とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 10話『瞬く一助 ①』

 

 人魚に対し、前衛三、後衛四の陣形が組まれる。

 

 次の瞬間、鎮圧戦が始まった。斬撃、刺突、殴打。あらゆる攻撃が叩き込まれる。

 

 ――だが。

 

 人魚は、それらを気にしていない。

 肉を裂かれようと、骨を打たれようと。

 

 ただ、咀嚼を続ける。

 

(もう理性はないようだ)

 

 芙二は静かに結論づける。

 ただ楽観視できない状況への変化。逃げ惑う群衆。押し寄せる増援。拡散していく恐怖。

 

 それらすべてが、戦場の気配(オト)と合致する。混ざり、共に戦いたい、と言う私欲と任務が裡でせめぎ合う。

 

(――まぁ能力行使での、一助くらいはいいよな?)

 

 折り合いをつける。

 

 そして芙二は、介入の機を待つ。

 

~~

 

「……」

 

 激しい戦闘の中、人魚は微動だにせず咀嚼を続けていた。

 十数分にも満たない戦闘。

 傷一つつかない様子に、鎮圧にあたる者共は息を荒げて、片膝をつく。

 

「けぷ」

 

 元主人の死体を食い漁り終わったのか、人魚は口元を擦る。

 血が跳ねて、白い肌が赤く染まる。

 

 人魚が立ち上がり、ひた、ひた、と歩くたびに客は散るように逃げる。

 あっちへ行け、と願いながら。

 

「なんて、美しいんだ……!」

 

 ただ一人を除いて。居たのは、子供とも大人とも捉えられない青年。

 赤と白のコントラストに魅了されていた青年は叫ぶ間もなく食われる。

 

「きゃああああっ!!」

 

 人魚の主人と青年の死。

 それはまた新たな悲鳴を生み出す波紋。

 

「くそ、こういうときくらい逃げろよな!」

 

 一人の警備員が悪態をつく。

 暖簾に腕押しで、全く効果を感じない様子に地面を蹴る。

 

(なるほどな)

 

 その様子を見た芙二はふと思う。

 ずっとカメラ越しに客の在り方を見ていたのだろう、と。

 

 緊張と静寂の中、ボリボリという咀嚼音が響く。

 二人を食らったキメラは、一度咀嚼を止め、

 

「ぷっ」

 

 口の中の異物を吐き出す。地面に転がったのは被害者の歯であり、それも金色に輝くもの。

 長い舌で、口や顔をべろりと舐め終えると再び咀嚼を始めた。

 

「それにしても、やたら硬いな。見た感じ柔らかそうな皮膚なのに」

 

 芙二が考察するあいだに、彼除く一般客の逃走及び保護は完了していた。ただ一人腕を組み、眉間に皺を寄せて独り言を呟く。

 

「ちょ~~っといいですか? お考えの途中、すみません」

 

 人魚を観察する中で、芙二に声をかけてくる者がいた。

 腕を組んだまま、声のありかを探る。

 

「あ~っともう少し下です」

 

 自身の眼下へ視線を落とすと、黄色い狐の耳と尾を生やした少女が気まずそうにしていた。

 

「おっとすまない。一つ質問なんだが、アンタは――クローンか?」

 

 芙二の問いに、少女はぴくりと耳を揺らした。そしてただの一般客を見る目から、警戒一色へすぐに切り替わる。

 

「……どうしてそれを知っているんですか」

 

 少し低めのトーンで言う。

 芙二は彼女を見て、

 

「色々言いたいところだが、少し前に幻獣型クローンを名乗るやつらに出会ってな。もしかして、と思ってピンと来たんだ」

 

 目を細め、柔らかい表情でそう言う。

 狐の少女は、表情を変えず、口を閉じる。

 

(幻獣型クローン……ぱっと話しそうなのはロンか、リヴァイ。だけどリヴァイの性格上、口を滑らせることはない。となれば――ロン、彼女が原因)

 

 そして「はぁああ~……」と大きなため息を吐く。頭に手を置き、目を瞑る。

 

「その反応を見るに、正解だな? 安心しろ、別に何かするわけではない」

 

 顔に影を差しクックック、と喉を鳴らして笑う。

 その様子に呆れる顔を見せる。

 

「敵陣営でなんでそんなに余裕そうなの? 素性も何もかもが知られていて、この瞬間にも殺されちゃうかも!とか考えれないくらい馬鹿なの?」

 

 芙二を見上げるように、言う。

 当の本人は、

 

「はんっ! (オレ)は他の三人よりも歴は浅いが、遥かに強いぞ」

 

 ギラリ、と歯を見せて笑う。狐の少女はジト目で疑っていた。彼女は創られて、早十五年が経つ。それなりに鍛えられた眼を何よりも誇っている。

 

「……まあそこまで言うなら」

 

 芙二は胸を撫でおろす。無実の、いたいけな少女を殺したくはない。

 彼女も納得したように頷く、なんてことはなかった。

 

「――なんて言うわけないでしょっ!」

 

 狐の少女の腰に携えられた、短刀は素早い抜刀により、芙二の脇腹に突き刺さった。

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