とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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※今回は幕間です。


2章 幕間『親子』

 アミューズメントパーク 白鳥  地下 十一階 ??室

 

 ふと、目蓋を上げ、視界に映る景色は薄暗い。少しずつ覚醒していく意識。手足を動かそうにも、動かせない。何かに縛り付けられているようで、指すら動かせなかった。

 

 ここは、どこ?

 

 私は言葉を呟いたつもりだが、自分の声は聞こえない。しかし、口腔内には舌があり、感覚もある。だが、声だけは出せない。口を開けても、掠れた音だけ出る。

 

 誰か、いないの?

 

 必死に言葉を紡ぐ。相変わらず耳にするのは、隙間風のような自身の声。

 強い孤独を感じ、自然と涙が溢れる。

 

 うう、ぐす。本当に誰もいないの?

 

 薄暗い静寂だけが満ちる空間に、ただ一人だけ。

 その事実は私の精神を少しずつ削り取っていく。

 孤独に耐えきれず、私は芋虫のように拘束台の上でもがき始める。

 あるいは拘束具の破壊を試みていた。

 

 

 時間はどれぐらい経ったのだろうか。あれだけ藻掻いたが、身体は自由にならず。ただ体力を消耗しただけ。激しい動きの反動で、汗を搔いてしまい、肌に付着して気持ちが悪い。

 

 うぇ……このまま、誰にも会えず一人きりで死んじゃうのかな?

 

 そう泣きべそをかく、私の精神は狂いかけていた。在りもしない我が子の声が聞こえ始め、同じタイミングで自分の声で会話する声が聞こえるからだ。

 

 ついに見え始めた走馬灯。水も食事も摂らず、ただ横に拘束され続ける。なぜか、声は出ないし、誰の気配もしない。

 

 

 ガチャ

 

 

 私の意識が閉ざされかけていたとき、音が聞こえる。あまりにも小さな音の為、幻聴を疑った。

 

 スタスタ、と複数人が歩く足音も聞こえる。

 私は助けが来たのだ、そう強く思い込み必死にアピールを開始した。

 

 ここ! 私はここにいます!

 

 最後の力を振り絞り、陸に打ちあがった魚のように、拘束されたまま暴れる。

 願いが通じたのか、足音が徐々に大きくなり、やがて蛍光灯の、白く強い光を目にした。

 

 うっ! ま、まぶしい……!

 

 薄暗い空間に居続けた私は、すっかり夜目に慣れてしまっていた。なので、久しぶりの、人工的な明かりはキツイ。しかし人に気づいてもらえた事実は、あっという間に孤独を消し去る。

 

 私の目の前にいるのは、白衣を身に纏う医者のようなお爺さん、眼鏡をかけた黒衣のお爺さん、黒いスーツを着たお姉さん。

 

 医者のような格好のお爺さんは、私を見て目を丸くしていた。

 

「どうしてじゃ?」

 

 その言葉に黒いスーツのお姉さんが反応する。

 

「きっと切れたんじゃない? でもソイツの代わりは出て行ったわよ?」

 

 医者のようなお爺さんを見ながら、私を指さした。

 私の代わり、とはいったいなんだろうか。

 

 迷子センターのスタッフということか?

 

 私は今このような事になっている。ここがどこか分からないが、きっと我が子が心配しているに違いない。

 

「お、ちょうどヒーローショーが終わったようだ」

 

 黒衣のお爺さんが、いつの間にかタブレット端末を見ながら言う。

 

 そういえば、ケンちゃんが楽しみにしていたっけ。

 

「マジで!? ちょっと見せなさいよ!」

 

 黒いスーツのお姉さんが、黒衣のお爺さんに飛び掛からんばかりの勢いで手を伸ばしていた。

 

「君も自分の端末で閲覧すれば問題なかろう」

 

 黒衣のお爺さんは冷たくあしらい、ジッと見つめた。

 

「……はぁ、仕方のない奴らだ。そこにプロジェクターがある。デバイスに繋げれば、少しは閲覧することができるだろう」

 

 医者のようなお爺さんは、二人のやり取りに呆れていた。

 黒いスーツのお姉さんは黒衣のお爺さんの端末を奪い取り、小さなコードに繋いでプロジェクターから既に終わったヒーローショーを映し出す。

 

