とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

367 / 387
2/31


3章 2話『不可逆的確定事項』

 

 足音が徐々に近づき、やがて人影が見えた。

 薄暗い空間なのに、視界にははっきりと形が映る。

 

 ひとりは黒いヘルムをつけ、黒い外套に身を包むブラックスワン。

 その後ろには、水色のショートヘアの子供たち。

 

「ブラックスワンと誰だ?」

 

「……その傷でまだ立てるんだな、ジャバウォック」

 

 険しい表情のブラックスワン。芙二は意識して、禍々しい覇気を解放した。二人のあいだの空気は最悪の一言に尽きる。

 一触即発の事態に発展しかけたとき、彼女の後ろにいた子供のうち、一人が口を開く。

 

「ブラックスワンちゃん! あたしたちは喧嘩をしに来たわけじゃないでしょ!」

 

 ぷりぷり、と怒る。ブラックスワンを指さし、子供は頬を膨らませた。

 

「す、すまない。ミライ様との話に彼が出てきていたものだから、つい」

 

 彼女は申し訳なさそうにして、頬を掻く。

 二人のやり取りを見て、芙二も覇気を収める。

 

「それで君はジャバウォックくん、でいいのか?」

 

 ブラックスワンを叱る子供とは別の子供が、芙二に聞く。

 仮称を呼ばれ、声の方へ視線を落とす。

 

「レヴィアと同じ顔? ――っと、そうじゃないな。(オレ)の名前はレンジ。ジャバウォックってのはそこで叱られてるやつの相棒が勝手につけた仮称だ」

 

 芙二の自己紹介に、水色ショートヘアの子供は首を傾げて言う。

 

「君の名前はストレンジ・ヴェルダーだと思っていたが、そうじゃないようだ。訂正しておかなければならないな」

 

 子供の発言を前に、芙二の警戒心は最高に達した。一度、収めた覇気を放出して、その身に纏わせる。

 

(おいおい、(オレ)らが来てるってこと以外にコードネームまでバレてんのかよ!)

 

 子供から数歩下がり、発言次第で行動できるように警戒を怠らない。問題は数ではない。情報が伝達されることを気に掛ける。

 

「そんなに警戒しなくたって取って食ったりしないよ。……君は、だがね」

 

 一拍開けたのちの、不穏な物言い。

 

「表で(オレ)を殺そうとしたヤツとその仲間が目の前にいる。警戒する理由はそれで十分だ」

 

 空気が張り詰めていく。不穏な空気を察知した、臨戦態勢のブラックスワンも視界に入る。

 芙二は、上着のポケットに手を入れて懐中時計を取りだした。

 

「懐中時計? 時計でも確認するのか?」

 

 ブラックスワンの反応は、至極当然の反応。

 水色ショートヘアの子供たちも同様の反応を示す。

 

「ブラックスワン、発言に気をつけろ」

 

 芙二はいつでも懐中時計のスイッチを押せるよう、指を置いた。

 

「今の(オレ)はお前の知らない(オレ)だ」

 

 共にショーを、戦闘を楽しんだ者への最後の忠告。その発言にブラックスワンの喉が、ごくりと音を鳴らす。

 

 懐中時計のスイッチを押そうと、したとき。

 

「あなたも! おっぱじめようとしない! あたしたちは、レヴィアちゃんの回収に来ただけ!」

 

 その言葉と共に勢いよく頭を叩かれる。体勢を崩し、拍子に衝撃で手から離れ、懐中時計が音を立てて転がった。

 

「まったく、人間ってすぐに怒ったりして……忍耐ってものがないの?」

 

 呆れたようにそう言う。

 芙二の頭を叩いた子供が懐中時計を拾い、そのまま手渡す。

 

「ありがとう。それで」

 

「あたしの名前はロン。幻獣型クローンのロン。あなたの知りたいことはこれでしょ?」

 

 芙二の顔を見て、にっこりと笑う。続けて、「よろしくね~」とお辞儀までした。

 

