アミューズメントパーク 地下にて。
ブラックスワンたちと別れた芙二は、あることに躓いていた。
(困ったな、帰り道がわからねえ)
ジークを背負い、薄暗い通路を歩き回る。
完全に地下へいるためか、携帯は圏外を示していた。
画面には【21:57】と表示されており、昼間の出来事から五時間が経過していた、と知る。
(ふむ、二十二時前か。バレないことを祈って、自分たちの部屋に戻ろうか)
気怠そうに溜息を吐く。
壁に向かって進み、手のひらで触れる。
壁の一部に干渉して、
誰かが書いた下手な扉の落書き。
ドアノブはなく、引き戸を開けるように横に引く。
(真っ白で何も分らんな)
扉の奥は真っ白に輝き、見通せない。
しかし足を止める理由にはならず、芙二は進む。
姿が完全に消える頃、扉はただの落書きとなる。
――最も霊障の多い地。故に、誰一人として気に留めない。
~~
部屋に戻ると、武田と筧がいた。
突然現れた芙二に対し、何でもないように振る舞う二人。芙二に背負われているジークを見るなり、慌てて声を上げる。
「……? ここ、はどこだ」
ジークが呟いた一言で武田と筧の声色が変わる。
そして芙二に背負われていることを知り、顔を真っ赤にして暴れ始めた。
「そんなに嫌がんなくても、もう下ろすさ」
ジークは背から降り、武田と筧に「ご心配をおかけしました」と軽く頭を下げる。
武田はジークを強く抱きしめて、彼の帰還に涙する。
「本当に、よくぞ戻った。……芙二もありがとう」
共に抱き締める。
すすり泣く彼らに影響を受けたのか、筧も目尻を拭う。
「よかった。ほんとうに」
三人は、絶望的な状況からの帰還を噛みしめた。
ただ一人、芙二だけは録音したデータを確認する。
~~
再会の喜びもほどほどに。
筧とジークはショーで感じたことを事細かに話す。
「やっぱりなんか変ですよ。観客の反応もレヴィアとかいう人物も」
筧は、その違和感には頷く。
「外野にいた私もその点には同意する。どうも子供向けのショーじゃないような気がするよ」
違和感の正体は分からずじまい。確実に異なる点はひとつ。
子供の頃、目を輝かせて楽しんだショーとは完全に別物。
「あれはまるで――」
ジークは複雑そうな表情で言う。
タイトル詐欺にあったみたい、と話す。
日常アニメ系だと思って見ていたら、急にホラー系に切り替わっていく。
「うううっ……嫌なものを思い出した」
ぶるる、と筧が肩を震わせる。
青い顔をさせ、視線が泳ぐ。
大丈夫ですか、とジークが聞く頃。芙二は武田に重大な情報を伝えていた。
「武田さん。何も言わず、これを聞いてください」
芙二は持参していたイヤホンを渡す。
真剣な眼差しで見てくる芙二に何も言わず、受け取る。
武田はイヤホンを両耳に着け、携帯を芙二が操作し、音量を調節する。
「芙二よ、今から何を――」
再会の余韻に浸っているのか、武田の口角はやや上がっていた。
「にわかには信じがたいことかもしれないが、これは偽りではない」
芙二は少々不穏な物言いで、再生ボタンをタップする。
『君の名前はストレンジ・ヴェルダーだと思っていたが――』
『幻獣型クローンの――』
再生が終わる頃には、武田の顔から再会に喜ぶ色が消えていた。
武田は目を見開き、芙二を見つめる。
全身が小刻みに震え、冷や汗が頬を伝う。
脳内に様々な仮説や噂が飛び交うが、芙二の一言で静まる。
「
その一言に、その場にいた全員が言葉を失う。
「全く知らないやつに、コードネームの正否を問われてる。あのショーで颯爽と現れた清掃員も知っている、となると――近くに裏切り者が潜んでいるな」
断言する、とでも言いたげに言い切る。
「それってどういうこと?!」
ジークと筧の声が重なる。
武田と芙二の会話に二人が混ざり、例の音声データを聞かせた。
「オレが呑気に寝ているときに、そんなことが起きてたのかよ」
ジークの視線は芙二へ向く。
その表情は怒り一色と言っていい程、赤く鋭い。
「なんで、起こさなかっ――」
「アンタはその時死んでいたからだ」
なんてことないように、言葉を被せた。途端にジークの勢いは萎み、喉に何か詰まったような声を出す。
「芙二! ジークが死んでいた!? それはどういう――」
筧が噛みつくように言う。
芙二は正体を明かさない範囲で返事をした。
「
何も間違ってはいない。
芙二の返答に筧は納得したように、頷く。
「織間への報告はしたのか」
ずっと黙っていた武田が口を開いた。
芙二は首を横に振る。
「……そうか」
短く返事をして、俯く。
武田の雰囲気が一変する。
真っ先にジークと筧が反応し、芙二はただ目を細めた。
顔を上げた武田の目つきは鋭い針のよう。
「まずは芙二よ。このような重大な情報を持ち帰ってきてくれたこと、礼をしよう。これからわしは織間へこの音声データの報告を行う。それまで各部屋で待機するように」
重々しい口調で告げ、部屋を後にした。武田の後に続くよう、筧も部屋を出て行く。
自分たちの部屋に転移した為、ジークはシャワー室へ向かい、芙二はスーツ裏へ手を忍ばせタブレット端末を取りだす。
シャワー室からジークの鼻歌と水の音がこだまする。
芙二はタブレット端末に表示されている、艦娘一覧を注視していた。
「よかった。誰も欠けていない」
安堵の息を漏らし、タブレット端末の電源を落として自身のベッドの上に放り投げる。柔らかなベッドは端末の重さを吸収し、音も立てない。
「今日も色々あったなあ~」
などと、軽いストレッチをしているとき、不意にタブレット端末が起動。
【東第一泊地 艦娘一覧】
あいうえお順
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・遘矩峇
・朝潮
・襍、ギ
・磯波
・大淀
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一部の艦娘の表記がおかしくなっていることに、芙二は気づかない。
~~
そして二時間後、武田から命令が下る。すっきりした様子でジークは聞く姿勢に入り、芙二は少し眠そうにしていた。
「わしの合図が出るまで、自由にしろ。ただプラチナ会員証は無くすなよ」
それっきり、武田と筧に連絡が付かなくなる。
言葉を聞き終えたジークは、自身のベッドに入り込むと寝る姿勢を取る。
芙二も疲れを癒すように、目を閉じた。