とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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2章 6話『観覧車前の騒動』

 イチヨンサンマル 観覧車付近にて。

 

 リネとの食事を終え、会話をしながら散歩をしていた。昨日と同じような、人の群れが形成されており、施設の盛況ぶりに呆れている。

 

 気が付けば、目的地の傍まで来ていた事に目を丸くさせる。芙二はリネと手を恋人繋ぎの状態でここまで来ていた。観覧車の方は他の客に混じって、武田と筧がいる。

 

 そしてこちらを睨むジークが視界に入る。昨日の今日ということもあり、彼女になるべく近づけたくない相手。顔を俯き、打開策を練る。

 

「レンジさん? どうかされましたか?」

 

 リネは一方向を見たまま、静止する芙二を不思議そうに見る。彼女はレンジの視線の方を見て、声をあげた。

 

「わあ! 観覧車! レンジさん、あれに乗りたいのですか? なら、ぜひ!」

 

 お気に入りを見つけたように、目を輝かせて、芙二の手を引っ張る。

 

「リネさん、ごめんなさい!」

 

 観覧車を指さし、子供のように目を輝かせるリネに足払いをする。

 ジークの殺気が、今この場でぶつかれば惨事になると直感した。

 

「きゃあっ……!」

 

 急な出来事にびっくりして、倒れかけた。

 すかさず、芙二が彼女を抱きかかえ駆ける。

 

「ッ! あの野郎、オレの姉ちゃんに何して――絶対に聞き出してやる」

 

 一部始終を見ていたジークは、顔を歪ませ、芙二の後を追う。ジークの行動に驚いた武田と筧は、列を抜け出して人混みの中へ。

 

 

~~

 

 

 芙二はリネをお姫様抱っこで抱きかかえ、人混みの隙間を風のように抜ける。周囲の人々はもちろん、リネは驚愕の表情をする。

 

「レンジさん……こんなことも、できた、んですか!?」

 

「舌を噛むぞ、口を閉じてろ!」

 

 余裕がなくて、つい口調が荒くなる。芙二の必死の形相を見て、リネは静かに口を閉ざす。

 

 芙二はずっとリネを抱えながら人の波を縫うように、走り抜ける。背後から威圧感と殺意が向けられているのが、手に取る様に分かった。

 

「――待てや! 新人ッ!!」

 

 背後からの怒号。芙二はその声を聞き、舌打ちをした。聞き覚えのある声にリネは、後方へ目を向ける。

 

 金髪の青年が鬼の形相で、人の波を散らしながら迫っていた。カップルや家族連れが巻き添えになるところを見て、リネは声を張りあげる。

 

「レンジさん!! 止まって!」

 

 芙二は耳元で大声を出され、急停止を余儀なくされる。慣性の法則が働き、彼女を落としそうになるが、なんとか堪えた。抱きかかえていたリネを地面に下ろし、ジークは息を荒げ、追いつく。

 

「はぁーっ、はぁーっ……んで、新人。テメェがオレの姉ちゃんと一緒になってんだァ?」

 

 ジークは膝に手をつき、前のめりになって言う。時折、苦しそうに咳き込み、汗を拭う。芙二は、まだこいつ狂ってんのか、と哀れみの視線を向けた。

 

「何とか言えや、テメェッ……!」

 

 ゆっくりと体を起こし、芙二を睨みつけるはずが――、ジークの目の前には顔を真っ赤にしたリネが仁王立ちでいた。

 

「ひっ! 姉ちゃん、オレは違う。オレは、なんで新人が姉ちゃんと一緒にいるのか知りたくて」

 

 先ほどとは違い、ジークは大きく取り乱す。尻もちをつき、掠れた声で否定を繰り返す。次第に顔を青く染め、泣きそうな声色で謝罪を始める。

 

「ッ! まだ言いますか、この――」

 

 リネはジークの言い訳に腹を立て、右手を上げる。その瞬間、ジークは目を瞑り、やっと追いついた武田と筧は状況を察した。

 

「待った。リネさん、手を出すのはダメだ」

 

 芙二はリネの右手を掴む。怒りを露わにしたリネは、何か言いたそうにするが、やがて右手を下ろした。彼女の手が下がるのと同時に芙二の手も離れる。

 

「すみません、私としたことが取り乱しました。レンジさん、私はこれにて失礼しますね。ヒーローショーを一緒に見れず残念です」

 

 冷静さを取り戻したリネが、芙二へ頭を下げた。ジークのことは一瞥もせず、人混みの中へ消えていく。尻もちをつく体勢のまま、放心するジークへ武田が話しかける。

 

「ジーク、いったいどうしたんだ。どうしてそこまで……いや一旦、落ち着ける場所まで行こうか。芙二、肩を貸してくれるか?」

 

