「おー、おー……ヴェルダーよ。君はとんでもない恰好で来たものだ」
若干顔を引きつらせて、ヴェルダーの格好を指摘する。
黒を基調とした青いスーツの上下。白のネクタイを締め、濃紺色の革靴を履く。
藍色髪のオールバックに、メガネというインテリ感のあるファッション。
対して、他の面々は至って普通の私服。
完全に浮いている。アントに至っては、
「俺には私腹を肥やしてるっていうツラに見えるぜ」と皮肉を言い始める始末。
オウルは豪快に笑いながら、そういう客もいる、と励ます。ヴェルダーは少し恥ずかしそうに、俯いて、「ありがとう」と言う。
場が和んだ隙を見て、オウルは咳ばらいをする。
「これより、我らは一般人として潜入する。伴い、わしのことは武田。ラビットは筧、アントはジークと呼ぶように」
武田の言葉に、二人は頷く。
「そしてヴェルダー、差し支えなければ」
武田はどこか、申し訳なさそうな表情をする。
「芙二だ。芙蓉の
武田は芙二のスマホを手に取り、画面を拡大して声をあげる。スマホを片手に、小さなメモ帳へ書き込む。そしてすぐに芙二へスマホを返却した。
「武田さん! もう改札へ向かわないと、乗り遅れてしまいますよ」
急かすような、ジークの言い方。言葉を聞いてか、頷き、改札へ向かう。
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白鳥駅行きの寝台列車へ乗った四人は、到着までの一日間は思い出に花を咲かせる。幼い頃に両親と遊びに行った、修学旅行先は決まってここだった、など芙二にとっては馴染み辛さを実感。
芙二はこの世界へ来てからというもの、海軍と深海棲艦漬けな生活。娯楽のある日常とは無縁の生活を送っている。
時間は流れ、ジークが家族との思い出を楽し気に話す姿を見た。こいつも笑えんじゃねえか、と芙二はふ、と笑う。ツンツン、皮肉めいた言葉じゃなくて、当時を振り返りながら楽しそうに話す姿は子供のよう。
「そういえば小さい頃にオレに姉ちゃんが居て」
武田と筧は、孫の会話を見守るような表情で聞いていた。だが、以降の会話が続かず、どうしたのか、と問う。
当の本人は、
「楽しい思い出が頭の中に押し寄せてきて、こんがらがってしまった」と、頬を掻いて笑う。
武田と筧の両者は、顔を見合わせる。強張った顔を緩め、ジークへ、ゆっくりと話していいと諭す。ジークは頷き、ありがとうございます、と言い続きを話すのだった。
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「うひゃ~……あのアトラクション、5時間待ち!?」
白鳥へ来てから、人の多さに驚いたのも束の間。いちアトラクションに並ぶ人の数で、ドン引きしていた。ああ、までして乗りたいものかと。
どこを歩いても人、人、人!端から端まで人で詰まっているんじゃないかってくらいの多さ。
「そのくらいだと、人の波に攫われて迷子とか絶対ありますよ」
比較的に人が少ない、場所での休息。ジークは、長椅子に腰を掛けてスポーツドリンクを飲みながら言う。
『うぇええ~ん!! おかあさぁん~!! どこ~!!』
ジークは目を丸くさせ、飲みかけのペットボトルを落としそうになる。武田と筧、周囲の人の群れも一斉に騒めく。その中で四、五歳の子供の声だけがこだました。
「おい、坊。大丈夫か。
芙二だけが、泣く子供に近づいて励ました。不器用そうに、言葉を紡いで、能力に頼らず、手を引く。
「うむ、芙二の言う通りだな。わしらも一緒に探そうではないか。筧、頼めるか?」
「はあ。わかったわよ、そんなに見やんで!」
芙二と迷子の元に武田と筧がやってくる。武田は筧の手を取り、じっくり見るや否や彼女が仕方なさそうに迷子を抱きかかえる。
いつの間にか、いなくなったジークはどこからかスタッフを連れてきて、
「この子です。多分親か親戚の人と離れてしまったんだと思います」
息を荒げて言う。しかしスタッフは筧と武田、芙二を見ると笑顔で、
「親御さんと再会できたようでよかったです。では、私はこれで戻りますね」
と、言ってどこかへ行った。ジークは、何か言いたげでスタッフを追いかけようとする。
「ジーク。一度迷子センターへ向かうぞ」
彼は足を止めて、武田の言葉に頷く。
子供を抱きかかえる筧、の手を握る武田。その手を握る芙二。ジークは心底嫌そうな顔をして、芙二の手を握る。一歩を踏み出そうとしたその時。
「アーハッハハ! 迷子の子供の泣き声がするところに私あり! むむ、そこのお嬢さん。その子を返してもらおうか!」
どこからか、声が聞こえる。人々が指差す方へ視線を向けると、ごてごての白い鎧に、白鳥をモチーフにしたヘルメットをつけた変人がいた。
かなり高い所から飛び降りたが、鈍い音ひとつせず、すぐに立つ。
「私の名前はウィングスワン! 悪の軍団、キメラーズの手先よ、かかってこい!」
ニチアサ戦隊のような決め台詞、ポーズを取ると観客が湧き上がる。芙二は鳥肌が立ち、その場から離れたくなる。
だが、三人は思い出の魅了されたように役になりきろうとしていた。
「さあ、子供を返してもらおうか!!」
ウィングスワンが筧の元へ駆けだした。
ここから、彼らの“一般人の一日”は終わる。
次章――「2章 アミューズメントパーク
一部、加筆しました。
ついにヴェルダーは、艦娘が囚われているアミューズメント施設へ!