とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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1章 4話『セーフハウスまでの道中①』

 

  紅雪は芙二からこの地へ来た経緯を説明されつつ、相槌を打つ。

 

「了解しました。先程、芙二さんはここの主となりました。屋敷の主が、帰宅する事はなにもおかしな点はありません。しかし艦娘と海軍の将校も同じ屋根の下に収まるというのは如何なものかと思いますよ」

 

 紅雪の言葉を聞いて、ぴくりと反応する。 

 

「やはり一般人と海軍将校が一緒の屋根の下で何泊かする事は変か? それとも紅雪(こうせつ)さんたちの身分を考えての事か?」

 

 左手で口元を覆い、静かに言う。

 

「はい。芙二さんが仰る通りです。海軍という国家の一部を担おうという方々と反社会的な組織に属する者と積極的に関わるのは避けた方がよろしいか思います」

 

 彼女は目を細め、淡々と話す。芙二の後ろで一部が騒めきを隠さずに叫ぶ。

 

「でしたら……さっきの人たちは裏社会の人間と言うことですか?! そんな人たちと関わり合いになるのは気が引けます。提督、今からでも遅くはありません。どこか信頼できる場所へ移動して休息を取りましょう!」

 

 先ほどの鮫島たちに襲われた出来事がフラッシュバックしたのか、珍しく取り乱す。

 

 サラトガは顔を青くさせて、その場にしゃがみ込む。

 小刻みに震えて、歯をカチカチと鳴らす。

 

 彼女の隣にいたヴェールヌイが慰めるように寄り添い、優しい手つきで背を撫でた。

 

「司令官。私もサラと同意見だ。司令官は屋敷の主である以上、さっきの奴らから邪険に扱われることはないだろう。しかし私たちはどうだ?」

 

 芙二を見上げるように、彼女は空色の瞳で静かに睨む。

 

「さっきの奴ら……鮫島と言っていたいか? あいつは限っては私たちを物の様に扱おうとしていた。いや既に扱っている口ぶりに見える。天下無敵な司令官がいても、そう言う事を平気で行う人間の性質は変わらない。艦娘としてまだ生を受けて半年と少ないけど、勘で分かるんだ」

 

 ヴェールヌイの言い分に芙二は頷く。

 

「確かにそうだな。皆に意見を聞かず、無理に連れて行こうとしていたかもしれない。なら一つここで誓おう。仮に(オレ)がいない所で艦娘をぞんざいに扱おうものならば、日付を教えてくれ。本人立ち合いの元、白日に晒して断罪してやろう」

 

 得意げな表情で言うも状況的が分かる証拠も必要だがな、と付け加える。

 

 "本人の立ち合いの元、陰湿な行いをその力を以て白日の下に晒す"

 

 その言葉の意味を知っているヴェールヌイは頷くがまだどこか不満そうな表情をする。

 

「なんだ、まだ――そうか、そうだな。(オレ)がアンタらの意見も聞かず勝手に屋敷に連れて行こうとして、更に無許可で陸翔殿の所に預けようとした。だが後者は理解出来るだろう? 自分達の配属先が変更されるなんてのはどの業界でもあり得る事だ」

 

 芙二の言葉に誰もが口を割って入り込まない。

 

「今の提督は冷葉だが、皆に改めて聞こう。(オレ)の考える案に身を、命を預けてもいいと考えているか? それとも預けたくないというのであれば、また別で考えよう」

 

 ヴェールヌイだけでなく、他の艦娘にも問う。夕雲、時雨、叢雲も正気に戻り互いに顔を見合わせているようであった。

 

 みんながサラトガとヴェールヌイのもとに集まり、それぞれの意見を口に出す。

 その間に芙二は見守っていた紅雪に対して、耳打ちをする。

 

「……紅雪さん。先に屋敷へ戻っていてくれると助かる。艦娘六名、客人を一名が数日間休める場所を借りたい。しかし急な事な為、部屋がなければ(オレ)がなんとか工面しよう」

 

 その言葉を聞いた紅雪は横目で一瞥し、ひとつため息を吐く。

 

 額に手を抑え、険しい表情をしたまま言う。

 

「分かりました。その件は菜央さんに聞いてみます。私としてもそんな大所帯が屋……セーフハウスに泊まられるのは断固反対です。艦娘の方や将校の方も両方迷惑を被るかと」

 

 大太刀の柄を力強く握ったまま、否定的なことを口にする。

 面と向かって言われた芙二は力なくその場に座り込む。

 その様子に紅雪は話しかけようとするも留まり、一礼すると来た道を引き返すように去る。

 

~~

 

 芙二は紅雪の言うことも理解できた。前世でかつテロリストになる前は両親からきつく言い聞かせられるた内容。見た目で判断が下せてしまう輩とは付き合うな、殺人願望、盗癖、自傷癖、虚言癖のある者とは縁を切れ、というのは親の体裁を保つ為と思って話半分で聞いていた。

 

 例えば子供が犯罪を行うと、風のように情報は隙間を抜けて誰かに届く。一見無関係に見えても、どこかで人は繋がっているという事実に気が付くまで暫くかかった。

 

 だが、今は違う。親の言うことに噛みつく子供ではない。

 

 立場のある地位になって思うのは親にも体裁というモノがあったんだろう。芙二も普通だったら反社会的勢力と積極的に関わり合いになろうとは思わないだろう。

 

 だけども今は普通いつもとは訳が違う。反社会的な事実に関与している海軍みうちを糾す為にもより一層深い部分で繋がる必要があるのだと自らに言い聞かせる。

 

 そのことを踏まえて、考えるとやはり事情を知っている陸翔の方へ預けるべきか。芙二が殉職したという”あの誤報”は一部を除いて広く伝わっている。現役将校の冷葉と艦娘数名が反社組織のセーフハウスへ滞在することはあまり善いことではないという結論に至る。

 

 芙二が独りごちたその瞬間──ふいに頭に柔らかい感触が落ちてきた。ぽよん、ぽよんという効果音が聞こえてきそうな程の弾力を持つ物体の正体は――

 

「もう提督! いきなりなんですか。急に私の胸に頭を預ける悪戯なんてらしくありませんよ。確かに私は提督のお母さまのような体型をしていますが、公私は分けるべきだと思います」

 

 ――ぷりぷりと恥ずかしそうに怒るサラトガがそこにいた。

 

 胸をさするサラトガと他の者の顔を比べながら、芙二も驚きを隠せない様子で言う。

 

「え、あっ……すまない。ひとつおかしなことを聞くが、(オレ)の姿は見えていなかったのか? 今までこの場から動いていないのだが」 

 

「はい、見えていません。気配も匂いも感じられないので提督は反社の方と共にセーフハウスという所へ行かれたかと思いました」

 

 その言葉を皮切りに他の者からも同じような内容を耳にする。

 彼は顎に手を当て、首を傾げると一言だけ「そうか、ありがと」すげなく呟く。

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