ここは東京のどこか。どこか、とぼかすのは特定を防ぐためでもあり、すぐに場所を変えるためでもある。
夜二十三時過ぎ。新月の夜。月明かりの代わりに、葉月を街の灯かりが照らす。それに九月の夜は少し涼しい。心地よい風を浴びていると、ふと彼女のことを考えた。
「紅雪のやつは、ちゃんと伝えたか? 間違っても敵対しちゃあ……命はないと思えって念を押した。今は彼女を信じよう」
俺は今、自分のビルの屋上にいる。ズボンの右ポケットから吸いなれた紙巻きたばこを口に咥えて火をつける。
「っふぅ~……やっぱり苦い。俺の人生みたいだ」
周囲の大人は、ニコチン依存気味なやつとかこつけている人間ばかり。
子供から大人へ体と精神が様変わりするとき、決まって煙草は相棒のようなポジションにつく。人生の相棒。嗜好品のはずがいつの間にか――自分の人生になくてはならないものへ。
だが、今は別の道が見えてしまった。それは同じ人種に出会ってしまったのだ。俺と彼は生まれと育ちが同じで、視た未来も似ていた。
今にして思えば、始まっていたのかもしれない。あの世界で出会った時から。もっと言うと、俺があの世界に迷い込んだときから。
「若頭、ここにいましたか」
俺の姿を見て、駆け寄る姿が一つ。若衆の一人の
正直な話、丹内が扱う得物はどれも成果をあげている。彼こそ、鬼に金棒という言葉が似合う人物でもないだろう。
「若頭? どうかされましたか?」
眉間に皺を寄せ、長く内心で語っていたが為に要らぬ心配をかけたようだ。
「ああ、大丈夫だ。丹内、俺を探していたようだが何かトラブルか?」
「雀酔組の鮫島が、東第一泊地を強襲したみたいです。なんでも菜央さんが、彼らを手引きしたという噂もあります。いかがしますか?」
東第一泊地を強襲、という言葉に対し俺は怒りを覚えた。うちのシマを荒らされたようなものだ。しかもよりにもよって海軍の施設にカチコミたあ、見境ない。
「紅雪以外にも他の組員を遣わせますか?」
伺うような視線。言葉遣い。俺が出るまでもない。ましてや他の組員を送ってみたらそれこそ、火に油。いや邪龍に怨念か。あの戦いを見ていたが、どうも彼は災いの存在へなったみたいだ。
「いンや。必要はない。菜央さんの件は不問にしとけ。その変わり、雀酔組の大掃除を決行しろ。組のトップはもうこの世にいやしねえからよ」
俺は紙巻き煙草の煙を灰皿に押し当てて消す。丹内は「御意」と短く返し、階段の方へ歩いて行く。
誰もいなくなった屋上で溜息をもらす。なんとなく確認した腕時計が示した時刻は二十三時 三十二分。
「そろそろ夜が深くなるな」
屋上の柵の下へ放り投げていた黒革のジャケットを伸ばす。いそいそと袖に腕を通して羽織ると、もうそこには青年はおらず、白月組の若頭の姿だけがあった。