で視線を逸らした。

 

 その瞬間。彼女の頭上が歪んだ。

 

「清霜、今特異艤装を使用したな?」

 

 芙二に指を差された方を見ると確かにある。東第三鎮守府の海上で改めて戦ったときの武装が。しかも待機状態で深海棲艦の護衛要塞のように浮遊している。

 

「え? いや攻撃しようだなんて思ってないよ。だってこんな場所でしても体力を消耗するし、何よりも無駄じゃん」

 

「だが、そうは言ってもお前の頭上……というか左右にあるぞ。(オレ)が調整した義腕が二つ」

 

 腕とこぶしを合わせると三メートルは超えそうな巨大な機械の腕が独立していた。

 しかしすべての腕に巨大な刀剣の類は一切なく、メリケンサックのようなものを装備しているだけであった。浮遊しているので周囲に影響はない。

 

 指先は不自然な形をし、黒いネイルをしている様に鈍い光沢を放つ。

 

「あっほんとだ。私の武装……艦娘だから艤装かな? 私の元へおいで~……なんて来るわけn」

 

 指先を見せつけるように動いていた義腕が分離する。

 清霜の周囲に左右二体ずつ並んだ。

 

「おっ見やすい位置まで来てくれて感謝するぜ、清霜」

 

 芙二が近づこうとすると、右端の巨大な機械の義手がロケットパンチさながらに飛ぶ。握り拳ではなく、指を伸ばして手刀のように形作る。

 

「え、ええ! ちょ、ちょっと私はそんな命令をしていないって!」

 

 清霜以外も悲鳴を上げ始めたが、義手は止まらない。

 興奮したイノシシのような突進が芙二の正面に入る。

 

 バシュッ!!

 

「っとあぶねえ、あぶねえ。あ、でも近づく手間が省けたかもな」

 

 弾丸と同等の物体をなんなく左手で受け止め、冷や汗をかいたように嘯く。

 

 そして夕雲と同じように義手を通じ、清霜の精神に干渉して解析する。彼女はもともと時雨のように深海の神の依り代であり、夕雲とは異なる変化があるだろうと芙二は心を躍らせた。

 

「ほーん。武蔵の方に影響を受けているからなのか。これは魂の、もっと言うと清霜という存在の歴史を通して生成されたところに(オレ)が関係するのか」

 

 解析中に分かった事実を頭の中で箇条書きにしてまとめていく。先ほど暴走状態だった夕雲も、自らの武装に驚く清霜も、たった一つのことが共通している。 

 

 芙二が龍神覚醒に至ったことがきっかけで過去に一度契りを交わした魂同士を経由して、精神に魔改造といっていい程の過剰な強化を施していた。

 

「暴走状態を管理できないと皆が危険に晒される、か」

 

 思わぬ課題に、芙二は眉間に皺を寄せる。

 

「まぁ(オレ)が生み出したようなものだから、キチンと調整してやらないといけないんだよな~」

 

 腕を組み唸りながら考えていると、遠くから何者かが近づいてくる気配を察知する。

 

 ここらの住民だろうか、などと呑気に考えつつ現在見慣れない武装の清霜、気絶中の夕雲、叢雲、時雨の四名を隠そうと考える。

 

「清霜、見えな――」

 

「深海棲艦が陸上にいるって通報を受けてみれば……芙二さん? それに見慣れない艦娘もいますね。いったいここで何をしているのですか?」

 

 そこには背に大太刀を携え、黒い袴風スーツを着た紅雪の姿があった。驚きつつ、不審がる様子の彼女に芙二は事情を話し始めるのだった。

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