とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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※今回はR指定をギリギリ含みます。


1章 7話『一つの報せ』

 

 セーフハウスでの出来事から丸二日間。織間から連絡はなかった。

 

 芙二は就活生のように携帯を手放さず、常に通知に目を光らせていたが、すべて徒労に終わる。

 だがその間、やるべき準備は着実に進められていた。

 

 ひとつは、東第三鎮守府への一時的な配属に関する手続き。

 

 翌日は紅雪(こうせつ)(りん)、案内の元、菜央(なお)や他の使用人との自己紹介が行われた。

 

 最初こそは『大物が泊まりに来ている』と騒然となっていたが、半日経つ頃には程よく打ち解け始めていた。

 

 その様子を見た芙二は、どこか安心したような笑みを笑みを浮かべる。

 翌々日、芙二は陸翔へのアポイントを取るために連絡を入れた。

 

 応対に出た秘書艦の五十鈴は「すぐに対応可能です」と応じ、芙二は即座に向かう決断を下す。

 

 陸翔を送った時と同じ手順で、東第三鎮守府へ通じる空間の扉を開いた。応接室とセーフハウスの空間を一時的に接続し、芙二を先頭に、冷葉と艦娘たちはその扉をくぐる。

 

 向かう先は、陸翔の待つ応接室。 

 

「こんにちわ、陸翔殿。急に訪問に許可をして頂き感謝する。理由は昨日話した通りだ。本当に叢雲たちと冷葉を任せてもいいだろうか」

 

 既に室内には陸翔と五十鈴の姿があった。二人とも慣れた様子で来訪者を迎える。

 

「構わない。今日は、日時を決めに来たのではないか?」

 

 陸翔の応じる声に、芙二は小さく頷く。

 全員が揃い、用意されたパイプ椅子に腰を下ろした。

 

「よし、全員揃ったようだ。では、本題に入ろう」

 

 陸翔が会議の開始を宣言し、話し合いは進み始める。

 

 すでに事前調整を終えていたおかげで、大きな滞りはなく、残すは上官の承認だけだった。

 

「一番イヤなところだけが残ったな。谷部の声なんか、聞くだけで殺意を抑えられない。陸翔殿、代わりにお願いできるか?」

 

 芙二の表情に険をが走る。額には青筋すら浮かんでいた。

 

「いつになく弱気だな……いや、昨日の今日だもんな。叢雲さんたちも、あいつの声は聞きたくないよな。すまない。五十鈴、彼女たちを連れて一度外してくれ」

 

 陸翔は冷静に促し、五十鈴もすぐに応じる。

 

「了解。何かあれば、内線をちょうだい」

 

 五十鈴が叢雲たちを伴って退室すると、陸翔はポケットからスマホを取り出し、机の上に置く。

 

「……では、かけるとしよう。あのクソじじいになァ」

 

 一言呟いたその声には、憎悪が滲んでいた。

 

「そっちが素か? そういえば陸翔殿も被害者の一人だもんな。もし、その憎悪が過熱して、自分を、あるいは仲間を焦がすようになったら……遠慮なく連絡をしろ。(オレ)が引き受ける」

 

 芙二の言葉に、陸翔はふっと表情を緩める。

 

「ありがたい。でも俺よりも、艦娘たちを優先してくれ。……戦地へ赴き、戦うのは彼女たちだ」

 

「馬鹿言うな、指揮官も憎悪に呑まれちゃいけないんだぜ。頭が狂っちまうと全てが狂う。嚙み合わない歯車のように、な。それに(オレ)は――天下無敵の龍神様よ! 心も体も治すのはお手の物。けど、そのあと付き合うのは本人次第だな」

 

 その言葉に思わず、陸翔は豪快に胸を張って笑ったあと、どこか寂し気に目を伏せる。

 

「……ぜひとも、そのときはよろしく頼むよ」

 

 彼はスマホの画面をタップする。

 連絡先の一覧から【谷部提督】の名を選び、スピーカーボタンを押した。

 

 ――プルルルル

 

 ……ガチャッ

 

「もしもし? ……東第三鎮守府の神城か、(わし)になんのようだ?」

 

 一発目で繋がった。

 声の主、谷部は苛立ちを隠すつもりはない様子。

 

「お久しぶりです、谷部殿。本日は少しお話がありまして、ご連絡差し上げました。今お時間、よろしいでしょうか?」

 

「ふむ、手短に言え。儂は今、忙しいのでな」

 

 風呂場にでもいるのか、反響した音がスピーカー越しに響いてくる。

 

「東第一泊地の艦娘数名を、こちらで一時的に預かりたいと考えております。ご確認だけ、させていただければ」

 

 沈黙。

 

 谷部は言葉を返さない。

 

 陸翔が呼びかけようとしたとき、聞き覚えのない女の喘ぎ声がスピーカーから飛び込んできた。

 

『あぅ…ッああぁっ♡はぁーッ…んんん…っ! ふか、あ゛ぁ♡ッ』

 

「ええい、貴様のご主人様が大事な会話をしとるうちに喘ぐな、鳴くな!」

 

 激しい叩打音。

 

「あ゛っ♡」「ひっ♡♡」

 

 そしてまた、女の嬌声が続く。

 

「まッ…ま゛ッて゛え゛ッ♡♡ キち゛ゃう゛う゛ッ♡♡」

 

 快感を味わうような嬌声。

 谷部も興が乗ったのか、叩打音に罵声も混ざる。

 

 通話は完全に、会話の体を成していなかった。

 

「……こほん。聞こえているかな、陸翔殿。後で後釜に君へ連絡するように伝えよう。それでは、失礼する」

 

 谷部は早口で言い、通話を切った。

 

 沈黙が支配する部屋。

 最初に口を開いたのは、呆れ果てた芙二だった。

 

「……あれが上官かよ。顔を知っているだけに、なおさら気持ち悪いな」

 

「全くの同感だ。……結局、了承を得れずか。後釜とやらが連絡してくるまで、待機だな」

 

 陸翔はスマホを回収し、肩の力を抜き、ぐでっと脱力する。

 そして脱力した様子で言う。

 

「今五十鈴たちを呼んでくるから、ちょっと待ってくれ」

 

「分かった」

 

 芙二が返事をし、立ち上がって軽くストレッチをしようとした、そのとき。

 

――プルルル

 

 芙二のスマホが鳴る。画面に表示された名は【織間】。

 

 胸がざわめく。

 気配を悟られないよう、表情を整えたまま応答する。

 

「こちら、ストレンジ・ヴェルダー」

 

『おお、きちんと繋がるではないか。感心感心……っとそうではないな。さて、ヴェルダーよ。手短に伝えよう。決して日時を間違えるなよ?』

 

 織間の声はいつになく低く、どこか威圧的だった。

 

「はい」

 

『翌々日の○○二五。陸軍棟、地下三階に集合だ。時間厳守。不安ならば○○一五から入口に案内人を立たせよう。必要なものは、ない。それでは―ー待っている』

 

 プツリ、と通話が途切れる。

 その瞬間から、芙二の意識は切り替わった。

 

 今この瞬間から作戦は始まっている。

 

(……うお、凌也殿。なんか嫌な事でもあったのか? 怒気と殺気がすげえぞ?!)

 

 陸翔は芙二の気迫に押され、そっと姿勢を正す。

 真正面に座るのは気が引けて、そっと椅子を右に三つ、ずらした。

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