 武田の言葉に反応を示すが、立とうとしない。芙二へ手招きをし、彼を運ぼうとしたときジークが立ち上がる。

 

「あんなやつの手を借りるくらいなら、自分で立った方が何千倍もマシです。すみません、武田さん、筧さん」

 

 ジークはハンカチで自分の顔を雑に拭き、腫らした目元を晒す。武田、筧の両者を見つつ、頭を下げる。

 

 武田はジークのすぐ傍まで寄り、小さく、重々しく表情で話しかけた。

 

キラーアント。君の行動は目に余るものがある。次はない

 

 ドスの効いた、言葉を聞いたジークは何度も頷いた。筧は何も言わなかったが、手を腰に当てて、やれやれと言いたげに溜息を吐く。

 

 そうして、彼らは休憩できる場を求めて探し歩く。

 

 

~~

 

 

 比較的に人が少ない、場所での休息。ジークは、長椅子に腰を掛けてスポーツドリンクを飲みながら落ち込む。

 

 楽しい雰囲気から一転。どんよりした空気はジークを中心に渦巻く。武田や筧は傍に寄り、励ましの言葉をかける。

 

 ただ芙二だけ、ジークを見つめ、彼の異常な固執ぶりを邪推していた。

 

(そこまで姉を固執する理由はなんだ? ただの家族とかそんなのじゃないのか? 血の繋がり? それともシスコン?)

 

 脳内でいくつか候補を上げるも、全て該当しない気がする。先ほどのリネが手をあげかけた場面。ジークは目を瞑ったが、芙二は彼の見開かれた瞳孔は、人間のそれではない反応だった。

 

(一瞬だけ、瞳孔がバツ印みたいにクロスした。あいつは(オレ)のような存在なのか?)

 

 湧き上がる新たな疑問。ジークを観察しながら、長考に耽ようと、したとき、

 

『うぇええ~ん!! おかあさぁん~!! どこ~!!』

 

 子供の声だけがこだました。声の主は赤いシャツ、黒い短パンを履いた四、五歳の男の子。武田と筧、周囲の人の群れも一斉に騒めき、ジークは目を丸くさせ、飲みかけのペットボトルを落としそうになる。

 

 二日連続の迷子の子供と遭遇。周囲を一瞥しても、他の客は騒めくだけで行動しない。痺れを切らした、芙二が泣いている子供へ近づき、しゃがんで目線を合わせて言う。

 

「おい、坊。大丈夫か。(オレ)と共にお前さんのお母さんを見つけてやる」

 

 芙二だけが、泣く子供に近づいて励ました。不器用そうに、言葉を紡いで、能力に頼らず、子供をあやす。抱きかかえ、背中をさすり優しい言葉をかけ続ける。

 

「うむ、芙二の言う通りだな。わしらも一緒に探そうではないか。筧、頼めるか?」

 

「はあ。わかったわよ、そんなに見やんで!」

 

 武田と筧がやってくる。武田は筧の手を取り、一瞥する。彼女が仕方なさそうな態度で、芙二から男の子を渡されると慣れた様子であやし始めた。

 

 芙二の時はぐずっていたが、筧があやし始めると瞬く間に泣き止む。

 

「いい子、いい子。大丈夫、おじちゃんとおばちゃんたちがすぐに見つける。だから、すこぉしだけ、我慢してや」

 

 筧はそう言い、軽く男の子の頭を撫でる。武田と芙二は泣き止んだ子を見つめて、筧を褒めちぎる。彼女は顔を赤らめて、

 

「冗談もほどほどにして! もう二人ったら。でも、芙二……最初の出だしは良かったよ。この子も、少しだけ安心できたんじゃないかな」

 

 優しい目つきで、男の子を見つめる筧の姿はまさしく、母であった。

 

 いつの間にかいなくなった、ジークはどこからかスタッフを連れてきてひとこと。

 

「この子です。多分親か親戚の人と離れてしまったんだと思います」

 

 ふぅ、と小さく息を吐いた。

 しかし事情を知らないスタッフは筧と武田、芙二を見ると笑顔で、

 

「親御さんと再会できたようでよかったです。では、私はこれで戻りますね」

 

 と、言ってその場を立ち去った。ジークが呼び止めようにも、スタッフの足は止まらない。

 落胆の様子のジークに武田が口を開く。

 

「ジーク。一度迷子センターへ向かうぞ」

 

 彼は足を止めて、武田の言葉に頷く。

 

 子供を抱きかかえる筧、の手を握る武田。その手を握る芙二。ジークは心底嫌そうな顔をして、芙二の手を握る。傍から見れば、一家団欒そのもの。

 

 一歩を踏み出そうとしたそのとき、高らかな笑い声が響いた。

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