「呑気に敵に対して、名前を名乗るやつがあるか! 今すぐそこから離れろ!」

 

 ロンの発言に対し、血相を変えたブラックスワンが叫ぶ。

 

「これはご丁寧にどうも。(オレ)はレンジ。ストレンジ・ヴェルダーから取って、レンジだ。呼びやすいだろ?」

 

 丁寧なロンに笑いかける。彼女も笑顔のまま、同じ顔の子供へ手招きをする。

 

「ロン、君ってやつは……こほん。レンジ、私はリヴァイ。ロンと同じく幻獣型のクローンだ」

 

 ロンの様子に溜息を洩らし、招かれた者はリヴァイと名乗る。芙二の反応を他に、隣にいるロンの額にデコピンをくらわせていた。

 

「私も特に君をどうこうしようというわけじゃない。だから、勘違いしないでほしい」

 

「……分かった。そういえば、レヴィアを回収に来たって言ってたよな? それはどういうことだ?」

 

 疑問を口にする。芙二の考えでは、埋葬を想定していた。しかし、思いもよらない言葉が返ってくる。

 

「食べるんだ。彼女の死体を」

 

 リヴァイの言葉に目を丸くさせる。

 

「へえ? その行為に意味はあるのか? 食事の意味以外で」

 

 自分の知らない価値観に興味が出てしまい、追考する。

 

「弔いの意味がある。我々は、人々の幻想から作り出される存在」

 

 芙二は相槌を打つ。

 

「人々の幻想が詰まった彼女の肉を、臓腑を喰らうことで弔うと同時に生かすこともできる」

 

 そこまで話していたとき、ブラックスワンは芙二の後ろへ向かう。レヴィアの死体を抱え、ロンと話していた。

 

 死体の有効活用法を耳にした、芙二の口からふと考えていた言葉が出る。

 

「じゃあ蘇生は不要だな」

 

「蘇生? 彼女はもうとっくに死んでいるよ。現実が見えていないなら――」

 

 ブラックスワンへ視線を送り、気が付いた彼女が近づこうとするのを阻止する。

 

「大丈夫だ。心臓を抉られて生きているとは思ってない。それに蘇生、というのはこうだ」

 

 横たわっているジークの元まで歩く。死体の隣に胡坐を搔いて座り、準備を行う。

 

 ――と言っても、大した準備はいらない。

 強いて言えば、心構えくらいだろうか?

 

「こっちへ来い。これが(オレ)の言う、蘇生だ」

 

 三人へ向けて、手招きをした。

 

 これから行うは、不可逆の確定事項。

 覆らない事象を覆す行為。

 本来なれば禁忌に触れそうだが、詠唱者である芙二は躊躇わない。

 

「≪完全再現(オールリザレクション)≫」

 

 ジークの肉体を柔らかな明かりが包み込む。青白い肌は血色がよくなり、やがて眠っているように、吐息まで聞こえてくる。

 

 あまりの光景に、三人は目を見開き硬直する。

 

「信じられない」

 

 最初にリヴァイが口を開く。彼はジークの元へ寄り、しゃがんで胸へ耳を当てる。

 

「……規則的な呼吸音だ。それに温かく、心臓の鼓動まで聞こえる」

 

 リヴァイの発言の後、他の者も彼と同じように寝息を立てるジークへ接触した。そして目を丸くして、言葉を失う。

 

「信じられないってのは、クローンでも人間でも共通の反応だな」

 

 反応を面白がるように「ククク」と喉を鳴らすように笑う。

 芙二はジークを背負うと、三人へ別れの挨拶をする。

 

「さて、(オレ)は寝てるコイツを連れて帰るよ」

 

 芙二は手を振りながら、適当に進む。

 

 

~~

 

 

 来た道とは、反対方向へ進む者を三人は呼び止められずにいた。

 

 ある者は、理を覆す存在の報告を考える。

 またある者は、ミライへ報告しようと即決した。

 

 最後の者は、同種の死体よりも未知の男への興味が湧いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。