とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 3話『夢の扉』

「ここはどこだ?」

 

 見渡す限りの闇。

 足は地を踏まず、伸ばした手は虚空を切る。

 

 先程の出来事が鮮明に、頭の中で映像として流れる。

 ジーク自身、まさかのヒーローショーで死ぬとは考えていなかった。

 

 子供の頃、家族と共に訪れたこの施設。アミューズメントパーク白鳥。

 家族、という単語。最後に対面で会話したのはかなり前だったな、と思い返す。

 

「そういえば……」

 

 お昼頃のヒーローショーを最前席で楽しむのが、当時のお気に入りだった。

 隣には、5つ年上の姉と2つ下の妹が並ぶ。目を輝かせて、応援する姿を思い浮かべる。

 

 その頃は特に不満なく日常を過ごしていた、とジークは呟いた。

 

「そろそろ戻らねえとな。武田さんと筧さんに心配をかけちまう」

 

 相変わらず足が地につかない感覚。それでもジークは走り始めた。止まることは、諦めを意味すると思い込む。

 

 芙二の名前は頭に浮かばなかった。軍属の人間が嫌いという訳ではない。 

 これはジーク本人の人生に基づく判断。

 

 気の遠くなるような長い時間、闇の中を歩き続けた末、白い灯りを目にする。明かりのない場所にいた恐怖がジークの足を速める。

 

 距離が縮まるなり、明かりの正体が判明した。

 

「なんでこんな場所に扉があるんだ?」

 

 白い灯りを放つ簡素なランプと木の扉。

 ランプは宙にぶら下がり、木の扉はハリボテであるかのように、位置するだけ。

 

 ジークは目の前の扉を注意深く観察し始める。ただのハリボテということしか、分からず顔を歪める。

 

 意を決してドアノブに手を掛け、軽く押す。

 扉は開かず。逆に引いても動かない。

 

「これはどうしたらいいんだ……?」

 

 数分の格闘の上、結局答えは分からない。両膝に手を着き、額に垂れる汗を拭い、溜息を吐く。

 

「こうなったら……!」

 

 体当たりで無理矢理、奥へ行くしかない。

 そう考え、即実行する。

 

 助走をつけ、今出せる全速力で扉へぶつかる。

 ハリボテにしては、硬く分厚い鉄の板を思わせるほどだった。

 

「いってえ〜!」

 

 ジークは衝突させた肩を摩り、涙目でつぶやく。

 とうとう策も尽きたと感じた時、扉の前に文字が出現する。

 

「扉の先へ進みますか」

 

 ジークは頷いて、肯定した。

 扉は見えているのか、自然と開く。

 

 ジークは扉の奥へ進む。

 扉の向こうに、あの日の光があった。

 

~~

 

 扉の先、最初に見た光景――

 

『お姉ちゃん待ってよ!』

 

『ほら、ジーク! 早く行かなきゃ前の列で見れないよ!』

 

 ヒーローショーの始まりを耳にして、駆け出す姉と追いかける幼い姿の自分。

 

 橙色の夕日が差す、春の午後。

 園内アナウンスの告知で知り、いても立ってもいられなくなったジーク。

 

 親の手から離れて姉と共に向かっていた。

 平日ということもあり、人はそれほど多くはない。

 

「懐かしいな。あの頃は、最前列で見るのが好きだった」

 

 瞼を落として、追想する。

 ヒーローショーは至って普通の勧善懲悪もの。

 

 派手な演出と仰々しいセリフの掛け合いに心が踊っていた。

 

『悪の女幹部のグリード! 今日こそ年貢の納め時だ!』

 

 ウィングスワンの視線の先には、SMの女王様のような恰好をした女性が立つ。

 

「ハンッ イキがるなよ、小僧!」

 

 グリードは鼻で笑う。

 

 そうして一体一の戦いが始まった。

 誰かが合図をした訳でもなく、ヒーローショーは開始される。

 

 飛び交うのは、声援。それも正義の味方を支持する言葉。

 その頃には幼い姿の自分も姉も、妹も両親も揃って応援していた。

 

~~

 

 ヒーローショーは正義の味方の勝利で終わる。

 派手な光と煙の演出を最後に、グリードとその部下たちの姿も消えた。

 

『悪は滅びた! 平和を取り戻したぞ!』

 

 正義の味方の言葉と共に会場は熱を帯びた歓声で溢れる。

 幼い自分は黄色い声援を飛ばす。姉妹は頬を赤く染め、興奮していた。

 

 その傍で子供たちを見守る母。3人の様子をカメラに収める父。

 流れる映像を見て、ジークはふと思う。

 

「最近は通話しかできてないけど、この任務が終わったら会いに行ってもいいかもしれないな」

 

 遥か遠くにいってしまったような、懐かしい光景に思わず、瞳を潤ませる。

 目尻から伝う涙を拭い、そう決意した。

 

 今の任務に付く前、最後の会話から二年近く経つ。

 妹ともほとんど会話をしていない事に気づく。

 

(それにしても、姉ちゃんはどうしてオレのことを忘れてるフリをしてるんだろう)

 

 ヒーローショーの前。

 新人の芙二と共に居るところを見たジークは居ても立っても居られない思いに駆られた。

 

 ジークが余計な事を思考するうちに、映像にエンドロールが流れ始める。

 これまで関わった人間がずらりと並ぶ。

 

 お世話になった人々。

 両親の名前、妹の名前。

 

 姉――リンネ・ドミナンテの名前も表示されている。

 

「あっ……」

 

 表示に思わず声が漏れた。

 画面一面には、ジークの記憶に色濃く残るもの。

 

 顔を顰めた幼い自分と家族が揃った写真と同じ情景が映し出されていた。 

 

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