とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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第2章 アミューズメントパーク 白鳥
2章 1話『寝台列車』


 集合時刻の朝六時――マルマルロクマル。夜と朝が切り替わる、未明。芙二は東京のとある駅の前にいた。時間が早いこともあり、それほど人はいない。

 

 山の麓というのもあり、空気がひんやりと冷え、少々肌寒く感じる。

 

(時間はぴったりだが、もうすでに誰かいるだろうか)

 

 指定された服装は私服。黒を基調とした青いスーツの上下。白のネクタイを締め、濃紺色の革靴を履く。

 

 (これでよかったのか?)と不安そうに額から後頭部にかけて、触れる。藍色髪のオールバックに、メガネというインテリ感のあるファッションとなっていたからだ。

 

「おー、おー……ヴェルダーよ。君はとんでもない恰好で来たものだ」

 

 左側を振り向くと、笑いながら手を振って近づくオウルは黒いTシャツ、白い長ズボン、茶色の革靴という、至極まともな格好をしていた。軽く羽織っている迷彩柄の上着の裾が、風に揺れる。

 

 その隣にはラビットがおり、白い曼殊沙華の袴を着て、こつこつと音を立てながら歩く。

 

「海軍の人間は、私服が派手でいいなあ~? 俺には私腹を肥やしてるっていうツラに見えるぜ」

 

 皮肉たっぷりに嫌味を言うアントは、ナ〇キの白いスポーツウェアを上下、身に着けて〇イキのロゴが入った白いスニーカーを履いていた。両肩に小さめのリュックサックを背負う。

 

「やっぱりこの格好は少し浮くか? ……到着したら、ホテルで着替えるか」

 

 一般人に紛れろ、というメッセージがあったかも、と内心顰める。そんな芙二にオウルが背を叩きながら、

 

「うむ、少しどころかかなり浮いて見えるぞ。だが、そういう客人もいるだろうな。わしはヴェルダーの私服を良いと思っておる。ラビットもそう思うよな!」

 

 急に振られたラビットは、肩を震わせる。気まずそうに目を左右へ泳がせてから、一言。

 

「ま、まあいいんじゃないかしら? 最近の若い子って感じで。そう思わない? アント」

 

 そう濁し、金髪の青年のアントへバトンが渡される。

 

「ぅえ!? お、オレっすか……あー、いいんじゃねえの? 成金って体で行ったら。それとオウル――いえ、武田さん。他の乗客がいる方でコードネーム呼びはまずいのでは?」

 

 アントに言われて、オウルは咳ばらいをする。

 

「そうだな、アント――ジークの言う通りだ。今は、一般の武田(タケダ)として活動しようか。(カケイ)もそれでいいか?」

 

 一瞬、オウル――武田の顔が強張った。

 

「え、ええ。あなたがそれでいいなら、私はかまわないわ」

 

 名を呼ばれ驚いたのか、目を丸くしたラビット――筧が頷く。

 

「ヴェルダー……差し支えなければだが、名前を教えてはくれないだろうか?」

 

 左手を差し伸べて、問う。

 

芙二(フジ)だ」

 

 短く返事をする。スーツの内側ポケットからスマホを取り出して名字の字を見せた。

 武田は芙二のスマホを手に取り、画面を拡大して声をあげる。

 

「ほほお……君の名字はこう書くのか。中々に珍しい字をしているな」

 

 スマホを片手に、小さなメモ帳へ書き込む。そしてすぐに芙二へスマホを返却した。

 

「どうも。そろそろ改札へ向かいませんか?」

 

 スーツの内側へ仕舞い込み、言う。その言葉に武田たちは頷いて、芙二の前を進む。

 筧、ジークと続く。

 

 芙二は、出遅れないよう彼らの背を追う。

 

 

 

 

 時刻は午前八時丁度。白鳥駅行きの寝台列車へ乗った四人は、到着までの一日間は思い出に花を咲かせていた。

 

 最初はこれから向かうアミューズメントパーク白鳥についての思い出。残念なことに芙二はこの世界へ来てからというもの、海軍と深海棲艦漬けな生活。共感できなくとも、会話自体は嫌いではなかった。

 

「そういえば武田さん、小さい頃にオレの姉ちゃんが――」

 

 そう言いかけたとき、ジークの表情が曇る。楽し気な表情から一転、三人から心配する声が上がり始めた。

 

 口を閉じ、俯くジークは暫くそのまま動かない。

 

「ジーク、どうかしたのか? 体調がおかしいなら、横になるか?」

 

 武田が彼の背中をさすり、声をかける。しかし、

 

「いえ、楽しい思い出が頭の中に押し寄せてきて、こんがらがってしまっただけです」

 

 そう笑う。そして家族、いや姉との思い出を楽しそうに話す様子を見た二人は、互いに顔を見合わせた後に、会話に混ざる。

 

(なんだ、あいつの顔)

 

 ただ一人、芙二だけがジークを気にかけていた。

 

 

 

 

 電車は休むことなく走り続け、とうとう着いた。アミューズメント施設のある白鳥駅へ。

 電車から降り、身体を伸ばす。北国の冷たい空気を味わい、他の観光客の中に混ざらないよう、気をつけて改札を抜ける。

 

『ようこそ! アミューズメント施設 白鳥へ!』

 

 電光掲示板にはそのように表示されたのちに、各スポンサーのCMが流れ始める。あたりを見渡すと、戦時中とは思えないほどの賑わい。家族やカップルが笑顔で、話している様子が見える。

 

(うわ、イベント当日の舞浜みてえな人出)

 

 巨大な白鳥のハート型アーチの前に、大勢の観光客が集まっていた。過密状態となり、いつ人の雪崩が起きてもおかしくないと状況を危ぶむ。

 

「芙二よ、はぐれるでないぞ。プラチナ会員は入り口が少し異なるようだからな」

 

 顔を青くさせている芙二に武田が呼びかけた。人波を分けて、進む武田に短く返事をして後をついていく。

 

 道行く人の楽し気な会話や笑顔を見ていると、あの時に感じた怨嗟の悲鳴は見間違いだったんじゃないかと思えてきた。

 

(そんなわけがない)

 

 すぐに否定し、付け加える。

 『どうしようもない悪が存在する』という事実。

 

 脳裏に浮かぶのは、泊地のみんなの後ろ姿。自らが率先して戦えば、仲間を守り、秩序を維持できると思い込んでいたツケ。

 

 艦娘たちの見せる様々な表情ではない。きちんと覚えていたはずなのに、チグハグになっていることも自覚する。

 

「ヴェルダー? 大丈夫か?」

 

 ふいに声をかけられ、顔をあげる。

 心配そうに覗きこむ武田と目が合う。

 

「すみません、人に酔いかけた。だが、もう大丈夫だ」

 

 目を見て返事をする。

 パチリ、と合った武田は笑みを浮かべた。

 

「あい分かった。しかし気分が悪くなりそうだったらすぐに言うのだぞ」

 

 そういうと、筧やジークと歩数を揃えて再び歩き始める。

 芙二は彼らの背を追いかけようと、一歩を踏み出した。

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