3章 1話『魂無き肉体』
清掃員の彼らは薄暗い道を進む。死体を乗せて。
ガラガラ、と音を立てリヤカーを引く。ヒーローショーで敗北した芙二は死体を装い、清掃員たちの会話を盗み聞く。
「今回のショーは一段と派手だった」
「この女怪人はどうするんだ、いつものようにするのか?」
二人の死体と芙二を乗せたリヤカーの揺れが収まる。清掃員が足を止めたみたいだ、と判断する。そしてリヤカーの角度が急に傾く。
真っ先に芙二から滑り落ち、身体はうつ伏せで静止した。その上に二人の死体が被さる。
(……二人の心臓が止まっている。二人の体温を感じられない)
冷たい死体。さっきまで動いていたとは思えないくらいの。生命の、生きた熱を感じられない。
(レヴィアが望むなら、蘇生してやらないこともないか)
霊魂状態のレヴィアを探そうとしたとき、清掃員の口から聞き捨てならない言葉を耳にする。
「しっかし……まさかネズミが迷い込むとはな。ちゃんと処理ができてよかったな」
「残りの二匹もそのうち処理されるだろうよ」
「違いねえな」そう言うと互いに笑い合う。
芙二はネズミ、とは自分たちの事だと直感する。ショーでのやり取りはブラックスワンのブラフではない事を確信した。
(ならば、早めに戻らないとだめだな。このことも伝えなければ……)
清掃員たちが談笑し、放置した死体から離れていくのを目で追う。
芙二はうつ伏せのまま、胸ポケットをまさぐり、携帯の電源をオンにする。その際、携帯の着信音が鳴り響く。
清掃員たちは立ち止まり、芙二たち死体を凝視する。
「ん? 今、変な音がしなかったか?」
ひとりは疑いの眼差しを向ける。
「こんな場所だ、霊障が起きても仕方ねえよ」
もうひとりが疑う者の背を叩きながら、言う。
パシンといい音が鳴り、叩かれた方は痛みに声をあげた。
「いってぇ~! やりやがったな~」
叩かれた清掃員はやり返そうとするが、叩いた方は走り始めていた。
彼らは子供のように、追いかけっこを始めた。
リヤカーはそのまま放置される。
二つの背中が遠くなり、視界から失せたのを確認すると、死体をどかし、起き上がる。
「霊障、ね」
芙二は埃を払いながら思う。
この施設ではどれほどの命が、日々失われているのだろうか。
この世界へ戻ってきた際、上空から果てしない怨恨の一端を垣間見た。
千や万の命の嘆きを、耳にした。
人、動物、艦娘、深海棲艦。
種族関係なくすべての命が、嘆いている風に見えた。
関係ないと思っていたが、こうして関わることになった。
運命は巡り合わせ。
ただ艦娘を取り返すだけの旅路じゃない。
ヒーローショーを通じて、芙二はそう考えた。
「レヴィアの霊魂は……ないか」
いつもの要領で、霊魂を見つけようとするが見当たらない。彼女は初めから存在しなかったかのように、欠片すら消滅していた。
本人の魂無き肉体に奇跡は起こらない。
小さな傷や汚れはあれど、致命傷以外に大きな傷は確認できない。
「これが正義の味方のやり方か」
どかした際に転がり、傷が見える状態になっていた。
レヴィアの死の原因は、胸部を抉り貫かれたこと。
凄惨な死。
彼女に黙祷を捧げているとき、背後から複数の足音が聞こえた。
「あれ~? 一人生き残っているよ!」
無邪気なその発言を聞いて、追手と判断した。
芙二は特殊部隊員の変装を解いて龍神形態で応じる。
「誰だか、知らぬが……
禍々しい覇気を放ち、待ち構える。