とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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2章 8話『ヒーローショー②』

 レヴィアの参戦により、ヒーローショーは更に盛り上がりをみせた。

 

「ジャバウォック、デザートウルフ! 私が来たからにはもう安心よ!」

 

 シャキッと背を伸ばし、二人へ向けて不敵の笑みを浮かべた。

 ジャバウォックとデザートウルフは顔を合わせるが、共に同じことを考える。

 

『そういうもんだろ、ヒーローショーだし』

 

 それぞれの敵へ視線を戻す。

 

 レヴィアの登場にウィングスワンはフルフェイスマスク下で舌なめずりをし、ブラックスワンは一瞥もしない。彼女はジャバウォックを注視する。

 

 

 

 筧と武田と共にいる子供は、レヴィアの登場に対し、目を輝かせていた。

 

 三対二。こちらが有利のように見えていた。しかしジャバウォックだけは、緊張感を持ってショーに臨む姿勢をとる。

 

「デザートウルフ、ジャバウォック! 私の指示通りに戦ったら、生き残れるわよ!」

 

 レヴィアの掛け声にデザートウルフは、応える。ジャバウォックも頷き、再びブラックスワンと戦闘を再開した。

 

 

~~

 

 

 ジャバウォックとブラックスワンは激しく己の得物を交える。二人は観客の有無は関係なしに、ただ戦いを楽しんでいた。二人の役者ならぬ動きは、ショーを爆湧きさせる燃料。

 

 レヴィアとデザートウルフはウィングスワンと戦っていた。彼女の指示通りに回避、攻撃、防御と忠実な動きを見せる。

 

 ウィングスワンのコールがこだまするなか、当の本人は苛立ちを覚えていた。

 

「ちょこまかと……! だが、これで終わりだ!」

 

 ウィングスワンの剣が迫る直前。レヴィアが叫ぶ。

 

「デザートウルフ、下がって! それは受けちゃ――」

 

「うるせぇな。ヒーローショーだろ? 盛り上げ役はオレの担当だ」

 

 一瞬だけ、目が合う。

 そこにあったのは、ただの悪ふざけのような笑みだった。

 

 デザートウルフの首に刃が突き立てられ、ジャバウォックとレヴィアは目を丸くさせる。血を流すたびに獣人の姿から、一転。

 

 人間の、ジークの姿へ元に戻り横に倒れる。

 ジャバウォックは、次第に消えゆくジークの鼓動を耳にした。

 

「デザートウルフッ!」

 

 ウィングスワンは長剣に付着した、血を払うその仕草で観客が湧き上がる。

 

「歓声が聞こえるか? これが正義だ! 悪は倒される瞬間が一番輝くんだよ!」

 

 ジャバウォックは自身の役を放り出して、ジークの元に駆けだすが、ブラックスワンが邪魔をするように、張り付く。

 

「観客は真実なんて見ない」

 

 無視をする芙二に対し、諦めた風に彼女は小銃の銃口を向けて静かに言う。

 

「強いほうが正義になる。それだけだ」

 

 躊躇いなく引き金を引く。彼女は素早く駆けつつも、的を外さない。

 訓練された銃を扱うセンスは消えない。

 

「邪魔をするな……!」

 

 瞬時に危機を察知したジャバウォックは、≪禍毒の盾(カースファランクス)≫で弾き返した。

 ジークの蘇生は後だ、と判断を自らに下した。

 

 そして隣に張り付くブラックスワンへ、復讐の視線を向ける。

 

「やっとこっちを見た。お仲間が死んで残念そうね?」

 

 クスクス、と嘲笑うような声。ブラックスワンは腰の辺りに、小銃を仕舞って長槍の柄を握る。

 

「ただのヒーローショーじゃなさそうだ」

 

 両腕に≪禍毒の盾(カースファランクス)≫を装備し、ブラックスワンの元へ駆けだす。ナックルダスター代わりの盾はブラックスワンの顔面へ向けられた。

 

 

~~

 

 

 ウィングスワンのしなやかな剣技がレヴィアの服を少しずつ、削ぐ。

 コスチュームが破れて露わになる胸や腰に子供よりも大人が食らいつく。

 

「きゃああ~! もう、なんでそういう戦い方をするの!」

 

 布から零れそうになる胸を抱え、尻尾を巧みに使い、突きを行う。

 

 ウィングスワンは長剣で弾き、レヴィアの攻撃は空振る。

 

「ほらほら、どうした。どうしたぁ! 悪の参謀なのだろう?! 頭を使ってみせろよなぁ!」

 

 煽るような態度のウィングスワンの口調は崩れ、彼自身の醜さが前に出る。

 

「これなら……どうだぁ!」

 

 鉄をも紙のように容易く、裂く鋭い爪の引っ掻き。しかし必死の攻撃も虚しく、ウィングスワンはレヴィアへ激しい追撃を行う。

 

 ウィングスワンの鋭い突きを避けるが、その際にバランスを崩して転倒した。

 

「く、そ……このまま、終わりたくないっ」

 

 傷だらけの彼女が、上体を起こす。涙を流し、顔を歪めて下唇を噛む。服も体もボロボロにされ、それでも瞳は力強く勝機を模索していた。

 

「悪は必ず滅びる! それが正義だ!」

 

