芙二:ジャバウォック(ヒーローショー内)
ジーク:デザートウルフ(ヒーローショー内)
※今回は長めです。
どこからか、高らかな声が響く。芙二は周囲を見渡すが、見つからない。
「そんなところに私はいない! ――姿を現してやろう!」
声の出所がつかめない。人々が指差す方へ視線を向けると、ごてごての白い鎧に、白鳥をモチーフにしたヘルメットをつけた変人がいた。
かなり高い所から飛び降りたはずだが、鈍い音ひとつせず、すぐに立つ。
「アーハッハハ! 迷子の子供の泣き声がするところに私あり! むむ、そこのお嬢さん。その子を返してもらおうか!」
筧と腕の中の男の子を指さして叫ぶ。筧は、ぽかんとして硬直する。逆に男の子は「うぃんぐすわんだ!」と楽しそうに笑う。
「武田さん、渡してもいいと思う?」
となりの武田に問う。彼は頷き、
「そのまま預けよう」と言った。
しかし目の前の変人は聞く耳を持たず、堂々と宣言する。
「私の名前はウィングスワン! 悪の軍団、キメラーズの手先よ、かかってこい! 来ないのならば、こちらから行くぞッ!」
ニチアサ戦隊のような決め台詞、ポーズを取ると観客が湧き上がる。ウィングスワンの足元から白い煙が上がり、フラッシュのような閃光が迸る。
芙二たちとウィングスワンを囲むように、人々は離れていた。やや派手なアクションならば、被害は出ないだろう、という目測を含む。
(はやいとこ、悪の軍団とやらが出てきてくれないかな)
芙二は鳥肌が立ち、その場から離れたくなる。ガラにもなく、苦手意識を持つ。普段の芙二ならば、真っ先にノリノリで対峙しているだろうに。状況が状況なので、静かにしていた。
「うそ、子供の頃に観たウィングスワンのヒーローショー?!」
筧は男の子を抱きながら、驚きの声を漏らす。隣にいた武田も筧と同じような反応をしていた。ただ一人、ジークはまた違う反応を見せる。
「うっそだろ、オレたち怪人役になってるのか!? うっひょ~! 子供の頃からの夢だったんだぜ! 運はツイてきている!」
鼻息荒く、興奮気味に戦闘態勢を取る。ジークの行動に、観客たちも湧き上がる。子供向けのヒーローショーのはずだが、大人もこぞって盛り上がっていた。
「ふっふっふ……なら、いっそ私たちも」
筧が男の子を下ろし、武田に預けようとするのを武田が制する。文句を言いたげな筧だが、武田は真面目な表情で口を開いた。
「
芙二は頷き、ジークの傍に立つ。
一方でふいに名前を呼ばれ、筧は表情を赤くさせるが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ふぅ、危ないところだった。ありがとう、
下ろした男の子の手を握り、武田と共にショーを見守る。
「茶番は終わりかい? ならば、もう行くぞ!」
ウィングスワンは痺れを切らし、筧たちの方へ駆ける。バサバサ、とマントを揺らし素早い動作で詰めた。
「キメラーズの手から子供を取り返す! くらえ、≪ウィングスラッシュ≫!」
爽やかな声で高らかに叫ぶ。
ウィングスワンは腰の付近から、細長い長剣を抜刀して、筧に目掛けて振り下ろす。
太陽光が
「そんなことをしても――」
ウィングスワンは彼らが必死に護る姿を見て、官能的な気持ちに浸る。勝ちを確信した自分は揺るぎない信念を抱く、人気者。
狂気、悦楽、欲求。
同時に満たすことができる、まさに天職! 正義が悪を処す。それは悪いことではなく、賞賛されることだ。ヘルメットの下の表情は言うまでもない。
~~
ウィングスワンは残虐を残虐と思わない。これは悪を処す行為。人々が語る、勧善懲悪の主人公たる自分は正義を行使できる立場にあると理解していた。
「おせえよ、とっとと振り下ろせっての」
ウィングスワンと筧たちの間に入るは、あきれ顔の芙二。先端に黒鳥が付いたプラスチック棒を持ち、鋼鉄の長剣を防ぎきる。
ミシ、とプラスチック棒に亀裂が生じ、芙二は顔をしかめた。ウィングスワンの力任せに振るわれる長剣を見て、ひとこと。
「それが正義の味方(笑)の実力か。やはり、所詮はごっこ遊びだな」
そう言い、鼻で笑って棒を上に押し上げて、弾く。長剣の重さに揺らぐ、ウィングスワンの腹部に芙二は回し蹴りを叩き込む。
「ガハッ」
無様に手放した長剣と共に転がる。地面に片膝をつき、立ち上がり、芙二を睨みつけた。口を拭うと、敵を賞賛するような声色で叫ぶ。
「やるな! 流石は幹部のジャバウォック! 変身前でもこの強さ! みんな! あいつの名前を呼んで! みんなの力でジャバウォックたちをやっつけよう!」
視線を芙二ではなく、周囲の人間たちへ呼びかける。そしてすぐに、群衆の中からぽつり、ぽつり、と声が上がる。声は次第に大きくなり、やがては、
「ブラックスワン~! ウィングスワンを助けて!」
周囲の観客が一丸となり、声を合わせる。しまいには、ブラックスワンとウィングスワンのコールが始まり、芙二とジークはもう一人の存在に警戒する。
隙を見て、武田と筧は群衆の手前まで避難をすることができたようで、芙二は安心する。ジークは落ち着かない様子で、周囲を見ていた。
(なんだ、悪の幹部のジャバウォックって。ネーミングセンス皆無かよ)
