とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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1章 13話『彼と彼女』

 雲一つない晴天の海上に雷鳴が轟く。

 島風たちの視界には、よく知る人物と見知らぬ二人が映る。

 

「芙二提督! もしかして、こっちの救助要請に応じてくれたの?」

 

 白と青を基調とした海軍の帽子と制服を身に着けたメガネの青年。東第三鎮守府の面々であれば誰もが彼に恩義を感じている。

 

「誰の声か分からなかったが、ただならぬ状況だと察知して来てみれば……なんだ、こいつ?」

 

 黒焦げの皮膚を破る様にして、ぶくぶくと肉が盛り上がる。

 十秒と経たないうちに次なる姿へ転じた。

 

 背から翼を生やす。足は不定形な形をとり、皮膚は黒くひび割れていた。

 未知の存在に警戒していているのか、二体とも動かない。

 

「マスター、あれらは生き物ではないかと思われます。生物の核である魂がどこにも見えません」

 

 緑色の髪、仮面。指揮者の恰好をした長身の人物が彼に話しかけた。続けて鮮やかな髪の長身の女性も会話に混ざる。彼女は緑髪の人物と似たような仮面をつけていたが、口元は露出していた。

 

「ええ、そうでしょうね。パラディーゾ、あなたの読みは正しいです。あれらはヒトの手で創り出された贋作。いや贋作以下です」

 

 そう静かに言う。緑髪の人物はパラディーゾと呼ばれ、鮮やかな青髪の長身女性は芙二の口からレイニーナと呼ばれていた。

 

 島風の目には、名前を呼ばれた一瞬だけ頬が緩んだように見えた。大人や戦艦や空母の艦娘でも滅多にいない長身を前に、「首が疲れた」と緊張感が薄れてきた頃。

 

『ギィイ……ッ!』

 

 イ級が奇声をあげて、突進してきた。

 元々備え付けの主砲は沈み、代わりとして触手を鞭のようにしならせる。

 

 艦娘と同じように、水面を駆ける様は脳筋タイプだと見受ける。

 

「出来の悪いキメラかよ」

 

 それを見て、東第四泊地で出会ったムカデを思い出す。

 アイリの失敗作と似た存在を前に、芙二の心は穏やかさを失う。

 

「パラディーゾ、レイニーナ。こいつらは(オレ)が片づける。()()()()()は彼女らと離れて、守ってやってくれ」

 

 二人はその命令に頷く。哨戒部隊のメンバーを抱えて芙二の能力の範囲外まで飛ぶ。

 

 レイニーナに抱えられる直前、暁の耳には「終わったら行く」そう聞こえた気がした。

 

 瞬間――赤い稲妻が落ちる。

 範囲外まで移動する彼ら以外は目や耳を覆った。

 

 彼女たちが瞬く間にサーチ圏外へ去ったのを見届ける。

 今、海上は焦げたイ級のみだった。

 

「……本当は彼らのゲリラセッションの予定だったんだが、これはダメだな」

 

 彼の眼下にはわずかに痙攣するキメラの胴体。焼け焦げた肉の間から青い血が滴り流れる。

 命が終わったのか、胴体は力を失っていく様子が見える。更なる成長の過程で伸びていた骨や筋繊維、血管はだらりと垂れ下がり、瞳孔が開いたまま動かない。

 

「こんなのがどこから?」

 

 などと考えても仕方がない。

 ただ死んだように見えて、生きていたらと思うと恐ろしい。

 

 これは自らで処理するしかない、と感じてキメラへ近づいた。

 

 未だ蠢く肉塊に触れ、徐々に分解して塵に変えていく。

 

このあいだ(テロ)の残党か?」

 

 それか非情派、谷部たちの刺客。

 今一番考えられるのは、その二択。

 

「今考えるだけ無駄か。……まあ焦らず待ってみようかね」

 

 最後の一体も分解終えて、立ち上がる。

 服に飛び散った水飛沫や塵を払いのけ、パラディーゾたちの元へ転移した。

 

 

 芙二から二キロメートル離れた地点にいたパラディーゾたちは様子を伺っていた。暁たちは自分たちを遠くへ運んでくれた彼らに感謝の言葉を言おうとしたそのとき。

 