 ウィングスワンは大声で叫ぶ。彼の考えに賛同するかのように、観客が湧き上がる。四方から声援を浴びた彼は、両手を上げて観客の熱を全身に浴びる。

 

「ほら、歓声が聞こえるだろ? これが正義だ! 最高だ!」

 

 苦悶に満ち、地べたを這う悪役。

 無様に、命を散らす愚か者。

 無自覚の共犯者。

 

 彼は、ウィングスワンは自己陶酔に陥る。

 選ばれた者、神の手に導かれた者。

 

「――ああ。最高だ。レヴィア、その命を以て、場を沸かそう」

 

 息を切らし、立ち震えるレヴィアへの宣告。血を拭った、その凶器で彼女の胸を抉り貫く。

 

「レヴィア!!」

 

 ジャバウォックが叫ぶ。

 

 レヴィアの瞳が、ほんの一瞬だけ澄む。

 

(ああ、やっぱり――)

 

 僅かに口が動く。

 

「フ……ジ」

 

 音にならない。

 

 何かを言うとした彼女の口からは、逆流した空気が漏れる。

 レヴィアは前のめりに倒れ、血の海に沈む。

 

「……まだ残りがいたか」

 

 くるり、と振り向いた彼は血に酔う通り魔のよう。剣先から垂れる血を気にせず、地面につけて赤い線を引く。

 

「外道め」

 

 ジャバウォックの言葉に、ウィングスワンは声をあげて笑う。

 

「ハハハハ、これは傑作だ。悪の絆など、言語道断! 行くぞ、ブラックスワン! 私たちの勝利を掴みに!」

 

 二体一の攻撃。ウィングスワンとブラックスワンの連続攻撃を、ジャバウォックは的確に捌く。彼の鋭い剣戟、彼女の発砲した弾丸へ両腕の盾で防ぐ。

 

「どうした、おまえの本当の力を見せてみろ! お仲間のように、ただ死ぬだけだぞ? なにより、私が愉しくないからな!」

 

 ウィングスワンは、ヒーローショーそっちのけに接近した時だけ、どす黒い本音を吐き出す。

 

「どっちが正義か分からなくなるな」

 

 ジャバウォックは溜息を吐く。

 

「吐き気がする」

 

 能力を使用して調整した盾をナックルダスターのように使い、ウィングスワンの腹部に強烈なフックを叩き込む。

 

「ぐぁっ」

 

 バキバキ、と折れる音と感触に少しだけ溜飲が下がる。転がっていく正義の味方を見送り、再び、彼女と向き合う。

 

「邪魔者は消えたな? それじゃあ続きといこうか」

 

 腹部の痛みに喘ぐ、ウィングスワン。遠くで罵詈雑言をあげているようだが、熱狂的な声援の前では無に等しい。

 

 ブラックスワンは正義の味方の長剣を拾い、芙二へ挑む。

 

「続きをしよう、か」

 

 彼よりも激しい剣戟を行い、観客の熱は最高点に達する。無邪気な声援を背に、ブラックスワンも応じて過激になっていく。ジャバウォックは彼女の攻撃に合わせるように、防御する。

 

 ――ガィンッ!

 

 金属の擦れる鈍い音。観客の視線の先には、大きく弾かれた盾と長剣。

 

「そして、お前たちは“客”じゃない」

 

 小さな隙を前に、鼻と鼻がぶつかる距離まで近づき、そっと囁く。吐息のかかる距離にジャバウォックは驚き、咄嗟に盾で即座に繰り出したアッパーすら避けられる。

 

 距離を取り、観客たちを見渡して声を低くして言い放つ。

 

「観客は見たいものしか見ない。だから今、誰も気づかない」

 

 そして、剣を引いて突きの体勢を取って、叫ぶ。

 

「……芝居はここまでだ。これで決着としようじゃないか、ジャバウォック!」

 

 二人の攻撃が交差し――ジャバウォックが倒れた。声も出さず、膝から崩れ落ちる。

 

「悪は滅した! 我々の勝利だ!」

 

 ウィングスワンは爽やかな勝鬨をあげた。まばゆい光が、フラッシュのように何度も焚かれる。

 

 ジャバウォックは変身を解く中で、熱狂的な歓声が耳を刺す。

 

(さて、どうやってジークを回収しようか)

 

 ゆっくり目蓋を閉じ、流れに身を任せる。

 

 これにて、ゲリラヒーローショーは正義の味方側の勝利で終わった。筧と武田の元に二人の正義の味方が向かい、子供を受け取る。

 

 ウィングスワンとブラックスワンの二人は互いを見合い、頷く。最後は子供と共に人混みの中へ紛れて消えた。

 

 ショーが終わり、熱狂的な観客たちは皆口々に、

 

「楽しかった」

「勧善懲悪ものは世代を超えて愛されるよね」

「今回は、役者さんの力の入り具合が全然ちがったね」

 

 そう言いながら、場を去る。

 

 

~~

 

 

 人がまばらに散ったあとのこと。武田と筧はぴくりとも動かない二人を心配していた。

 

「ジーク! 芙二!」

 

 筧が二人へ近づくのと同時に”清掃”と書かれた腕章をつけた集団が現れる。彼らは手際よく、血や汚れを掃除していく。

 

 リヤカーに三人の死体を乗せ、どこかへ去っていくのだった。

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