とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 4話『プラチナ会員』

 

 アミューズメントパーク 地下にて。

 ブラックスワンたちと別れた芙二は、あることに躓いていた。

 

(困ったな、帰り道がわからねえ)

 

 ジークを背負い、薄暗い通路を歩き回る。

 完全に地下へいるためか、携帯は圏外を示していた。

 

 画面には【21:57】と表示されており、昼間の出来事から五時間が経過していた、と知る。

 

(ふむ、二十二時前か。バレないことを祈って、自分たちの部屋に戻ろうか)

 

 気怠そうに溜息を吐く。

 壁に向かって進み、手のひらで触れる。

 壁の一部に干渉して、黒橡材(ダークオーク)の扉へ作り変えた。

 

 誰かが書いた下手な扉の落書き。

 ドアノブはなく、引き戸を開けるように横に引く。

 

(真っ白で何も分らんな)

  

 扉の奥は真っ白に輝き、見通せない。

 しかし足を止める理由にはならず、芙二は進む。

 

 姿が完全に消える頃、扉はただの落書きとなる。

 ――最も霊障の多い地。故に、誰一人として気に留めない。

 

 

~~

 

 

 部屋に戻ると、武田と筧がいた。

 

 突然現れた芙二に対し、何でもないように振る舞う二人。芙二に背負われているジークを見るなり、慌てて声を上げる。

 

「……? ここ、はどこだ」

 

 ジークが呟いた一言で武田と筧の声色が変わる。

 そして芙二に背負われていることを知り、顔を真っ赤にして暴れ始めた。

 

「そんなに嫌がんなくても、もう下ろすさ」

 

 ジークは背から降り、武田と筧に「ご心配をおかけしました」と軽く頭を下げる。

 武田はジークを強く抱きしめて、彼の帰還に涙する。

 

「本当に、よくぞ戻った。……芙二もありがとう」

 

 共に抱き締める。

 すすり泣く彼らに影響を受けたのか、筧も目尻を拭う。

 

「よかった。ほんとうに」

 

 三人は、絶望的な状況からの帰還を噛みしめた。

 ただ一人、芙二だけは録音したデータを確認する。

 

 

~~

 

 

 再会の喜びもほどほどに。

 筧とジークはショーで感じたことを事細かに話す。

 

「やっぱりなんか変ですよ。観客の反応もレヴィアとかいう人物も」

 

 筧は、その違和感には頷く。

 

「外野にいた私もその点には同意する。どうも子供向けのショーじゃないような気がするよ」

 

 違和感の正体は分からずじまい。確実に異なる点はひとつ。

 子供の頃、目を輝かせて楽しんだショーとは完全に別物。

 

「あれはまるで――」

 

 ジークは複雑そうな表情で言う。

 タイトル詐欺にあったみたい、と話す。

 日常アニメ系だと思って見ていたら、急にホラー系に切り替わっていく。

 

「うううっ……嫌なものを思い出した」

 

 ぶるる、と筧が肩を震わせる。

 青い顔をさせ、視線が泳ぐ。

 

 大丈夫ですか、とジークが聞く頃。芙二は武田に重大な情報を伝えていた。

 

「武田さん。何も言わず、これを聞いてください」

 

 芙二は持参していたイヤホンを渡す。

 真剣な眼差しで見てくる芙二に何も言わず、受け取る。

 

 武田はイヤホンを両耳に着け、携帯を芙二が操作し、音量を調節する。

 

「芙二よ、今から何を――」

 

 再会の余韻に浸っているのか、武田の口角はやや上がっていた。

 

「にわかには信じがたいことかもしれないが、これは偽りではない」

 

 芙二は少々不穏な物言いで、再生ボタンをタップする。

 

『君の名前はストレンジ・ヴェルダーだと思っていたが――』

『幻獣型クローンの――』

 

 再生が終わる頃には、武田の顔から再会に喜ぶ色が消えていた。

 武田は目を見開き、芙二を見つめる。

 

 全身が小刻みに震え、冷や汗が頬を伝う。

 脳内に様々な仮説や噂が飛び交うが、芙二の一言で静まる。

 

(オレ)らの潜入はもう筒抜けよ」

 

 その一言に、その場にいた全員が言葉を失う。

 

「全く知らないやつに、コードネームの正否を問われてる。あのショーで颯爽と現れた清掃員も知っている、となると――近くに裏切り者が潜んでいるな」

 

 断言する、とでも言いたげに言い切る。

 

「それってどういうこと?!」

 

 ジークと筧の声が重なる。

 武田と芙二の会話に二人が混ざり、例の音声データを聞かせた。

 

「オレが呑気に寝ているときに、そんなことが起きてたのかよ」

 

 ジークの視線は芙二へ向く。

 その表情は怒り一色と言っていい程、赤く鋭い。

 

「なんで、起こさなかっ――」

「アンタはその時死んでいたからだ」

 

 なんてことないように、言葉を被せた。途端にジークの勢いは萎み、喉に何か詰まったような声を出す。

 

「芙二! ジークが死んでいた!? それはどういう――」

 

 筧が噛みつくように言う。

 芙二は正体を明かさない範囲で返事をした。

 

(オレ)が目を覚ました頃、ジークは心肺停止していた。蘇生を施したのに、怒られるとは思わなかったな」

 

 何も間違ってはいない。

 芙二の返答に筧は納得したように、頷く。

 

「織間への報告はしたのか」

 

 ずっと黙っていた武田が口を開いた。

 芙二は首を横に振る。

 

「……そうか」

 

 短く返事をして、俯く。

 武田の雰囲気が一変する。

 

 真っ先にジークと筧が反応し、芙二はただ目を細めた。

 顔を上げた武田の目つきは鋭い針のよう。

 

「まずは芙二よ。このような重大な情報を持ち帰ってきてくれたこと、礼をしよう。これからわしは織間へこの音声データの報告を行う。それまで各部屋で待機するように」

 

 重々しい口調で告げ、部屋を後にした。武田の後に続くよう、筧も部屋を出て行く。

 

 自分たちの部屋に転移した為、ジークはシャワー室へ向かい、芙二はスーツ裏へ手を忍ばせタブレット端末を取りだす。

 

 シャワー室からジークの鼻歌と水の音がこだまする。

 芙二はタブレット端末に表示されている、艦娘一覧を注視していた。

 

「よかった。誰も欠けていない」

 

 安堵の息を漏らし、タブレット端末の電源を落として自身のベッドの上に放り投げる。柔らかなベッドは端末の重さを吸収し、音も立てない。

 

「今日も色々あったなあ~」

 

 などと、軽いストレッチをしているとき、不意にタブレット端末が起動。

 

 【東第一泊地 艦娘一覧】

 

 あいうえお順

 

 ====

 ・遘矩峇

 ・朝潮

 ・襍、ギ

 ・磯波

 ・大淀

 ====

 

 一部の艦娘の表記がおかしくなっていることに、芙二は気づかない。

 

~~

 

 そして二時間後、武田から命令が下る。すっきりした様子でジークは聞く姿勢に入り、芙二は少し眠そうにしていた。

 

「わしの合図が出るまで、自由にしろ。ただプラチナ会員証は無くすなよ」

 

 それっきり、武田と筧に連絡が付かなくなる。

 言葉を聞き終えたジークは、自身のベッドに入り込むと寝る姿勢を取る。

 

 芙二も疲れを癒すように、目を閉じた。

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