とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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書き溜めを投下中です。


1章 5話『セーフハウスまでの道中②』

 

 サラトガの言葉を聞いた芙二は、「気配を消す事を意識したわけでもないのに」と自身の能力を不思議さを覚えた。

 

 しかし、と思考を切り替える。

 

 彼女たちが自身に声をかけてきたということは、彼女たちなりの答えが出たということだろう。

 

「気づかないうちにうっかり気配を消していた件は改めて謝罪をしよう。それで話し合いの答えは出たのか? どちらでも構いやしない。誰から答えを聞こうか? サラか? それとも時雨か?」

 

 その問いに対し、真っ先に口を開いたのは――

 

「私よ。私が皆が決めた総意を話すわ、心して聞きなさい」

 

 皆よりも一歩前に足を踏み出すのは叢雲だった。

 

 ほんの数分前、泊地で見たときよりも、彼女の顔はどこか大人びている。

 感情が爆発し、負の方向に振り切れた時とは違い真剣な表情で芙二を見つめていた。

 

 夕焼けを投影したような橙色の瞳。

 その瞳に見つめられ、芙二は思わず無言で頷いた。

 

「なによ、そんなに驚いちゃって。私が代表して伝える事がそんなにも変なの?」

 

「いやそうではない、ただ少しな。……こほん。ところでその総意とやらはここで話すのか? それとも移動先で?」

 

 彼は彼女の言葉に対し、意味ありげに呟く。急に気恥ずかしくなったのか、一回咳払いをした後で彼女に話の続きの前にひとつ提案した。

 

「そうね。そのセーフハウスで伝えるとしましょう」

 

 一考した後に、彼女は決断する。それもセーフハウスという反社会的勢力に属する者の居る地へ赴こうとした。

 

 彼女の考えに賛同する冷葉だが、一人が待ったをかける。

 

「叢雲さん! 私はそこへは行かないって言ったはずです! 皆の代表をしているのですから、自身の考えではなく、総意を伝えなくてはいけないと思います!」

 

 サラトガだった。

 いつもよりも大きな声で叢雲を否定する。

 

 顔を真っ赤にし、ジェスチャーを交えながら強く食い下がった。

 隣にいるヴェールヌイもまた、頷いて彼女の意見に同意を示す。

 

「うるっさいわねえ、サラ。私の直感だから信用できないって思うかもしれないけれど、あのセーフハウス以外はダメよ。反社会的勢力に属する者がいるからなに? 今の私たちが最も警戒する敵は身内、海軍の人間だってこと忘れたのかしら?」

 

 同じく仲間を目の前で奪われた彼女の言葉を聞いて、反対していたサラトガとヴェールヌイは唇を噛んで黙る。

 

 サラトガたちにとっては、まさに究極の二択である。

 自分たちを物の様に扱う人間がいる場所に身を置くか、

 

 あるいは自分たちが所属している軍――国家の犬と敵対する者たちに身を預けるか。

 

 冷葉と叢雲以外の者たちは決断に迷っていた。

 

 一度口にした意見をそう簡単には引っ込められない――それでも。

 

 たとえ時雨達が深海化していようとも人間を敵に回すとなると、消耗戦を強いられる可能性が高い。曲がりなりにも艦娘である以上、食事とは別に航行する為の燃料等が必須となってくる。

 

「司令官。いいえ、凌也さん。もうしばらく待ってくれないかしら? あと一応私たちがいる事を知られなくないの。だから、できるわよね?」

 

「んっ? あぁ可能だとも」

 

 彼女がカウンターの様に放つ言葉が真っ当すぎて内心、拍手をしていた。だがサラトガ達の気持ちもわかってしまう為、決断を急かさない。

 

(もうしばらくかかりそうだな)

 

 そう様子を見て思うなか、叢雲がふと芙二の下の名を呼ぶ。 

 

「え? 今、下の名前を」

 

「う、うるさいわね! 気のせいよ、とっとと準備してちょうだい!」

 

 耳を赤く染めながら彼の背を押し、距離を取らせる叢雲。

 

 「ちぇ」と拗ねた芙二は地面にしゃがみこむ。

 

 そして聞き取れない言葉を唱えながら、空中にルーン文字を描く。

 アルファベットと記号を足したような文字が、淡く光を放ち始める。

 

 思考に沈んでいた艦娘たちも、その淡い輝き――まるで闇の中を照らす炎のような光景に目を奪われた。

 

 浮かび上がった文字は一瞬のうちに破裂し、花火のように煌めきながら散る。

 

「よし、成功。付与術士(エンチャンター)としての技術はこの世界でも使えるっと」

 

 もちろん、異世界産の道具は使えない。

 だから、そこら辺の木の棒で代用している。

 

 先端が炭化した木の棒を満足げに見つめていると、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと目を輝かせた冷葉がそこにいた。

 

「お、おまえ! 今の何をしたんだよ! まるで魔法みたいなことしてよ!?」

 

 冷葉は少年のような顔で身を乗り出す。 

 

「おう。魔法みてーじゃなくて魔法だな。元々魔法のような事は出来ていたんだが、なかなかトリガーが引けてなくてな。能力頼りだったけど、これを機に試してみた」

 

 火のついた線香のようにじわじわと燃えた木の棒を、芙二は手のひらで握りつぶす。

 冷葉は首を傾げて、疑問の声を漏らす。

 

「トリガー?」

 

「端的に言えば、それは人の負の感情だ。

 人の負の感情を物質化させて喰らうことで行使できる。

 ここで魂が光へ向かう手助けをしているのは――まあ副産物さ」

 

 芙二はどこか寂しそうに遠い目で景色を眺める。夕刻、逢魔が時を過ぎた山々には夜の暗がりがひっそりと近寄っていた。

 

「……それで魂がどうのって言ってたんだな。俺、てっきりスピリチュアル方面に夢中なのかと。それか神を自称する者としての矜持かと思ってた」

 

 二の句を継ぐ前に、一拍の間が空く。

 

「でも少しだけお前のこと、わかった気がする。こんなタイミングで語る話じゃないかもしれないけど……まぁそういう時もあるだろうな!」

 

 話している間は眉間に皺を寄せていた冷葉であったが、最後の方は笑顔に戻っていた。

 

 芙二は顎をくい、くいと艦娘たちの方を指し示す。

 

「そうだな。だが、(オレ)たちが少し賑やかだったせいか、みんなの視線を奪っていたようだな?」

 

 冷葉は目を丸くさせ、魔法の存在に興奮を抑えきれない。

 

「あー……芙二の言う通り、うるさかったみたいだ。ごめん、ちょっとあいつに”静かになる”術を掛けてもらうから、もう少し考え――」

 

「いえ、もう答えは出ました」

 

 サラトガはきっぱりと言い切り、まっすぐ芙二を見た。

 

「提督、私たちもセーフハウスへ身を預ける事にします。海軍の方を信用していないわけではありませんが、身の安全を考えての行動です」

 

「了解。話し合いも向こうでしよう。サラたちを不快にさせたりはしないさ」

 

 目を伏せがちにそう言いつつも、彼は安心させるように笑みを浮かべた。

 ――これまでの出来事をふと思い返して、サラトガはほんの少し後悔を覚える。

 

(提督の力を知らないわけでもないのに、どうしてあんなふうに断ろうとしたのでしょう?)

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