 赤い稲妻が落ち、まばたきを強制させる光が暁たちを包む。

 その瞬間、パラディーゾとレイニーナが壁となり、彼女たちを守る。

 

「うわっ」

 

 哨戒部隊の中から悲鳴があがる。

 誰も彼らの影から出ず、落雷が落ち着くまで耐える。

 

 ほんの数分で雷は消え去り、周囲は穏やかな天候、波模様となっていた。

 

「わぁっ! すごい雷だったね! あれが、噂のひと?」

 

  高身長な彼らの足元でひそひそと話し声が聞こえる。

 

「落雷が終わったはずなのに、まだ肌がビリビリするわね」

 

 哨戒部隊の(いかずち)が、同じ随伴艦の(いなづま)や島風に言った。彼女は両手を抱いて摩っている。電は雷を心配するが、島風はパラディーゾたちを見て微動だにしない。

 

「島風? どうかしたのですか?」

「さっきの落雷で感電しちゃった?」

 

 そう心配そうに声をかける。

 当の本人は、レイニーナの白いワンピースの裾を掴んで口を開いた。

 

「ねえ、鮮やかな髪のお姉さんは芙二さんの知り合い?」

 

 島風の方を振り向いて、頷く。

 

「広義的には、知り合いです。ただ私たちは芙二様に創造された生命です。それと、艦娘のお嬢さん。私はレイニーナという名前を頂いています。できれば、そちらでお呼びしてください」

 

「うん、分かったよ。レイニーナさん! それと私も艦娘のお嬢さんじゃなくて島風っていう名前があるの!」

 

 微笑む二人が自己紹介を済ませていた。そこへ芙二が現れて島風は「ひゃあっ」と可愛らしい悲鳴をあげてレイニーナにしがみつく。

 

「おっと悪い、何か話し込んでいたか?」

 

 悲鳴に驚いた芙二は、島風とレイニーナの方を見る。

 「おかえりなさい。掃討戦、お疲れ様です」そう言う彼女は続けて口を動かす。

 

「いえ、特に報告すべき内容ではありません。それよりも―ー」

 

 微笑んでいた時とは違い、毅然とした態度で申した。

 

「島風の顔を見るに……ふむ。互いに自己紹介でも済ませたか? 結構、結構。どうせ彼女たちとは三、四ヵ月は共に働くんだ。早くに済ませて悪いわけはあるまいよ」

 

 ハハハ、と笑う。

 やや恥ずかしそうにレイニーナはしがみつく島風を剥がし、自身の前に立たせる。

 

 それでも島風の顔は微笑み続けた。

 笑顔の圧に負けた彼女は、くしゃりと優しく島風の頭を撫でる。

 

「だけどね、マスター。まだ僕の紹介は済んでないんだよ。艦娘の娘たちは警戒していて、中々切り出せなくって。島風って娘はレイニーナと打ち解けていて少しうらや―ー」

 

 芙二の上でなにやら言っていた彼は、相棒のレイニーナに背中を(はた)かれる。

 

「痛ったいなあ~」

「女々しくだらだら話すのでは駄目です。艦娘の皆さんもあなたの挨拶を待っていますよ。それにマスターを待たせるのですか?」

 

 彼は背を摩りながら、軽く咳ばらいをした。

 

「初めまして、艦娘の皆さま。私はパラディーゾ。先ほど彼女が言いました通り、僕もそこにいるマスターに創られた命です。後日、彼女と共に東第三鎮守府へ赴き、お世話になる予定です」

 

 芙二を挟む形で立つ二人を交互に見て、驚きの声を上げる。中には、規模の大きさに放心する者も現れだす。

 

「最後に……彼女と共に皆さまをお守りすることを命ぜられております。それに我々は演奏家でもあります。故に天上の音色を耳にしたとて、心奪われる事なきようお願いしますね」

 

 そう言うと綺麗にお辞儀をした。

 周囲からは彼へまばらに拍手が送られる。

 

「よし、自己紹介は済んだことだし陸翔殿の元へ帰ろうか」

 

 皆に声をかけた後、目の前に黒橡材(ダークオーク)の扉を召喚させ、鎮守府までの道を作る。

 

「今回は特別だ。時間が惜しい、早く帰るぞ」

 

 一人一人、歩いて扉の奥へ消えていく。

 島風はレイニーナと共に向かい、パラディーゾは芙二と扉をくぐった。

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