「相変わらずの熱狂ぶりね。今回はかなり汚れているみたいだけど、いつものじゃないの?」

 

 黒いスーツのお姉さんは二人のお爺さんに問う。

 医者のようなお爺さんが、淡々と言った。

 

「ネズミの処理に”それ”を利用したのじゃ」

 

 私は何を指しているか、理解が追いつかない。それは黒いスーツのお姉さんも同じのように見え、彼女も唸りながら思考していた。

 

「画面の真ん中で倒れているヤツ、君の憎き相手だ」

 

 黒衣のお爺さんがある箇所を指さして言う。

 その箇所を見たとたん、黒いスーツのお姉さんの表情が変わった。

 

「……本当だ。あのアイリを殺した憎き、男!! ヤツの死体を持ってこい! 遺伝子レベルで解剖して、悪用してやるからさぁッ!!」

 

 ギリギリ、歯ぎしりの音が聞こえて私は顔を顰める。ほんの数秒前とは打って変わり、憎悪が溢れている。怨敵を見つけたような、ドス黒いものを肌で感じていた。

 

「まあ待て、一度落ち着くのじゃ」

 

 激昂するお姉さんに注意をし、三人は何か話し合いを始めた。

 そのあいだ、私の事は置き去りで釈然としない。

 

 暇なのでプロジェクターに映し出されたヒーローショーの終わりを見ているとき、

 

 あっ!ケンちゃん!

 

 ウィングスワンとブラックスワンに挟まれて、手をつなぐ我が子が目に入る。憧れのヒーローと共に笑っている姿に、ほろほろと涙が流れた。

 

 よかった。とりあえず、無事、で……

 

 憧れの正義の味方が見覚えのある私服に身を包んだ女性に、我が子を預けた。私と瓜二つの背格好に今日の為に揃えたお出かけ用の服。

 

 恐ろしいことに、すべてが記憶と一致している。

 ただの他人のそら似である、と思い込み、映像を見続けた。

 

 我が子、ケンちゃんは名残惜しそうに正義の味方と手を振って別れる。息子の傍にいる女性も、同じように手を振っていた。

 

 いつの間にか、私の視線は息子ではなく瓜二つの女性へを見つめていた。

 

 パッとカメラの視点が変わる。茶髪の、小柄な背の女性。お出かけ用の服を着て、ケンちゃんと手をつなぐ、そら似の。

 

 

 

 

 いやそんなはずはない。

 そこには――正真正銘、()()()()()()がいた。

 

 

 

 

「それじゃあケンちゃん。ママと一緒にパパの元へ行こうね~」

 

 背格好だけじゃなく、声も同じ。私は鳥肌が立つ思いを実感する。

 なんで私と同じ人がそこにいるの? これはどっきりだよね?

 

 相変わらず隙間風のような声しか出せないが、黒いスーツのお姉さんが気に留めたようで、私の元に近づく。

 

 これは どっきり?

 

 口を何度も開閉し、言葉を伝える。お姉さんは頷き、お爺さんたちに聞く。

 

「どうしてこの女性は拘束されているの?」

 

 それは 私も気になる。どうして?

 

「これから、事に及ぶからじゃな」

 

 事に及ぶ? 私はこれからどうなるの?

 

「それから、なんで声が出せないの?」

 

 それも気になる。なんで?

 

「言ってしまえば、無駄吠えさせない目的じゃな」

 

 無駄吠え? それはどういう。

 

 私は疑問を消化する前に、黒衣のお爺さんが私の拘束を解き、巻かれていた衣類を剥ぐ。顔を赤らめて抵抗しようとするも、うまく腕に力が入らなくままならない。

 

「おや、特製の義腕や義足が外れてしまっているじゃないか」

 

 医者のようなお爺さんは、私を見て口角を上げる。どこか、嬉しそうに私の身体に触れた。急激に昇ってくる嫌悪感に吐いたのをきっかけに意識は遠くなる。

 

 最後に聞こえたのは、

 

「なんで裸なの?」

 

「家畜に服は必要ないだろう」

 

 という、非道な言葉だった。

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