ウィングスワンのセンスのなさに、呆れている。その隙を逃さないのが、正義の味方。
「ふっ! はぁっ! 随分と、余裕……そうだな!」
芙二に何度も長剣を振るっては、躱されていた。ウィングスワンを観察して理解したことがある。動く度に、徐々に疲労が声に滲み、鈍くなる様子を見て、所詮は役者と割り切る。
「そらな。どうした、正義の味方。このままじゃ、子供を取り返すこともできないぞ」
長剣の先が、芙二の頬を掠める。しかし観客たちは、彼の登場と正義の味方コール以外はあまり湧かず、むしろ子供たちだけが応援していた。
(ここは、興に乗じるか)
芙二は同じことの繰り返しに飽きていた。ブラックスワンのコールが続いているが、そのような存在は一切出てこない。
さっきからウィングスワンの必死の攻撃のなか、動きのないジークを一瞥した。意外な事に彼は包囲網の外にいる子供たちと共にじゃれついている。
「おい、デザートウルフ! 我々もそろそろ真の姿を明かしてやろうぞ!」
適当なあだ名でジークに呼びかけ、こちらへ注意を向けさせる。
「あまり気は進まないが……変身! 楽夢の怪物、ジャバウォック!」
芙二の姿が光に包まれ、竜の怪人の姿に変貌した。見た目は完全に*1ゴ〇装備一式。背負うのは、*2棺桶のような盾と青い長剣。
「な、なんだその姿は――」
デザートウルフとウィングスワンの声が重なる。ジャバウォックの真の姿に、観客が再び沸き立つ。
(これなら、少しは場を盛り上げられるか)
右手に棺桶盾、左に長剣を構えてウィングスワンの正面を捉える。ジャバウォックの変貌に続いて、デザートウルフの姿も変わる。
彼も光に包まれ、巨大な獣人のような姿へ。服は破け、布地が体に纏わりつく。特徴的なのは、黒い毛とバツ印の瞳孔。
「オォオォオオ――これが、オレの真の姿。ウィングスワンよ、行くぞ!」
地響きのような遠吠えをし、ウィングスワン目掛けて突進する。ジャバウォックはサポートに回り、刺客を警戒したとき。
「はっ! これが、悪の軍団の姿か。まさかお調子者のウィングスワンが手を焼くほどとは、な」
デザートウルフとジャバウォックの足元に、黒く鋭利な羽が何枚も突き刺さる。二人は、急停止して声の主を見つめる。
(あれが、ブラックスワン)
ウィングスワンの格好に瓜二つの正義の味方。全体的に色が黒く、使ってる武器も長槍と小銃。
「大丈夫か、ウィングスワン。この場にいる皆と共に呼ぶ姿は、いいと思うぞ」
白き翼のウィングスワン、黒き翼のブラックスワン。その二人が揃ったとき、ゲリラヒーローショーの会場はこれ以上ないくらいに盛り上がる。
観客たちの熱狂的な悲鳴で二人は会話すらできなくなる。仕方なし、と思い芙二はジークの脳内へテレパシーを開始した。
(これから我々はわざと負ける。勝ちに行くな、もしも怪我をしたら言え。今回は特別に治してやる)
少し離れた声が鮮明に聞こえたのか、ジークは芙二を見つめたまま口をパクパクさせる。
(聞こえんわ、たわけ。裡に本音を隠す要領で、念じてみろ)
ジークにテレパシーの使い方を教え込んでいた。しかし正義の味方の二人は気が付けば、それぞれが対応してきていた。
「さっきはウィングスワンがお世話になったな」
死角からの、長槍の突きを棺桶盾で防ぐ。お互いフルフェイスマスクの為、観客たちに表情は一切見えない。
「巻き込まれた身にもなれよ、正義の味方」
ブラックスワンの長槍を弾き、剣を横に滑らせた。しかし彼女は身体をくの時に折り曲げて回避した。地に足をつけたとき、槍を仕舞って小銃を取りだす。
彼女は芙二の頭を狙って引き金を引く。しかし、それすら予見し、盾を持ち待ち構える。
(だぁーっ! なんだ、これは無理! オレには無理だ!)
頭の中に響くジークの叫び。盾の内側から、横目で少しだけ状況を確認する。ウィングスワンによる、一方的な攻撃。
正義の味方らしからぬ、興奮の叫び。
観客の一部にまで血が付着しているのに、悲鳴は上がらない。
ケバブを切るように、ジークの体毛や肉が削ぎ落されていた。
銃弾を防ぎ、ジークの加勢に向かおうと決めるが、ブラックスワンが許さない。
「どこへ行くんだ? 特殊部隊のエリート様」
彼女はすぐに距離を詰め、囁くように言う。驚いた芙二は盾を振るうが、ブラックスワンは身軽に避ける。隙を見ては小銃の弾丸が数発放たれ、その場から動かず長剣で弾く。
ジークの絶叫が脳内に響き、酷い思いをさせられる。いっそのこと、課した制約を破ってしまおうとした。流石にヒーローショーの範疇を超えている、その行いを今糺す――
「まちなさぁい! 弱い者いじめをするものは、こうよ!」
――青く太いものが伸びて、ウィングスワンを払いのける。片膝をつく、ジークは血に塗れており、息も絶え絶えのよう見えた。
「このレヴィアが来たからには、もう安心よ!」
新たに登場した悪の軍団、キメラーズの参謀――レヴィアが参戦した。腰まである長い、水色の髪。濃紺色の瞳。極めつけは、彼女は下半身が蛇のようであるという点だ。
正義の味方が二人。
悪の軍団が三人。(一人虫の息であるが)
役者が揃ったことで、ヒーローショーは本番を迎える。